聖女と朝
甘やかな夜を越えて、小鳥のさえずりで目が覚めた。爽やかな朝日を浴びながら身支度を整え、お揃いのマントを揺らして三人のところに向かう。
「っ! えっ、えええ〜〜ど、ど、ど、どうしてっ?!」
ロズとラピスがノワルと同じくらいの背丈になっていて、大人になっている。あまりに驚きすぎて声を上げた後は、言葉が続かなくて鯉みたいに口をぱくぱくさせてしまう。
「花恋様、おはよう。二人が成長したのは、昨日の夜に聖女の力が溢れすぎた影響だね」
「ひゃあ……っ!」
昨夜のことを当たり前のように話題に出されてしまい、痛いくらい頬が熱くなった。
「よし。花恋様の準備もできたし、登龍門に出発しようか」
にこにことノワルに告げられるけれど、大人のラピスとロズに頭がまったく付いて来ない。風の止まった鯉のぼりみたいに動けなくなった私に大人のロズが近づいてきて、艶やかに見つめられた。
「カレン様、まだ出発は早いですよね?」
「えっ……?」
言葉のの意図が分からなくて首を傾げると、ロズの口元が弧を描く。
「──カレン様、次は私の番ですよ」
「ふえっ?」
「ノワルは良くて、私は駄目だと言うことでしょうか?」
「ふええっ? あ、あの、違うの、違うんだけど……あ、ああ、あ、朝だから! い、い、今は朝だから!」
赤い瞳を細めたロズが、すらりと長い指で私の顎を掬う。
「カレン様は仕方ないですね。今は我慢します──夜になったら覚悟して?」
「ひ、ひゃあ……っ」
私の声は、ロズの唇に食べられて意地悪なキスに頭が真っ白になった。
「かれんさまー、ぼくもいいよねー?」
「ふええ……っ?!」
「だめなのー? ぼくだけダメなのー?」
大人なのに天使のようなまっすぐな瞳に見つめられる。青色の瞳に見つめられれば、なんでも叶えてあげたくなってしまうけれど。
「あっ、ああ、あの、もちろん、駄目じゃないよ……! で、でもね、今は、朝だし、それに、登龍門昇らないといけないからっ!」
全身から汗が吹き出しながら、首をぶんぶん横に振って大人ラピスに伝えた。
「それならー今すぐに登龍門をのぼりにいこうよー!」
いつの間にか、大人ロズではなくて大人ラピスが目の前に立っている。ぐんっと背の伸びた長身のラピスを見上げると、大きな手で私の頬をむにっと挟んだ。
「おいしそうーいただきまーす」
「へっ、へあ……っ?!」
私の鳴き声はちゅうっと唇ごと奪われて、ただただ翻弄される。涙目でラピスを見上げたらぺろりと唇の端を舐めていた。
ど、ど、どうしよう、ロズもラピスも大人になっていて、どうしたらいいのかわからない。格好いいし、色気もあるし、天使だし、すごく素敵なんだけど、やっぱり大人の二人に戸惑ってしまう。
──ぽんっ
「あららなのーもどっちゃったなのー」
「戻ってしまいましたね」
可愛らしい音と共に大人なロズとラピスは、いつもの二人に戻っている。
「へあっ? な、な、なんでっ?!」
あまりにも驚いて目を見開いた。ぽかんと鯉のぼりみたいに大きく口がひらいたままになる。
間抜けな顔を晒した私に、聖女の魔力で変化できることを教えられた。私が望めば魔力の消費は少なくて済むけれど、望まない変化は魔力の消費が多いことを教えてもらう。
今は、突然のことで戸惑って驚いた私のキャパオーバーで魔力が途切れ、大人の姿ではなくなったらしい。
「カレン様が意地悪したお返しのつもりでしたけど、時間切れですね」
「ふええ?」
「まったく黒色と抜け駆けして、酷い聖女様ですね」
「あわわわ、ご、ごめんなさい……」
「いえ。わたしとも交わる約束をしてくださったので、気にしてませんよ」
「〜〜〜〜〜〜っ?!?!」
色気をたっぷり放つロズの瞳から、目を逸らすことができない。甘い眼差しに顔が痛いくらいに熱くなっていく。
「カレン様といちゃいちゃする時は、また大人の姿になりますので──覚悟してね」
「ぼくもおとなになるのーいちゃいちゃいっぱいするのー」
赤色と青色の鯉のぼりに笑顔で告げられて、私はただただ頷くことしか出来なかった。
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