13 かくしごと 円城さんの家庭の事情 ラスボス参戦!?
「うふふ、キーちゃんがそんなに那澄菜のことを気にしてたなんてねぇ。相性が悪いのかと思ってたけど、ちょっと妬けちゃうわ」
「そっ、そんなんじゃないですよ!ただ……、なんて言うかあいつは、不器用で損な役回りが多いって言うか、その……、少し俺に似てるって言うか……」
「ふふ、そうかもね。それにしても、キーちゃんも男の子なのねぇ。こんなおばさんで元気になるなんて……。しかも、あんなに大きいなんてビックリだわ。美澄ったら一言も言わないんだから。ズルいわ」
「だっ、だってあれは華澄さんのむ、胸が……。そっ、それに美澄ちゃんにも見せてなんかいませんから!とにかく、お願いですから忘れてください。那澄菜に知られたら、マジで殺されかねませんから……」
ニューっと笑う華澄さんに、必死で頭を下げる。そもそもこんな美人の巨乳を顔に押し付けられたら、美澄ちゃんでなんの反応もしなかった俺だって耐えきれるわけがないだろう。いや、男ならそれこそロリコンじゃないかぎり……だ。
☆ ☆ ☆
『キ、キーちゃん!?それって……』
あの時、温かいかいぬくもりに癒されていた俺だったが、さすがにいつまでもそれが続くわけじゃない。だんだんと冷静になるにつれ、自分の置かれている状況がどのようなものかに気付く。
そして思春期真っただ中、健全な男子がそんな状況に置かれれば、あとは体がどんな反応を示すのか、言わずもがなである。
ズボン越しに俺の膨らみに気付いた華澄さんは息を飲んだが、それも一瞬のことだった。
『…………。うふっ……』
あとはただ、少しばかり妖艶な顔で、意味深に笑うだけで……。
まあ、それもサキュバスの血がなせる……、いや、そうじゃないな。人とかアヤカシとかなんて関係なく、華澄さんは華澄さんだ。それはただ、三人もの娘を持つ年上の女性の余裕だったのだろう。
「ふふっ。真っ赤になってたキーちゃんが可愛かったから、許してあげる。それよりも、私がしっかりしないかぎりは戻ってこないのかぁ。あ~あ、あの頃の可愛い那澄菜を、もう一度見たいわぁ……」
ため息を吐く華澄さんを見て、ふと興味がわく。
「そう言えば、あの男も変な表現してましたよね?至高の……芸術?いや、彫刻でしたっけ。もちろん、那澄菜はちゃんとした格好すれば綺麗だってのはわかりますけど、可愛さで言ったら美澄ちゃんのほうだし、美人なら澄麗さんのほうじゃないですか?那澄菜には悪いですけど、正直あの男がそこまで執着するようには……」
だが、俺の言葉に華澄さんは『とんでもない!』と言いたげな顔で、通信機の端末を操作すると、画面を見せてくる。
「え……?これって、誰ですか?」
そこに写っていたのは、可愛らしく微笑む小学生くらいの女の子だった。
にっこりと微笑む女の子は長い黒髪を三つ編みにして、見るからに真面目そうな出で立ちをしている。だが、驚くべきはその美しさだった。
なんというか、華澄さんが女優的な美しさ、澄麗さんは綺麗なモデル、美澄ちゃんがティーンモデルとかアイドル的な可愛さとすれば、その子は可憐な深層の令嬢というか、どこかの国のお姫様のような、浮世離れした美しさだった。
画面に吸い込まれるように釘付けになっている俺を、華澄さんはニマニマと笑いながら見ている。
その表情に、俺の中にまさかという思いが浮かぶ。それによく見れば、この子の顔は円城家の面々の、一番優れたパーツを集めたような感じがする。
さらに言えば、その美しさを際立たせているのは、人の世の穢れを知らぬかのような無垢な笑顔だ。それはちょうど、いつも不機嫌なあいつの顔を、上機嫌にしたかのような……。というか、ひょっとしてこの子って……。
「そっ。小学校の時の那澄菜よ」
「うえぇぇぇぇぇっ!?」
俺の表情を見て、考えていることが分かったのだろう。その言葉を聞いた瞬間、驚きのあまり妙な声が出てしまった。いや、というかこの那澄菜って、今と違いすぎるだろ!
「なんて言うのかしらね。澄麗は私の容姿と楽天的な部分、美澄はサキュバスの血と、私の……ちょっと腹黒い部分を受け継いでるんだけど……」
俺はなぜだか、その例えにものすごく納得していた。今思えば、お風呂での美澄ちゃんは確信犯だったように思う。美澄、末恐ろしい子……。
「キーちゃん……?」
「い、いや、なんでもないです!」
やはりというか、さすが華澄さんだ。俺の頭の中に一瞬浮かんだ、失礼な考えを見抜いたのだろう。
「ん~……、まあいいわ。でも、那澄菜に関しては違ったのよね。亡くなったあの人に似て、真面目で成績も優秀で、純粋で人を疑うことを知らなくて、私の娘であって娘でないような……。でも、今日のキーちゃんの言葉で救われたわ。やっぱりあの子も、私の大切な娘だったんだって」
酒に酔ったのか、恥ずかしいのかはわからない。ただ、華澄さんは赤らんだ顔で嬉しそうにほほ笑むのだった。
☆ ☆ ☆
それから、30分ほど経った頃のことだった。
「もー飲めにゃいのー!眠いんらから、キーひゃんはわらしをベッドまれ運んでいくにょー!」
手足をバタつかせて駄々をこね、完全に酔っ払いと化した華澄さんがいた。
「わっ、わかりましたよ。ほら、立てますか?」
「んも~、キーひゃんってば、勃つにゃんてイヤりゃしいんらからぁん。そんにゃに勃たせて、ご自慢の一品なのぉ?」
「たっ……、勃ってなんかいませんし、ご自慢でもありませんよ!」
「まあ、たひかにアレはご自慢ひたくもにゃるわよねぇ」
「だっ、だからそういう冗談は、マジで那澄菜に……」
「んも~、にゃ澄菜那澄にゃってぇ……。キーひゃんは、そんなに那澄菜がいいにょ?」
「ちっ、違いますよ!そうじゃなくて、誤解されるとマジで命の危険が……」
「いのち……?んも~、ラメよ。あたらしいいのちを授かろうにゃんて、二人にはまだ早いんらから!」
「そっ、そんな意味じゃないですから!新しい命が生まれるんじゃなくて、俺の命が尽きるってことです!」
「ズユい!那澄菜ばっかりズユいかりゃ、ママもキーひゃんと寝ゆの!ほりゃ、立てにゃいから、ひゃんとらっこして運んで!」
「ラッコ?あ……、抱っこですか?いや、それはさすがに……」
「なんれよー!ママの言うことが聞けにゃいの!?」
「わ、わかりましたよ。ほら、これでいいですか?」
「んふふ~。よろしいのりゃ」
結局、自力で歩けない華澄さんをお姫様抱っこして、寝室まで運んでいくことになった。というか、とてもアラフォーとは思えないほど可愛らしい態度だ。もしかしてこういうのも、サキュバスの血なんだろうか?
というよりも何か余計なことを考えていないと、体に感じる暴力的な柔らかさと弾力、脳を刺激するような甘い香りに、本当に下半身がご自慢の一品になりかねない。
そもそもこんなシーンを那澄菜に見られでもしたら、何をどう誤解されるかわかったもんじゃない。それに澄麗さんに見つかったら、どれだけ弄られるか……。
そもそもこれだけ騒いでいるのだし、二人が起きていれば俺たちのやり取りは丸聞こえだろう。
だが、もしかしたらもう二人とも寝ているかも。願わくば、せめて那澄菜だけでも……。
そんな淡い期待を抱きながら足音を忍ばせ息を殺し、まるで夜這いに出かけるかのように、こっそりと華澄さんの寝室へと向かったのだった。
☆ ☆ ☆
「それじゃあ、おやすみなさい」
幸いにもというべきか、華澄さんを抱っこしている間、二人の部屋の扉が開くことはなかった。役目を終えてホッとするとともに、しがみつく華澄さんをベッドに横たえ、そっと部屋を出て行こうとした時だ。
「行っちゃラメぇッ!今日は一緒に寝ゆのぉ!!」
強い力で引きずり込まれ、ベッドに倒れこんでしまった。
「だっ、ダメですよ!さすがにこれはマズイですって。ホ、ホントに一品が……」
「いっぴん?」
「い、いや、なんでもないです!それよりも離してください。那澄菜に見られでもしたら、マジでヤバいですから!!」
「なんれぇ?」
「な、なんでって、だから、これ以上は一品が反応……」
「わらひはキーひゃんのママなのよ。頼りないママりゃけど、キーひゃんを守ってあげないと……。らから、今日は一緒に寝てあげりゅの!」
「…………」
力を込めた腕からは華澄さんの優しさが痛いほど伝わり、俺はそれ以上何も言えなかった。そして、黙って華澄さんに抱きしめられるままベッドに横になる。
「ごめんねキーひゃん。やっぱり、養子の話はなかったことにしていい?」
突然の言葉に、一瞬どう答えていいかわからなくなる。でも、俺の気持ちは決まっている。
「はい。俺の方こそすみませんが、やっぱり養子にまでなる気はなかったんで」
「ふふ……、ならよかっひゃわ。らって、キーひゃんがホントの息子になっひゃったら、チャンスがなくなっひゃうしね……」
「はい?」
酔っているのか、華澄さんはそれ以上意味不明なことを言うことはなかった。ただ、俺を豊満な胸に押し付けるように抱き寄せ、その手を放すことなく眠りについた。
初めは緊張していた俺も、いつしかその甘い香りのする、温かな胸の中で眠りについたのだった……。
☆ ☆ ☆
「おっ……、お前っ!マッ、ママのベッドでなにやってんだぁぁぁぁっ!!」
ちなみに、翌朝華澄さんのベッドの中で発見された俺の頬には、那澄菜の手により真っ赤な紅葉が舞い落ちることとなる。
「ん……?……っ!?おお……、お前、そ、そそ……ソレって……。ま、まま、まさか……」
さらに間の悪いことに、俺の股間は男子特有の朝の生理現象真っただ中だ。それはそれは元気に、服の上からでもわかるほどに膨れ上がっていた。
それに気付いた那澄菜は顔を真っ赤にし、その場から逃げ出そうとした。だが、一瞬の葛藤ののち、華澄さんを守らねばという使命感が勝ったのだろう。
もちろん誤解とはいえ、本来ならそんな那澄菜を褒めてやるべきだ。
だが……。
言い訳の間もなく、躊躇なく出された急所蹴りに俺は悶絶していた。
そして騒ぎを聞いて駆け付けた澄麗さんの大笑いと、心配そうに俺の頭を撫でる美澄ちゃんの表情は、円城家の朝の定番となるのだった……。
シリアスな展開が続きましたが、円満解決というところでしょうか。ちょっとエッチな内容と最後の展開は、ラブコメのお約束ということで。最後が「その5」ではなくなったのも、これまたラブコメのお約束……なのだろうか。華澄さんの職業も明らかになりました。のちの伏線とまでは言いませんが、話のつながりにはなってきます。次回の主役はお待ちかね?のおねーさん。長女澄麗の登場です。




