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32 クイーン オブ レジェンド 伝説再び!? もう一人のヒミコ その6

「いやー、助かるよリルちゃん。俺たちじゃあ、どいつが犯人なのかさっぱりわかんなくてさぁ。貰ったお金がいつの間にか葉っぱに変わってるなんて、どこの古典落語だよ……ってな具合さ」


 商店街に到着した俺たちを出迎えてくれたのは、肉屋の主人だというでっぷりと太ったおじさんだった。

 

「ハッ!食い逃げヤローごとき、さっさと片付けてやるさ。それよりも、今回も馬鹿猫んトコと天秤にかけてるんじゃないだろうね?」

「だっ、大丈夫だよ!今回は黒狼探偵社(リルちゃんとこ)だけだって。ちゃんと商店街の皆と多数決で決めたんだから。それにほら、人妻の色気が漂うようになった銀華ちゃんもいいけど、俺はやっぱりリルちゃん推しだし!」

「フン、どーだかね。まあ、どっちだろーとアタシが負けるわきゃないけどね」

「ホ、ホントだって!期待してるんだからね。それよりも……、狗巫女ちゃんは来ないのかい?」


 そう言うと、肉屋の主人は無遠慮に俺を見る。その目は何と言うか、幼い頃から感じてきた視線、この場にはふさわしくない異物を見るモノ……のように思えたのだが、なんだろう?その間の抜けたような表情は、どこか違う気もする。

 

「フン!狗巫女は緋光子の世話で忙しいんだよ。アンタらの相手をするほど暇じゃないのさ」

「そっかぁ……。でも緋光子ちゃんなら、連れてきてくれればうちの母ちゃんに面倒見させたのに」

「ナニ言ってんだい。奥さんだって忙しい身だろうが。店番に調理、経理に子供の相手、おまけにアンタの世話までね。愛想尽かされて出て行かれる前に、しっかりと感謝の意を示しときなよ」

「うっ……。わ、わかりました……。はぁ~あ、でも残念だなぁ……。むさ苦しい男じゃなくて、追いかけっこで揺れる狗巫女ちゃんのオッパイが見たかったのになぁ……。あ!も、もちろん君にも期待してるよ。たださぁ、君も男ならわかってもらえると思うけど、どうせ見るなら男の汗と荒い息より、美女の甘露と吐息のほうがいいでしょ?ちょ、ちょっと、冗談だってリルちゃん!そんな怖い目で見ないでよ!?」


 あまりにアホらしい理由に、ガクリと来た。

 だが、同時にこの商店街に来てからの、どこか温かい雰囲気の理由がわかった気がする。

 フェンリルさんや狗巫女さん、それに猫と呼ばれるアヤカシが、この商店街でどれだけの関係を築いているのかはわからない。

 ただ、人とかアヤカシとか、まして初めて見る俺に対しても何ら差別的な視線を見せない主人の態度こそが、ここでの皆の関係を物語っているのだろう。

 まあ、ここまで清々しいほどスケベなのはどうかと思うが……。

 

「フン!相変わらずだね。依頼料のほかにも、セクハラ被害の慰謝料をふんだくってやってもいいんだよ。なんだったら、鬼龍院グループの顧問弁護団を総動員して追い込んでやろうかい?食い逃げなんて可愛いモンだって思えるくらいの賠償金にはなるだろうさ」

「じょ、冗談だよリルちゃん!勘弁してよ。狗巫女ちゃんの旦那を出してくるのは反則だよぉ」

「ハッ!まあ、依頼料に色ぉ付けてくれりゃ勘弁してやるよ」

「うっ……。とは言っても、依頼料は皆から集めたので全部だし……。う、ウチのコロッケじゃダメかな?」

「ハン!そいつで勘弁してやるよ。緋光子もここのコロッケはお気に入りだしね。ついでにメンチカツも付けな!」

「ええ!?で、でも……。うぅ……、わかりました……」

「交渉成立だね!さて、ヤツは毎日のように現れるんだろ?無駄話もなんだし、とっとと終わらせるよ!」

「よ、よろしくね……。あぁ……、母ちゃんに何て言って誤魔化そう……」


☆ ☆ ☆


「ほら、さっさと追い詰めな!商店街の見取り図は頭に叩き込んだはずだろ?袋小路に追い込むんだよ!外へ出すと厄介だ。逃がすんじゃないよ、いいね!」

「はっ、はい!」


 それから1時間ばかり経った頃だろうか。話は冒頭へと遡り、俺は逃げ回る貉を懸命に追いかけていた。

 

 様々なモノへと化けるというアヤカシを、いったいどうやって見つけるのか。だが、そんなことは杞憂に過ぎなかった。

 

「フェンリルさん?」

 

 商店街を歩き回っていたフェンリルさんは不意に立ち止まると、パン屋の店先に立つお婆さんを凝視したまま、ヒクヒクと鼻を動かし始めたのだ。


「フェンリルさん?あのお婆さんが何か?」

「フン!どうやら決まりのようだね」

「え!?てことは、あの人が?でも、どこからどう見たって人間にしか……」

「だからだよ。まるでそんなことをしそうにないヤツに化けるからこそ、今まで捕まらずにのうのうと過ごしてきたんじゃないか。その程度には知恵のあるヤツだって教えたろ。ちゃんと話を聞いてたのかい?」


 もちろんフェンリルさんの話は聞いていたつもりだ。だが、商品棚の前でパンを物色するその姿はどこからどう見ても人間だし、食い逃げなどしそうにない、品のよい老婦人にしか見えない。

 いや、だからこそ普通の人が、何度もあっさりと騙されるというべきか。

 しかしながら、あの人が本当にアヤカシなのか……。断言されたとはいえ、いまいち信じることができない。

 

「それに言ったろ?アタシらの鼻を舐めるんじゃないって。この姿でだって、あいつの正体を暴くくらい朝飯前さ。それよりも……、いいかい?行くよ」

「はっ……、はい!」


☆ ☆ ☆


「いらっしゃい。うちの店は初めてですか?どうですウチのパンは。どれも美味しそうでしょう?」

「ええ、本当に。ぜひ孫のお土産に買って帰りたいわ。おすすめの物をいくつか包んでくださるかしら」

「まいどっ!それじゃあ、お孫さんのためにも大サービスだ。焼き立ての物を用意させてもらいますよ」

「ありがとう、きっと孫も喜ぶわ」


 店主らしき男性とにこやかに話す姿は、どう見ても孫想いの優しい老人だ。やはり、フェンリルさんの感違いなんじゃ……。


「やあ婆さん。このパン屋のおすすめはどれだい?」

「そうねえ。おすすめは自家製ピザって言ってるけど、私としてはカレーパンね。外はカリっとしながらも中はシットリ。それに素朴ながら甘さと辛さのバランスが絶妙で、とってもいい感じだと思うんだけどねえ。ああご主人、カレーパンもお願いできるかしら」

「そうかいそうかい、カレーパンねぇ……。たしかにアレはなかなかのモンだね。ククッ、アハハハ!」


 不意にフェンリルさんに声をかけられた老婦人はやや驚いた様子であったが、にこやかな笑みを崩すことなく、おすすめのパンの説明をしてくれる。だが……。

 

「「え!?」」


 俺と店主からは、同時に声が漏れる。

 

「あら、なにが可笑しいのお嬢さん?それにご主人まで。いったいどうしたのかしら?」

「クックックッ。残念だったね。アンタご自慢の自家製石窯のピザより、安っぽいカレーパンのほうが美味いんだとさ」

「うっ……。で、でもリルちゃん。人の好みはそれぞれだし……。ウチのカレーパンだって、自家製カレーを使ってて評判はいいんだから!……って、そんなことよりこのお客さん……」

「あの……、ご主人もお嬢さんも、いったいなんですの?」


 老婦人……、いや、貉は自分の犯したミスに未だに気づいていないようだ。と言うより、フェンリルさんが声をかけるタイミングが絶妙で、あまりに自然体だったというべきか。


「ハッ!墓穴を掘ったね。アンタ、この店は初めて来たんじゃなかったのかい?」

「えっ!?いっ、いえ、その……、か、勘違いよ。隣町のお店と間違えて……」

「この期に及んで見苦しいねぇ。それにこの臭い……。確かに10年前に嗅いだ臭いだよ。性懲りもなくまたやってくるとはね。フン、しょせん獣だけに、そんな昔のことは覚えちゃいないか」

「な、なんですかあなた。いったい何を……?」


 だが、フェンリルさんを見る老婦人の顔が、徐々に青くなっていく。

 

「まっ、まさかお前……」

「フン、その小さな脳ミソ振り絞って思い出したかい?あの後、どこぞの山奥に放されたって聞いてたんだけどねぇ。ったく『成田(なりた)』のヤツ、手ぇ抜いてその辺の裏山に捨ててきたんじゃないだろうね?それともナニかい?ココの食い物の味が忘れられず、遠路はるばる性懲りもなく戻ってきたのかい?」

「うげぇっ!あっ、あの時の人狼!?ヤベぇッ!!」


 品の良い老婦人からは、まるで似つかわしくない下品なセリフが聞こえてくる。そして……。

 『ボフン!』という何かが爆ぜたような音とともに、辺りに煙のようなものが舞い上がる。

 

「ハッ!出やがったね。逃がすんじゃないよ!」

「はっ、はい!」


 そして俺は、老婦人の変わり果てた姿となったその狸のような鼬のような、珍妙な生き物との鬼ごっこを開始したのだった。

 

☆ ☆ ☆


「いつまでゴミバケツと遊んでるんだい!アンタの役目はそいつを追い込むことだろ!もう忘れたのかい?」

「す、すみません!」


 慌てて立ち上がり、貉を追いかけようとする。だが、このまま追いかけても進展があるように思えない。

 

「待てよ……」


 不意に、フェンリルさんの言葉を思い出す。アヤカシと対峙するには、そいつの特徴を知り頭を使うことが重要だ。ならば貉には、どう対処すればいいのか。

 聞いたところによれば、せいぜいがいろんなモノに化けて、悪戯程度の悪さをするアヤカシらしい。能力は変わらず、天狗に化けたところで空を飛べるでもなし、鬼に化けたところで怪力を得られるわけでもない。

 もちろん単純な力比べで俺が負けるわけはないが、追いかけっことなるとその小ささ、素早さという点で相性が悪い。せめて大きくなってくれれば動きも鈍くなるうえに捕まえる部分も増え、圧倒的に有利な状況を作れるのだが……。

 待てよ?大きくなれば……?

 そこで俺はあることを閃く。こいつは良くも悪くも、人の言葉を理解し物を考える能力がある。ならば……。

 

☆ ☆ ☆

 

 その後しばらく追いかけっこが続き、俺はようやく貉を路地裏に追い詰めることができた。

 しかし、思っていた場所とは違ううえに、出口は広く条件は悪い。たとえフェンリルさんといえど、この広さでは逃がしてしまうかもしれない。かと言ってこのまま飛び掛かっても、先ほどのように脇をすり抜け逃げられてしまうだろう。

 だが俺だって学習するし、貉以上に頭をフル回転させてるんだ。ジリジリと貉を追い詰めながら、フェンリルさんに向かいわざとらしく叫ぶ。

 

「任せてください、今回はすぐに捕まえて見せますから。前みたいな情けない失敗はしませんよ。俺よりもデカくて力があるってんならともかく、こんなチビ相手に怖がるわけないですし、負けるわけないですよ!」

「ハァ?前って……。アンタ、ナニ言って……」


 だが、そこまで言ってフェンリルさんは何かに気付いたようだ。

 

「フン!アンタが怖いのは、自分よりデカい化け物だけだって言ってたしね。この前だって、一つ目入道を目の前にして慌てて逃げ出してたし……。ったく、情けないったらありゃしないよ。ま、今回はそんなチビならひと捻りだろうけどね」


 その言葉に、目の前の貉はピクリと反応する。そして……。

 再び白煙が舞い上がった後に現れたのは、身の丈2メートルを超えるであろう和装の一つ目入道だった。


「グオォォォォっ!このチビ鬼めぇぇぇ、喰ってやるぞおぉぉぉぉっっ!!」


 一つ目入道に化けた貉は、恐ろし気な声をあげながら両手を挙げて俺に向かってくる。

 今の会話から、恐怖に駆られた俺が一目散に逃げ出すとの計算だろう。そしてその隙に、貉に戻り素早く逃げて行くはずだ。

 だが、俺の取った行動は計算外だっただろう。

 

「え?」


 逃げるどころか真っ直ぐ自分に向かってきた俺に、貉は思わず素の声をあげる。だが、勢いよく走ってきた巨体は急には止まれない。

 

「え?え……!?」


 貉からすれば、目の前から不意に俺の姿が消えたように見えただろう。

 その時には、俺はすでに地面に背をつけ貉の真下に潜り込んでいた。もちろん掴みやすいことこのうえない、着物の袖と胸元をガッチリと掴んで。

 そして、腹に足の裏を当てて、相手の勢いを利用して勢いよく後方へと投げ飛ばす。


「え?え?えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!?」


 貉が最後に見たのは、地面に寝転がる俺と、世界が回転した直後に見えた青い空だろう。そして……。

 

 地響きが鳴り、再び白煙が吹き上がる。

 

「一本っ!ハッ、見事な巴投げじゃないかい!」

「おおおっ!やるねぇ!!」

「いいわねえ。うちの娘の婿に欲しいくらいだわ。まだ4っつだけどね。どう?将来魚屋を継ぐ気はない?」

「う~ん!ウチのスケベ旦那より断然カッコいいじゃないかい。惚れたよ!」

「ちょ、ちょっと母ちゃん!?冗談だよね?お。俺だってやるときは……」


 周りから聞こえる拍手の渦の中、地面には口から泡を吹きながらピクピクと痙攣する貉の姿があった。

同じ作者のいろんな作品が、1つの世界で繋がっていく……。個人的には、『天地無用』シリーズで有名な梶島正樹さんのような作品が作れれば……などと思いますが、残念ながあそこまで壮大なスケールの物語など思いつけもしませんし、足元にも及びません。まあ、ほんのちょっぴり真似事をして、自己満足に浸る程度です。

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