33 クイーン オブ レジェンド 伝説再び!? もう一人のヒミコ その7
「ったく、ちゃんと連携を取れって言ったのに……。狗巫女といいアンタといい、どうして一人で突っ走るんだろうね」
「す、すみません……」
「まあまあリルさん。結局は鬼一君の活躍で捕まえたんだし、お小言はそれくらいに……ね」
「ちぃち、えらーい」
捕まえた貉をフェンリルさんの連絡で駆けつけた、アヤカシ事件の専門部署に勤めるという刑事たちに引き渡した後、俺は黒狼探偵社でお説教を受けていた。
ただ、狗巫女さんはそれをとりなそうとしてくれているし、緋光子ちゃんは俺を褒めてくれているのか、頭によじ登り撫でてくれている。
「フン!アイツを騙して自分の土俵に持ってく作戦は、まずまずだったよ。まあ、それ込みで40……、いや、35点ってとこだね」
「もー、リルさんったら……。そもそも、初めててでそんな作戦を思いつくなんてすごいじゃない」
「い、いえ、あれはフェンリルさんが俺の意図に気付いてくれたからこそ、成り立ったわけで……」
「フン!そのとおりさ。相手がアタシだったから良かったものを。そもそも馬鹿猫や狗巫女だったら、気付きもしなかったかもしれないんだよ。だから綿密な作戦ってやつが、いかに大事かをだね……」
「まあまあリルさん。何気に私もけなされてる気もするんだけど、それについては言い返せないし……。って、それよりもほら、アルバイト代だよ」
「あっ、ありがとうございます!」
なんと言うか、色々と助けてもらったとはいえ、それなりに自分の力で稼いだ人生初の給料だ。そう思うと、感慨深いものがある。
受け取った封筒は、思ったよりも厚みがあった。イヤらしい話だが、おそらく10枚近くの千円札が入っているのではないか。とすれば、思っていた金額の3倍程度は貰えるのではないかという期待が膨らむ。
「後で誤魔化したって言われるのも面倒だし、さっさと確認しな」
「あ、はい。別に疑ってはいませんけど……、って、え!?」
「なんだい?なんかイチャモンでもつけようってのかい?」
「ち、違いますよ!そ、そうじゃなくてフェンリルさん、これ間違えてますよ!9割の方が入ってます!!」
俺が驚いたのも無理はないだろう。封筒を開けた先に見たものは、10枚近い千円札などではなく、1万円札だったからだ。
「ハァ?アタシが金の計算を間違えるわけないだろ。成功報酬の1割だって言ったはずだよ」
「え!?じゃ、じゃあ、黒狼探偵社の依頼料って……」
その時になって俺はようやく、あの伝説がどうして生まれたのか理解した気がしたのだった……。
「あ、あはは……。私はもう少し安くしてもいい気がするんだけどね。特に商店街の店主さんたちには、普段からサービスしてもらってるし。ほら、今日だってこんなにたくさんのコロッケと、メンチカツまでもらっちゃって……」
「ハッ!なに言ってんだい。アタシらは一流の仕事を売りにしてんだよ。きっちりやり遂げるからこその値段さ。それに言ったろ。今回のは、中身自体は些細な案件さ。でも、将来的に商店街を内部から崩壊させかねないものだったんだよ。アイツらもそれを憂いていたからこそ、警察じゃなくてアタシを頼ってきたのさ」
たしかにそうだ。フェンリルさんの話は十分に理解できるし、店主たちも大金を出してでも解決したいと思うほどに憂いていたんだろう。
あのお気楽そうに見えた人たちも、商店街を守るために必死に頑張っているんだろう。けっして狗巫女さんの揺れるおっぱいを見たいがために、大枚をはたいたわけじゃない……と思う……。
「それにコロッケはアンタの慰謝料替わりだから、気にすることはないんだよ」
「慰謝料?私の?」
「あ、あのっ!別に悪いとかってわけじゃないですよ」
不思議そうな顔をする狗巫女さんだったが、店主のセクハラ発言をここで言うこともないだろう。俺は慌てて軌道修正を図る。
それに、男として店主の気持ちは痛いほどわかる。俺だってもう一度、このとてつもなく巨大なおっぱいが目の前でブルンブルンと揺れるサマを見てみたい。もちろんイヤらしい意味じゃなくて、純粋に物理法則を体感したいというか、科学的な興味だということで……。
「フン!まあいいさ。それに、今回は純粋に1割ってわけじゃないしね」
「え?」
その言葉に、狗巫女さんが可笑しそうに笑う。
「ふふ。今回はね、鬼一君が一人で活躍したボーナスのほかに、『弟』への餞別も含んでるの」
「弟……って……?」
「フン……。…………そういや、藤堂のオッサンは元気かい?」
「藤堂……?」
突然言われた名前に、一瞬誰のことかわからなかった。
「なんだい、まだ定年退職って年じゃないだろ。それとも、役立たずでクビにでもなっちまったのかい?ほら、鼻の下にでっかいホクロのある、無駄にお人好しのオヤジだよ」
「あ……、もしかして、施設長のことですか?」
「施設長ォ!?ハン!あいつも偉くなったもんだね。けど……、10……何年経つんだっけ?今じゃオッさんてよりもジイさんかい?まあ、アタシも年を取るはずだよ」
フェンリルさんの遠くを見るような、どこか懐かしいものを見つめる目に、俺は全てを理解した。いや、したような気がするだけだろうが……。
「よかったら、今度遊びに来てください。懐かしい顔とか、新しい弟や妹たちがきっと温かく迎えてくれますから。と言っても、俺もすでに『家』を出た身ではあるんですけど……」
「ハッ!そんなオッさんどもに興味は無いし、今さらあんなトコ見たくもないさ。だいたいあそこに居たのだってほんの僅かな間だし、品行方正なガキ時代を過ごしたわけでもない。おまけに円満に出ていったわけでもないしね。そもそも、アタシはガキは嫌いなんだよ。一人じゃなんにもできないくせに、ピーピー泣くわ喚くは煩いし」
「もー、リルさんったら。そんなこと言ったら緋光子に嫌われちゃうかもよ?」
「ちょっ……、狗巫女!?いや、緋光子は別で……」
「ふふっ、冗談だよ。緋光子はリルさん大好きだもんね」
「りるねーちゃん、ちゅきー!」
「緋光子……。よしよし、こっちにおいで」
泣きそうな表情をしていたフェンリルさんは、俺の頭から緋光子ちゃんを奪い取るように抱き寄せると、あとはもう俺のことなどどうでもいいという感じで夢中になって遊んでいる。
そんなフェンリルさんを、妹分であるはずの狗巫女さんはまるで姉のよう……、いや、母親のような優しい目で見つめている。
「ふふふ、今日はありがとう鬼一君。事件を解決できたって以外にも、なんだか懐かしいものを思い出した気がするの。特に、口には出さないけどリルさんはきっとね……。あなたがこの先どんな人生を選択するのかはわからないけど、またいつか一緒にお仕事ができるといいね」
☆ ☆ ☆
「ただいま……って、どうしたんですか!?」
帰宅した俺が目にしたのは、玄関先に集合している円城家の面々だった。
「お、おかえりなさいキーちゃん」
「遅かったねキーお兄ちゃん。大丈夫だった?ほら、美澄が慰めてあげるから、ご飯食べて一緒にお風呂に入ろ。今日はい~っぱいサービスしてあげるからね」
「フン。大口叩いて出て行ったくせに、どうせどこにも雇ってもらえなくて、帰るに帰って来れなかったんだろ」
だが、いつものごとく憎まれ口をたたく那澄菜の顔も、どこか心配そうに俺を見ている。おそらくだが、皆が俺のことを心配してくれ、帰りを待ちわびていたのだろう。
それは、今日一日の疲れも吹っ飛ぶような光景だった。
世のお父さんたちが、どんな理不尽なことにも耐えながら家族のために頑張るってのは、もしかしたらこういう感覚のためなのかもしれない。
「おかえりキーくん。ほ、ほら、今日は初日なんだしさ、いきなり仕事が見つからなくても仕方ないよ。アタシも協力するから、また明日からさ……って、なに?その荷物」
「ああ、これはですね……」
俺は両手に抱えた紙袋を皆に渡す。
「はい、これは華澄さんに」
「え……?これお酒じゃない。それも、結構良い物よ」
「これは澄麗さんに。華澄さんと同じじゃ芸がないかと思いまして。ただ、好きかどうかはわかんないんですけど……」
突然紙袋を渡された澄麗さんも、華澄さんと同じような表情をしている。
「ワイン?もちろん大好きだけど、でも、どうして……?」
「俺がどうしても自分で稼ぎたかったのは、お世話になってる皆に何かお礼がしたくて……。ホントは夏休み期間で必要な額を稼ぐつもりだったんですけど、思った以上に稼げたもんですから、計画が前倒しできました……って、華澄さん!?どうしたんですか?」
見れば、先ほどまで驚いた表情をしていた華澄さんが涙ぐんでいる。
「キーちゃん……。立派になって……。ぐすっ」
「うんうん、やっぱアタシらが育てた甲斐があったにゃー」
「いやいや、育てられてはいませんから。特に澄麗さんには」
「あー!ひどーい!!いいもんねー。そんなこと言うなら、酔っ払った勢いで今晩キーくんを『男』に育て上げちゃおうかな。んふふ~、今夜はアタシを満足させてくれるまで寝かさないよん」
「あら、いいわねぇ。私も参加しようかしら」
「え!?い、いや、それは……。え、遠慮しておきます……」
「ねー、美澄は?美澄へのプレゼントは!?」
「あ……。えっとね、美澄ちゃんはこれね!」
本気ではないだろうとわかってはいるが、唇をぺろりと舐めながら流し目を送ってくる澄麗さんの色っぽさににドキリとする。おまけに華澄さんまで加わったら、その破壊力は洒落にならない。美澄ちゃんの発言にこれ幸いと飛びつき、事なきを得る。
「なにこれ?封筒……。もしかしてお金?」
「ち、違うよ!ほら、開けてみて」
華澄さんたちへの、いかにも贈り物という感じのそれとは違う、渡された薄い封筒を怪訝そうに見る美澄ちゃん。だが……。
「あ!遊園地の1日パスポートだぁ!!」
「ちゃんと2枚買ってきたから、華澄さんと行くか友達でも誘って……」
「キーお兄ちゃんと行くの!絶対!約束だもん!!」
「そっか……、そうだね。それじゃあ、一緒に行こうか」
「ちょ、ちょっとキーちゃん!?それってすごく高いんじゃないの?さすがにそんなもの貰っちゃったら悪いわよ」
たしかに、バイト代の大半が消えるほどに美澄ちゃんへのプレゼントは値が張った。だが、元々このために働いたんだし、皆が一番喜んでくれるものが買えたのなら全然かまわない。
「大丈夫ですよ。今回のバイトはコレが目的だったんですから」
「う~ん、キーくんは男前だにゃあ。やっぱり、お礼の意味も込めてアタシが夜這いを……」
「いやいや!遠慮しておきますから!!」
「なんでそんなに否定すんのよ!って、それよりも1日でこんな大金ってどうしたの?まさかとは思うけど、ホントに人でも殺したんじゃ……」
「んなわけないでしょ!ちゃんとした仕事ですよ。職種としては人助け系?みたいな……。それよりも、ほれ」
「へ!?オ、オレに……?」
不意に目の前に突き出されたものを見て、面食らう那澄菜。まさか自分にも用意してあるなどとは、思ってもいなかったという顔だ。
「なんだよ。皆に渡して、那澄菜だけ無しってわけにもいかないだろ」
「え~、なになに?何貰ったのかにゃ~?開けて見せてよ」
「あ……、うん……」
二人に渡した酒瓶とは違う小さな包み。そこから出てきたものは……。
「あ……、ハンカチセット……。可愛い……」
「へ~、これって今流行りのヤツじゃない。キーくん、なかなかいいセンスしてるね」
「いえ……、那澄菜の好みとかわかんなかったし、実を言うとお店で進められたものなんです。そんなに高いものじゃないんですけど……」
「いいっていいって。こういうのは、気持ちが大事なんだよん。だから、とっても嬉しいにゃ~」
「な、なんで澄麗姉がオレの代弁してんだよ!で、でも、その……。あ、ありがとう……」
少しばかり赤い顔で礼を言う那澄菜の表情は、最近見せるようになってきた本来の性格を垣間見せる。
「う~ん。それにしても、値段じゃなくて気持ちの入りように違いがあるのは気のせいかにゃあ?」
「そ……、そんなことあるわけないでしょ!みんな平等ですよ」
「そーだよ。美澄のデート付きチケットが一番だもん!」
「にゃははは。ま、今日のキーくんのお仕事のことも聞きたいし、夕飯後にさっそく皆で飲もうかにゃ」
「あ……。それなんですけど、実は夕飯後にちょっと出かけたいので……」
「え?キーお兄ちゃんまたお出かけしちゃうの?一緒にお風呂入ろうよ」
「そうよ。もう暗くなるし、明日に……って、なるほど……。そういうことなら仕方ないわね」
華澄さんは俺の手元に目をやると、納得したような表情で頷く。俺の手に握られていたのは、皆にプレゼントを渡したはずなのに、一つだけ余っている包み紙。
「え~、でも~……」
「美澄は今度キーちゃんを独り占めできるでしょ?我慢しなさい。それに、私達ばっかりが独占してたら、フェアじゃないしね」
「フェア?なにが?」
「うふふ、気にしなくていいのよ。じゃあ、お酒は今度一緒に飲みましょうね」
「まあ、しょうがないか。押してダメなら引いてみなって言葉もあるしね。しっかし、キーくんは思ったよりプレイボーイというか、天然というか……だねぇ」
「はい?なんですかそれ?」
「いいのいいの。それより、早くご飯食べないと遅くなるよ」
「そうね。すぐ支度するから、温かいうちにいただきましょう」
「あ、それと……」
黒狼探偵社からの帰りに渡された、膨れ上がったビニール袋を上げる。
「お土産にコロッケがありますから、おかずにどうぞ」
「ん~。さっきから気になってたんだけど、いい匂いだよね~」
「うん、匂いだけでお腹が鳴りそう」
「じゃあ、ご飯と一緒にいただきましょう」
その後にみんなと食卓を囲んでいると、疲労と緊張で固まっていた体がほぐれていく感じがする。密度の濃い時間を過ごしたとはいえ、出かけていたのは普段学校に行っているのと変わらない程度だ。
だが、その日食べた華澄さんの料理と円城家の雰囲気は、とても暖かく、そして懐かしく思えるものだった……。
少しばかり長くなりましたが、黒狼探偵社編、次回で終了……のつもりでしたが、修正してるうちに最後の蛇足が長くなってしまい分割しました。あと2話だけお付き合いください。




