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36 Misumi in Wonderland 鏡の国の美澄 その1

「クソッ!クソクソクソクソクソがぁぁぁぁぁぁっ!!アレが僕よりも先に昇進だと?ふざけるな!あんな地方の二流大学出の出来損ない、僕の足元にも及ばないじゃないか!いったいどれだけ僕が、アイツのミスをカバーしてきてやったと思ってるんだ!それを……、それをあんなちゃちなプロジェクトを、しかもたった一つ成功させたくらいで……。くっ、上も上だ、僕が今までしてきた貢献の何を見てきたんだ、長く務めたってだけの、時代の変化について行けない無能な老害どもめ!」


 薄暗いマンションの一室で、その男は近くの物を投げつけ、蹴とばし、手当たり次第に当たり散らしていた。

 窓から見える景色は、都会の街並みが見下ろせる最上階。しつらえた家具に至っては、詳しくない者が見てもそれなりの値段がするであろうと想像できるほど、豪華な雰囲気を醸し出している。

 事実、一見してプリントや合板とは明らかに違う綺麗に浮き出た木目を見ても、実際にそれだけの値がするものが取り揃えられているのだろう。

 だが、今はそのお洒落な部屋の様相は一変している。

 床には割れたカップの破片や破れた英字新聞が散乱し、高級木材を使用した家具の一部は欠け、本革張りのソファも所々切り裂かれ綻びが見えている。

 その暴れぶりは、隣や階下の部屋から苦情が来てもおかしくないはずだが、そこは超の付く高級マンションたる所以だろう。皮肉にも、防音機能の完璧さを証明する結果となっている。

 

「アイツもアイツだ!なにが『今回は運が良かったんだよ』だ、白々しい!僕のミスをあら探ししていたことや、あることないこと上に告げ口していたのは知ってるんだからな!無能のくせに、僕を見下した目で見やがって!」


 投げつけられた高級そうなカップが壁に当たり、派手な音を立てて砕ける。その派手な破裂音に、わずかに男の心に冷静さが戻る。

 

「くっ……。いつまでもこんなことで悔やんでいても仕方ない。それに、今後の僕の評価に支障をきたすわけにはいかないしな」


 少しばかり冷静になった男は、ようやく己の部屋の惨状に気付く。


「少しばかりやり過ぎたか……。さすがに清掃業者にこの状況を見せるわけにはいかないな。かといって、僕が掃除をするのも……」


 しばらく荒れ果てた部屋を眺めていた男だったが、何を思ったのか不意に表情が明るくなる。


「そうだ!こんな時こそあそこに……。うん、我ながら素晴らしい考えだ。気晴らしに抱いた後に、部屋の掃除もさせればいい。一石二鳥じゃないか」


 呟いたかと思うと、喜々として電話をかけ始める。

 

「ああ、僕だ。IDとパスワードは……。そうそう、出張で一人寄こしてほしいんだ。歳は10歳以下で、美す……、いや、瞳はクリっとして大きく、天使のように美しい娘だ、シミ一つない白い肌で、胸や尻は成長し過ぎていないほうがいいな。だが、寸胴じゃダメだ。あくまで手足は長く、腰はくびれ、それでいて年齢ゆえに成長しきっていない感じの娘だ。それから、綺麗な黒髪だな。柔らかい猫のような毛で、腰の辺りまで真っ直ぐに伸びているといい。そうそう、これは絶対の条件だが、当然処女であることだ。スレたガキなんぞいらないぞ。ああ、少しばかり我がままを言ったかもしれないが、もちろん価値に見合った娘なら言い値を出す。は?そんな娘はいないだと?おい、待てよ!この前何人か少女が登録されたはずだろ?代議士の先生から聞いてるんだぞ!誰か一人くらいは……。条件が無茶?馬鹿を言うな!僕はその条件にピッタリ一致する娘を知っているぞ!しかも、その娘を上回るほどの逸材をもだ!探せばいないわけがないだろう!それに、僕がどれだけそこの売り上げに貢献をしたかわかっているのか!?……そうか!先生も僕と同好の士だったな……。くっ、全員そちらの献上品ってわけか……。なあ、金ならいくらでも出す!お前なら先生の目を盗んで、一人くらい調達できるだろ?なんならいつもの倍、いや、3倍のチップを出す!いや、娘の値段と同じだけのチップを出す!それなら文句はないだろう?…………なに?先生は関係ない?そんなはずはないだろう!ならばなぜ僕には回せないんだ?なあ、頼む!アイツの、あの娘の代わりになるような至高の少女を……!おっ……、おい、おいっ!?……くそがぁっ!」


 携帯端末を叩きつけたことから察するに、電話口の相手に適当にあしらわれたうえに、一方的に通話を切られたのだろう。

 だが、興奮する男は気付いていない。自らの理想とする少女の代替品を渇望するあまり、現実からあまりにかけ離れた条件を出していることに。そして、その空虚さは代替品などでは埋めることができないことに……。

 思えば、自らの究極の理想ともいえる少女たち(・・・・)に出会ってしまったことが、この男の不幸の始まりだったのかもしれない。

 そして落ち着いたかに見えた男の挙動が、再び不安定となる。


「ちくしょう……。馬鹿にしやがって……。僕がどれだけ売り上げに貢献してきたと思ってるんだ。お前の給料のどれだけが、僕の金から出てると思ってるんだ!くそっ……、クビにしてやる。上層部に掛け合って、あの電話番をクビにして……。いや、あんな男のことなどどうでもいいし、あの娘さえ手に入れれば、あんなところの薄汚れたビッチどもなど最早必要ない!くっ……、そもそもこんなことになったのはアイツらのせいだ。そうだ、アイツらのせいで眠れない日が続いて、つまらないミスを……。くそっ。やはり、暴力行為と脅迫で訴えて、社会的に抹殺してやるべきか。いや、まずは先に噂を流して……」


 憎き相手が社会的制裁を受ける場面を妄想して悦に入る男だったが、さすがにそれを実行するほどの馬鹿ではない。当然それが己の首を傷付けるどころか、切り落とす諸刃の剣であることもわかっている。ただ、やり場のない怒りをぶつけるために喚いているだけだ。


「くそっ、あの動画さえなければ……。ここはやはり、危険を冒してでも直接復讐を……。いや、ダメだ。僕の社会的立場が終わってしまっては意味がない。それにもしもあの化け物に見つかれば、こ、今度こそ、ここ……殺……される……」


 それは男にとって恐怖の体験だったのだろう。口調の威勢の良さとは反対に、顔は蒼ざめ、体は小刻みに震えている。

 

「ちくしょう!こんなことなら、情けなんかかけるんじゃなかった。初めから力尽くでモノにして、それで脅せば良かったんだ!そうだよ、ヤツらが証拠映像を持ってるって言うんなら、こっちだってそれ以上の物を用意すればいいんだ。さすがに娘が犯されてる映像が全世界に流されるとなれば、あの女たちも大人しく従うだろう。フヒヒ、いい考えじゃないか!そうと決まれば、何か手はあるはずだ。そうだな……。手っ取り早いのは誘拐だな。それからクスリで自由を奪って……。いや、先にクスリで抵抗できないようにしてから……。まて、そもそも近付けもしないのに、どうやって攫ったり飲ませたりするんだ?くそっ、考えろ。僕はエリートだ。この頭脳を持ってすれば解決できないことなどない。困難を解決することこそ僕のアイデンティティだし、いつだってそうしてきたじゃないか。考えろ、何か、何か方法が……」


 虚ろな目でブツブツと呟く男だったが、その時ふと中空に何かを見つける。


「ん?なぁんだ、そこにいたのか……。わざわざ会いに来るとは、やはりパパ(・・)が恋しかったんだな……。フフ……。むしろデリバリーが失敗したのは良かったようだな。フフフ。今回は僕の心の広さに免じて、あの無能な電話番のことは大目に見てやろう。ほら、心優しいパパがたっぷりと可愛がってやるよ。さあ、こっちへおいで……」


 そう言うと男は、焦点の合っていない瞳で虚空を見つめ手を伸ばす。目の前に見えるはずのない、可憐な少女の姿を妄想して……。

 

「フヒヒヒ……。どうした?痛いのかい?仕方ないさ、これはお仕置きだからね。優しいキスなんか必要ないのさ。まずはその未発達の胸……、可愛い乳首に噛みついてやろう。僕の歯形がつくほどにな。ああ、綺麗だ……。なんて綺麗な桜色なんだ……。それに、なんて甘いんだ。この世のどんな甘露よりも甘いぞ。ん?どうした?痛いのかい?ああ、可哀想に……。でも、仕方ないのさ。これはパパを大切にしなかった罰なんだからね」


 不気味に笑う男の表情は、最早まともなものではなかった。その瞳は、現実と虚構の入り混じった世界を見ているかのように……。

 そして男は履いていたズボンを降ろすと、自身の固く反り返ったものを取り出し握りしめる。


「次は……、そうだな、その可愛いお口に僕の(・・)をねじ込んでしゃぶらせてやろう。ああ、苦しいだろうね。でも言っただろう、これはお仕置きだって。いいかい?けっしてお前が憎いわけじゃないんだ。いい子にするためにやってるんだぞ。なあに、淫乱悪魔の血を引くお前だ。すぐにそれも快感に変わるさ。ヒヒヒッ。ほら、しっかりと舌を絡めて、ねっとりと涎を絡めて舐めるんだ。ああ……、いいぞ。その小さな口の締まり具合……、最高じゃないか!」


 虚ろな目をしながら、男は激しく右手を動かす。


「たっぷりとその小さな口を味わった後は、ハァハァ……、そうだな、いきなりねじ込んでやるよ。痛がったって……、ううっ……、仕方ないさ。これはお仕置きだからな、お前をいい子にするための。だけど……。うっ、淫乱なお前のことだ。すっかり感じて濡れているかもな。ああ……、いいぞ、お前の中……。金で買えるスレたガキどもとは全然違う。そうだ、なにが芸能界だ!無垢を装ったって、あんなところに憧れる女など自己顕示欲の塊に過ぎん。いずれビッチになっていくんだ!ああ……、やっぱり女というのはお前のように純粋無垢であるべきだ。このシミ一つない滑らかな肌、美しく流線形を描くスレンダーな肢体、猫の毛のような長く柔らかい黒髪……。これから徐々に、お前の体をじっくりと開発してやるからな。ああ、いいぞ!イ、イクっ、イクぞぉ!手始めにお前の中に……。だが、この先はこんな程度じゃないぞ!お前の穴という穴……、尻だろうが口だろうが鼻だろうがヘソだろうが……。お前の穴という穴に突っ込んで精液を流し込んでやる!そして精液で溺れさせて、僕の子供を孕ませてやる!そ……、それから女の子を産ませて、そ、その娘も……。う……、うぐぅっっっ!!」


 カーペットに熱い体液が飛び散り、興奮の後の静寂が訪れる。そして荒い呼吸をしながら、男は宙を見上げる。その瞬間……。

 

「ひ……、ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃィィィぃッっ!?」


 部屋中に男の絶叫が響き渡る。

 

「なっ、なぜお前がここにいる!?ここは僕の部屋だぞ!で、出て行けよ!ふっ、不法侵入で訴えてやるからな!!」


 男の目の前には、頭から角を生やした大柄な鬼が立っていた。

 それは男にとっては恐怖の対象であり、順風満帆だと信じていた己の人生を大きく狂わせた存在でもある。

 ここが自分のテリトリーであるという、唯一の心の拠り所を武器に必死に強がって見せる男だったが、ふとあることに気付く。己のいる場所が先ほどまでいたはずの、マンションの自室ではないことに。

 辺りにはカップルや家族連れが溢れ、皆楽しそうに笑っている。周りからは賑やかな音楽が聞こえ、見覚えのある着ぐるみのキャラクターが闊歩し、子供たちに風船を渡し一緒に記念撮影をしている。

 

「なっ……、ど、どういうことだ!?ち、違う、僕はお前たちに近付いてなんかいない、約束は守ってる!これは何かの間違いだ、僕は自分の部屋にいたんだ。信じてくれ……ください!!」


 慌てふためき、目の前の鬼に土下座せんばかりに頭を下げる。恐怖のあまり丸出しの下半身から漏れ出た、先ほどの体液とは違う生暖かい液体がカーペットを濡らしていることも気付かず……。

 泣きそうな顔で必死に言い訳をする男だったが、そのうちに妙なことに気付く。

 

「な、なあ、聞こえないのか?おい、なんで無視するんだよ。それにお前、その娘は……」


 男は、己が必死に頭を下げていた相手の腕に楽しそうに抱きつく、美しい少女に気付く。そして、先ほどまで己が妄想していたその姿が、幻覚ではなかったことを知る。

 

「お、おい、本当に気付いてないのか?嘘吐いてるんだろ?ほ、ほら、触っちまうぞ、いいのか?見えてないふりして、触った瞬間に殴り飛ばす気だろう。僕を騙そうったってそうはいかないぞ。な、なあ、ホントは見えてるんだろ?」


 怯えながらも二人に近づいた男は、わざと目の前をうろついたり立ち止まったりしてみる。だが……。

 

「う、嘘だろ……。本当に見えないのかよ。それに僕は……飛んでる……!?」


 目の前の二人は男の存在に気付かないどころか、本当に姿すら見えていないようで、楽し気に言葉を交わしている。

 

「き……、奇跡だ……。そうだ、やはり神はいたんだ。正しき僕に祝福を、悪しき鬼と淫乱女に天罰を与えるため、僕に力を与えてくれたんだ!」


 先ほどまでの泣きそうな顔とはうって変わり、男の顔には邪悪な笑みが浮かんでいる。

 

「くくっ。姿も見えなければ、空を飛んで逃げることもできる。この力を使えば、気付かれずに天罰を与えられるぞ。最高じゃないか!そうだな、手始めにこの不愉快な鬼を殺してやろう。フヒヒッ、一人になったところを、後ろから首の動脈でも切ってやれば……。……いや、ダメだ。今殺したってなんの罰も与えられないし、気付いた時には死んでいたなんて面白くもなんともない。もっと、もっと苦しみを与え、僕にしたことを後悔させなければ……」


 己だけの世界に没頭している男は、興奮のあまり事態の異常さに何の疑問も持った様子がない。それどころか、神からのものと信じている『贈り物(ギフト)』に興奮を隠しきれない。

 やがて何かを思いついたのか、男は醜悪な表情を歪めて笑う。


「そうだ、そうしよう。ふひヒっ。お前が大切にしている家族が、目の前で犯されたら面白いだろうなぁ。怒るか、泣き叫ぶか、はたまたもう一度鬼にでも変身するか……。いいや、それとも本性を剥き出しにして、一緒にコイツを犯しまくるかもな。偉そうなことを言ったって、所詮はお前も下劣な化け物だろうしなぁ。持って生まれた性と、本性には逆らえんさ」


 下卑た妄想で笑う男の顔は醜悪に歪み、最早人のものとは思えなかった。


「クヒヒヒヒ……。だが、残念だったな。この娘は貴様のようなクズには抱かせてやらん。せいぜい汚いモノをおっ勃てながら、体中に僕の精液が注ぎ込まれ、よがり狂う様を指を咥えて見ているがいいさ。ああ、せめてもの情けだ。それを見ながら、自分でみっともなくシゴくくらいは許してやるさ。くひゃヒヒっ、だが貴様に許すのはそこまでだ。この娘には指一本触れさせてやらんぞ。そうだ、誰にも渡さん。お前は僕の物だ。誰にも渡さんぞぉぉ、美ぃぃすぅぅぅミぃィぃぃ……!」

タイトルは、不思議の国に迷い込むあの娘からです。不思議の国と鏡の国がごっちゃになってますね。再びあの男の登場で、少々不快な表現があるかもしれませんがご容赦ください。

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