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19 うちの不良娘がこんなに可愛いわけが……(再び以下自主規制) その2

「うおっ!な、なんだよオメー!?」

「こいつ……、鬼だぜ!?よ、妖怪が俺らになんの用だよ!」

「あの、すみません。そいつ、俺のツレなんです。とりあえず、その手を放してもらっていいですか」

「あぁ!?この女の……?」

 

 突然現れた、自分たちよりもはるかにデカい男……。なおかつ人外である俺に一瞬ひるんだ男たちだったが、下手に出る俺の態度を見た後に、探るようにお互いを見合う。

 

「おいおい、なんだよ。彼氏君のご登場かぁ!?」

「いえ、そういうわけじゃないんですが……」

「じゃあ引っ込んでな。彼女は俺たちと遊びに行きたいっつってんだよ。もっともテメーが彼氏だったとしても、俺たちと付き合う方がいいから別れたいんだとよ!そうだろ?」

「ち、ちが……」

「ほら、彼女もこう言ってるじゃねえか。邪魔すんじゃねえよ!女が欲しいんだったら、自分でナンパでもしろや!!」


 首を振る那澄菜を無視し、抱き寄せるように引き寄せるとその先を言わせまいと無理矢理に言葉を被せてくる。

 まあ、お互いを見合っていた目つきでわかってはいたが、見事なまでに予想どおりの答えである。

 こいつらは下手に出る俺を見た後に、脅せばなんとかなるか、万一抵抗してきたとしても、三人がかりでなら勝てるかどうかという品定めをしたのだろう。

 事実、二人の目線はこの中で一番喧嘩の強そうな、大柄な男を見ている。

 そいつの余裕を持った態度から、俺は恐れるに足らないと判断したのだろう。

 一人じゃ何もできないが、数が集まればどうにかなる。イキがったヤツらの考えそうなことだ。

 実際ガキの頃に、鬼ってだけでそんな絡まれ方をしたことが何度かあったからよくわかる。

 こういうヤツらにとっては自らが強くなることや、努力をすることは目的ではない。実際にはほとんど振るわない暴力をちらつかせ、相手に恐怖心を与え、自分の要求を通すことのみが目的なのだ。

 そう考えれば、俺に最初に絡んできたのが亮太だったのは幸運だったのかもしれない。あいつはまさに、『俺より強いヤツに会いに行く』を地で行ってるからな。

 恥ずかしくて面と向かって口に出したことはないが、俺が他人を……、人間を好きになれたのも、あいつのおかげだ。

 そう、あいつに出会わなければ、きっと今の俺はなかったはずだ。こうして、華澄さんの家でみんなと幸せに暮らすことも……。

 

「わかったろ?この女に気があんのかは知らねーが、オメーはフラれたんだよ。ほら、ガキはさっさと行っちまいな」

「そうそう。どーしても遊びたいって言うなら、俺たちの後にしな。もっともその頃にゃ、テメーじゃ満足できねーカラダになってるだろうがな。ま、ケツの穴までガバガバでもよきゃあ相手してもらえよ」

「ヒヒヒ、むしろ開発する手間が省けていいかもな。お手軽にアナルまで楽しめるようにしといてやるんだからよ。いろんなテクも仕込んどいてやっから、俺たちに感謝しろよ。ヒャハハハ」


 正直に言ってしまえば、俺だって怖いものは怖い。しかしながら、男の手が那澄菜の胸をまさぐるように動いているのを見た瞬間、俺の頭の中でプチリという音がするとともに、恐怖心が消え失せる。

 俺に人との繋がりを教えてくれた亮太には感謝している。だからその幸せを、俺の家族に害成し壊そうとするヤツは、許してはおけない!


「いえ、こいつは俺が連れて帰りますから。それに、さっさと行くのはアンタらの方だよ。いいからその汚ねぇ手を放せよ」

「はぁ……!?テッ……、テメェ!ガキがチョーシこくなよ!!」


 大男の化け物のくせに気が弱い……。そう踏んでいた男たちは、言いなりにならない俺に激高したのだろう。そのうちの一人が、拳を固めて殴りかかってくる。

 おそらくは、そいつがリーダー格なのだろう。

 俺よりは小さいとはいえ、180センチを超えるであろう身長に、肥満体ではあるが体格はいい。体重だけなら俺より上かもしれないし、腕力には自信があるのだろう。

 そんな男に、なおかつ三人もの男に絡まれれば、小柄な那澄菜では成すすべもなかったのだろう。気は強いといっても女の子だし、秘密子のように見た目以上の力があるわけでもない。

 そんな女の子に目の前の男たちは、腕力に物を言わせ口では言えないような酷いことをしようとしていたのだ。そのあまりの下劣ぶりに、俺の怒りは頂点に達していた。

 何度も言うが、俺は争い事は嫌いだ。そんな俺が柔道を続けたのには、二つの理由がある。

 

 一つ目の理由……。

 

 俺は殴りかかってきた男の右手を取り、勢いを利用して相手の体勢をを崩す。もちろんそのままブン投げてしまってもよかったのだが、受け身も取れない素人を投げた場合、最悪大怪我では済まないこともある。

 そして素早く背後に回り込み、相手の右腕を利用して首の動脈を締め上げる。俺が柔道を続けたのは、投げ技以上にこの締め技や関節技の存在が大きかった。

 もしも俺が空手やボクシングなんかの打撃系格闘技を習っていたら、おそらくは途中で辞めていただろう。

 中学生くらいってのは、文字どおり中二病をこじらせたのがいて、『自分は世界最強』って信じてイキがっているヤツがいる。

 たんに大人たちは立場上暴力を振るえないだけってのを、自分にビビってると勘違いして……。

 稀にだが、そんな奴らの腕試し的な意味合いで喧嘩を売られることもあった。

 そんな時に重宝したのが、締め技や関節技である。

 俺の力で相手を殴ったりしたら、正直軽傷で済ませる自信がない。そんな時にそれらは役立った。

 相手に密着する必要はあるものの、捕まえて締め上げる、関節を極める。そして相手が落ちる、筋を痛める直前くらいで離してやれば被害は最小限で済むし、何よりほとんどのヤツが戦意を失う。

 もっとも、集団で一斉に襲い掛かってこられでもしたら意味はないが……。

 そんな時は開き直ってぶん殴るか、腕でも折るしかない。幸いにも、そんなことをしたことはないが。

 もちろん、道場外でのこれらの行いは全て禁止されてることだ。武道を喧嘩の道具に使うなどあってはならないことだし、まして素人相手に技を使うなど、最悪破門されたって文句は言えないのだが……。

 もっとも、自分から喧嘩を売ったことは一度もないんだし、そこは大目に見てほしい。

 

「う……、ぶぇ……」


 運よくと言うか無知と言うべきか、リーダー格の男が己の力を過信し、一人で向かってきたのがこいつらの敗因だ。

 まあ、デカくたってガキ相手だって油断もあったのだろう。それに、俺に殴り掛かってきた男が何をされているのか、ほかの二人が気付くのが少しばかり遅かったことも……。

 結局は数や脅しに頼って、実際の喧嘩をしてきていないのが勝敗を分けたのだ。


「お、おい、何してんだ!?テメェ、離せよ!」


 仲間を助けようと駆け寄ってくる二人に向かい、落ちる寸前の男を突き飛ばす。肥満体の男の体重をもろに受け止めた二人は、支えきれず尻もちをついて倒れる。

 

「うげぇ……。げほっ……。ぐっ……」

「い、痛ぇ……。お、おい、大丈夫か!?テ、テメェ、よくも……!」


 倒れこむ三人に、俺はゆっくりと近付いて行く。その時、一人の男が尻のポケットから鈍く光る突起物を取り出した。

 

「あ……、危ねぇっ!!」


 男の手に握られたナイフを見て、那澄菜が悲鳴をあげる。

 

「…………。上等だよ、だったらいいもの(・・・・)見せてやるよ。そんなちゃちなオモチャが、この体(・・・)に刺さるとでも思ってんのか?これ以上やるってんなら、アンタらにも相応の覚悟があるんだろうな!」


 俺は三人の正面に立ち、意図的に那澄菜に背を向ける。そして……。

 

「なっ……!ひ……、ひいっっっ!なな、なんだお前!?ばばば……、ばけ……、化け物……!?」


 刃物を手に向かってこようとした男だったが、俺の顔を見た途端、腰を抜かしたように後ずさる。


「そういやアンタ、尻の穴が大好きだっつってたな。なんだったら、アンタ自身の尻にそのナイフをぶち込んでやろうか?それとも、俺の太い腕のほうがお好みか?たっぷり開発してヒーヒーよがらせてやるから、遠慮はいらねえぞ!」

「よっ、よせ!わ、わかった。わかったから!ちょっとした冗談だったんだよ。その子をからかっただけだって……。そ、そんなに怒るなよ。もうお前らには手を出さねえから!」

「あぁん!?今お前ら(・・・)っつったか?ちょっと勘違いしてんじゃねえのか?この先また誰かに、同じことをしようってんなら……。ああ、そういやこのカラダ(・・・・・)になったせいで、少し腹が減ったな……」


 俺は目の前の男たちを見回し、わざとらしく牙を剥き出し舌なめずりをする。


「このカラダになると、やたらに腹が減ってな。目の前にあるもの……、特に生肉なんかを無性に食いたくなるんだよ」

「は……?な、なに言って……?」

「ん……?よく見りゃアンタら、脂がのった美味そうなカラダしてるな。けど、法律が……。いや、一人くらい食ったってバレなきゃ……。そうだよ、証拠が残らないように、骨まで全部食っちまえばいいじゃねえか」

「ひぃっ!?わ、わかった!も、もう二度と……、二度とこんなことしないから!たっ、助けて……、くっ、食わないでくれぇぇぇっ」

「まっ……、げぇっ……。まっ……て。げほっ、おいてか……ない……で。お、俺は脂ばかりで美味くは……。いやぁぁ……。たたっ、食べられるぅぅぅ……!」


 友達甲斐もなく、太った男を置き去りにして走り去る二人。そして太った男も、すぐにその後を追って這うように逃げて行く。

 正直あまり慣れたくはないが、華澄さんの事件もあり、ハッタリは少しばかり上手くなった気がする。

 実際、鬼の体であろうがあんなナイフで刺されでもしたら、大怪我どころでは済まないかもしれない。ビビッて逃げてくれたからよかったものの、内心ヒヤヒヤものである。


「ふぅー」


 俺はしばらく、男たちの逃げた先を見つめ続ける。なぜなら、今は那澄菜の方を振り向くわけにはいかないからだ。

 今の俺は、少しだけ鬼の姿になっている。だからといって、あの時のように我を忘れたわけじゃない。

 あれ以来俺は、自分の力を制御できるように訓練している。

 もしも感情任せで本来の姿になってしまい、家族に迷惑をかけるようなことがあれば、俺を信じてくれた華澄さんに申し訳が立たないと思ったからだ。

 おかげで、段階的に鬼の姿を出したりできるようになってきた。

 アイツらが見たのは、半分ほど鬼の姿をした俺。人の顔と混ざって、さぞ不気味な化け物に映ったことだろう。

 昔大ヒットした某格闘漫画風に言えば、あと2段階変身を残していると言ったところか……。

 まあ、あいつらの反応からもわかるとおり、この姿を受け入れられる人は少ないだろう。

 ましてや那澄菜は俺のことが嫌いだ。この姿を見れば、今以上に風当たりが強くなる……。華澄さんがいる手前追い出されることはないだろうが、関係は壊滅的に悪くなるだろう。

 

 そういえば話は逸れたが、俺が柔道を続けたもう一つの理由……。

 

 今でも俺の周りにいてくれるヤツの中で、過去にこの姿を見たのが二人いた。

 一人は秘密子。こいつに関しては同類だし、ガキの頃からの信頼関係があると思う……、いや、思いたいからさほど気にはしていない。

 だが、もう一人は……。

 

☆ ☆ ☆

 

 その姿を見られた翌日、そいつはもう俺に声をかけてこないと思っていた。おそらくだが、俺の姿のことも道場中に知れ渡っているだろう。

 まあいいさ。楽しくなってきたって言ってもほんの少しだし、その楽しい原因が俺から離れて行くんなら、柔道を辞めることになんの未練もない……。

 そうだ、何も難しいことなんてないさ。今日の稽古が終わった後、師範に『辞めます』と、一言言うだけのことだ。施設の先生には怒られるかもしれないが、知ったこっちゃない。

 

『おねがいしまーす!!』


 そして、道場の扉が勢いよく開く。

 ああ、来たか……。ほら、真っ直ぐにほかのヤツのところに乱取りに行くんだろう?それとも師範のトコか?化け物とは怖くて一緒にいられないって、言いに行くんだろう?

 おい、なんで真っ直ぐこっちに向かってくるんだよ?な、なんだよ!もうお前とは稽古したくないって、わざわざ言いにきたのか!?

 おい、なんでニコニコしながらこっちにくるんだよ!なんでいつもどおりの、『今日こそは勝ってやるからな!』って顔して近付いてくるんだよ!?なんで……、なんでだよ!!

 

『おい鬼一、乱取りしようぜ。今日こそは勝つからな!』


 そいつは何事もなかったように、いつもと変わらず俺に接してきた。あまりの変わりなさにたまりかねて聞いた俺に、そいつは平然と言い放った。

 

『なに言ってんだ?仮面ライダーだってウルトラマンだって変身するし、時間が経ったら元に戻るじゃねえか。鬼一だってそうだろ?今だって元に戻ってんだし、別の生き物になるわけでもねえだろ?つーかメッチャ強そうだったし、今度あの姿で勝負しようぜ!なんかサ〇ヤ人と戦うみたいで、ワクワクすんよな!』


 よくわからない理屈だったが、落ち込む俺を見てそいつなりに気を遣ってくれたのかもしれないし、今にして思えば何も考えていなかっただけかもしれない。

 だが俺は、その言葉を聞いた瞬間、これからもできるだけそいつの練習相手になろうと決めた。

 いや、そうじゃないな。柔道を続けることで、俺は初めてできた親友(・・)と、ずっと一緒にいたかったんだ……。

当初2話で終わる予定でしたが、書き直しをしているうちに結構長くなってしまいました。那澄菜編、次で終了です。

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