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21 龍虎相討つ! 宿命の対決? 秘密子VS那澄菜 ラウンド1

「はい、キーお兄ちゃん、『あ~ん』して」

「いいにゃ~、美澄ばっかりずるいにゃ~。たまにはお姉ちゃんだって、キーくんに口移しで食べさせてあげたいにゃ~」

「ダメだからね澄麗姉!キーお兄ちゃんのご飯は、美澄が食べさせてあげるんだから。そうだキーお兄ちゃん、後で一緒にお風呂に入ろうね」

「あら、いいわねぇ。たまにはママも一緒に入ろうかしら」

「なっ……、なに言ってんだよ!いいわけねえだろ!つーか、みんないい加減にしろよ、鬼一も困ってるじゃねえか。それにそんなに無防備にしてて、興奮したこいつに襲われても知らねえぞ」


 あれから数日が経ち、事件後は少しばかり元気がなかった那澄菜の態度も、すっかり元へと戻っていた。

 いや、元へというのは少し違うか。気のせいかもしれないが、少しだけ俺への態度が柔らかくなった気がする。まあ、『気がする』程度の変化なんだが。

 だが、運悪くというべきか、そんな那澄菜の微妙な変化にいち早く気付いた人物がいた。むしろ、気付いてはいけない人が気が付いたというべきか……。

 

「んふふ~、気になるにゃ~。気になるなったら気になるにゃ~」


 ニマニマと笑いながら俺と那澄菜を見る澄麗さんに、猛烈に嫌な予感がする。

 

「那澄菜とキーくんは、いつの間にそんなに仲良くなったのかにゃ~?」

「ブフぉッっ!!」

「うおっ!汚ねぇ!」


 瞬間、那澄菜が口に含んでいた味噌汁を勢いよく吹き出し、俺の顔にかかる。


「いやぁん。ブッカケなんて、だ・い・たぁ~ん。そうだよねぇ~。ブッカケなんて、よっぽど相手のことが好きじゃなきゃ受け入れられないよねぇ~」

「澄麗、いくらなんでも下品よ。さすがに私だってそういうプレイはねぇ……」

「ぶっかけってなぁに?おうどんのこと?」

「ん~……。美澄はまだ知らなくていいかにゃぁ」

「え~、ずるーい!みんなだけで楽しんで……」


 口を尖らせて拗ねる美澄ちゃんは可愛いが、さすがにその意味を知るのは少しばかり早い。というか、普通は男がぶっかけるほうだろ……。


「ゲホッ……。んな……、なに言ってんだ澄麗姉!オレがこいつなんかと、な、仲良くなってるわけねえだろ!ましてや、すす……、好き……とか……」

「そ~お?それにしては、キーくんに随分と気を遣ってあげてる気がするけど。さっきだって、おかわりをよそってあげてたしぃ」

「オ、オレがこんな変態に気ぃ遣うわけねえだろ!オレがおかわりしたついでだ、ついで!」

「そ、そうですよ澄麗さん。どう見たって、いつもの悪態吐いてる那澄菜じゃないですか。って、変態は余計だろ!」

「ほ、ほら見ろ!鬼一(・・)だってこう言ってんじゃねえか!」


 瞬間、澄麗さんの表情が鬼の首を取ったかのように勝ち誇ったものになる。もちろん、俺の首はしっかりとついてるけどな。

 

「あれあれぇ~?この前まで、お前とかテメェとか言ってたのに、いきなり『きいち』なんて名前で呼びだしたよぉ~。ヘンだよねぇ~」

 

 どこかで聞いたような、まるで中身は高校生だが見た目は少年探偵(CV:高山み〇み)のような口調でおどける澄麗さんのウザさに、若干の殺意を覚える。というか、無駄に似ているところが余計に腹立たしい。

 とはいえ、やはりさすがと言うべきだろうか。俺も少しばかり妙に思っていたことを、あっさりと気付いたようだ。何気に華澄さんも頷いているし……。

 だが、別に証拠があるわけじゃない。ここは那澄菜の踏ん張りどころ……。

 

「んにゃっ……、にゃに言ってんだ、しゅ、しゅみ……澄麗姉!オッ、オレが鬼一のことを鬼一なんて呼ぶわけが……。あ……」


 ダメだった……。那澄菜は顔を真っ赤にし、思いっきりアタフタしている。

 

「んふふ~。お姉ちゃんの見るところじゃ、二、三日前の那澄菜の様子がちょこっとヘンだった頃と思うんだけど……。図星かにゃ?」


 つーか、鋭すぎるだろ。確かにあの事件の直後は、那澄菜は微妙に元気がなかった……気がするが。


「う、うるせーよ!鬼一にはちょっと助けられただけで……、あ……!」


 態度どころか、あっさりとゲロっちまった……。例の探偵アニメなら、事件発生から3分で犯人が自白したようなもんだ。

 これでは幼児のママから男性キャラクターの腐った関係にご執心の大きなお嬢様まで、テレビ局に苦情殺到であろう。

 まあ、根は真面目な奴だし、腹芸を期待しても仕方ないか。それが那澄菜のいいところでもあるんだろうしな。


「なるほどなるほど、それでキーくんにほのかな恋心を……。くはぁ~っ!青春だねぇ」

「あらあら、素敵ねぇ。那澄菜も大人になったのね。でも……、キーちゃんがそういう意味での息子になっちゃうのは、ちょっと複雑よねぇ……」

「おやぁ?ママも参戦っすかぁ?ま、アタシはキーくんがパパになろうが弟になろうが、受け入れてあげるけどねん」

「え~。ママも那澄菜姉もずるい!美澄だってキーお兄ちゃん好きだもん!お兄ちゃんは、美澄の旦那さんになるんだから!」

「ちちち……、違うっつってんだろうがぁぁぁっ!」


 もはや周りが見えていないのだろう。那澄菜は真っ赤になって怒っている。つーか、俺の飯に唾が飛ぶからやめてくれ。


「い、いいか?確かにちょこっと……。ま、まあそれなりに恩はあるけど……。だからって好きになんかなるわけねえだろ!せいぜい、虫からペットに格上げになったくれえだよ!」


 わかってはいたが、俺の扱いはそんなもんかよ……。まあ、今までからすれば一応は格上げはされたようだし、とりあえずは良しとしておくか。


「いやぁん。キーくんをペットみたいに可愛がってるなんてぇ。那澄菜ったらエッチなんだからぁん」

「んなっ!そそ、そんなわけねえだろ!ペペ、ペットってそんな意味じゃ……」


 というか、なんで澄麗さんはこんなに那澄菜の扱いがうまいんだろうか。正直、コツを教えてほしいくらいだ。

 いや、やめといたほうがいいな。俺がやったら間違いなく、平手で引っ叩かれるくらいじゃすまないだろう。

 

「いいなー。美澄もキーお兄ちゃんみたいなペットが欲しいなぁ~。きっと可愛いよ。毎日ご飯食べさせてあげて、毎日お散歩に連れて行ってあげて、毎日一緒にお風呂に入って、毎日一緒のお布団で寝るの!うふふ……」


 うん……。美澄ちゃんの場合は、なぜか冗談とは思えない。

 本当に首輪と鎖を付けられている自分が想像できるし、美澄ちゃんの許可がなければ部屋から出してもらえないかもしれない。正直若干の恐怖を感じるからやめてほしい。

 

「んで?いったい何があったのかにゃ~」

 

 まあ、那澄菜の名誉のためにもお漏らし事件はしゃべるわけにはいかない。それに、無事だったとはいえ家族に心配をかけるのも嫌がるだろう。

 納得はしないだろうが、いろいろと誤魔化した挙句、結局最後は那澄菜がキレてうやむやとなる。

 そんなふうにして、相変わらずというかいつものごとく賑やかに、夜は更けて行くのだった。


☆ ☆ ☆

 

「いや~、さすが鬼ノ元さんだよなぁ、いきなり学年2位とは。まさに才色兼備、クラスの……、いや、学校の……、いやいや、人とアヤカシの懸け橋となるアイドル……、いやいやいや、女神ってとこだよな」

「フフン。僕としては1位でなかったのは不本意だけど、勝手のわからない高校最初のテストだったし、今回はこんなものだろうね」


 テスト週間が終わった数日後、掲示板に張り出された順位表を見て、秘密子にゴマをすっているのは脳筋バカ……じゃなくて亮太だ。

 成績だけでなくさりげなく容姿もホメているのは、こいつなりの懸命なアピールなんだろう。

 でも、女神は言い過ぎじゃねえか?

 さすがに悪魔とまでは言わねーが、たとえ神だとしたって、どっちかっつーと邪神だぞ?ヘタしたらドロップキックとかかましてきかねないぞ?まあ、お前にとっての女神には間違いないんだろうけど……。

 もっとも、褒められた秘密子もまんざらではなさそうだし、しっかり得点は稼いだんじゃないだろうか。


「それで鬼一は……。なんだ、見事に真ん中じゃないか。可もなく不可もない、つまらない成績だね」

「ほっとけよ。俺はお前と違ってごく普通の一般生徒なんだし、大学に行く気もねえんだよ。むしろ付け焼刃で合格して、おまけに真ん中の成績をキープしたことをホメてほしいな」

「おやおや、そんなことでいいのかい?この私立高は、特待生の僕はともかく、鬼一たちの授業料は馬鹿にならないはずだよ。授業料まで出してもらってる居候の身で、随分お気楽なことだね。こんなことなら施設に住んだまま、国の補助を受けて通った方がよかったんじゃないのかい?」

「ぐっ……。それについちゃあ少しは考えてるよ。バイトするとか……」

「フッ。柔道部の活動もあるのに随分余裕だね。それで部活とバイトに時間を取られて、さらに成績を下げるのかい?まさに本末転倒だね」

「…………」


 やっぱり、俺が施設を出て行ったことを少しばかり根に持っているようだ。ここぞとばかりに、チクチクと嫌味を言ってきやがる。

 おそらくだが、俺がいないことでチビどもの面倒を見る負担が増えたのを怒っているんだろう。

 たしかに負担を増やしたのは悪かったと思う。でも、週一で面倒を見に帰ってるんだし勘弁してほしい。

 

「そ、それよりさ、亮太はどうだったんだよ?」

「俺か?」


 話題を逸らそうとした俺の質問に、なぜか亮太は真っ直ぐに上空を見つめる。

 

「愚問だな。スポーツ推薦で入学した俺には柔道……、そして鬼一を倒すことこそが全て。学問に傾ける情熱は、全て武の道に注ぐ!」


 もっともらしく熱弁を振るう亮太だったが、その間に俺はあっさりと亮太の名前を見つけていた。なぜなら、下から見ていけばそれはすぐに発見することができたからだ。


「お前……。ブービーじゃねえかよ……」


 俺の言葉を気にせず高らかに笑う亮太に、俺は小声で告げる。

 

「そういやさ、秘密子って頭の良い奴が好きらしいんだよなぁ」

「うぐっ……。こ、今回は時間がなかったけど、俺はやるときはやる男だから。見ててください鬼ノ元さん。次回は先鋒から大将まで、一気にごぼう抜きしてやりますよ!」


 いや、先方から大将って、どう考えても5人だぞ。たかだか5人抜こうが、下から数えた方が圧倒的に早いだろ。しかも柔道で例えるなら、亮太の前にいる5人のヤツらは、全員補欠どころか白帯初心者レベルだと思うぞ。

 だが、あまり秘密子の印象を悪くしても可哀想だ。


「そういや、1位は誰なんだ。やっぱ特進クラスの奴なのか?」


 亮太の成績から話題を逸らすべく、さりげなく助け舟を出す。掲示板に向き直った秘密子を見て、亮太は『ありがたい』とでも言いたげに、俺に向かい両手を合わせる。だったら少しは勉強しろよ……。


「いや、こんな子はクラスにはいない。ん……?」


 訝しげに名前を見る秘密子につられ、俺も1位の名前を見る。

 

「え……?」

「鬼一。この名前って、もしかして……」


 秘密子の問いにも、俺は言葉を返せない。なぜなら……。


「チッ、相変わらずうるせーヤツらだな……。見終わったんならさっさとどけよ。デケー図体して邪魔なんだよ」


 悪態を吐きながらそこに現れたのは、燦然と1位に輝いている名前の主……。円城那澄菜だった。

控えようと思っても、ついつい入れてしまいます。はい、すみません。エッチなネタは大好きです。今回はさしたる起承転結も、ハラハラドキドキもありません。秘密子&那澄菜、短い話ですのでお気楽に読んでいただければ。

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