43 俺と秘密子のいつかのメリークリスマス? その3
「ああ……、なんて可愛らしいの。珠魅ちゃんにヒメちゃん、カイ君にゲン君。ほかの子たちも……。どうしましょう。やっぱりみんな、ウチの子として連れて帰ろうかしら」
「はいはい、落ち着いてねママ。まずはヨダレを拭こっか」
「あ、あら……。ごめんなさい、私としたことが……」
「気持ちはわかるけどさ、ウチはそんなに広くないんだよ。こんなにたくさん連れて帰ったら、寝る場所とかどーすんのさ」
「それは……。そうだ!お部屋を一緒にすればいいんじゃない?キーちゃんと子供たちは、ママと一緒に寝ることにして……。そうよ、すごくいいアイディアじゃない!」
「おおう……、なかなか攻めますなあ……。ちなみに、それはそれはアタシも参加していいもんかにゃ?」
「え~!ママと澄麗姉だけずる~い。美澄もキーお兄ちゃんと一緒に寝るの!」
「なっ……、なに考えてんだよ!?鬼一みたいなケダモノを、ママや美澄と一緒に寝かせるわけねーだろ!そっ、それにこの子らだって、小さくても女の子もいるんだぞ!」
「落ち着きなって。んじゃこうしよう。残念だけどみんなの安全のためには、キーくんは那澄菜の部屋で寝るってことでどうかにゃ。そうすればしっかりと朝まで見張ってられるでしょ?それに一緒に寝てれば、キーくんが抜け出そうとしてもすぐに気付くだろうし」
「たしかに、それなら安全……って、んなわけねーだろぉっ!なななっ、なんでオレが鬼一と一緒のベッドに……」
「あれれ~?お姉ちゃん一緒の部屋でって言っただけで、『一緒のベッドで』なんて言ってないけどな~。なになに?一緒のベッドで寝るつもりだったの?んも~、那澄菜ったらエッチなんだからぁ~ん」
「なっ……!うぐぐっ……」
「まったく……。せっかくのクリスマスだってのに、煩くって仕方ないよ。そちらのお宅の普段の賑やかさもよくわかったし、子供たちの相手なんて疲れるだけなのにね。良ければ鬼一同様に、連れて帰ってもらってかまわないよ」
「おやおや~?心にもないこと言っちゃって。珠魅ちゃんたちの様子を見るかぎりじゃ、ここもそれほど変わらないんじゃないかにゃ?それに……、クククっ。この子たちが秘密子ちゃんに懐く様子を見てるかぎり、普段から相当面倒見て可愛がってあげてるんだろうね」
「んなっ……!そ、それは……。こっ、ここでは年長者が年下の面倒を見るのが義務なんだよ!」
クリスマス当日、パーティーは予想外に賑やかな展開となっていた。俺が考え付いた秘策は……、いや、秘策ってほど大げさなもんじゃないけど、けっこういい線いっていたようだ。
澄麗さんにからかわれた秘密子はしかめっ面をしているが、それは決して不機嫌とか不愉快からくるものではない。なぜなら、ガキの頃からコイツの表情を見慣れている俺にはわかるのだ。いや、わかる気がするだけかもしれないが……。
☆ ☆ ☆
「「「合同パーティー?」」」
秘密子に大見得を切った夜、夕飯の席で俺は華澄さんたちに頭を下げていた。
「華澄さんたちが俺のためにパーティーの用意をしてくれるのは、すごくありがたいですし嬉しいです。でもウチの……、あ……、施設のチビたちも、俺が参加するのを楽しみにしてるみたいなんです。どっちか一つにだけ参加するなんて決められなくて……」
「え~っ!せっかくキーお兄ちゃんと初めてのクリスマスなのに……」
「そっ、そうだよ!い、いや、鬼一と一緒のクリスマスとかはどうでもいいんだけど……。だいたいなんでオレが、あの嫌味な女と一緒にパーティーなんかしなきゃいけねえんだよ」
「い、いや、だから……」
まあ、そうだよなぁ。家族水入らずで俺のためにパーティーを開いてくれようとしているのに、なぜ赤の他人と合同で行う必要があるのか。美澄ちゃんや那澄菜の言うことはもっともだ。仕方ないが、ここは秘密子とチビどもに謝って、次の日にでも……。
「あら、素敵ねぇ。いいじゃない」
「うん、確かに面白そうだにゃ~」
「え!?」
意外なことに、華澄さんと澄麗さんは賛成の意を示したのだ。
「で、でもママ……」
反論しようとする美澄ちゃんの頭を、華澄さんは優しく撫でる。
「ふふ。たしかに向こうでは毎年パーティーを開催してるんだし、今年はウチにとっての記念日なんだから、こちら優先でいいじゃないとは思ったわ。でもね……」
華澄さんは俺を見ると、優し気に微笑む。
「キーちゃんが『ウチの』チビどもって言いそうになった時に、なんだか無性に嬉しくなったの。私たちに気を遣ってくれながらも、あの子たちを家族として、大事に思ってるんだって」
「華澄さん……」
不意にこぼれそうになった涙をこらえる。
「そんな優しいキーちゃんを困らせたくないし、それに……、うふふ……」
「え?華澄……さん?」
先ほどまでの慈愛に満ちた、聖母のようなまなざしはどこへやら、突如として涎を垂らしそうな表情へと一変する。
「あの子たちとまた会えるなんて……。キーちゃんのような素敵な男の子もいいけど、ああいう無垢な年頃の子たちの可愛さも捨てがたいわ。ああ、どうしたらいいのかしら……」
ハアハアと荒い息をしながら語る華澄さんに、若干の不安と後悔がよぎる。
「あはは、ママの暴走はアタシが止めるから心配ないよん。それよりも、アタシらのおもてなしプランを蹴ってまで主催しようってんだから、十分に楽しませてくれるんだよねん」
「ぐっ……。ま、まあ、今のところはノープランですけど……。で、でも、後悔はさせませんよ!」
「ふふ、んじゃ楽しみにしてるからねん。那澄菜も美澄も、文句ないね!?」
「う……、ま、まあ……」
「……。はーい」
こうして、施設と円城家の合同パーティーが開催されることとなったのだった。
☆ ☆ ☆
「ほら、どんどん食べてね。お菓子もた~っくさん作ってきたからね。ほら珠魅ちゃん、『あ~ん』して」
「あ~~~~~ん!……むぐむぐ……。ふふん。やっぱひアタヒがいひばん『せくひー』なんだ。おばひゃんもアタシの……むぐむぐ……、『おひろけ』にメロメロだもん」
「おい珠魅、食うか喋るかどっちかにしろよ。それにアホなこと言ってて食い過ぎんなよ。それから、華澄さんに迷惑かけるんじゃないぞ」
「あらあら、迷惑なんてとんでもないわ。ほら珠魅ちゃん、『あ~ん』」
「あー、タマちゃんばっかりずるーい!」
「ほらほら、慌てないでね。皆順番に食べさせてあげるから。はい、ヒメちゃんも『あ~ん』。うふ、うふふふ……、幸せだわ……」
「面白そうだねー。アタシもやろーっと」
「美澄もやってみたーい」
トランス状態で次々と餌付けをする華澄さんの様子に若干引くが、チビどもも喜んでるし、とりあえず良しとしておこう。
「よっ、無理を聞いてもらって悪かったな」
チビどもを華澄さんたちに独占されているせいか、することもなく黙々と飯を食う秘密子へ声をかける。
「別にいいさ。鬼一の足りない頭じゃ、これが最善策だったんだろ?珍しい来客にあの子たちも喜んでるようだし、料理やお菓子までご馳走になっちゃったしね。とりあえず合格としておいてあげるよ」
「足りないって……。まあ、俺の頭が悪いのは否定はできないけどよ。それよりもこの飾りつけ、大変だっただろ。お前が考えたのか?それに、費用とか……」
いつものパーティーは、食堂のテーブルの上にちょっとした料理やお菓子類が並び、倉庫から引っ張り出した古いクリスマスツリーに、少しばかり飾りつけをする程度だ。
しかし現在の食堂は、華澄さんが作ってきてくれた料理が並ぶほかに、たくさんの飾り付けがされている。
おまけに、チビどもはおそろいの真っ赤なサンタクロースの衣装を着ている。その姿は十分に可愛いと思うし、珠魅たちを見た瞬間に、まるで襲い掛かるように飛びついて抱きしめていた華澄さんの気持ちも、わからないでもない。
余談だが、華澄さんの胸に包まれた珠魅たちが、蕩けたように脱力していたのもわかる。あの胸の柔らかさは、男女問わず麻薬のように危険な甘さだ。もちろん、そのことは秘密子には絶対に内緒だが……。
「それなりにお金はかかったけど、100円ショップや古着を活用したからね。見た目よりは随分と安くあがってるよ。飾りつけはあの子たちがほとんどやってくれたし、衣装を作るのに手間取ったくらいさ」
「マジかよ……。アレってお前の手作りなのか?」
「雪姉とかも協力してくれたからね。男と会うからって。今日のパーティーには来なかったけど。ま、それは毎度のことだしね。それに、料理はそっちで手配してくれるっていうんだから、これくらいはやっておかないと悔しい……、失礼だろ」
「はは、助かったよ。ありがとう」
最後に本音が漏れたけど、実のところ照れ隠しなのかもしれない。
「それに、今回は鬼一に借りがあるしね」
「借り?」
不思議そうな顔をする俺に、秘密子は呆れたように言う。
「テスト勉強さ。今回あの子たちの世話を任せっきりにしただろう。そのせいで成績も下がったみたいだし」
「なんだ、そんなことかよ。別に俺の成績が少しばかり上がろうが下がろうが、大したことじゃないだろ」
「でっ、でも、鬼一だって頑張れば進学も……!」
そんな時、視界の片隅に所在無げに飯を食う那澄菜の姿が入る。そこで俺は、今回のパーティーのもう一つの目的を思いつく。
「おい那澄菜。こっちで一緒に食おうぜ」
俺は一人でテーブルの飯をつまむもう一人の秘密子……、いや、那澄菜に声をかける。
「フン……!」
こちらを一瞥した那澄菜は、少しばかり嫌そうに顔をそむける。しかし、その先に楽しそうに笑う華澄さんや珠魅たちの姿が目に入ったのだろう。場の雰囲気を壊すのも悪いと思ったのか、渋々こちらへ近づいてくる。
「那澄菜も、無理を聞いてもらって悪かったな」
「フン、張り切って料理してたのはママと澄麗姉だし。オレは何もしてないから、謝られる筋合いはねーよ」
「ふふん、そうだろうね。いかにも不器用そうな感じだし」
「なんだとテメぇ……」
「おっ、おい。よせよ二人とも。せっかくのパーティーだろ」
俺の足りない頭での作戦は大失敗だったか……。そんなことを思った時だった。
「まあ……、今回は完全にオレの負けだよ」
「「え?」」
不意に神妙な態度になったかと思うと、那澄菜は秘密子に向かい妙なことを言い出す。
「と、突然なに言い出すんだよ。頭でも打ったのかい?」
そんな秘密子の憎まれ口には答えず、秘密子は華澄さんたちと遊ぶチビどもをジッと見つめている。
「お前、いつもこんな賑やかな環境で勉強してるんだな」
「え?」
「あの子たちの態度を見てればわかるさ。オレだって妹なんだ。普段から面倒見てやってなきゃ、あんなに懐いたりしねえだろ。それに、オレは妹であると同時に姉でもあるんだ。一人でも手がかかるのに、あんなにたくさんの子たちの面倒を見るのが、どれほど大変かってのはわかるさ」
そうか……。あの男との再婚騒動の際、那澄菜は華澄さんを守るのと同時に、誰よりも強く美澄ちゃんを守ろうとしていたという。
それにあれだけからかわれ、悪戯をされても、澄麗さんとの仲が悪くなる様子は微塵も感じられない。それはきっと、悪戯を通して澄麗さんの愛情を感じ取っているからだ。姉でもあり妹でもある那澄菜は、チビどもを通じて秘密子の本当の姿を見たのだろう。
「だっ、だからって、なんでなのさ?」
「鈍いヤツだな。お前はこの子たちの世話をしながら勉強してたんだろ?それであの成績なら、文句のつけようがないさ」
「あ……。ま、まあ、そうなんだけど……」
さすがに俺にチビどもの面倒を全て押し付けていたと言い辛いのか、秘密子の歯切れも悪い。しばらくはもじもじとしていた秘密子だったが、ついに罪悪感が勝ったのだろう。
「ああもう!今回は引き分けでいいよ!!」
那澄菜は那澄菜で、秘密子がいったい何を言い出したのかと不思議そうな顔をしている。
「今回はその……、少しばかりズルをしたからさ」
「なんだ?まさか……、カンニング!?」
「そんなことするわけないだろ!その……、今回はあの子たちの面倒を、全部鬼一に頼んだんだよ」
「は……?ああ、そういうことか。毎晩鬼一が出かけてたのって……」
「そういうことだ。秘密子の命令で、ずっとチビどもの相手をしてたんだよ。べつに遊んでたわけじゃねーさ。いや、遊んでたっちゃー遊んでたのか……?」
「ふ~ん」
何やら意味深な目で、俺と秘密子を見つめる那澄菜。
「ま、いいんじゃねえの」
「「は!?」」
てっきり鬼の首を取ったかのように責め立ててくるかと思ったが、予想外に那澄菜はあっけらかんとしている。
「悪いことしてるわけじゃないんだし、使えるもんは使えばいいんじゃねーの。そもそも、鬼一のお人好しは昔からなんだろ?ま、この尻に敷かれてる具合を見りゃだいたいわかるけど」
「しっ、尻にって……!そ、そんなつもりは……」
「そっ、そうだぞ!尻になんて敷かれてねーし、だいたい、秘密子が昔から暴君なだけで……」
「なっ……!暴君ってなにさ!」
「いやいや、今回のテストだって、暴君以外の何者でもねーだろ!」
「はいはい、夫婦喧嘩はそれくらいにしろよ」
「「ぐっ……」」
呆れた顔で俺たちを見ていた那澄菜だったが、不意に顔を逸らす。
「まあ、先は長いんだからよ。勝負の機会はまだまだあるんだし」
「え?」
「だっ、だから!この先の学年末試験とか、2年や3年になっても勝負の機会はあるってことだ。そこで決着つけりゃあいいだろ!」
そっぽを向いたのは、那澄菜なりに恥ずかしかったのだろう。だが、横から見る顔は一見怒っているようにも見えるが、俺にはわかる。その表情は、1年近く見てきて少しだけわかった、那澄菜の機嫌がいい時の顔だ。
「おっ、なになに?何してんの?楽しそうな雰囲気だにゃ~」
チビどもの餌付けにも飽きたのか、澄麗さんたちも集まってくる。
「たいした事じゃないですよ。秘密子と那澄菜が、ちょっと仲良くなったってだけの話です」
「「だっ、誰がこんなヤツと!!」」
反論する二人の声は、見事なハーモニーを奏でていた。
「ううっ……、那澄菜にお友達が……。良かったわ。やっぱりキーちゃんに任せて正解だったのね」
「ちょっ、なに泣いてんだよママ!?」
那澄菜が孤立していることを心配していた華澄さんは、涙を流して喜んでいる。だが、心配することはなかったんじゃないだろうか。俺が面倒を見なくても、コイツらならいつか、自然に友達になっていただろう。
「ぼっ、僕は別に友達になったつもりは……!…………フン、まあいいさ」
さすがの秘密子もこの雰囲気に水を差すつもりもないようだし、まんざらでもないのだろう。少しばかり困ったような、それでいて嬉しそうな表情をしている。
やれやれ、これで俺のミッションも無事完遂ってとこか。
だが、俺はホッとするあまり忘れていたのだ。秘密子が、やられっぱなしで引き下がるようなヤツではないことを……。
「ちょうどいい機会だ。ところで鬼一。だいたいの予想はつくんだが……」
なにやら秘密子は、ジト目で美澄ちゃんを見ている。瞬間、猛烈に嫌な予感がする。
「鬼一が遊園地で、この子とキスしてたっていう詳細をきかせてもらおうか」
「おっ、おま……!そ、それは……」
「いや~ん、キーお兄ちゃんったら、二人だけの秘密だったのにぃ。言いふらしちゃうなんて、美澄のキスがそんなに嬉しかったんだぁ?」
「ちょっ……、ちが……。あ、いや……」
どうしよう。ここで全力で否定したら、嬉しそうに身悶えている美澄ちゃんを傷付けることになるんじゃないか?
「あらまあ……。もうそんなに進んでいたの?どうしましょう。間違いが起こる前に、そっちのほうの教育もしておいたほうがいいのかしら……」
「おおぅ、そこまでとは聞いてなかったにゃ~。もちっと詳しく説明してくれるかにゃ?なんだったら、お姉ちゃんが性教育も手取り足取りしてあげるよん」
「キーチにーちゃんがこのねーちゃんとチューしたの?じゃあ、ふたりはけっこんするの!?」
「いやぁん。結婚だなんて、タマちゃんはおませさんねぇ。もちろん、プロポーズはされたけどね」
「みっ、美澄ちゃん!?あれはそういう意味じゃなくて……!」
「ふ~ん……。鬼一は小学生女児とキスするだけでは飽き足らず、プロポーズまでしたんだ……」
「ごっ、誤解だ秘密子!キスはしたけどそれ以上は……。あ……」
もはや、てんやわんやで収集がつかない。だが、この場を収める力を持っていたのは、やはりコイツだった。
「はーん……。遊園地で迷子の美澄を見つけ出したっていうから、少しは見直したつもりだったんだが……。弱ってる美澄に付け込んで、無理矢理キスしたってわけか。テメーは、そういうことだけはしないヤツだと思ってたのに……」
それまでの上機嫌はどこへやら。いつものごとく怒りに燃えた目で、俺を睨みつけてくるのは……。
「なっ、那澄菜、落ち着けよ。誤解だ、そう、誤解なんだよ。キスは美澄ちゃんからで……」
「黙れこの鬼畜ロリコン野郎がぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「そうだこの変態鬼一がぁぁぁぁぁぁっ!」
まあ、照れていたりおしとやかな秘密子や那澄菜ってのも、正直イメージに合わないし気持ち悪い。いつものごとくのコイツらが見られるんなら、俺が弄られ、引っ叩かれるくらい安いもんか……。
両頬に熱い衝撃を感じながらも、俺は何かをやり遂げたような充実感を感じていたのだった。
次回もまったく今の季節に合いませんが、クリスマスの次に来るお約束と言えば、お菓子会社の陰謀による一大イベント。そう、『アレ』ですね。今作の本当のヒロイン?秘密子さんが主役です。




