聖女と泡のおねだり
私を桃色に染めた甘やかなキスに翻弄されて、身体が川の流れにゆらゆら流されていく。
「花恋様、起きたかな?」
「ふぁい……?」
あまりにキスされすぎて、ノワルの声もどこかぽんやり聞いてしまう。もう胸ビレを動かす余裕もなくて、ひらひらと流れに身を委ねている。
「かれんさまーぼくがひっぱるから寝ててもーいいよなのー」
「ん、ありがと……でも、頑張って泳ぐから」
ラピスの魅力的な言葉にお礼を告げながら、ゆるゆると首を横に振る。みんなで登龍門に昇るのに、一人だけ寝ているなんてありえないと思うのに、身体に力が入らなくて下流にゆっくり押されていく。とん、と優しく支えられる感覚がして、視線を向ける。
「ん、ロズ……ありがと……」
錦鯉の姿になると私が一番小さくて、ロズもラピスも私よりずっと大きいから、ロズに寄りかかって甘えることにした。
「あれ、私、寝ちゃってたの……?」
「ええ。カレン様が可愛すぎて追いかけまわして気絶させてしまいました」
「えっと、気絶してたの……?」
「鯉は、発情すると浅瀬に集まり、バシャバシャと水音を立てながら水草に産卵と放精を行います」
「ひゃあ……っ!」
逃げても避けても、みんなが追いかけ回してきたことを思い出す。先ほども最後は浅瀬に集まると、水音を立てながら泡だらけの川でキスの触れ合いが止まらなかった。
「は、は、発情……? さ、さ、ささ産卵……?」
「はい、それに放精ですね」
「ひ、ひゃあ……っ!」
驚きすぎて尾ヒレと胸ビレが跳ねて、あぶくが生まれる。
「カレン様、これはお誘いでしょうか?」
「ちちち、違うから! これは、びっくりしただけだから、私、さささ産卵なんてできないよ……っ! そ、そ、それに、登龍門に昇るために結界張るんでしょう?」
鯉になっても色気が止まらないロズから、尾ヒレをぴょん、と揺らして離れた。
「カレン様の結界は、もう張り終わりました」
「えっ、そうなの?! いつの間に……? あっ、気絶していた時に結界を張ってくれたの?」
「鯉のぼりのかんざしとイヤリングは使えないので、私たちがイチャイチャした魔力をカレン様に定着させました」
「ふええ? じゃあ、さっきのキスは、結界のためのキスだったの……?」
あんなに求められてびっくりしたけれど、嫌だったわけじゃない。でも、結界のためのキスなら教えてくれたらよかったのに、と思っていると、ロズが私の前にするりとまわり込む。
「さて、カレン様は、これからお仕置きのキスをしましょうね」
「ふえっ? な、な、な、なんで……?」
「カレン様を愛おしくてしたキスが、結界のためにしたキスだと思われているなんて心外ですからね。イケナイ鯉には、お仕置きが必要でしょう?」
「ひゃん……っ!」
するりと身体を撫でるように泳がれて変な声が漏れる。それなのに、ロズの言葉が嬉しくて心がぴょんと跳ねて、胸ビレを忙しなく動かしてしまう。
「えっと、それって……私が好きでしてくれたってこと?」
「カレン様は、本当に仕方ないですね──わたしたちはキスが止められなくて、魔力が溢れてしまったので、キスで生まれた魔力を結界を張るのに使っただけです」
ロズの口から素直に教えてもらえて、尾ヒレが大きく跳ねた。尾ヒレの動きが止まらず、次々に泡立つ様子を見て、ロズがくすりと笑う。
「カレン様、誘っていますか?」
「………っ」
「素直におねだりできるまで、お預けですよ」
つう、と胸ビレで身体を撫でられる。
「ひゃんっ、……っ!」
「どうして欲しいか分からないので、ちゃんとおねだりしてくださいね、カレン様」
「んっ、あの、ロズ……」
すり、と身体を撫でられて尾ヒレで水音を立てるのを止めれない。うっとりと熱っぽくロズを見つめれば、ロズに甘やかに見つめ返されて身体が熱を持っていく。
素直な願いをおねだりしようと、口をひらいた瞬間。
「かれんさまー! めめっ、めめっ、めめなのよー! いちゃいちゃしないで、しゅっぱつするなのー!」
ぷんぷん怒る青い鯉に怒られた。
読んでいただき、ありがとうございます♪
油断するとすぐにイチャイチャしようとする……つ、次こそは登龍門を泳ぎます|ૂ•ᴗ•⸝⸝)”チラッ












