表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする  作者: 楠結衣
結界を泳ぐ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/95

聖女は再び聖獣の膝の上



 腕の力がゆるくなりロズを見つめると、ふわりと花の咲いた笑顔を見せてくれたと思った瞬間。


「——ベルデ殿」


 ひやりとした冷気を纏ったロズは、ゆっくりベルデさんに視線を流すと綺麗に笑う。ベルデさんは、その冷ややかな声色と視線だけで「ひっ!」と怯えるように身体を震わせた。


「次はありませんよ」

「わわわ、わかってる。本当に、す、すまなかった」


 ラピスに髪の毛を引っ張られたままのベルデさんは、顔を引きつらせて大きく何度も頷いている。ベルデさんが髪の毛が無くならないか心配になるくらい強く引っ張っているのに、それでも勝利草の入っている自分の鞄を大事そうに抱えている様子は、本当に宝物を持っているみたいで、嬉しくて感極まって抱きしめようとしたんだろうなと思う。


 ラピスにやめてあげて、と言おうと思った途端、ノワルに優しく話しかけられる。


「花恋様、そろそろ休憩にしようか」

「えっと、でも、……」

「だめだよ、花恋様。旅慣れない女の子なのに、昨日より随分ハイペースで歩いてきたから、無理はしないこと」


 ノワルはそれ以上なにも言わせず、私を木陰に連れていくと膝の上に座らせた。ベルデさんを含めた四人は、ちっとも疲れた様子がないので申し訳ない気持ちがあったけど、座ったら自分がすごく疲れていたのが分かった。

 ノワルに優しく頭を引き寄せられ、筋肉のしっかりついた胸に寄りかかると、髪を柔らかく梳き撫でてくれるのに目をつむって身を任せた。

 優しく揺り動かされる気配に、ん、と薄っすら目を開く。時間にしたらほんの数十分だと思うのだけど、うとうと眠っていたらしい。


「花恋様、ロズがおやつに、ちまき用意してくれたよ」

「あっ、お昼ごはんのちまきが余ってるの?」

「ああ、それは中華ちまき。これは、ちまきだよ」


 ノワルの手元を見てみると、笹の葉で巻かれた細長いなみだ型のちまきを持っていて、するすると紐を解き終わると差し出してくれる。受け取ろうと手を伸ばすと、ちまきは鯉のように空を泳いで口元にたどり着いた。


「えっと、……その、自分で食べれるよ?」

「うん」


 ノワルの膝の上で視線をしっかり合わせられる。とてもにっこり笑っていて、笑顔だけど引き下がってくれるつもりはなさそう。ほんの少し悩んだけど、目の前から笹の清々しい匂いが漂って来て、白いちまきは明るい緑の木漏れ日の中で艶やかに誘う。ぐう、とお腹の虫が誘惑にあっさり負けてしまい、その様子を見ていたノワルがくすくす笑う。


「えっと、……いただきます」

 

 慌ててお腹を押さえて小さな声でそう言うと、口を開けてぱくりとひと口食べさせてもらう。


「んんっ……!」

「どう、美味しい?」

「うん! すっごく美味しい」


 もちもちの甘いちまきをもうひと口食べる。ちらりと窺うようにノワルを見ると、目を細めて見つめられていて少し照れくさい。

 だけど、ロズの食べ物はやっぱり美味しくて、夢中になってぱくり、ぱくりと食べ進めてしまう。

 

「ちまきはね、柏餅よりも昔からあるお菓子なんだよ」

「そうなんだ! 私は子どもの日は柏餅食べてるよ」

「うん、関東は柏餅が根づいているよね。たつや様も柏餅を詰まらせないように気をつけて、食べているよ」


 そう言ったノワルの表情が、たっくんのことを懐かしそうに愛おしそうに目を細めていて、ほわんと温かい気持ちになった。それなのに、なぜだか口の中が甘いマーマレードジャムを食べた後みたいに、ほんの少しの苦味が舌の上で痺れている……。

 慌てて甘いちまきを口に運ぶと、ノワルに嬉しそうにくすくす笑われた。

 

「そうだよね、お餅だもんね!あれ、じゃあ関西はちまきを食べるの?」


 食べ終わって質問をすると、ノワルが温かな緑茶を竹の器に淹れて手渡してくれる。新緑みたいなさわやかな香りが立ち昇り、ゆっくり口に含むと温かな緑茶は疲れた身体に優しく沁み渡っていき、痺れは舌の上で溶けて消えていた。


「うん、ちまきは平安時代の都を中心に広まったから関西に根づいているんだよ」

「そうなんだ!」


 ノワルは、はらりと落ちた一房の髪を耳にかけてくれる。くすぐったくて、ん、と肩が揺れてしまうと、やっぱり楽しそうにくすくす笑っている。


「中国から端午の節句の風習と一緒に(ちまき)が伝わって、それが日本では、ちがやの葉でもち米を巻いて作っていたから『ちがや巻き』と呼ばれていて、それが短縮されて『ちまき』と呼ばれるようになったんだよ」

「あっ、これ笹の葉じゃなくて(ちがや)の葉っぱなの?」

「これは笹の葉だよ。今は笹の葉が多いかな。ちまきには魔除けの意味もあって、(ちがや)も笹の葉も、香りが強いから邪気を払うんだよ」

「いい香りがするもんね!」


 ちまきにも歴史があるんだなと感心して頷いた。


「花恋様、もうひとつ食べる?」

「うーん、お腹いっぱいかも……」


 ノワルの視線の先にあるお皿の上に、まだちまきが沢山乗っていた。

 私の隣には「おなかいっぱいなのー」とぽんぽこお腹のタヌキのラピスがいて、山盛りの葉っぱがお皿に乗っていた。

 でも、その割にはベルデさんもいるのに全然減っていないな、とベルデさんに顔を向けると正座をして、ロズにちまきをお預けにされていた。私の視線に気づいたノワルがロズに口を開いた。


「ロズ、もうそれくらいでベルデ殿を許してあげたら」

「どの口がそれを言うのですか? ノワルなんてベルデ殿を跡形もなく始末しようとしましたよね」

「ああ、まあね。ロズ、よく気づいたね」

「ええ。私も同じことをしようと思ったので」


 どこか楽しそうなノワルと、ノワルに向かい綺麗に口角を上げて頷き合うロズとノワルの物騒なやり取りに驚きすぎて固まってしまう。

 ベルデさんも「ひっ!」と小さく叫び、勝利草の入った鞄を抱きしめ震えている。


「カレン様、一度あることは二度あるかもしれないですし、やっぱり跡形もなく始末しましょう」

「ちょちょちょ、ちょっと待って! だ、だだだめ! め、めめっ! ちょ、ちょちょ、ちょっとロズもノワルも、お、落ち着こう!」


 完全に混乱して、落ち着きをなくした私の背中をノワルがあやすように撫でてくれた——。


本日も読んで頂き、ありがとうございます♪

本当にブックマークや感想に励ましてもらっていますー。




(大きな独り言)

お気に入りのユーザーさまの活動報告を読んでいて、サブタイトルの名前が難しいって言うのに、ピンと閃めきました(´⊙ω⊙`)ピカーン*


私の場合、サブタイトル+番号にすれば、話数を意識できてもっと話がまとまって展開出来るんじゃないでしょうか?

どう思います?五話先くらいなら起承転結が意識できるんですよ、多分。

最後が帳尻合わせで長くなりそう?ああ。うん、間違いない……(。-_-。)毎回手さぐり。もっともっと楽しくて面白い物語が書けるようになりたいなー!と思っていて、とりあえず色々やってみてます。

もっと考えてやったらいいんだろうけど、考えてるとやりたくなくなっちゃう。笑。

だったら、変でもだめでもやってみたいーー。


さらっとサブタイトルが変わっていたら、そんな理由です♪笑。


ひとりごとまで読んでくださった方々、ありがとうございます\( 'ω')/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛作品を色々書いています୧꒰*´꒳`*꒱૭✧
よかったらのぞいてみてください♪
ヘッダ
新着順① 評価順② 短編③ 商業化④ お勧め作品⑤ 自己紹介⑥
ヘッダ
 

― 新着の感想 ―
[良い点] この場面いいなあw ベルデさんには気の毒だけど最後の二人が恐くて面白かったですw
[良い点] 食べ物がいつもおいしそうで、お腹が減りますー! ちまきが食べたくなるー! 私もぽんぽこラピスくんの隣で食べたいな……♪ あわわ、ノワルさんもロズくんも花恋ちゃん好きすぎで、物騒になっちゃ…
[良い点] あわててる花恋ちゃんが、ぜんぜん落ち着いてない口調で「お、落ち着こう!」と言うのに吹き出しちゃいました。かわいいー! 聖獣様たちがめろめろなの、わかる! ロズくんがついついからかいたくなる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ