聖女と鱗龍
鱗龍のノワルの背中に乗って温泉地から登龍門に飛んでいく。
もふもふラピスを膝の上に乗せて、もふもふを堪能する。かわいいし、もふもふだし、なにより天使だから癒されて仕方ない。
「ラピスは、もふもふで気持ちいいね……龍吸いしてもいい?」
「かれんさまーいっぱいくんくんするから、くすぐったいなのー」
「うう、どうしてもだめ?」
「しかたないなのーちょっとだけなのよー?」
「うん! ありがとう……っ」
ラピスの許可を貰うと同時に、もふもふなお腹に顔を埋める。ぽかぽかなお腹は温かくて、柔らかい。しっとり雨の匂いがするのもなんて癒されるんだろう。はあ、天使。ラピスは天使。天使ラピス、大好き。
「かれんさまーもうすぐつくなのーはなすなのー!」
ぷにぷにな肉球に、むにむに腕を押されるのもご褒美なんだけどなあと思いながら顔を上げた。目の前にいる可愛いすぎなラピスにときめいて、ちゅ、ちゅ、とキスの雨を降らす。
「ラピス、大好き」
「ぼくもーだいすきなのー」
「本当にどうしてラピスはこんなに天使なの?」
「てんしじゃないなのー! かっこいい、りゅうなのー!」
「そうだよね、りゅうだよね? ごめんね」
ぷくっと膨れた頬が可愛くて、つんつん突く。もふっと膨らむ頬っぺたがやっぱり可愛くてぎゅううと抱きしめる。もふんと手が埋もれるもふもふ背中を撫でながら、すんすん優しい雨の匂いをかぐ。
「かれんさまーめっなのー!」
「あとちょっとだけ! あとちょっとだけ……っ!」
尻尾の先までもふもふなのをすう、と手で撫でていく。気持ち良くて、可愛くて、やめられない止まらない。かわいい、好き、かわいい、天使。
「もうーめめっ、なのー!」
ラピスのぷにぷに肉球に頬をぺちぺち叩かれた。ロズのところにパタパタ飛んで行ってしまったラピスを見て、しょんぼりする。私の癒し天使がいなくなってしまった。
「花恋様は、ラピスが好きだね」
ノワルがくすくす笑いながら、大きなかぎ爪で私を下ろしてくれた。
「花恋様、あそこが登龍門の入り口だよ」
「…………あ、あれを昇るの……?」
かぎ爪の指す先には、急流の滝がある。水の壁みたい滝を見て、絶句する。
「うん、そうだね。滝昇りが成功すれば願いが叶うからね」
にっこり微笑むノワルを見ていると、登龍門を昇ることをひとつも心配していない様子を見て大丈夫なのだろうと思ってしまう。私の様子を見たノワルが安心させるように優しく目を細めた。
「花恋様、沢山移動したから疲れたでしょう? 今日はゆっくり休もう──ああ、そうだ。鱗龍になるのは、これで終わりかな」
「えっ、そうなの?」
「うん。登龍門は、龍じゃなくて鯉として昇らないと駄目だからね」
ノワルの言葉を聞いて、思わずつるつるの鱗に手を伸ばす。きらきら光る鱗は、本当に綺麗で美しくて、もう見られないと思うと寂しくて仕方ない。
「花恋様、かわいい」
龍の鼻先を頬に寄せられる。ノワルの動きに合わせて、鱗が華やかな音を鳴らす。
「ノワル……もう少しだけ、このままでいてくれる?」
「うん、いいよ」
「ありがとう」
甘やかな大きな瞳を細めるノワルが愛おしくて、きらきら煌めく鱗龍に身体を預けた。ロズとラピスが耳のイヤリングとかんざしを取り外して、周りに結界を張るとテントの中に戻っていく。
私は、つるつるな鱗を撫でる。体温が溶け合うのを無言で楽しんでから、疑問に思っていたことを口にした。
「そういえば、こちらの世界の時間経過は、戻ったときに関係ないって言ってたのに、どうして温泉を早く出発したの?」
「ああ、それは──」
ノワルが言葉を切って、黒い瞳でまっすぐに私を見つめる。真剣な表情に思わず心臓が鯉のぼりの尾のように、ぴょこんと跳ねた。
「やきもちを妬いたからだよ」
「……ふえ?」
思ってもみなかったノワルの言葉に、間抜けな声が私の口から漏れた。
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