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41 俺と秘密子のいつかのメリークリスマス? その1

「いや、ホント惜しかったよな。紙一重の勝負だったし、あそこでお前が押し切ってれば、全国制覇も夢じゃなかったぜ。つーか、あの感じなら来年は間違いなくお前が全国一だろ」


 夏休み明けの最初の部活で、俺はいつものごとく亮太と乱取りをしていた。

 夏の全国大会で、結局亮太は3位入賞だった。それでも部内……、それどころか県内で一番の成績だし、十分に誇るべきものだと思う。

 準決勝で惜しいところで敗れたものの、亮太を倒した相手は優勝したうえに上級生だ。その後の決定戦で3位になったことも考えれば、1年生なのに大健闘と言えるだろう。事実試合後、いくつかの大学や実業団の関係者らしき人たちが、亮太に接触を図っていたくらいだ。進学にせよ就職にせよ、この先は世界を見据えた環境に身を置けることは間違いないだろう。

 稽古中、いつになく俺は饒舌だった。あれほど全国制覇をすると意気込んでいたうえに、俺が良かれと思い、応援のために連れて行った秘密子の目の前で負けたのだ。さすがの亮太も落ち込んでるだろうと思い、間を持たせるために俺の口数も自然と多くなる。だが……。

 

「いやー、たしかに上には上がいるもんだな。あん時の鬼一の言葉、身に染みてわかったぜ」


 意外にもあっけらかんと言う亮太に、少々拍子抜けする。

 

「けどな、一つわかったことがあんだよ」

「わかったって……、なにがだよ?」


 俺の問いにニヤリと笑うと、亮太は自信満々に答える。

 

「今回戦った人たちより、鬼一の方がはるかに強い!」

「はあ……?」


 そりゃあ亮太と俺では階級が違うし、ましてや鬼と人間だ。どう考えたって俺の方が有利だろう。

 

「そんなことじゃねーよ。柔道家としての地力、格の違いを言ってんだ。だからそんな鬼一と稽古してる俺は、来年……、いや、一日一日、どんどんと強くなっていく。鬼一をブン投げられるくらいに強くなりゃあ、ぜってーアイツらには負けねえさ!来年は無差別級に殴り込みだ!」

「バーカ。お前の目標は別にして、俺のことは買いかぶり過ぎだっつーの」


 そんな亮太の言葉を聞き、俺は自然にほほ笑んでいた。

 そうだ、こいつはいざ勝負事となれば、周りにどんな観客がいようが関係ないんだ。たとえ目の前に惚れた女がいようが、もしもそいつが裸で応援していようが、その瞬間は下心など忘れて、全力で勝負に挑むだけだ。

 だから、たとえ秘密子にカッコ悪いところを見せようが、次で挽回してみせる。そんなふうに思えるヤツだったな。

 

「おう、その意気だ。今回はカッコ悪いとこ見られたかもしれないけど、来年は優勝トロフィーを抱えるお前を秘密子に見せてやれよ」


 そう、この意気なら亮太はますます強くなる。そう思った矢先だった。

 

「鬼ノ元さん……。そうだよな、あの試合、鬼ノ元さんも見てたんだよなぁ。それを俺ってば……。うう……、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 前言撤回。単に勝負に熱中するあまり忘れていただけで、秘密子にいいところを見せようという下心はバリバリにあったようだ。

 とりあえずうるさいので、一回ぶん投げておく。まあ、こんな状況でもしっかりと受け身を取るところが亮太らしい。もちろん俺だって、亮太を信頼してるからこそ投げたんだが。

 畳に叩きつけられた亮太は、天を仰ぎしばらく大人しくしていたが、不意に口を開く。

 

「なあ鬼一……。あん時も一緒に来てたけど、この夏休みの間に、鬼ノ元さんとナンかあった……ってことは……ないよな?」

「は……?はぁ!?何言ってんだ亮太、んなことあるわけねーだろ!」


 唐突に何を言い出すかと思えば……。よほど秘密子の前で負けたのが、ショックだったのだろうか。

 

「いや、なんつーか、この夏休みで鬼一の雰囲気が変わったっつーか、大人っぽくなったって言うのか……。なんとなくだけど、そんな気がしてな……」

「俺が?いや、そんなことないと思うけどな……」


 夏休みの行動を思い返してみるが、俺が成長するような覚えはない。強いて言えば、フェンリルさんたちとの出会いと少しばかり変わったアルバイトをしたこと、あとはテーマパークでの出来事くらいだろうか……。

 まあ、たしかに簡単にできる経験ではないとは思うが、だからといって、それ一つで大人になれるほどのものではないだろう。

 

「おっ、なんだなんだ?ついに法眼が『卒業』したって?」


 横から口を挟んできたのは、近くで乱取りをしていた先輩だ。

 

「はい?俺は1年生ですし、卒業はまだまだ先の話ですよ?」


 俺と亮太の不思議そうな顔にも、先輩はニヤニヤと笑っている。

 

「馬鹿だな。この時期の卒業といえば、『アッチ』の方に決まってんだろ。夏休み明けに雰囲気が変わった先輩たちの話を聞くと、たいていそうだったしな。うん、たしかに法眼からは、なんかオトナになった雰囲気を感じるしな」

「アッチ……ですか?」


 本気で首を傾げる俺たちに、先輩は呆れたような顔をする。

 

「おいおい、冗談だろ?赤神はともかくとして、ヤッた本人がすっとぼけてどうすんだよ。別に恥ずかしいことじゃねえんだぞ。俺だって初めては1年の冬休みだったし、男なら早いうちに経験しとくに越したことはないぞ」

「はぁ……?ヤッたって……、俺がなにしたんでしょうか?」

「なにって……。いや、たしかに法眼はそういうの自慢するタイプじゃないだろうし、恥ずかしいのはわかるけどよ……」

「ハァ……?恥ずかしい……ですか?」

「ああ……。悪かったよ、自分じゃ言い辛いのか。でも、それじゃ赤神がわかんねえだろ。だからな赤神、ナニだよナニ。直接言っちまえば、エッチだよエッチ。つまりセックスだ。要するに法眼が卒業したんだよ、童貞を。んで、相手はやっぱあの鬼の娘か?この前の大会でも、仲良さそうにしてたしな」

「はぁ………………。…………………………は…………、はぁ!?」


 その言葉を聞いた瞬間、倒れていた亮太がゾンビのようにゆらりと起き上がる。だが、その瞳からは光彩が失われ、若干狂気を含んでいるようにも見える。

 

「鬼一……。お前……やっぱり…………、鬼ノ……元……さん……と……」

「ちっ、違う!誤解だ、俺は断じてやましいことなどしてない!!」


 異様な光を湛えた目で俺に迫ってくる亮太に、本気で恐怖を感じる。

 

「おっ、なんだ?法眼がついに童貞卒業か?いや、俺も高2の時だったけど、卒業後って男として、妙に自信がついてくるんだよなぁ」

「ヴゥゥぁぁァァ……。※〇§ΣΦ……キ……イヂィィィ……」

「くそっ、羨ましい……。相手はやっぱあの幼馴染かよ。いいよなぁ。ちっちゃくて可愛くて、頭もいいし……。やっぱ自宅謹慎で見張っておくべきだった……」

「いやいや、案外あの金髪娘ってのもあるかもよ」

「ギイ……ぢぃぃィィ…………、呪×□ΨωΨ呪呪怨ぁギュ怨怨×Σ……」


 ざわめきはすでに道場中に広がり、最早稽古どころではない。つーか、先輩たちの声に混じって時おり聞こえる、人とは思えない文字化けしたようなうめき声と、ジリジリと近づいてくる亮太がマジで怖いんだけど……。

 それは、呪いの人形のような表情をした亮太の両手が、俺の喉元にかかる直前だった。

 

「あの時の……小学生……」


 とある先輩がポツリと呟いた一言により、亮太の動きが止まるとともに一瞬で道場内が静まり返る。

 

「は……?お前、なに言ってんだ?」

「あ……。い、いや、俺んち夏休みに親戚が遊びに来てよ、甥っ子たちを遊園地に連れてったんだよ。そん時、偶然ベンチに座る法眼を見かけてさ……」


 夏休み、遊園地のベンチ……。先輩の口から羅列されるキーワードに、猛烈に嫌な予感がする。

 

「ホントに偶然なんだけどな。その……、法眼が小学生くらいの女の子を、ベンチで膝枕してて……。いや、あまりに仲良さそうだったとか、女の子がメチャメチャ可愛かったからとか、イチャイチャしてたのがスゲー気になって覗き見てたとかじゃないんだぜ!ホントのホントに偶然なんだけど、その後に二人がその……、キ、キスしてるところを目撃して……」

「い、いや、あれは……!」


 なんということだ……。よりにもよって、一番最悪の場面を見られていた。

 しかもだ。妙に意味深な語り方と、肝心なところを思いっきり端折った説明のせいで、俺が小学生とイチャラブしたあげく、自ら望んでマウストゥーマウスのキスをしていたみたいになっている。

 

「マ、マジかよ……。あの噂って、本当だったのか……」

「鬼畜……ロリコン野郎……」

「しょ、小学生で卒業って……。せ、性犯……罪……者……」

「お……、落ち着けよお前ら!それが純愛なら、誰にも邪魔する権利なんて……。そ、それに俺たちさえ警察に黙ってれば、だ、大丈夫……だよ……なあ?」

「ハ……、ハハハ……。そうそう、俺たちはともに汗を流した仲間じゃないか!仲間を庇ってやらなくてどうするんだよ。そもそも、世の中にはいろんな愛の形があるんだよ。法律が絶対に正しいってわけじゃないんだ。それにキスしてたってんなら、お互いに愛し合ってるはずだろ?法の枠組みを超えた愛だってあるんだし、真実の愛を止めることなんて誰にもできないのさ!だ、だから法眼の愛を応援してやろうぜ!なぁ、皆もそう思うだろ?」

「お……、おう、そうだな……。そもそも大昔は年齢が一桁の花嫁なんて普通にあったらしいし、愛があれば法律の壁なんて……」

「いや、それって政略結婚とか、形式上の話じゃねえのか……?」

「で、でもよ、直接的にそういうことをしなければ……。相手が大人になるまで純愛を貫けばセーフ……、なんじゃねえのか……?」

「いやいや。そもそも法眼はもう小学生で卒業しちまってんだろ?これって逮捕案件なんじゃねえのか……」

「女子小学生……。う、うらやましすぎる……」


 最後にポツリと聞こえた、マジでヤバいセリフは聞かなかったことにしよう。

 というか、先ほどまでの和気あいあいとした雰囲気はどこへやら、道場中が微妙な空気となっている。つーか、亮太まで一瞬で正気に戻って青ざめながら後ずさってんじゃねえよ!

 

「いや、違いますって!誤解ですからね!!」


 だが、必死で言い訳する俺を、周りの皆は完全にドン引きした目で見ている。

 

「さ、さあみんな、いつまでも遊んでないで、稽古を再開するぞ!」

「お、おう、そうだな。よし、いくぞ!」

「ほら、大会終わったからって気ぃ抜くんじゃねえぞ!来年に向けた戦いは始まってるんだ!」

「つーか、聞いてくださいよ!あれは……!」


 最終的になんとかわかってもらえたものの、その日はいつもの倍以上の疲労を感じ、学校を後にしたのだった。

 そしてそんな穏やかな日常が続く中、季節は秋を過ぎ、いつしか冬を迎えようとしていた……。

タイトルは筋肉ハイトーンヴォイスのヴォーカルと、テクニカルギタリストユニットの名曲からです。教授の曲で有名な戦場の映画からでも可?(古すぎますね)。次回、季節は一気に飛ぶうえに、明らかに今の時期の話題ではありません。ですが、これを書いていた時期はそれなりに寒い時期だったんです……。今回は短めのお気楽回です。

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