聖女と思い出
まぶたを閉じると、ノワルの甘やかな感触が唇に触れる。ちゅ、ちゅ、と何度も音を立てながら角度を変えていくキスに、身体の力が抜けていく。
「花恋、かわいい」
ぬるりと滑りこむ熱い舌に私の鼓動は速くなり、手を伸ばせば指を絡めるように繋がれる。
「ん、んっ……」
「好きだよ、花恋」
キスの間に紡がれる言葉に、胸がきゅんきゅんと甘く締め付けられ、熱い吐息が溢れた。
「はあ、ノワル、好き……っ、ん……っ」
ノワルのキスに溺れていると、突然、扉が大きな音と共にひらいた。
「この変態、黒鯉のぼり! あれほど抜け駆けするなと言いましたのに……っ」
「にいにずるいなのー! めめっ!」
ロズとラピスが怒りながら、ノワルをベッドから引きずり下ろす光景に既視感を覚える。このやりとりは、出会った日の翌朝にしていたから思わずくすくす笑ってしまった。
「かれんさまーどうしたなのー?」
ラピスがこてりと首を傾げてくる姿は、やっぱり可愛くて天使だと思う。くるんくるんの髪を撫でながらおでこにキスをすれば、へにゃっと頬を緩ませるラピスがかわいい。
「ふふっ、ラピス達に初めて会った時のことを思い出してたの」
「なつかしいなのー!」
「うん、そうだね」
あの時は、目覚めたらノワルが一緒に寝ていて、いきなり襲われかけたところを助けてもらった。ノワルのことをよく知らないのに、ベッドの上で覆い被されてしまって本当にびっくりしたのを覚えている。でも、今は……?
あれ、今は──…?
「花恋様、ロズとラピスに怒られちゃったね」
私の思考がまとまる前に、ノワルに声を掛けられた。
「う、うん……」
「花恋様、ご飯を食べたら、ゆっくりお風呂に入っておいで──疲れが取れたら、登龍門を一気に昇ろう」
「えっ? あんな滝みたいな登龍門を一気に昇るの?」
「そうだよ。一気に最後まで昇りきらないと水の勢いで滝壺まで叩き落とされるんだよ」
「そ、そうなんだ……」
先ほど見た登龍門は滝のような角度だったことも驚いたけれど、見上げても雲がかかって一番上が見えなかった。
「あ、あの、もし失敗しても、また挑戦できるの……?」
「それは無理だよ」
「ええっ! そ、そうなの……? 挑戦する回数が決まってるとか……?」
「ううん、何回でも挑戦することはできるよ。俺たちも今回で二回目になるしね」
ノワルの言葉の意味が分からなくて首を傾げる。何回でも挑戦できるなら失敗しても大丈夫そうだけど。
「登龍門の低い場所からなら落ちても大丈夫かもしれないけど、上流から落ちたら死ぬよ」
あっさりなんでもないことのように告げるノワルに、驚いて目を見開いた。あまりにびっくりして言葉もでないのに、身体がふるりと震えて自分の腕で身体を抱きしめた。
「っ……?」
ぽかぽかした体温を感じて視線を移すと、ラピスが私にぎゅっと抱きついて見上げている。ロズもノワルの隣に立って私を見つめていた。
「かれんさまーへいきなのー! おおこいのぼりにのったつもりでいれば、いいなのよー!」
「カレン様、安心してください。絶対に落ちたりしませんよ」
「花恋様、大丈夫だよ。俺たちのこと、信用できない?」
みんなにまっすぐに見つめられて、私はふるふると首を横に振る。
「信用できる。だって、ノワルとロズとラピスが大丈夫だって言うなら大丈夫なんでしょう?」
「ああ、勿論だよ」
「もちろんです」
「もちろんなのー!」
自信にあふれるみんなの顔を見たら、安心して抱きついた。
「ありがとう……っ! 大好き……っ」
「花恋様、好きだよ」
「カレン様、好きですよ」
「かれんさまーだいすきなのー!」
甘やかなキスを沢山贈って贈られて、心がふわふわのとろとろになった。
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