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甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする  作者: 楠結衣
儀式を泳ぐ

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聖女とかしわ餅の秘密

 

「かれんさまーみててなのー」

「うんっ! ラピスの舞、楽しみにしてたよ。頑張ってね」


 ふにゃりと笑う姿に胸がきゅんと跳ねた気持ちのまま両手を広げると、ぴょんと飛び込むように抱きついてくれるラピスのくるんくるんの髪に顔をうずめる。

 やわらかな雨上がりのような匂いを吸い込めば、心がほおっと落ちついて、離れたくなくてぎゅうぎゅうと抱きしめた。


「かれんさまーくすぐったいなのーおどれないなのー」

「もうちょっとだけ、もうちょっとだけ」

「かれんさまーめっなのー」


 くるんくるんの毛先をぴょこんと揺らし、ほっぺたをぷくっと膨らませた天使に怒られてしまった。

 愛おしすぎて変な声がもれそうになる口を両手で覆ってこらえる。


「ちゃんとみててなのー」


 腕をすり抜けようとする青い天使を捕まえて、すばやくかわいいおでこに、ちゅ、と口づけを落とす。

 へにゃりと眉を垂らして笑うと、くるんと背を向けてラピスはてててっと走って行ってしまう。


 聖女の木の先にベルデさんとソレイユ姫の新居が見える。

 この新居は、村の人たちとノワルたちが二人のために数日の間に建てたものだ。魔力切れが起きそうなくらい沢山の魔法を使っていて、何度も聖女の木に隠れて熱い口づけから魔力を渡したことを鮮明に思い出した途端に赤く染まる頬を隠すようにうつむいた。


 和琴や笛の神楽の優美な旋律に顔を上げれば、こちらを見つめていたラピスの青い瞳と見つめあう。

 いつものおだやかな表情がすぅ、とひと呼吸すると凛とした表情に変わり、愛らしい青色の瞳が深い蒼に染まるように空気が澄み渡る。


 ラピスが背筋を伸ばし、指先までそろえて美しく舞う。


「……っ」


 歳上だと聞かされていても見た目が幼いラピスは、小さな弟みたいに思っていたのに。

 ゆったりとやわらかく流れるように舞うラピスは、品のある色気をまとっていて目が離せなくなってしまう。


 着物を着ているラピスのたたずまいの美しさに感嘆のため息をはいてしまう。


 すっと軸の通った動きや、なめらかに弧を描いてひらりとなびく裾やゆれる袂にぽおっと見惚れてしまう。いつもと違う真剣な表情や立ち振る舞いに、風を受けた矢車がカラカラ音を立てて回りはじめるように胸がきゅんきゅん音を鳴らして次々と弾けてしまう。

 ラピスの扇が打ち寄せる波を描くように動き、神楽と舞が重なり合う時間が過ぎていった。


「かれんさまーくすぐったいなのー」

「もうちょっとだけ、もうちょっとだけ」


 光を浴びた回転球がきらきら眩しくて見ることができないみたいに、大人びたラピスがきらきらしているみたいで心の中がくすぐったい。鯉のぼりが春風に泳ぐみたいに心がふわふわして、地に足が着いていないみたいでラピスをまっすぐに見ることができない。


「ラピス、格好よかったよ……」

「えっへんなのー」


 お膝に座るラピスのくるんくるんの髪に向かってつぶやけば、ラピスのかわいい声が聞こえて頬をゆるめてしまう。

 ラピスが身をよじって上目遣いに見つめられると、きらきらした瞳に胸がきゅうんと音を立てる。天使がここにいる。


「かれんさまはーぼくにむちゅうなのー」

「うん、そうだよ」


 ちゅ、と好きが弾ける音をおでこに落とせば、ふにゃりと笑うのが愛おしくて、ちゅ、ちゅ、と髪やおでこ、まぶたに次々と好きを弾けさせると青い瞳が水あめみたいにとろりとした光沢を持つのが嬉しくて、もっともっと、と夢中になってしまう。


「――カレン様、ラピス、儀式の途中ですよ」

「ひゃあ……っ」

「ごめんなさいなのー」


 ロズの声にぱっと顔を挙げれば、みんなの視線が集まっていて真っ赤な顔で謝った。


 ベルデさんはお腹を抱えて笑いをこらえていて、ソレイユ姫がたしなめている様子に羞恥による熱が顔に集まってきて耳も痛いくらい。

 頬の熱が引かないまま二人は無事に結婚指輪の交換をして、ノワルが結婚の儀式が滞りなく終了したことを告げた。


「カレン様もおひとついかがですか?」

「わあっ! かしわ餅美味しそうだね。ロズが作ったの?」

「ええ、聖女の木の葉から作った特別なかしわ餅です」


 宴が始まり、ロズに山盛りになったかしわ餅を差し出されると、お腹の虫がくうぅ、と鳴いた。


「ふふっ、今朝は緊張していましたからね。沢山召し上がってください」

「う、うん……ありがとう」


 無事に結婚の儀式が終わり、ノワルが勝利酒、ロズがかしわ餅を村の人たちに振舞っている。

 ロズから受け取ったかしわ餅をぱくんと口に運ぶと、ふんわり心地よく葉っぱの香りが鼻を抜けていく。緊張していた気持ちも、もちもちの食感を楽しむ内にぺろりと一緒に食べ終えた。


 お腹が満たされるとゆとりが生まれるらしい。

 ラピスはオーリ君たちと椀子そばならぬ、椀子かしわ餅を始めていて、どこを見渡しても二人を祝福する笑い声が聞こえる。

 しあわせな気持ちにひたっていると、ノワルがかしわ餅を食べようとするベルデさんに耳打ちした途端、夕焼けに染まる鯉のぼりみたいに真っ赤に顔を染めた。

  それを見たソレイユ姫が小首を傾げ、ベルデさんが内緒話をしたらソレイユ姫も茹だってしまう。

 並んだ赤鯉に目をぱちぱちと瞬いていたら、振り返ったノワルと目が合った。


「ノワル、二人になにを言ったの?」

「かしわ餅の秘密を教えただけだよ」


 ノワルが戻ってきたので疑問を口にすれば、にっこりと笑いながら隣に腰をおろした――。

本日も読んでいただき、ありがとうございます♪

ブックマーク、とても励みになります。


えっと、多分、次こそ儀式を泳ぐ編が終わるつもりです(*´꒳`*)

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恋愛作品を色々書いています୧꒰*´꒳`*꒱૭✧
よかったらのぞいてみてください♪
ヘッダ
新着順① 評価順② 短編③ 商業化④ お勧め作品⑤ 自己紹介⑥
ヘッダ
 

― 新着の感想 ―
[良い点] 品のある色気をまとうラピスくん……! わあ、ラピスくんの新しい魅力が開花してる! 「かれんさまはーぼくにむちゅうなのー」というセリフがとっても可愛いです♪ [一言] かしわ餅の秘密って何…
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