聖女と吐息
ロズが優雅に尾ヒレを動かしたあと、口をつむる。鯉なのに色気がすごくて、動揺した私が口をぱくぱくしていると頭の中で声が響いた。
『──カレン様、聞こえますか?』
びっくりして、ロズを見ても口はしっかり閉じている。
「ええっ?! なんで? なんで? 聞こえてるよっ! ロズの声が頭の中に直接聞こえてくる感じがするんだね。すごいね、不思議だねっ」
鯉の首はどこかわからないけれど、こくこくと頭を上下に動かした。
『かれんさまーぼくのもきこえるなのー?』
今度はラピスに話しかけられて、やっぱり驚いてラピスに視線を向ける。にこにこと口を閉じたラピスの青い瞳とパチッと目が合った。
「うんうん! ラピスの声も聞こえるよ! 私もテレパシーでロズとラピスと話したいな。どうやってやるの?」
私もやってみたくて、わくわくしてロズとラピスを見つめる。
「簡単ですよ、カレン様が話したい相手を思い浮かべて心の中で話しかけるだけです」
「本当だ、簡単なんだね! よしっ、やってみるね……っ」
ロズをまっすぐに見て、ロズと話したいなあと思いながら口をきゅっと閉じた。
『ロズ、ロズ、聞こえますか? もしもし、ロズ、ロズ、こちら花恋です。もしもーし、もしもしー、もしもし、ロズ、ちゃんと聞こえてますか? どうですか?』
『ふふっ。カレン様、ちゃんと聞こえていますよ』
『やったあ。すごいね、テレパシー!』
『ええ、遠くにいても話せますので、とても便利ですよ』
初めてのテレパシーにものすごく感激しちゃう。話さなくても思っていることを伝えれるなんて、本当にすごい。
「かれんさまーぼくにもはなしてなのー!」
「うんっ! 今からテレパシーするね」
「うんなのー!」
きゅるんと見つめてくるラピス鯉が可愛くて、鯉なのに天使のラピスの胸ビレを撫でる。本当にラピスはどんな姿になっても天使だから胸がきゅん、と弾けた。
『ラピス、ラピス! 聞こえるかな?』
『かれんさまーきこえるなのー! みんなでも話すなのー!』
「えっ、そんなことできるの?」
ラピスの言葉に驚いて普通に話してしまう。
「できるなのー! みんなで話せるなのー!」
「そうなんだ! じゃあロズとラピスを思い浮かべて、話しかければいいのかな?」
みんなで会話できるなんて本当に便利だなあと思っていると、頭の中で優しい声が聞こえてきた。
『花恋様、俺もいれてよ』
ノワルの声に尾ヒレがぴょんと跳ねる。胸ビレを使って振り向くと、鯉になったノワルが雄大に泳いでいた。
「…………っ」
真っ白な身体に黒い模様の大きな九紋龍の錦鯉が素敵で、ぽおっと見惚れてしまう。圧倒的な存在感に言葉なんてどこかに言ってしまった。ただただ見つめることしかできない。
「俺の鯉の姿も気に入った?」
「うん、すごくすごく格好いい……っ」
「花恋様は、かわいいね」
ぽんやり見つめる私にノワルがゆったり近づいて正面に来ると、ちゅ、とキスをされた。大きなノワル鯉に何度もキスされていると、ロズとラピスも横から身体にキスを落とす。
くすぐったくて尾ひれを揺らして泳ぐと、ロズが正面に回って、ちゅ、ちゅ、とキスをする。ロズのキスが終わるとラピスに変わって、ちゅうう、と吸い込むようなキスになった。
『花恋様、好きだよ、かわいい』
『カレン様、好きです、かわいいですね』
『かれんさまーすきなのーかわいいなのー』
連続でキスされているのに、テレパシーで『好き、かわいい』を何度も言われて頭も心もふわふわしていく。
「ん、んんっ、……っん……」
尾ヒレを揺らし、胸ビレを動かして泳いでも、甘すぎる三匹のキスに追いかけられて。私の甘やかな吐息が泡になり、川の中に差し込む光できらきら輝いていた。
読んでいただき、ありがとうございます♪
鯉同士がキスをする動画を見たのですが、ちゅうって吸っていたのがとっても可愛くて、それが書きたくて書いた回です!
いつも鯉のぼりを読んでくださって、本当にありがとうございます。あと少しなので、頑張ります୧꒰*´꒳`*꒱૭✧












