表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/77

46 バレンタインデーキッス? チョコレートの怪 その3

「きききっ、鬼一っ!ななな、なんだよアレっ!?」

「おっ、俺が知るわけねえだろ!真っ黒だし、でっかいゴキブリ……とか?」

「きっ、気味の悪いこと言うんじゃねえよ!あんなゴキ……、Gが存在してたまるかよ!」

「痛てぇっ。悪かったよ。いくら虫嫌いだからって、殴るんじゃねえよ!」

「そっ、そういえばナントカって言うゴーストスイーパー事務所で、妖怪退治の力を身につけたんじゃねーのかよ?その力で俺様を守れよ!」

「ゴーストスイーパー事務所じゃねえよ!俺がバイトしたのは、アヤカシ専門だけど探偵事務所だ。まあ、社長は金にうるさい高飛車の女王様で、どっかの漫画で見たような人だったけど……」

「ケッ……。で、その美人でスタイルの良い女王様に、鼻の下を伸ばしてたってわけか。いや、むしろオマケのおしとやかな天然巨乳のほうにか?人妻相手にイヤラしい……」

「そっ、そんなわけないだろ!」

「フン!どーだかなぁ……。その割には、随分と楽しそうに話してくれたじゃないか。手取り足取り教えてもらったその力で、さっさとアイツを退治しろよ」

「なに怒ってんだよ!?そもそも、そんなことしてもらってねーよ!それにアヤカシ退治の方法なんて教えてもらってないし、俺が決めたのは狸みてーなヤツ相手に巴投げだけだ」

「じゃあアイツもぶん投げろよ!狸よりは投げやすそうじゃねえか!」

「んなことできるわけねーだろ!いや、やってみなきゃわかんねーけど……」

「じゃあさっさとやれよ!」

「なんだよその無茶振りは。ジャイ〇ンかよ!つーか、地が出てんぞ」

「うるせー!とにかく何とかしろよ!!」


 俺たちがくだらない言い争いをしている間にも、黒い人型はとこちらに近寄ってくる。それに合わせて、俺と秘密子も後退せざるを得ない。

 幸いにと言おうか、相手の動きは早くない。ジリジリと近寄ってくるという表現がピッタリだ。ただ、それがホラー映画に出てくるゾンビような動きを感じさせ、不気味さを増しているのも確かだ。

 

「よし、秘密子……。黒狼探偵社で教えられたことを実践するぞ」

「なんだよ。そんなことができるんなら、さっさとコイツをぶっ倒せよ!」

 

 俺は秘密子の手を握る。

 

「んなっ!?ななな、なに!?」

「逃げるぞっ!」


 そう、相手の力がわからなかったり、ヤバそうだと思った時は全力で逃げる。まして、周りに守るべき相手がいるならなおさらだ。俺にとっては、秘密子だって守るべき大切な家族だ。

 一気に黒い塊の横を抜けようと秘密子の手を引くが、コイツはそれほど運動は得意ではない。種族的な潜在能力はあるとは思うのだが、いかんせん本人にやる気がないのだ。おまけに、俺との身長差がありすぎた。

 

「うわっ!き、鬼一」


 急に手を引っ張られてよろめく秘密子を見て、俺は強引な手段に出る。体格差のある相手の手を引いて走るよりは、こちらの方が早いと判断したからだ。

 

「ちょっ!ききき、鬼一!?こっ、こんな格好……」

「我慢しろ!」

「ちょちょ……!パ……、パンツが……。ヤ、ヤダ!」

「俺からは見えないから心配すんな!それに、ガキの頃からお前のダサいデカパンは見慣れてる!」

「テテ……テメェ!ケンカ売ってんのか!?そ、それに今は、あの頃よりもう少しお洒落で面積の小さいパンツを……!」

「痛てぇっ、だから殴るんじゃねえよ!つーか、パンツの話は後だ。手ぇ離したらさすがに俺からでも見えるぞ。見られたくないんなら、ちゃんと押さえてろ」

「ぐっ……。みっ、見たら殺すかんな!」


 慌ててスカートを押さえる秘密子を抱き抱えて走り出す。周りに人がいたらパンツが丸見えだったかもしれないが、幸い?にも俺たちのほかは真っ黒い化け物だけだ。もちろん、この化け物が女子のパンツに興味津々だっていうんなら、話は別だが……。

 というか、秘密子ってこんな柔らかかったっけ……。

 体に感じる秘密子の柔らかさに少しばかりドキリとするとともに、お洒落で面積の小さいパンツとやらが少しばかり気になる。だが、今はそれどころじゃない。

 

「行くぞ!」

 

 横をすり抜ける際に突然飛びかかってくるかともと思ったが、相手の動きは緩慢だ。何事もなく扉へと辿り着く。

 あっさりと横を抜けられたことからもわかったが、やはり黒い塊の動きは遅い。扉へたどり着いた俺が振り返った時に、ようやく緩慢にこちらを向いたくらいだ。

「よし、さっさと逃げるぞ。んで、フェンリルさんに連絡を……。あれ?」


 扉を開けて逃げようとした俺は、妙なことに気付く。入る時にはあっさりと動いたはずの扉が、ピクリとも動かないのだ。

 

「何やってんの鬼一、早く開けてよ!いや、僕を降ろす方が先……。あ、でも、もう少しこのままでも……」

「なにごちゃごちゃ言ってんだよ。この扉やけに固ぇーぞ。なんかコツでもあんのかよ?」

「は?そんなものあるわけないだろ?いつも普通に開けてるんだから」

「で、でも……」

「あーもう!さっさと俺様を降ろせよ!」


 俺が降ろすよりも先に、秘密子は俺の腕の中から飛び降りる。その際に、翻ったスカートの中から白いモノが見えたのは内緒だ。俺だってまだ死にたくはないからな。

 しかし……。

 最後に秘密子のパンツを見たのはいつだったか。おそらく小学校の低学年くらいだろうか。たしかにその頃に比べると、随分とオトナなカンジに……。

 いかん。秘密子の成長ぶりを目の当たりにし、感傷に浸っている場合ではない。

 重力に従ってスカートが白いパンツを隠したと同時くらいに、秘密子は扉に手をかける。

 

「あ、あれ?なんで……。くっ!」

「仕方ない……。秘密子、そこをどけ!」


『押してダメなら引いてみろ』

 この扉は横開きだし、この諺は当てはまらないだろう。だが、考え方を変えろって意図は十分に伝わる。つまり横に動かなきゃ、縦に動かせばいいだけのことだ。もっとも、それは扉が壊れることを意味するんだが……。

 緊急事態だし、後で死ぬほど怒られるのは覚悟のうえだ。それよりも、修理代をいくら請求されるのかを考えるほうが恐ろしいが……。

 秘密子がどいた瞬間、俺は扉に向かい思いっきり体当たりをかます。

 

「なっ……!?」


 薄い扉は俺の体当たりでレールから滑車が外れ、廊下へと倒れ派手に窓ガラスが割れる……はずだった。

 だが、扉は何事もなかったかのようにそこに存在し続け、教室の床に倒れているのは俺の方だった。

 

「鬼一!?お、おい、しっかりしろよ!お、おい……。や、やだ……、ねえ、大丈夫なの?」


 呆けている俺を見て、頭でも打ったと思ったのだろうか。


「はは……、そんな口調で心配してくれるなんて珍しいな。大丈夫だって、ちょっとオデコをぶつけただけだ。心配しなくても、秘密子は無事に逃がしてやるさ」

「そ、そんなことを心配してるんじゃないよ。わた……、僕は……!」

「だから心配すんなって」

「……っ!」

 

 俺は秘密子の頭を撫でる。こんなことをしたのは、ガキの頃以来だろうか。

 

「なっ、なにをするんだい!?子供じゃないんだから……」


 それに驚いたのだろう。興奮しパニック状態になっていた秘密子も、少しばかり落ち着きを取り戻したようだ。


「たしかに動きも遅いし、俺はアイツをぶん投げることができるかもしれない。だけど、相手がいったい何者なのか、どんな力を持ってるのかもわかんねーんだ。だから、迂闊に手を出すのは危険だ。わかるな?」

「う……。そりゃあ、まあ……」

「それに、やるべきことを間違えちゃいけない。今俺たちがするべきことは、安全に逃げること。大切なことは、お前を守ることだ。これが、俺がフェンリルさんに教わったことだ」


 人型は体の向きを変え、ゆっくりと近づいてくる。

 

「幸いにも、アイツの動きは遅い。いいか?俺が引き付けてる間に、お前は窓から校庭に向けて助けを呼ぶんだ。学校関係者が来ても危険かもしれないし、黒狼探偵社のフェンリルさんを呼ぶように伝えて……って、おい、秘密子?」


 人が懸命に脱出手段を考えているのに、なぜか秘密子は心ここにあらずという表情で何かを呟いている。


「大……切……?大切な……、ぼ、僕を……守……る……」

「おっ、おい!何ブツブツ言ってんだ!?」

「ふへっ!?なな、なんでもない!うん、助けを呼ぶんだね。わかったよ」

「頼んだぜ。おし、こっちだ化け物!」


 俺はわざと大げさに動きながら、秘密子から離れる。幸いなことに黒い化け物は秘密子には目もくれず、真っ直ぐに俺に向かい進んでくる。

 ゆっくりと移動する秘密子を横目に見ながら、俺はわざと教室の隅、出口に遠い場所へと移動する。

 ジッとしていれば追い詰められてしまう場所だが、窓から一番離れているのもここだ。

 

「頼むぜ……」


 ジリジリと化け物が近付いてくるにつれ、甘い匂いが濃密になってくる。だが、化け物の動きよりも秘密子の方がはるかに速い。

 だが、ふと不安がよぎる。扉と同様に窓も開かなかったら……。

 しかし、そんな心配も杞憂だったようだ。窓際に辿り着いた秘密子は、勢いよく窓を開ける。

 

「開いたよ鬼一!待ってて、今助けを呼ぶから。おーい、誰か助けて!!教室に化け物が……」


 だが、なぜか秘密子は校庭に呼び掛けたまま固まっている。


「お、おい、どうした秘密子!?」


 だが、秘密子は俺の呼びかけにも答えない。


「くっ!」


 俺は化け物の伸ばした手をかいくぐり、秘密子に駆け寄る。

 

「どうしたんだよ!早く助けを……。なっ……!?」


 俺も秘密子と同じく、そこから見える光景に唖然としていた。

 そこから見えるのは、見慣れた校庭の景色だ。だが、そこには人っ子一人いなかったのだ。

 

「なんで……」


 もちろん曜日や時間帯によっては、人のいない校庭など珍しいことではないだろう。

 だが、この教室に来るほんの10分ほど前、その時には、まだ校庭で練習する運動部の連中がたくさんいたのだ。こんなに短時間で全ての人間がいなくなるなどありえない。

 それどころか、鳥の声や風に揺れる木々の音さえも感じられない。

 さらには、校舎内の異常な静けさに気付く。

 そうだ、ここに来る途中だって、吹奏楽部の居残り連中の演奏が聞こえてたじゃないか。それが今や、ミラーハウスで経験した時のような、耳の痛くなるような静けさが広がるばかりだ。

 やはり、この状況はまともじゃない……。

 俺は窓の外を見る。

 秘密子のクラスは3階だ。ここから飛び降りれば、上手く行けば骨折くらいで済むかも……。そうだ、俺が抱き抱えて飛び降りれば、せめて秘密子は軽いケガくらいで……。

 いや、ダメだ。この異常な状況だ。飛び降りた先が安全とは限らないし、秘密子を危険に晒すわけにもいかない。

 そうだ、考えるんだ、あの時みたいに……。

 だが、そうそういい考えが浮かぶわけでもない。逃げられない以上、腹をくくるしかないのだろう。


「き、鬼一……」

「心配すんなって、実は俺って結構強ぇんだぜ。亮太が認めるくらいにはな」


 不安そうな秘密子に微笑みかけると、化け物に向き直る。

 

「な、なに言ってんのさ!赤神君が認めたからって、化け物相手に勝てるかどうかなんて……」

「知らねーのか?実は亮太って、人を見る目は確かなんだぜ。アイツが惚れた女だって、サイコーのヤツだしな」

「鬼一?なにを……。まさか……。や、やめてよ!馬鹿野郎!やめろって言ってんだろ!」


 秘密子の叫び声を聞きながら、俺は化け物に向かい突進していた。そうだ、勝てないなんて決まったわけじゃない。必要以上に怖がっていただけで、大した相手じゃないかもしれない。

 

「おおおおおおおおおぉぉぉっっっっ!!」


 俺は全力で、化け物の顔面に殴り掛かる。

 

『パァァァァァン!』


 拳が当たった瞬間、化け物は破裂した。それはまるで、液体が飛び散るかのように霧散したのだ。そして、部屋中に甘い匂いが充満する。

 

「う、嘘だろ?まさかホントに……。ハ、ハハハ……。ど、どうだ秘密子、ぶっ倒したぜ!」


 飛び散った化け物を背にし、俺は秘密子に向き直る。だが、興奮状態の俺は気付いていなかったのだ。飛び散ったはずの化け物が、再び集まって一つになろうとしていることに……。

 

「きっ、鬼一!後ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」


 絶叫のような秘密子の叫びを受け振り向いた俺が見たものは、俺を包み込むように広がる黒い液体と、いっそう濃密さを増した甘い匂いだった。

 

「うぐっ!?ぐっ……ぐぼぉっ……。秘密……子……。に……げ………………」


 そして、無理矢理口の中に侵入する甘美な何かを感じながら、俺の意識は薄らいでいった……。

話の途中でもネタにしましたが、フェンリルのイメージは90年代に大ヒットした某オカルトコメディー?漫画のキャラクターからです。主人公ではなく、褐色・高飛車・その他もろもろなライバル事務所の社長のほうですね。ちなみに、『後ろぉぉぉっ』は後から気付きましたが、決してドリフからではありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ