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34 クイーン オブ レジェンド 伝説再び!? もう一人のヒミコ その8

「ったく、何やってんだあいつ?いつまで待たせるんだよ」


 夕飯後に円城家を後にしてから1時間ほど経った頃、俺は施設の入り口に突っ立っていた。

 目の前に見える建物は勝手知ったるなんとやらだし、そもそも自分の実家のようなものだ。ウダウダしているくらいなら、さっさと中に入ればいいのにと思うだろう。だが、少しばかり思うところがあり、このような方法をとることにしたのだ。


「しっかし、どうすっかなぁ……」


 俺が施設に到着してから、何度それに目を落としただろうか。少しばかり迷いながら、再び手に持った小さな袋を見つめる。

 

「いっそのこと、チビどもに預けて帰るか……」

 

 いや、ダメだ。アイツらに渡そうもんならオモチャにされたあげく、どこで無くしちまうかわかったもんじゃない。

 それにこういうのは、気持ちを伝えるためにも直接手渡したほうがいい……、いや、渡さなきゃダメだって華澄さんも言ってたしな。

 そのセリフを言う口唇の端が妙に吊り上がっていたのが気になるが、華澄さんが嘘を吐くはずはないだろう。

 そもそも気持ちってのは日頃の感謝の意味ってことだろうし、言わんとすることは理解できる。いや、でも華澄さんのことだ。嘘は言わずとも、俺をからかっている可能性はある。

 なんとなく落ち着かない気分になった俺は、包み紙を渡す場面をシミュレーションしてみる。

 

「ほっ、ほらよっ!べっ、別に深い意味なんかねーよ!俺はただ、お前に感謝の気持ちを込めて、たんなるプレゼントをだな……」


 …………いかん。なんだか俺がツンデレキャラみたいになってる。客観的に見ても、こんな厳つい男のツンデレなんか気持ち悪いだけだろ……。


「やあ、お待たせ……って、なに一人でお芝居してるんだい?鬼一が演劇部に鞍替えしたなんて話は聞いてないけどね」」


 待ちくたびれひとり言を呟いていた俺の前に、ようやくソイツは現れた。

 

「なっ、なんでもねーよ!そもそも俺は人前で何かを演じる度胸なんかねーし、柔道を辞めようもんなら亮太が何を言ってくるか……」

「アハハハ、わかってるさ。でも、鬼一の大根役者ぶりも見てみたい気がするけどね。学芸会や文化祭じゃ、いっつも木か岩の役だったし」

「うるせーよ。つーか、遅せーよ秘密子……って、なんだよ。人を待たせて風呂に入ってたのかよ?すぐに行くって言ったじゃねーか」


 目の前の秘密子の姿はと言えば、なぜか時間帯に似合わぬお洒落な服装だ。てっきりどこかへ出かけた帰りかとも思ったが、少なくとも1時間前に電話した時には施設にいると言っていたはずだ。

 しかしながら明らかに風呂に入っていた証拠に、少しばかり湿った髪からはシャンプーの甘い香りが漂ってくる。

 

「い、いや、これはその……。そ、そう!珠魅たちがどうしても、今すぐ僕とお風呂に入りたいって聞かなかったんだ。だ、だから仕方なく……ね」

「ったく、わがままばっかり言いやがって。しょうがねえチビどもだな。けど、なんで風呂に入ったのに着替えてんだ?それって明らかに外出用の格好だよな?」

「へっ!?あ……、そ、その、ちょっとコンビニに行こうと思ってさ!」

「そんなお洒落してか?そもそもいつもなら、俺についでに買い物してこいって言うじゃねえか」

「い、いや、その……。ぼ、僕だっていつもそんなことをするわけじゃないさ。鬼一にお願いするのは、どうしてもって時だけだよ!」

「その『どうしても』ってのが、ほぼ毎回の気がするんだけどな」

「う……。そ、それよりもどうしたんだい?こんな遅くにわざわざ、ぼ、僕を外に呼び出すなんて……。なな、何か言いたいことでも!?」

「なにテンパってんだよ?なんかお前おかしいぞ。別にそんな遅い時間でもねえだろ」

「ぼぼっ、僕はいつもどおりだよ!そっ、それよりも、用ってなんだい!?まま、まさかとは思うけど、こここ、この前の……つ……続……き…………」

「お前やっぱ変じゃねーか?まあいいや。それよりも、ほれ」

「へ?」


 目の前に差し出された袋を見て、キョトンとする秘密子。

 

「なに……、コレ?」

「いや、だからプレ……、み、土産だよ、み・や・げ!」


 思えば付き合いは長いくせに、秘密子にちゃんとプレゼントをしたことなどなかった。そもそも付き合いが長すぎて家族のようなコイツに、そんなことをしようなどと思ったこともない。

 おまけに何をどう勘違いしたのか、贈り物だと店員に告げた途端、なんだかわからぬうちに包み紙に過剰なラッピングまでされてしまったのだ。これではまるで、彼女にプレゼントを贈る恋人のようではないか……。

 そんなことを考えているうちに、なぜだか急に気恥ずかしくなり紙袋を秘密子に押し付ける。

 

「その……、今日初めてバイトってやつをしたんだけど、思った以上に金になったんだ。それで、必要な分を使っても余ったからお前にもと思ってだな……。よ、呼び出したのも、チビどもに見つかると横取りされそうだし、べっ、別に妙な意味はねえよ」


 なぜだか俺は、いつぞやの秘密子の告白まがいの冗談を思い出していた。もちろんあれはただの悪戯で、秘密子が本当に俺のことを好きなはずはない。だが、意識すると自分が妙に気恥ずかしいことをしている気がしてくる。

 それに、湯上りの秘密子の顔はわずかばかりに上気し、シャンプーの甘い香りが鼻をくすぐる。嗅ぎなれたはずのそれだったが、一緒に暮らし顔を合わせる機会が少なくなったせいか、なんだか秘密子が少しばかり大人になったように感じる。

 だんだんとしどろもどろになっていく俺を見て、何かを悟ったのだろうか。いつもの柔らかい笑みを見せた秘密子は、嬉しそうに聞いてくる。

 

「ふふ、ありがとう。開けてみてもいいかい?」

「お、おう……。い、いや、大したモンじゃねーぞ。だから、あんまり期待とかはせずにだな……」

「ふふふっ。それじゃあ、期待せずに開けさせてもらうよ」


 何が面白いのか、ニマニマと笑いながら袋を開ける秘密子、そして……。

 

「あ……、栞にブックカバー……」


 気に入ったのかそうでないのか、秘密子は何ともつかぬ表情で中身を見つめている。

 

「い、いや……、お前の気に入りそうなもんもわからなかったし、好みもあるだろうから無理に使わなくても……。ほ、ほら、どうせ安モンだし、お前に借りた本が汚れてもなんだから、いらないなら俺が使ってもだな……」


 だが、そんな俺の言葉に秘密子は予想外の態度を取る。どういうつもりか、嬉しそうにそれを胸に抱き抱えたのだった。

 

「ふふん。鬼一にしてはいい趣味じゃないか。素直にお礼を言わせてもらうよ。ありがとう」

「お、おう……。いや、気に入ってもらえたんなら、それはそれで……」

「ふふ、鬼一が初めて僕にくれたプレゼントだ。ありがたく使わせてもらうよ」

「おう……。いや、み、土産だっつってんだろ!」

「ふふ、そういうことにしておこうか。お返しに鬼一は何か欲しいものとかないのかい?」

「は?いいよ。俺が勝手に買ってきただけだし、別に欲しいもんもないし」

「そうは言っても、貰いっぱなしってのもアレだからね。物じゃなければ、なにかしてほしいこととか」


 そうは言ってもさしあたり欲しい物もないし、秘密子に何かをしてほしいわけでもない。だが、こいつは結構律儀で頑固なヤツだ。こんな程度の貰い物でも、何か礼をしなければ気が済まないのだろう。

 中学の頃ならば購買部で昼飯を……って選択肢もあったが、今は華澄さんが毎日弁当を作ってくれる。ならばジュースでも奢ってもらうか。そんなことを考えていた時、ふと以前の出来事が思い浮かぶ。

 

「なあ秘密子、『ラムちゃん』って知ってるか?」

「は……?」


 予想外の言葉だったのだろう。秘密子は目を丸くしている。

 

「いや、この前澄麗さんに聞いたんだけどよ、なんかそういう鬼の女の子のキャラクターがいるらしいんだよ。お前のことリアルラムちゃんって言ってたし、もしかして似てるのかもって思ってな。俺もどんなのか知りたいし、えーと……、コスプレっつーのか?その恰好をしてもらうってのは………………あれ?」


 言いながら俺は、秘密子の形相が変わっていくのに気付く。

 

「鬼一……」

「はっ、はい!?」


 ご機嫌だった顔は俺を射殺さんばかりに睨みつけ、いつの間にかドス黒いオーラを漂わせている。

 

「テメェ……、それは本気で言ってるんだろうなぁ?」

「え?い、いや、その……。な、なに怒ってるんだよ?そんなにマズいことなのかよ!?」

「俺様にそんなエロい恰好をさせようなんざ……。それともなにか?衣装を着た俺様の凹凸の無さを見て、笑おうって魂胆か?もしくはホントにそっち方面にでも目覚めたのか?年に2回は、どこぞのビッグイベントに参加するつもりにでもなったのか!?」

 

「エ……、エロッ……!?お、お前なに言ってんだ……?まっ、待て、落ち着け!そもそも俺はラムちゃんを知らねえし……」

 

 それから必死に以前のことを説明し、秘密子のご機嫌が直るまでに30分以上を要したのだった。


☆ ☆ ☆


「すまん……。こんな水着みたいな服着た、露出の多いキャラクターだとは思わなかったんだよ」


 その後、秘密子の携帯端末に映ったラムちゃんを見て、俺は平謝りしていた。

 画面に映ったアニメキャラクターは、秘密子には似ても似つかなかった。おまけに、着ているものはビキニのような虎柄のブラジャーとパンツのみで、肌のほとんどは露出している。

 アニメキャラクターだからこそ許されるであろうその恰好は、現実世界で外を歩いていたら変態と言われても仕方ないだろう。それに、胸の大きさ的にも秘密子には少々似合いそうにない。自分でも自覚しているのか、怒りの大部分はそこにあったような気もするが……。

 もちろんそんなことを言おうものなら、せっかく鎮火しかけたボヤにガソリンをぶちまけるようなものだ。当然のごとく口が裂けても言わないが……。


「やれやれ。なんとなくの想像はついてたけど、そんなところか。まあ、鬼一じゃあの女には勝てそうにないしね。さて、上手くオチが付いたところだけど、それよりもだ……」


 呆れ顔だった秘密子の表情が、不意に真顔になる。

 

「さっき鬼一は、『必要な分を使っても余ったから』って言ったよね?ということは、僕よりも優先的に(・・・・)、同じような使い方をしている相手がいるわけだ。さて、アルバイトの内容と、その余る前のお金の使い道とやらを、じっくりと聞かせてもらおうか」

「い、いや待てよ!俺がどういう金の使い方をしようが……。って、わ、わかったから、ちゃんと話すから!」


 画面の中で天使のごとくにこやかにほほ笑むラムちゃんとは違い、文字通り鬼の形相に変わった秘密子に、俺は必至で浮気のバレた男のような言い訳をするのだった……。

黒狼探偵社編、次回で終了です。もう少しだけお付き合いください。

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