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22 龍虎相討つ! 宿命の対決? 秘密子VS那澄菜 ラウンド2

「フン……」

「お、おい……!」


 悪態を吐きながら現れた那澄菜は、掲示板を一瞥すると当然のことだと言わんばかりに、何事もなかったかのように去って行こうとする。

 だが、俺は無意識のうちに那澄菜の肩を掴んでいた。少しばかり力が入ってしまったのか、那澄菜はわずかに痛そうに顔を歪める。


「あ……、わ、悪りぃ。けど、この1位の円城那澄菜って……、冗談だろ?」


 その途端すごい目で睨まれ、さすがに失礼なことを言ったと後悔する。

 だが、冷静に考えればおかしなことではないのかもしれない。そういえば華澄さんも言ってたっけ。那澄菜は真面目で成績も優秀だったと。

 家族を守るためにこんなカッコをしだしたとはいえ、根っこの部分は変わっていないんだろう。なんというか、不器用な那澄菜らしい。そう思えば、なんだかこの態度も照れ隠しみたいで微笑ましい。

 

「フン、どうせ鬼一も馬鹿にしてたんだろ?オレはいかにも頭が悪そうだって」

「そ、そんなわけないだろ!昔のお前は真面目で、それに成績だって良かったんだろ?小学校の頃の写真とか、マジでお姫様みたいだったじゃねえか」


 その瞬間、那澄菜の顔が瞬間湯沸かし器のように沸騰し、真っ赤になる。


「ててっ、テメエ!ま、まさかオレの昔の写真を見たんじゃ……。だだ、誰が!?まさか澄麗姉……。いや、写真を持ってるとすりゃあ……、ママか!」


 興奮する那澄菜に、俺はしどろもどろで言い訳をする。まあ、あっさりと華澄さんを売っても良かったんだが、親子がギクシャクするのもあまり見たくない。

 もっとも、円城家がギクシャクしたって、ほんの一時的なものだろうけど。


「ほほぅ。誰かと思えば、鬼一の居候先の娘さんじゃないですか。いや、ウチの(・・・)鬼一が迷惑をかけてすみませんね。ああ、この図体のデカい無駄飯食らい、ご迷惑ならいつでも追い出してくれて構いませんよ。うちの施設で預かりますから」


 そんな時、秘密子がどことなく棘のある、不機嫌な声で割って入ってくる。

 

「…………。なんだお前?ああ、鬼一の幼馴染とかいうヤツだっけ?フン。たしかにデケぇ図体して邪魔だし、持って帰ってくれりゃありがたいな」


 それを受け、那澄菜も不機嫌に輪をかけた態度で反撃する。

 

「ふ~ん……。べつにこんな男を預かりたいわけじゃないけど、随分失礼な物言いじゃないかい?」

「なんだお前。こいつを馬鹿にされて怒ったってか?フン、もしかしてこのスケベヤローに気でもあんのか?」

「んなっ……!?フ、フフン。まさかね。けど、このセクハラ男がそちらの家族に迷惑をかけているのなら、幼馴染として謝らないとと思ってね」


 なんだろう。俺をけなすような、それでいて心配しているような秘密子の態度も矛盾しているし、どことなく二人の間にピリピリとした空気が流れている。

 

「ああ、コイツがどう呼ばれようと構わねえが、そのセクハラ男ってのは、言い得て妙だな」


 瞬間、秘密子のこめかみにピキリと青筋が浮かぶ。

 

「おやおや、付き合いの浅い割には、随分と知った風な口をきくじゃないか。君が鬼一の何を知っていると言うんだい?そもそも下等な……、おっと失礼。普通の人間ごときが、アヤカシである僕らに関わらないほうがいいと思うがね」


 その言葉を聞き、那澄菜の眉もいっそう吊り上がる。

 

「ケッ!べつに関わりたかぁないが、そこの上等な鬼一サマは、下等なはずのうちの家族に随分とご執心のようだからなぁ。オレとしちゃあ、家族を守る義務もあるんだよ」

「ハッ!鬼一がご執心だって?そんなの下等な人間風情に、憐れみをくれているだけじゃないのかい?」

「フン!どうだかな……」


 なんだかただならぬ雰囲気に、さすがに俺もヤバいと感じてきた。

 

「お、おい。二人とも落ち着けよ。秘密子もさすがに失礼だろ!だいたい人間が下等とか、ホントにそんなこと思っちゃいないだろ?」

「フン……。それについては言い過ぎたよ。売り言葉に買い言葉ってやつさ」

「ほらな。だから那澄菜もそんなに怒らなくてもよ……。そ、それに、そもそも二人の成績がすげーなって話で、いがみ合うようなことじゃねえだろ?ほら、亮太もそう思う……、え……?」


 助け舟を求め横を向いた俺は、そこに誰もいないことを知る。あれ?さっきまで俺の隣には、間違いなく亮太がいたはずだよな?

 その時になって俺は悟る。アイツは男同士の喧嘩だとか、弱者を守る正義のための闘いなら、躊躇なく危険な状況にも割って入れるヤツだ。

 那澄菜がチンピラに絡まれていた時だって、もしも亮太がその場にいたのなら、ウダウダしていた俺と違い、目撃した瞬間に飛び出していただろう。

 だが、これは理由のよくわからない女の闘い。アイツのもっとも苦手とする分野だ。つまりは……。

 

「あんのヤロー、逃げやがったなぁ!!」


 そう、わけのわからない女の戦いに巻き込まれる前に、危険を察知して逃げ出したのだ。ちくしょう!せめてもの腹いせに、秘密子にマイナスポイントを吹き込んでおいてやるから覚悟しとけよ!

 だが、今はそれどころじゃない。

 

「な、なあ、落ち着けよ。そもそも俺のことが原因で喧嘩っておかしいだろ?それに、たかだか高校のテストじゃねえか。二人とも頑張ったんだし、1位と2位なんてすげえじゃねえか。ほ、ほら。俺なんかなんの取柄もなくど真ん中で……」


「「鬼一は黙ってろ!!」」


 なぜか息の合った二人に睨まれ、俺は沈黙する。

 

「フン!テメエがオレの家族をどう呼ぼうがいいさ。けど、鬼一はその人間相手にナニをしてんだろうなぁ?」


 那澄菜のもったいぶった挑発に、秘密子は釣られて興味を持ったようだ。


「なにが言いてえんだよ……」


 というか、若干だが秘密子の地が出ている。周りに人がいる中で、これはさすがにマズイんじゃねえのか?

 

「フッ……。その下等なはずの人間に、鬼一は随分と甘えてるようだなあ。この間なんてうちの母親のベッドで、朝まで抱き合って一緒に寝てたしなぁ」

「んなっ……!」

「お、おい那澄菜!あ、あれは……」


 だが、俺の言い訳は人を射殺しそうな秘密子の目で封殺される。それを見て、那澄菜は唇の端を吊り上げニューっと笑う。それは、どこかで見た笑い方だ。

 いや、思い出すまでもない。それは円城家独特の、人に悪戯する時の笑い方だ。御多分に漏れず、那澄菜もやはり華澄さんの血を引いているってことだ。つまり、この後に訪れるのは……。

 猛烈に嫌な予感がするが、時すでに遅し。

 

「ああ、姉貴にはこないだ会ったんだっけか?お前もデート中に野暮だよなぁ。フフッ、鬼一は姉貴から口移しで飯を食わせてもらうのが大好きでなぁ。勢いあまって唇が触れるのを期待してるのかもな。ああ、ちなみにオレは、この前無理矢理お姫様抱っこされたっけな」

「なっ……!?だ、抱っこって、俺様だってまだ……。鬼一、テメェまさか……」

「ちょ、ちょっと待て!誤解だ!あれは……。おい那澄菜、お前いい加減に……」


 だが、そんなことで那澄菜が大人しくなるわけがない。さらに吊り上がった口元が、この後の絶望的な展開を予感させる。

 

「ああ、でも鬼一はそんなことするわりには、オレたちに興味がないんだよな」

「フ……、フフン。そうだろうさ!なにせ鬼一は、馬鹿が付くほどの朴念仁だからね」


 褒められているのか、それともけなされているのか。よくわからない秘密子の評価である。ただ、那澄菜の言葉を聞いて今までの不機嫌さが和らいだのは確かだ。

 ホッとすると同時に、俺の名誉は守られた。そう思った矢先に、爆弾は投下された。

 

「そうだろうなぁ。なにせ鬼一は、そんな大人の女には興味ねえだろうからな」


 何気に放たれた言葉に、場が一気に凍り付く。

 

「おい、そりゃどういう意味だ!?俺様に何を隠してやがる。さっさと白状しろ!事と次第によっちゃあ……」


 もはや秘密子に、体裁を取り繕うという発想は抜け落ちていた。それは、俺のよく知る素の秘密子だ……。

 

「ああ?それがテメエの本性かよ。面白えな。けど、お前には酷な話かもな。なんせ鬼一は、小学生のオレの妹が大好きなんだからな」

「ちょ……、ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぃ!!」


 名誉のために、俺はあらん限りの声で叫ぶ。だが、叫んだあとで後悔する。しまった、今ので思いっきり周りの注目を集めてしまっている。

 

「フ、フン!やっぱテメエは鬼一を全くわかってねえ。こいつは昔からガキの面倒見はいいんだよ。なんでもかんでもそんなふうに持って行こうとするなんざ、こいつのことがわかってねえ証拠だ」


 だが、勝ち誇ったような秘密子に対しても、那澄菜の余裕の態度は崩れることはない。

 

「フッ、ご立派な態度だよ。テメエの信頼する鬼一ってのは、さぞ立派なヤツなんだろうなぁ。仮にも家族になった妹に毎日、『あ~ん』して飯を食わせてもらったり、その妹と一緒に風呂に入ったあげく、固くて太くて、たっ……、逞……しいモノを見せつけたり、あまつさえ、が……、合……体……してたりしてもなぁ!」

「おいぃぃぃぃぃっ!とんでもない誤解が生じてんぞ!つーか那澄菜!お前それ、美澄ちゃんの冗談だって知ってるだろ!?」

 

 そもそも、那澄菜も真っ赤になって恥ずかしそうに言うくらいなら、そんな嘘吐くんじゃねーよ!いや、全てが嘘とは言い切れないんだが……。

 だが、それは秘密子にはクリティカルヒットだったようだ。

 

「が、ががっ……!?き……鬼一……、まさか……。あの子たちとお風呂に入ってたのも、も……、もしかして目的は……?」

「まっ、待てよ、誤解だ!俺はなにもしてねえ!!それに風呂場でも、美澄ちゃんが勝手に体を押し付けてきたりしただけで、俺からは一切……、あ……」

「ほほう……。つまり、女子小学生と一緒に風呂に入り、体を密着させているのは事実だと……」

「そっ、それはその……」

「なんだと!?テテ……、テメェ!まさかホントに美澄とそういうことを……」

 

 ついつい発してしまった言葉に、俺は猛烈に後悔する。つーか、那澄菜が言い出したことだろうが。なに一緒になって怒ってんだよ!?

 

『え?なに?あのでっかいヤツって、ロリ……?』

『うそー。ちょっとカッコいいかもって思ってたのに……』

『うわ……、マジ?キモ……』

『でも、たしかに太くてデカいの持ってそうだよな。それを小学生にって……、マジかよ!?」

 

 周りからは、ヒソヒソと無情な声が聞こえてくる。冗談じゃないぞ、俺はロリコンじゃねえ!

 とりあえず泣きたくなる気持ちを必死に抑え、この場の収拾を図る。


「ごっ、誤解すんなよ、変なことはしてねえぞ!パパの温もりを知らない美澄ちゃんを突き放すのも可哀そうだしに、せめて父親代わりにと思ってだな……」


 ヤバい……。俺ちょっと涙声になってないか?


「ほう……。鬼一はご立派だな。けど、事実はどんなイヤらしい『パパ』っぷりなんだろうなぁ?」

「ばっ、馬鹿な事言ってんじゃ……」

「そもそも、鬼一はどっちの味方なんだよ!俺様か?それとも、あの巨乳の淫乱女たちか?」

「おっ、おい!それは言い過ぎだぞ!そもそも華澄さんはそんな人じゃ……」

「なら、鬼一は俺様の敵か?この金髪女の味方なのか!?」

 

 ダメだ。言いながら俺は、秘密子の人を射殺しそうな目を見て悟る。こうなった秘密子は、他人の言葉なんぞ聞きやしない。それどころか、本性を剥き出しにしようとしている。

 けれどダメだ。周りには、二人の喧嘩を面白そうに見ている連中がいる。ここでそれを見せたら、お前が今日まで築いてきた秘密子という虚像が崩れてしまう。

 そもそも、何がお前をそんなに激高させたんだ?那澄菜の挑発なんて、普段のお前からすれば、軽くあしらえる程度のもんだろう?

 いっそのこと、無理矢理にでも秘密子を押さえつけて……。

 正直、良くない考えが頭をよぎる。だが、そんな杞憂を救ったのは、意外な人物だった。

 

「フッ、点数から見るに、テメエが間違えたのは現国の5問目だろうな。ククク、いるんだよな。あの手の問題の、出題意図が理解できないヤツが」

「なっ……。そんなものは、当然理解しているにきまってるだろう。フ、フン!そもそも、あれは問題に欠陥があるのさ。作者の気持ち?そんなのは、出題者の意図か、そこに至るロジックってのは十分に理解してるさ。けど、そんなものは出題者の思考次第でいくらでも変えられるじゃないか!」

「ケッ!わかってんじゃねえかよ。けど、テメエは出題者の意図を読む勝負に負けたってことだ。それがオレとの違いなんだよ」

「くっ……。あ、ああいうどうとでも解釈できる問題なんて、完成された問題じゃない!完璧に答えが出ている、数学や化学なら……」

「けど、オレとテメエの境界を分けたのはその問題だよなぁ」

「ぐっ……。そ、そもそも、アレは出題の文章にあいまいな点が……!」

「おやおや。テメエの読解力の無さを、問題のせいにするとはな」


 いつの間にか、二人の論争はテストの解答への問題提起となっていた。そして俺は気付く。これはひょっとして、那澄菜が意図的に導いたものではないかと。

 さらには、意外なことを思う。

 いかにもな恰好をしている那澄菜は、当然のごとくクラス……、いや、学校でも浮いている。それは華澄さんが心配したとおりだ。入学してから数か月の間、異性はおろか、同性とすら親しく話しているのを見たことがない。

 片や秘密子は鬼とはいえ、その可愛らしい容姿や人当たりの良さから男女問わず人気がある。だが……。

 その秘密子の人気も、本人の努力により作り上げたものだ。人当たりが良く、誰にでも愛想がいい。けれどそれは、上っ面だけだ。本当の秘密子は繊細で、わがままで、人見知りも激しい内向的な性格だ。

 それゆえガキの頃からずっと一緒に過ごしてきたが、俺にとっての亮太のような存在は見たことがない。

 学校が終わってからも一緒に過ごすような友人はなく、たいていは施設で本を読んでいるか、仲間やチビどもと過ごしていた。まして激高して本性を見せる相手など、俺以外に見たことがない。そしてそれは、本人の中で知らないうちにストレスとなって溜まっていたのだろう。


「ああ、そうか……」

 

 目の前で言い争う二人をあらためて見る。

 淑女の皮をかぶった暴君(ひみこ)と、不良の皮をかぶった優等生(なずな)

 水と油のようで、実はよく似た存在ではないのか。

 普通ならば女子同士お洒落とか恋愛とか、流行りの食べ物とか、そんな話題で盛り上がる年頃だ。それは特進クラスとてさほど変わることはないだろう。

 だが、二人は目の前で喧嘩しながらもどこか楽しそうに、ほかの生徒とは語り合えないであろう話題で言い争っている。

 そう思うと、自然と笑みが浮かんでくる。

 

「テメエ!なに笑ってんだよ!」

「そっ、そうだ!ニヤニヤ笑って。そもそも鬼一はどっちの味方なんだよ!?もちろん僕だろうね!」


 そんな俺の表情が気に食わなかったのだろう。二人の矛先はこちらに向かう。

 

「落ち着けよ。なんだよ、お前ら二人とも趣味が合うんじゃねえか。それに、たかがテストのことで喧嘩するなんて、ガキみてえなことすんなよ」


 二人に幼稚なことで喧嘩をしていたとわからせ、この場はお終い。そう思っていたのだが……。

 

「だっ……誰のせいでこうなったと思ってんだぁ!このスケベヤロー!」

「鬼一が優柔不断だからだろうが!このセクハラ男がぁぁっ!」

「なっ、なんだよそれ!?そもそも俺は関係ねーだろ。落ち着けって!」

「「うっせーバカ鬼一!!」」


 二人の叫びがリンクしたかと思うと、乾いた音とともに俺の左右の頬に衝撃が走る。サンドウィッチで食らったそれは、一瞬俺の意識を途切れさせるに十分な衝撃だった。

 そして、遠くなる意識の中で思う。


『お前らやっぱ、似た者同士(めっちゃなかよし)じゃねえか!』……と。

次回はちょっと一休み。話は少し遡って、意外?なキャラクターに焦点が当たります。

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[気になる点] アカン、アカンよ二人とも、もう学校これねぇーよ鬼一くん
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