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プロローグ ~ 1 円城家の華麗なる食卓!?

『人生はそんなに悪いもんじゃない』


 誰かがそう言っていた気がするが、ただの記憶違いかもしれない。昔の偉い人だったか、はたまた誰かの小説もしくは、漫画やアニメのセリフだったか……。

 どっちだっていいんだが、『そんなに悪くない』ということ、それはつまり、裏を返せばそれほど良いものでもないってことだ。

 少なくとも、中学3年生の冬まではそう思って生きてきた。

 中学を卒業したら、この無駄にデカい体を活かせる肉体労働系の職場にでも就職し、とっとと今の『家』を離れる。

 それが俺の描いた最初の人生設計であったし、自らの特徴を活かして自立するのは、周りの男連中のだいたいのパターンでもあったからだ。

 別に家が嫌なわけでもないし、『先生』たちに恨みがあるわけでもない。仕事とはいえ面倒を見てくれた恩義は感じているし、『仲間』たちといるのは楽しい。それに、無邪気に慕ってくる『弟や妹』たちのことも可愛いと思う。

 だが、ここはいつかは出て行かねばならぬ、仮初めの『我が家』だ。

 もっとも、女はそんな年齢で社会に出ても、悪い連中が寄ってきて碌なことにはならない。だからたいていは、世間体を考えて高校か大学までは無理にでも進学させられる。

 自由だが保証のない人生、窮屈だが安全な生活。どちらがいいかは人それぞれだろう。

 これが少年漫画であったなら、迷うことなく前者を選ぶはずだ。というか、後者を選んだら間違いなく10話で打ち切りコース、『先生の次作にご期待ください』という展開だろう。

 だが、あいにく俺は少年漫画の主人公ではない。外見や生い立ちは物語の題材にはなるかもしれないが、俺自身どちらかと言えば脇役としてひっそりと生きて行きたいタイプだ。

 そもそも、どこでどんなふうに、誰の子供として、どんな環境で生まれてくるのかは運次第だとは思うが、その後にどう生きるかは自分の責任だ。『人間』と扱いが違うからといって、差別だと喚き散らすつもりもない。

 ガキの頃から、そういうもんだと思って生きてきた。

 それに、表立っては平等をうたう法律だってあるわけだし、多少の制限やルールは差別ではなく、人間と『自分たち』を分ける区別だと理解している。

 とは言っても、人の世で生きて行くなら先立つものは必要だ。一人で銭も稼げない奴がどれほど屁理屈をこねようが、何もできないガキや負け犬の遠吠えだ。

 ならば、どうすればいいか。

 さしあたっては、住むところも給料も保証される自衛隊を目指し、学校に入るって手もあった。

 しかし、別段社会正義の心があるわけでもないし、奉仕の精神があるわけでもない。それにいざって時には人と争い、戦わねばならぬ自衛隊や警察官のような職業は、性格的に務まらないだろうと思っただけだ。

 一応言っておくと、別に高校に行ける学力がないとか、金が無いってわけじゃない。いや、ものすごく成績がいいってわけでもないし、金だって自分の自由になるものは無いに等しいんだけど……。

 成績はいいとは言えないがそれなりだし、行こうと思えば国から学費の援助は得られる。ただ、自分たちのような環境にいる『モノ』、特に男はしがらみを嫌い、無理にでも家を出て自立する奴が多いってだけのことだ。

 そんなわけで御多分に漏れず、俺も中学3年の夏ごろからは就職先を探し、ちょくちょく職員室へも通っていた。

 

 そして月日は流れた翌年の春。

 

「はい、キーお兄ちゃん。『あ~ん』して」


 目の前には、フォークに刺さったコロッケの塊。食べやすいようにと、気を遣ってくれたのだろう。一口サイズにカットされている。そしてそれを差し出しているのは、ニコニコと笑う小学生の少女……、いや、正確には『美少女』だ。

 中学を卒業した俺は今現在、なぜか学業・スポーツとも結構有名な私立高校に通い、さらには新たな住居となったリビングで、『家族』と夕飯を食っていた……。

 

☆ ☆ ☆

 

「えっと……、美澄ちゃん。自分で食べられるからね」

「あらあら、駄目よ美澄。食事中にお行儀が悪いわ。それにキーちゃんには、ママが『あ~ん』してあげるからいいのよ」

「なんでよ!キーお兄ちゃんは美澄のお兄ちゃんなんだから、美澄が食べさせてあげるの!」

「だったら、ママはキーちゃんのママなんだから、ママが食べさせてあげるのが当然でしょ。美澄が小さい頃は、ママが『あ~ん』してあげたんだから」

 

 目の前で争う二人を前に、俺は夕飯のコロッケに手を付けていいものかどうか、ひたすらに迷っていた。ぶっちゃけ、どっちにも食わせてもらう必要はないし、そんなマネは恥ずかしくてできない。

 そうは思うが、居候の手前強くも口にも出せない。結局俺は、お茶をすすりながら鳴り始めた腹の音を誤魔化すのに必死になっていた。

 俺を『お兄ちゃん』と呼び、自分の皿のコロッケを俺の口に運ぼうとしているのは、『円城(えんじょう) 美澄(みすみ)』ちゃん。

 この円城家の三女であり、小学4年生の女の子だ。

 今は少しばかりムッとした顔をしているが、整った顔立ちに今どきの子らしいスラリと伸びた長い脚は、年齢以上に大人びた雰囲気を漂わせ、そこらのティーンモデルも顔負けの可愛さだ。

 笑顔でそれをたしなめて?いるのは、その母親であり円城家の主でもある『華澄(かすみ)』さん。

 たしか37歳になるということだが、その外見はどう見ても20台後半であり、スレンダーな体つきとは対照的に、胸部は張りのある暴力的な膨らみをたたえている。

 さらには優しそうな垂れ目と、右目の下の泣きボクロがセクシーさを倍増させ、実は女優ですなんて言われた日には、間違いなく信じてしまうだろう。

 

「うぅ……、じゃあ、美澄はまだ子供だから、キーお兄ちゃんに『あ~ん』してもらう権利があるよね!美澄はちっちゃいもん!」

「あらあら、キーちゃんのお食事の邪魔しちゃ駄目よ。じゃあ、美澄にはママが食べさせてあげるから」

「ずっ、ずるいママ!言い返せないからって」

「あっはっは、キーくんはモッテモテだにゃ~。んじゃ、ここは公平にお姉ちゃんが口移しで食べさせてあげよう。さあおいで、遠慮はいらないよ。勢いで熱い口づけを交わしちゃっても、『ToLOVE(トラブ)る』ってことで済ませてあげるからねん。んじゃ、ラッキースケベを目指してイってみよー!ほら、んぅ~」

「……。からかわないでくださいよ、澄麗さん。つーか、何をどうしたらそれが公平になるんですか?」


 俺に向かい両手を広げ、ウインナーを咥えたまま口元を猫のようにニューっと吊り上げてニマニマと笑うのは、この家の長女である『澄麗(すみれ)』さん。この春から女子大の1年生だ。

 この笑顔と口ぶりからもわかる通り、越してきたばかりの俺にも気を配ってくれて、明るく人懐っこい性格だ。

 おまけに華澄さんのDNAを間違いなく受け継いでいる証拠に、見事なプロポーションと母親そっくりの美しい顔立ちをしている。

 話によれば中学、高校時代はとんでもなくモテたらしく、国公立の有名大学が狙える学力にも関わらず、ひっきりなしの告白がうっとおしくて女子大へと進学を決めたそうだ。

 

「ケッ!熟女(ババア)から少女(ロリ)まで見境なしかよ。ホントにテメェはキメぇな。けどいいか、ママや美澄に手ぇ出しやがったらブッ殺すぞ。当然、澄麗(ねえ)にもだ」


 三人の友好的な態度とは打って変わり、椅子の上で胡坐をかいて憎々し気な表情で俺を睨むのは、この家の次女である『那澄菜(なずな)』。俺と同じ高校に通う1年生だ。

 母親と長女に比べて慎ましやかな胸はともかく、間違いなく円城家のDNAを継いでいるだろう綺麗な顔立ちをしている。

 だが、普通の格好をしていればずいぶんと可愛いであろうはずが、少々奇抜な格好が全てを台無しにしていた。

 長い髪はケバケバしく金色に輝き、母親とは対照的な吊り上がった目。姉とは反対に不機嫌にへの字を描く口。妹とは違う敵対心剥き出しの態度。さらには、純白に金字の刺繍がされた、ダボっとした上下のジャージ。

 そう、今どき珍しい、見るからに『ヤンキー』というやつである。

 別段俺が何かをしたわけではないのだが、初対面から親の仇を見るような態度である。

 もっとも、見知らぬいかつい男がある日突然家族だと家に住み着けば、当然の反応だろう。無条件に俺を受け入れている華澄さんたちが妙なだけだ。

 

「なんなら、オレが代わりにテメェの口に拳をねじ込んでやってもいいんだぜ。ほれ、『あ~ん』してみろよ」

「もう!那澄菜姉ったら……。キーお兄ちゃんいじめたらダメでしょ」

「ケッ、言い返せもしねえで情けねぇ。それでも男かよ。図体ばっかデケえくせしやがってよ」

「那澄菜、もう少し女の子らしい言葉遣いを……」

「あれあれ~?てことは、那澄菜本人になら手ぇ出してもオッケーってことかにゃあ?」

「は……、はぁ!?ななな、なに言ってんだよ!!」

「今晩アタシたちは1階のリビングで寝よっかな。ハッ!?てことはまさか、今夜2階にはキーくんと那澄菜の二人っきり?そ、そんな、若い盛りの男女が二人っきりだなんて、これはもう……。フフフ、よかったらYou、イっちゃいなYo!」

「な、ななっ……、馬鹿言ってんじゃねえよ澄麗姉!誰がこんなキメぇのと!」

「ダメー!キーお兄ちゃんは、美澄と一緒のお布団で寝るんだから!」

「あらまあ、若い男女が一緒のお布団でなんて駄目よ。それよりも、キーちゃんはママの温もりを知らないんだから、今夜はママが一緒に……」

「ダダダッ、ダメに決まってんだろ!なに考えてんだよ!!」

「にゃはは、冗談だよん。カッコいい男の子が来てはしゃぐのはわかるけど、そろそろキーくんのお腹が限界みたい。グーグー鳴ってるよ」


 俺が夕食にありつけたのは、食卓に座った30分後だった。残念ながらその頃には、料理はすっかり冷めていたのだが……。

 ただ、冷めていても華澄さんの作ってくれた料理は美味しかった。それが華澄さんの腕前なのか、『家族』と食卓を囲んだせいなのかはわからない。そしていつしか俺自身、ごく自然にこの状況を受け入れていた。

 しかし、そもそもどうしてこんなことになっているのか。それは遡ること、数か月ほど前の冬の出来事だった。

 久しぶりの作品です。前作終了後すぐに書き始めていたのですが、もう少し書き溜めてから……、を繰り返しているうちに、1年近く経ってしまいました。書き溜めてから投稿というのは、ちゃんと見直せる時間があっていいのですが、油断するといつまでも続きを書かず投稿もせずそのまま……ということにもなりかねません(事実そうなりかけていました)。なので、自分の尻を叩く意味でせめて年内にと決断しました。ちなみにエンディングは決めており、並行して書いています。問題は間の話を考えて書ききることと、仕事やプライベートの忙しさを言い訳にサボらないことが目標です。自分の足りない想像力と文章力では、流行りの異世界ファンタジーや悪役令嬢や異世界料理や俺TUEEやその他諸々……、なんかは書けませんが、日常+ちょっとファンタジーを少しでも面白いと思って読んでくださる方がいれば幸いです。ちなみに作品タイトル副題は、大昔のN社ディ〇クシステムのゲームより借用させていただきました。わかるのはオッサンだけかと思いますが……。

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