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42 俺と秘密子のいつかのメリークリスマス? その2

「おやおや、随分頑張ったみたいだけど、所詮は一般クラスの実力か……。僕がちょっと本気を出せば、こんなものだろうね。おっと失礼、むしろ一般クラスで2位につけるその努力を、褒めてあげるべきだね」

「うっ……、うるせーよ。点数から見たって、たった1問の差じゃねえか!しかも前回はオレに負けてただろうが。チョーシに乗るんじゃねえよ!」

「フッ、その1問が実力差の境界線だとおっしゃってたのは、どこのどなたでしたかねぇ。しかも見苦しく、過去の栄光にすがるとは……。フフッ」

「ぐっ……。テメェの本性って、完全にSだろ……。ケッ!もしかして、家じゃそうやって鬼一に足でも舐めさせてんじゃねーのか?鬼一は鬼一でMっぽいしな」

「んなっ……!そそそ、そんなうらやま……、けっ、汚らわしいことするはずないだろ!」


 期末テストを終え、成績の張り出された掲示板の前で相変わらずの言い合いをしているのは、当然のごとく秘密子と那澄菜だ。

 今回は秘密子がリベンジを果たしたようだが、またしてもワンツーフィニッシュはたいしたものだ。ちなみに、俺は真ん中から少々下がったくらいだが、5人抜きを達成すると豪語していた亮太に関しては……。

 まあ、すでに逃亡済みであることからもわかるとおり、秘密子への告白は当分先延ばしとなるのだろう。というか、この調子じゃ在学中に告白すらできないんじゃないか?いや、そもそも進級すら大丈夫なのか?あんな暑苦しい後輩なんぞ持ちたくないぞ。

 

「まあまあ、相変わらず二人ともスゲーんだし、喧嘩することじゃねえだろ」

「「鬼一は黙ってろ!!」」


 その瞬間、まるで呼吸を合わせたかの如く俺を睨みつけてくる二人。やれやれ、こいつらってホントに仲が良いよな。

 入学してから随分と経つが、外面のいい秘密子は本心はともかくとして、周りの連中とはうまくやっている。プライベートでまで付き合う友達はいないようだが、それでも秘密子が孤立しているような状況は見たことがない。

 もっとも秘密子のことだ。面倒くさい付き合いを断る口実のチビどもの世話のことも、美談にしてイメージアップに繋げているのだろう。

 秘密子のスキルに関して心配はしていないが、問題は那澄菜のほうだ。

 亮太くらいしか友達のいない俺が言えた義理でもないが、入学前に華澄さんが心配していたとおり、親し気どころか事務的に話をしているような相手すらいない。

 女子生徒は那澄菜の見た目や言葉遣いを怖がって近付いてこないし、隠れ美少女を見抜いて下心満載で寄ってくる男などは、あの射殺すような目で睨みつけられたうえに罵倒され、撃沈して帰ってくる。

 そんな対照的な二人だが、不思議なことに廊下ですれ違うたびに、必ず会話を交わしているのだ。

 だがそれは、残念ながらいかにも女子高生らしい甘い会話などではなく、だいたいがお互いを罵り合うものだ。周りから見れば、よほどお互いが嫌いで相性が悪いのだと思っているだろう。

 だが、俺はそうは思わない。

 基本的に秘密子は、誰とも深く付き合わない。適当にお茶を濁し、相手に好印象を与えようとするヤツだ。

 そもそも那澄菜とはクラスも違うし、ましてや周りには何百人という生徒がいるのだ。本当に嫌いなら、うまく会話をしないようにすれば済む話だし、不自然にも思われないだろう。

 それなのに、廊下ですれ違うたびに憎まれ口を叩きあう。先に声をかけるのは秘密子の場合もあれば、那澄菜の場合もある。おそらくだが、本能的にお互い似た者同士だって気付いているんじゃないだろうか。

 

「そういえば、鬼一は少し成績が悪くなってるようだね」

「ケッ!テスト前に毎晩遊び歩いてるからだよ」


 罵り合いにも飽きたのか、二人の矛先が俺に向かう。そのタイミングも完璧に息が合っている。

 

「あ、遊びって……。そもそも俺が出かけてたのは……、あ、いや……」


 口に出しかけた言い訳を飲み込む。確かに今回のテスト前、俺が勉強に費やした時間は間違いなく少なかった。

 誤解のないように言っておくが、けっしてサボっていたわけじゃあない。そもそもその間俺が何をしていたかといえば、毎日のように施設に顔を出し、チビどもの相手をしていたのだ。

 俺がなぜそんなことをしていたのか。それは、テスト前の秘密子とのやり取りがきっかけだった。

 

『お、おい、ちょっと待てよ。俺だって同じテスト受けるんだぞ?』

『鬼一の成績じゃ、今さら勉強しても変わらないだろ?』

『い、いや、俺だって学費を出してもらってる手前、それなりの成績を残さないとだな……』

『ふ~ん……。じゃあ鬼一を勉強に集中させてあげれば、10番以内に入れるってことかい?』

『いっ、いや、それは……』

『だったら、やろうがやるまいがたいして変わらないってことだよね?いいから任せたよ』

『ぐっ……。お前、ジャ〇アンかよ……』


 前回のテスト結果がよほど屈辱だったのだろう。今回の秘密子の決意は、並々ならぬものがあった。学校でも施設でも勉強漬けの毎日だったし、下手をすればトイレにまで参考書を持ち込んでいたようだ。もちろん覗いたわけじゃないけどな。

 まあ、そんな状態の秘密子は当然のごとく殺気立っていたし、本人もそれは自覚していたのだろう。週1回という約束のはずの俺の来訪は、暴君の一言で強制的に毎日ということになり、テスト前は秘密子の代わりに、連日チビどもの相手をさせられる羽目になったのだ。

 もっとも、俺の成績が上がろうが下がろうがどうでもいいことだし、今回は秘密子がご機嫌な様子なので良しとするか。それに、あんなに嬉しそうなチビどもの顔は久しぶりに見たしな……。想像以上に自分が好かれていたらしいことに、正直嬉しさも感じたし。

 それに考えてみれば、ちゃんと大学まで行く気のある秘密子にとっては、一つ一つのテストの結果も大事なものなんだろう。

 そういえば、こんなに成績がいいんだし、那澄菜は自分の進路をどう考えているのだろう。聞いてみようかとも思うが、どうせ不機嫌な顔をされるだけだろう。

 

「フン!鬼一がどこで遊び歩いてようが、どうでもいいさ。それより、次はオレが勝つからな。覚えとけよ!」

「ハン!むしろ次は、もっと圧倒的な差を見せつけてあげるよ」

「フン!!」

「ハン!!」


 少しばかり睨みあうと、那澄菜は踵を返し去って行った。

 

「お前らなぁ……。もうちょっと、女子高生らしい会話とかできねーのかよ」

「なんだい?鬼一はJKの会話を盗み聞きしたい変態なのかい?」

「ちっ、違げーよ!」

「もしかしてアレかい?体育前の女子更衣室では全裸になった女生徒たちが、お互いの胸を揉んでキャッキャウフフしながら、大きさを確かめ合っていると信じているのかい?その童貞特有の気持ち悪い幻想をぶち壊すようで悪いけど、女子というのはすべからく、服を脱がずに着替えるという高等技術を会得しているのさ。たとえ女子同士でさえ、お互いのナマおっぱいを見たことがあるなんてのは、ほとんどないだろうね」

「え……、マジで!?」


 いや、もちろん漫画のような展開をそのまま信じているわけではない。だが、男の願望としては少しくらいそんな甘いシーンがあっても……。それに秘密子の話が聞こえていたのか、幾人かの女子が無言で頷いているし、俺の横の男子生徒が絶望的な顔でこっちを見てるぞ。


「で、でも、男同士はわりと見たことあるぞ!亮太なんて、結構デカいの持ってたし……」

「ななっ……!そ、そんな情報はいらないよ!きっ、汚らしい……」


 まあ、確かに余計な情報だったのだろう。しかしながら、周りの男どもの何割かは無言で頷いているし、なぜか何人かの女子たちが、目をキラキラさせてこちらを見ているんだが……。


「……って、違う!そんなことが言いたいんじゃなくて、俺はただ、二人がもっと仲良くなれるようにだな……」


 なんだか妙な雰囲気を感じ、慌てて軌道修正を図る。


「ああ。そうだろうね。もちろん下心がないのは、よぉ~~~っくわかってるさ。鬼一はもっと若い(・・・・・)女の子が好みのようだし、成熟(・・)した女子高生なんかにに興味ないだろうからね。なんせ、『鬼畜ロリコン野郎』なんだから」

「おっ、おま……。誤解だっつってんだろ!あれは那澄菜の悪戯だって言ったじゃねーか」


 まったく。ガキの頃から俺を見てれば、そうじゃないってのはわかるだろうし、いつまでそのネタを引きずるつもりだよ……。

 だが、俺を見る秘密子の目つきは少しばかり妙だ。というか、先ほどまでのご機嫌さはどこへやら。妙な威圧感を発する目で俺を見ている。

 

「ふ~ん。誤解ねぇ……。なるほど、鬼一は誤解で小学生とキスするんだ」


 瞬間、ピシリと空間に亀裂が入った。いや、そんな気がするだけで、もちろん現実には何も起こっていない。だが……。

 

「あ、あの、秘密子さん……?な、なにをおっしゃって……」

「あれ?聞こえなかったのかい?夏休みの遊園地で、小学生女児と抱き合って熱い口づけを交わしていたそうじゃないか。僕の知識が間違っていなければ、それをロリコン、変態、幼女性愛者、もしくは性犯罪者と呼ぶと思ったんだが……。間違っていたら教えてほしいんだけど?」

「ぐっ……、間違ってねえけど……。い、いや、その噂自体が間違ってんだよ!しかもなんか尾ひれが付いてるし。そもそも、そんな話を誰から……。くっ……、亮太ぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 秘密子がその情報をどこから仕入れたのか……。考えずとも、秘密子の気を引きたい亮太が話題作りに喋った以外にあり得ない。ちくしょー、覚えてろよ。

 

「だから、ホントに誤解なんだって!あれは美澄ちゃんが一方的にだな。しかも、されたのはほっぺたで……、あ……」


 思わず口を開いてしまったことに後悔するが、時すでに遅し。


「へぇ~。小学生の方から?無理矢理?ほっぺたに?されたんだぁ。ふ~ん……。鬼一様はモテモテで羨ましいですねぇ……」

「い、いえ……。あれはですね、やむにやまれぬ事情の後でして……」


 くそっ。秘密子のヤツ、わざと大きい声で喋りやがって。おかげで俺の周りはドーナツみたいに空間が空き、遠巻きにヒソヒソとした声が聞こえてくる。

 

「やむにやまれぬ事情ねぇ。ま、それはおいおい聞くとしようか。そ、その……、それよりもさ……」


 先ほどまで機嫌の悪かった秘密子だが、なぜだか打って変わったようにモジモジとしだす。

 

「テストも終わって時間も空くし、部活時間も短くなるんだろ」

「え?ああ、まあな」

「それで、その……。もうすぐク……冬休みだろ?こ、今年はどうするんだい?」

「は?何をどうするんだ?」

「だっ、だからっ!ほ、ほら、毎年パーティーをしてただろ?あ……、そ、その、あの子たちが、鬼一は来るのかって心配してて、その……」

「ああ、クリスマスパーティーか……」


 そういえば、ここ数年は必ず施設でパーティーをしてたっけ。

 いや、そもそもちょっとしたお菓子の用意とチープな飾り付けがされるだけの、パーティーなんて呼べるほどのものじゃない。けれど、喜ぶチビどものためにしているうちに、いつの間にか定番になっていたのだ。

 

「べっ、別に僕はどっちだっていいんだけど、珠魅たちが気にしてたから!そっ、それとも、今年はやっぱり新しい家で……」


 先ほどまでの態度はどこへやら、秘密子は上目遣いで不安そうに俺を見ている。まあ、俺が行かないって言ったらチビどもは残念がるだろうし、秘密子はなんだかんだチビどもに甘いから、そんなアイツらを見たくないんだろう。

 正直に言ってしまえば、クリスマスは円城家でパーティーを開いてくれることになっている。ガラではないが、それでも家族のために料理を作ると張り切っている華澄さんの思いを無碍にもできない。

 

「やっぱり、あっちの家で初めてのクリスマスだし、仕方ないね……」


 残念そうに笑う秘密子を見ていると、無性に申し訳ない気がしてくる。とは言っても、俺の体は一つしかない。だったら前半は円城家で、後半は施設のパーティーに参加する……?いや、チビどもは遅くまで起きていられないし、逆のほうがいいのか?

 

「あ……!」

 

 そんなことを考えているうちに、一つの考えが浮かぶ。それに、ひょっとしたらこれって、秘密子と那澄菜の距離を近付けるのにも役立つんじゃないだろうか?

 

「なあ秘密子!」

「んなっ……!?なな、なんだい鬼一?こ、こんなところで……。こここ、こういうのは、もも、もっと人目の無いところで……」


 いきなり両肩を掴まれ驚いたのだろう。なぜか真っ赤になった顔で、しどろもどろになる秘密子。

 

「パーティーだけどさ、俺に段取りを任せてくれないか?」

「………………え?あ……、そりゃあ構わないけど……。でも、どうしたんだい?鬼一がそういうことに積極的になるなんて珍しい……、いや、初めてじゃないのかい?」


 まあ、秘密子の言うとおりだろう。正直、今までの俺はその手のイベントごとに全く興味はなかったし、今でもさして興味があるわけじゃない。だが、今回のことは上手くいけばいろんなメリットがあるかもしれない。

 

「なあに、ちょっとばかり思うことがあってな。上手く行くかわかんないけど任せとけ。とにかく、文句だけは言うんじゃねえぞ!」

今回は久しぶりのダブルヒロイン?秘密子&那澄菜が主役です。

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