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2 俺の幼馴染がこんなに可愛いわけ……(以下自主規制) 秘密子

「やあ、鬼一(きいち)。さっきの進路希望の紙、結局どう書いたんだい?」


 昼休みに無駄にデカい体を無理矢理縮こませ、教室の隅の机で寝ていた俺に話しかけてきたのは『秘密子(ひみこ)』。俺のクラスメートで幼馴染であり、一緒に暮らしている女だ。

 こんな言い方をすると誤解が生じるだろうが、もちろん同棲とかそんなんじゃない。そもそも俺たちは中学生だし、そんな真似ができるはずもない。いや、それ以前に俺たちは、そんな関係ですらないのだ。

 

「べつに、『家』で話したとおりだ。どっか寮のある仕事を見つけて就職するよ。先生たちにも探してくれるようお願いしてるしな」


 そんな俺の返答を聞いた秘密子は、なぜか慌てたような反応をする。


「でっ、でもさ、もったいないと思わないのかい?鬼一は成績が悪いわけじゃないんだし、僕が特待生で狙ってる高校なら、今からでも頑張って勉強すればなんとかなるだろう?」

「そうかもしれないけど……。けど、やっぱり俺みたいなのは、人間社会じゃ歓迎されないだろ。それに、私立なんて学費も馬鹿にならないだろうし、男がいつまでも『施設』に居座るのもなんだかなって気もするしな」


『生物平等基本法』


 いつの頃かは知らないし、興味もない。授業で習ったはずだが、あまり真面目に聞いていた記憶はない。

 ただ、俺が生まれるよりも前に、世界中でそんな法律が制定された。

 その内容とは『人語を解しコミュニケーションを取れる者は全て、各国の法律の元に平等の権利と義務を有し、当然のごとく罪を犯せば法で裁かれる』というものであった。

 なぜそんなものが制定されたのか。それは、太古の昔より存在したと言われるモノたちが、ある日突然公の場で白日の下に晒されたから……らしい。

 妖怪、精霊、鬼、悪魔、幽霊、その他もろもろ……。とにかく、御伽噺や昔話、神話や寓話、伝説や伝承なんかの中に存在していた生き物たち、それが現実世界に存在すると公表されたのだ。

 詳しい経緯は知らないが、とにかく紆余曲折あった末に、自分たちのような存在にも『人権』というやつが付与された。

 そう、『自分たちのような存在』にもだ。つまりは、俺は人間ではない。

 

法眼(ほうげん) 鬼一(きいち)


 それが俺の名だ。むろん、生まれたときに付けられた名かどうかもわからない。おそらくだが、施設の職員が鬼にちなんだ伝説から、洒落で付けたのだろうとは思っている。

 親は死んだのか、それとも捨てられたのかも知らない。いずれにせよ、物心ついた時には、オレと同じように親のいないアヤカシたちが集められた施設にいた。

 ガキながらなんとなく状況を察していた俺も、先生たちに親のことを聞くこともなかった。大人びていたと言えばそれまでだが、まあ、可愛いガキではなかったと思う。

 ただ、俺にとってはその生活は当たり前のものだったし、たくさんの『きょうだい』たちに囲まれた暮らしはそれなりに楽しかった。

 だから別に世を拗ねて……、なんて感情もない。

 中学を出て働こうと思ったのだって、周りが皆そんな感じってだけで、特に苦痛を感じているわけでもない。

 

「けっ、けど、高校生活ってのは一生に一度なんだし、僕らみたいなのは国から優先的に学費の補助が出るじゃないか。慌てて施設を出なくても、もう少し考えてみてもさ……!」


 いつになく食い下がってくる秘密子は、きっと俺の心配をしてくれているのだろう。同じ施設で育った兄妹……、いや、こいつの中ではおそらく姉弟(・・)として、同じ種族である『鬼』として……。

 

「そういやさ、あの綺麗な女の人、また来てたよな。この前学校でも見かけたし、なんだろうな」


 そんな秘密子の気持ちを察し気恥ずかしくなった俺は、敢えて話題を逸らす。

 

「チッ、アイツか……」

 

 だが、その話題がお気に召さなかったのか、途端に秘密子からドス黒いオーラが発せられる。

 

「アイツのあの目、なーんか胡散臭ぇんだよなぁ。アイツの…を見る目、なんつーか、雌の目っつーのか……。もしも俺様……に、手ぇ出そうってんなら……」

「お、おい秘密子?おーい、秘密子さーん。何ブツブツ言ってんだよ。戻って来いよ。地が出てんぞ」

 

鬼ノ元(きのもと) 秘密子(ひみこ)


 ガキの頃から一緒に育った幼馴染で、俺と同じアヤカシ、『鬼』である。

 ただ、俺が190センチを超える身長に、自分で言うのもなんだが鋼のような筋肉を持っているのに対し、秘密子は150センチを超えるかどうかだし、体つきもクラスの女どもと変わらず華奢だ。

 それに、俺の髪は針金のように固く逆立っているが、秘密子の髪は赤みがかってはいるものの、猫のように細くサラサラだ。

 鬼の最大の特徴である角に関しても、俺の頭上には二本の立派な?隠しようのない角が生えているのに対し、秘密子は額に小さく可愛らしい一本角がちょこんと生えているだけである。

 肌だって色黒の俺と違い真っ白だし、さらには見た目だってクラス……、いや、おそらく学校でも一、二を争うほどの美少女だろう。

 帽子でもかぶって額部分を隠せば、人間と見分けがつかないはずだ。ただ、こいつが角を隠しているのを見たことがない。気にしていないのか、鬼としての誇りを持って、敢えて見せているのか。詳しく聞いたことはないが……。

 突然変異……。いや、もしかしたらクオーターとか、それ以上に鬼の血が薄まっているのかもしれない。もちろん、本当の所は本人ですらわからないのだが。

 そんな外見に加え、特待生を狙うという発言からもわかる通り、成績は常に学年トップクラス(本人の名誉のために、大きな声では言わぬが体育以外)。おまけに少しばかりミステリアスな僕っ娘てことで、スポーツマンから少しばかりマニアックな趣味を持つ奴らまで、男子からの人気は高い。

 強いて欠点を挙げれば、普通の女子中学生と変わらない体形が故の、慎ましやかな大きさの胸だろうか……。

 だが、施設の仲間でもごく少数、下手をしたら俺しか知らないのではないかというその本性は……、ここでは割愛しよう。

 

「おい鬼一。それに鬼ノ元さんも、何コソコソ話してんだよ」


 そのドス黒いオーラも、不意に横合いから聞こえてきた声で霧散する。

 

「別にコソコソなんてしてねえし、なんでもねえよ、亮太(りょうた)

「そっかぁ?なんか痔がどうとか聞こえてきたぜ。なんだ鬼一、お前痔になったのか?」

「んなわけあるかよ」

「だよなあ。お前からそんな話聞いたこともないし。ハッ!?てことは……、ま、まさか……」


 その瞬間、顔は笑っているにも関わらず、秘密子から再びドス黒いオーラが発せられる。

 

「赤神君?なぜ僕を見るんだい?まさかとは思うが、何かとんでもない誤解をしているんじゃないだろうね」

「いっ、いや、違うよ!そ、そんな意味で鬼ノ元さんを見たんじゃなくて……」

「当然だろう?僕のような美少女が、そんな病に罹るはずがない。まして、人間よりも遥かに丈夫な僕がね。たとえ万が一……、いや、億が一僕がそんな病に罹ったとしても、見て見ぬふりをするのが男の子ってものじゃないのかい?」

「もっ、もちろんだよ鬼ノ元さん。で、でも、たとえ本当にそうだったとしても、俺は鬼ノ元さんなら全てを受け止……、い、いや、何でもないです!じ、じゃあな鬼一、あとで部活でな!」


 慌てて走り去る亮太の後ろ姿を見て、俺はため息を吐く。

 

「はぁ……。俺のダチなんだし、良い奴なんだからあんまり虐めんなよ」

「べつに虐めてなどいないさ。失礼なことを思われた気がしたから、それとなく注意しただけだよ」

「いや、それがアイツにはこたえるんだっつーの。なんせ亮太は……」


 だが、俺は言いかけた言葉を飲み込む。本人のいないところでこんなことを言ってもフェアではないだろうし、アイツだってそんなことを望んでないだろうと思ったからだ。けっして幼馴染を取られるかもという、複雑な思いが浮かんだわけではない。

 

「なんだい?赤神君がどうしたって?」

「いや……、何でもない」


 まあ、こういったことに鈍感な俺が気付くくらいだ。もしかしたら秘密子は、とっくに亮太の気持ちに気付いているのかもしれない。

 だとしたら、亮太に脈はないのだろうか。

 ホッとするような気の毒に思うような。親友のことを思えば、それはそれで複雑な気分なのだが……。

 

「ま、こればっかりはアイツ次第だしな……。頑張れよ、亮太」

2話のタイトルは、言わずと知れた大ヒット某シスコンラノベから借用させていただきました。

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