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25 鬼ノ元秘密子の溜息

「相変わらず殺風景な部屋ねぇ。せっかくの個室なんだから、もう少しお洒落にしなきゃ。男の子が見たらがっかりするわよ」

「べっ、べつにいいでしょ!誰かを招くわけでもないし、服は制服と施設で過ごすもので事足りるし。それに、本以外に特に欲しい物だってないんだから……」

「まったく……。アンタの趣味にとやかく言うつもりはないけどね。でも、アンタはそこらの人間なんかよりずっと可愛いんだから、服やお化粧に気を遣えばもっと見違えるわよ。告白される回数だって、今の比じゃなくなるだろうしね」


 苦笑交じりで部屋を見渡すのは、今年大学生になった、雪女の雪姫だ。

 その名のごとく雪のように真っ白で美しい髪は、これまた美しく整えられた眉の上で真っ直ぐに切り揃えられ、後ろ髪は腰の辺りまで伸びている。そしてそれは少しばかり古風な名前のとおり、人形のごとく和風な雰囲気を醸し出している。

 深紅に染まる瞳は人でないことをうかがわせるものだが、それさえも白い髪との対比で、宝石のごとく美しいコントラストを生み出している。

 さらには、あの女ほどじゃないにしても立派な胸を持っているし、肌の露出度は高い。おまけに雪女の特性なのか、髪と同じく肌も透けるように真っ白だ。

 その肌のおかげか、薄化粧のはずなのに口元はまるで深紅の口紅を塗っているかのように見える。少しばかり垂れて笑っているような目元も、そこはかとなくセクシーだ。

 女の私がそう感じるくらいだから、男の人はもっとそう思うんだろう。

 実際、施設に住む男の子たちのほとんどは、雪姉に何かしらの特別な感情を持っているようだ。実際鬼一だって、雪姉と話をする時はなんとなく浮ついた気配を漂わせている。

 だが、雪姉は施設内での恋愛はご法度ととでも思っているのか、恋人は全て外の人間だった。

 もちろん全てを知ってるわけじゃないけど、あれだけ派手に朝帰りをされ、都度違う男と違う車で送り迎えされていれば、嫌でもわかる。

 

「いいの!別に男の子とかお洒落とか興味ないし、そんなにお小遣いだってあるわけじゃないんだから」


 正直に言えば、私は雪姉が少し苦手だ。もちろん悪い人じゃないし、意地悪をされたことだってない。当然だが、鬼一が浮ついた態度を見せるのが腹立たしい……わけでもない……はずだ……。

 ならばなぜ……。

 はっきりと言ってしまえば、雪姉は私の子供じみた夢をことごとく壊してくれるのだ。

 もちろんそれは私の狭量で一方的な感情であり、雪姉のせいじゃない。

 私の思い描く恋っていうのは、私の好きな小説のように、もっとロマンティックで繊細で、少しずつ愛を育んでいくようなものだ。

 けれど、雪姉のそれはそうじゃない。もっとあけすけで、感情に正直で、言ってしまえば欲望に忠実なものだ。

 いや、生物としての本能から考えれば、究極はそういうことになるのだろう。

 人だって獣だって、私たちだって変わらず、最後は体を重ねることで愛を確かめ合うのだろうから……。

 瞬間、街で二人から逃げ出してきたことを思い出す。もしかしたら、今頃あの二人も……。

 考えると体が熱くなるが、それを振り払うように雪姉に声をかける。

 

「そっ、それよりどうしたの?雪姉が僕の部屋に来るなんて、珍しいこともあるもんだね」


 そんな私の態度に何か感づいたのか、雪姉は薄く笑う。こういう見透かしたようなところも、少しばかり苦手なところだ。

 いや、違うな。きっと私は羨ましいんだと思う。自分の欲望に、素直になれるこの人が……。

 私に雪姉や、街で見たあの女のような容姿があれば、もっと自信を持って自分をさらけ出せたのだろうか?そうしたら、鬼一との関係だって今頃は……。

 さっきはああ言ったけれど、私は学校でもけっこうモテるし、容姿だってそれほど気を遣っているつもりはないが、まあまあ可愛い部類らしい。

 自分ではそんなに意識しているつもりはないが、中学でもけっこう言われていたし、よく知らない男の子からも何度か告白された。

 調子に乗るわけじゃないが、そんなことが続けば漠然とだが、まあそうなのかなとは思う。

 でも、やっぱり私は堂々と自分をひけらかせるとは思えない。

 それは周りと比べて少しばかり遅い体の成長具合とか、本当は人見知りする性格だからとかじゃなくて、私の中にはどうしようもなく『鬼』の血が流れているからで……。

 その点、雪姉は一貫している。たとえアヤカシであろうが、自分は一人の女だっていうのを貫いている。私にとってはその強さが余計にまぶしく、羨ましく、妬ましいんだと思う。

 それ以上見回したって、面白いものもないとわかったのだろう。雪姉はこちらに向き直る。

 

「んー……、そうね。最近のアンタの態度はともかく、今日はおチビちゃんたちがいつにも増して怖がってたからねぇ。ちょっと気になったの」

「う……」


 痛いところを衝かれ、反論することもできない。

 確かに、帰ってきたときの私は荒れていた。

 もちろんあの子たちにそんな態度を取ったつもりはなかったけど、やっぱり何かを察知していたようだ。最近は皆が声をかけてくることも減っていたし、さすがにマズかったか……。

 

「それは……。反省してるよ……」

「そう思うんなら、少しばかり嫌なことがあってもいつもどおりに接してあげなさい。あのくらいの歳の子は、大人の態度や感情に敏感なのよ。もちろんまだ子供のアンタにそこまでの重荷を背負わせるつもりはないけど、あの子たちから見ればアンタは十分に大人なの。母親になれとは言わないけど、せめてお姉ちゃんとしての余裕は見せてあげなさい」

「う……、はい……」


 雪姉は普段から子どもたちの面倒を見ているわけではないし、好き勝手に遊び歩いていることのほうが多い。


『偉そうなことを言って、自分はどうなのさ!』


 そう叫べば、雪姉は反論できないかもしれない。

 けれど、今さらながらこの人が私たちの前で不機嫌な態度でいたり、感情を荒げたりしたのを見たことがないのに気付く。

 なんだかんだ言っても、やはり年上の……、()としての自覚はあるのだろう。そう思えば、小さな子の前で不機嫌さを見せてしまうなど、私もまだまだ子供だったと素直に反省する。

 

「それで?何をそんなに荒れてたの?」

「それは……」


 誰かに聞いてほしい気もするが、私の鬼一への気持ちが知られるのは嫌だ。

 だって、私自身これが本当にそういう気持ちなのか、家族……、弟に対する愛情のようなものなのか、よくわかっていないからだ。

 でも、仕方ないじゃないか。私たちは、本当の家族の愛情ってものを知らないんだから……。

 もちろん施設の先生方や、周りの仲間たちは親切だしいい人だ。

 でも、本当に血のつながった家族の愛情を知る子なんて、この施設にはいるはずがないのだから……。

 雪姉の男の人への愛情だって、本物の愛かもしれないけど、快楽を求めるだけの刹那的なものかもしれない。もしかしたら、捨てられた心の隙間を埋めるための行為なのかも……。

 

「ま、アンタのことだから、どうせ鬼一のことか」

「なっ……!?なんでそれを……」


 言った後にしまったと思ったが、時すでに遅し。雪姉は垂れた目じりをさらに下げ、悪戯っぽくニッコリとほほ笑む。

 

「フフ……。アタシを舐めてもらっちゃ困るわ。さすがにアンタの態度見てりゃバレバレよ。自称『恋愛マスター』の珠魅は惜しいとこまできてるんだけど、さすがに年齢と経験が足りなすぎるわね。もっとも、あの齢で経験があってもそれはそれで困るけど。あら?どうしたの?ホメてくれてもいいのよ」

「…………」


 まあ、珠魅が深いところまで気付いてないのは当たり前としても、本物の『恋愛マスター』の目は誤魔化せなかったってことか……。

 正直黙っていたほうがいい気もするが、それ以上に誰かに聞いて欲しい、慰めでもいいから優しい言葉を聞きたい気もする。

 諦めた私は、すがるように口を開く。

 

「あ、あのね……。絶対に誰にも言わないって……、約束してくれる?」

みんなのお姉さん?雪女の雪姫登場。メインキャラになる予定は、今のところありません……。鬼娘の葛藤は、もう少しだけ続きます。

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