No.02 答え合わせ
今回は少し長いです。
急に変わった空気が、ただの答え合わせではないと伝えてくる。
相手はこっちの思考を読んで返事をしていた。
――ということは。
「本当に君は面白い。まずは、君の推察への答え合わせだ」
ゆっくりと、聞き間違いを起こさせないように慎重に話してくる。
「君の考えは、正しい。君たちの住んでいた世界はシミュレーションによって作られた世界だ。すべて実験のために創られ、動いていた。」
今更驚きはしないが、それでも何とも言えない気持ちになる。
今までの自分の苦労も、楽しみも、ただの実験だったと言われればそうだろう。
理解はできても納得はできない。
「だから君は面白いんだ。何人も君と同じ考えをした人間はいたが、その考えを持った人間がここに来るのは初めてだ」
ということは、そうでない人間は来たことがあるのだろうか。
どのみち俺には関係ない。
こちらは強制連行されてきた身だ。
「まぁ、ここに来なければその考えを確認することも出来ないから仕方ないんだけどね。――で、僕は君たちの世界の観察・維持を担当していたんだ。だから一応神様ってこと」
いちいち反応してたらキリがない。
「続けてください」
「ん。そしてついさっき――あぁ、時間倍率は変更しているから君からしたらもう少し前かもね。うちの部下が定期報告のため、世界の値を記録しているときにうっかり管理システムの変更処理を容認しちゃったんだ。しかもそれでパニックになって戻そうとしたところ、君の状態ステータスが書き変わっちゃったというわけ」
ほーん。
その部下とやらは新人さんかな?
うっかりで殺されるとは思わなかったなぁ。
「ただ、君のデータは少し面白い反応をしていたのでね、もったいないから君のデータが消える前に隔離してこの疑似世界に保存したというわけさ。ここまでで何か質問はある?」
質問か。
まず妥当なところからいくと――
「なんで世界の管理システムにそんな簡単に繋がるんですか? おっとうっかりで繋がるとか、セキュリティーガバガバすぎると思うんだが」
「だよねー!」
なんだこいつ。
「それについては、定期報告の内容が関係している。普段の報告は常時モニターしている値でいいんだが、今回の定期報告はより詳細な値を報告することになっていた。だから管理システムにアクセスをして内部データを確認する必要があったんだ」
定期といっても人間ドックのほうだったか。
「じゃあ次。なんでそんな大事なことをうっかりさんに任せたの? 下手したら実験世界が消滅していたかもしれないのに」
「いつもはしっかりとしたやつなんだよ。今回の原因は、外部コンソールを保守しているメカニックの誤操作も関係していてね……」
説明の途中から言葉に勢いがなくなってきた。
神様の世界でも部署同士のいざこざはあるのね。
ここ、黒そうなところでしょ。
てかそんなところに任せるなよ……
――あぁ、部署同士の問題があるということは権力の問題もありそうだな。
「最後に、この後僕はどうなるのでしょうか。実験途中に干渉したあの世界はどうなるのでしょうか」
「いい質問だ。まず後者から。確かに実験途中で外部干渉をしてしまったから本来の実験は継続できない。故にデリートされ、新しく実験を再開するだろう。ただ、それじゃあもったいないから、『干渉した世界はどうなるか』という別の実験をしようと思う。――だから世界は消えないよ」
実験に干渉された世界はどうなる。――別の実験が始まる。
「そして君だ。君も本来なら必要なデータを取ったらデリートされるよ。ただ、いくら実験世界に生まれた存在だとしてもこちらのミスで死なせてしまったんだ、なにかお詫びをしたい。そこで君に問いかける。なにかやりたいことや夢はないかね?」
――やりたいこと。夢。
そんなものがあったなら、そんなものを持っていたなら、自分自身を主体として見ることが出来たのだろうか。
自分を本人視点で見れたのだろうか。
自分のこともよく見れたのだろうか。
それこそ夢だ。夢物語だ。
言葉は同じでも意味が違う。
……もしあのまま卒業してもその先に何があったのだろうか。
空白の時間が続く。
引き延ばしているわけではないが、言葉が出てこない。
それでもなにか出さなければならない。
考えて考えて、たっぷりと時間を使ってようやく口から音が出た。
「――僕は、僕には何もありません」
出てきたのは空だった。
そうだろう。
抜け殻から出てくるものは何もない。
何もなかったのだ。
「そう、か。……わかった」
自称神様でさえも困惑してしまう。
神様、ごーめんね。
だが、困った顔をしたのはその一瞬ですぐに顔が綻びはじめる。
――嫌な感じしかしない。
「いやぁ、やっぱり君は面白い! そんな何にもない君にひとつお願いがあるんだけど、聞いてくれるよね?」
もうお願いでも何でもないじゃん……
「実はね、創った世界が一つ余っているんだ。君の世界と大まかな部分は似せて作ってあるんだけど使い道がなくて困ってたんだ。――だからこの世界を君にあげる」
ん?
今なんと?
世界を、あげる?
なんだこの自称神様は。
「言語とかも君の世界と同じだし身体の動かし方もそう。全く違うのも面白いけど少しだけ変えたものも面白そうだから作っちゃったんだ」
「そんな簡単に世界って作れるものなのですか……」
「本当はめちゃくちゃ大変なんだけどね、ちょうど要らない世界があって、空き容量があったから作り変えたのだよ」
――世界ってそんなものなのか。
ほんと今までは何だったんだよ。
「君たちの世界との違いを分かりやすく言うと、こっちの世界は『ファンタジー世界』かな? モンスターあり、魔法あり、お宝ありのわくわく世界さ!」
あの世界はゲームの世界だと思っていたのに、本物のゲームが来たよ。
もう突っ込みやめよ……
「ただし、君にただあげるわけにはいかない。さすがに存在がそもそも違うし、管理権限とかを渡すのも無理だからね。君は、この世界で過ごしてもらう。いわば実験再開という感じさ」
最初の雰囲気に戻った自称神様は軽く説明をしていく。
「そして、課題を与える。課題というよりも、目標というのかな? 君にはそれが必要だと思ったからね」
目標、か。
確かに、進むべき道がわかっていれば今までとは違う世界が見れるかもしれない。
いや、そもそも違う世界になるけど。
「この世界で『世界最高峰のダンジョン』を創ってもらおう。内容は自分で考えたまえ。それとこれも」
そういって渡されたものは、手のひらサイズの金属製のキューブだ。
ご丁寧にベルトに引っ掛けられる部分までついている。
だがそれ以外の特徴が全くない。
回して確認するも押せそうなところも開けそうなところも無い。
本当にただの金属で出来た立方体。
こちらが理解に苦しんでいると、笑い声が聞こえてくる。
なに笑ってるんだよ。
「それは『ダンジョンキューブ』と言って、所謂おたすけアイテムだ。ダンジョンを創ったり、中をいじったりするときに使う」
「つまりチートアイテムですか」
「いやいや、チートなんて使ったら実験の意味ないじゃん。馬鹿だなぁ」
一発ぶん殴った。
「痛った!? 殴ったね親父にも――」
「説明を続けなさい」
「はい。確かにその世界の中から見たらちょっとずるいものではあるけど、それを活用できるかどうかは君次第だ。頑張りによってはチート級のアイテムにもただのゴミにもなる」
この自称神様のことだ。
チートを使えないほうがおもしろいとか思ってるんだろうな。
確かにバリバリやるよりも悪戦苦闘しながらも攻略しているほうが楽しいけど。
「使い方はそれを手に持って、『スタート』と言えばいろいろできるメインメニューが出てくる。そしてその中からコマンドを選び、貯まっているD Pを使用することでこのアイテムを使うことが出来る。君には初期ポイントとして『10,000P』を授けよう」
使い方は意外と簡単みたい。
複雑な操作が要らないのはありがたいが、あまりにも簡単すぎる。
なにか裏がありそうなのだが。
「何も考えてないよー。これは本当にただの善意、罪滅ぼしさ」
「……わかりました。ここだけ信じておきます」
「ここだけかぁ」
「ここだけです」
あまり調子に乗らせたくない。
「その、DPはどうやって貯めればいいのですか?」
「それはね、ダンジョン内でモンスターや人間などを狩ったり、ダンジョンのランクを上げていったりすればそれに応じて貯まるし、ダンジョン内で生活をしていれば一定時間ごとに追加されていくよ」
「人間も、ですか」
「うん」
この世界、思っていたよりもシビアなのかも。
「何か質問はある?」
「じゃあ、その世界に行ったらあなたとはもう会話はできないのでしょうか」
「おやおや、そんなに寂しいのかぁ。そうかぁ。安心していいよ、ポイントは高いけどそれができるコマンドもあるから」
聞き終わってからまた殴っておいた。
「痛ったぁぁぁ。ひっどいなぁ、もう……。――それで、もう質問はなさそうだね」
痛みを忘れたかのようだった。
これが神様の力なのか。
いや、ここが仮想世界なら目の前にいるのはアバターってことだよな。
ならどうにでもなるのか。
心の中で悪態をついていると、急に視界がぼやけ始めた。
「……っ!? これ、は……」
「そろそろ君をこの世界に送ろうと思ってね。次に目が覚めたときは新しい世界のなかさ」
せめて何か言ってからにしてほしかった。
像が完全にぼやけ、次第に光も見えなくなってくる。
意識も少しづつ狩り取られていくのがわかる。
「新しい世界で君がどんなデータを出してくれるのか楽しみにしているね。さぁ、行ってらっしゃい。新しい世界へ――」
その言葉を聞き終えると同時に、俺は意識を手放した。
長セリフが多くてすみません……
次回からついに転生生活がスタートします!
乞うご期待を!!




