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甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする  作者: 楠結衣
結界を泳ぐ

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聖女は尾ひれを揺らす



 目の前の蒸籠(せいろ)からふんわり立ち昇る蒸気と、ほんのり漂う木のいい香りに幸せな気分になる。


「カレン様、熱いので絶対に触らないで下さいね」


 ロズにきっちりと念を押され、ラピスと二人で正座して待てをしている。わくわくして、鯉の尾びれをふりふり揺らしているみたい。

 ノワルとベルデさんも待とうと思ったらロズに熱々を食べないつもりですか、と色気纏い警報を発令しながら微笑まれたので、先に食べることにしたのだ。


 ロズが蒸籠(せいろ)を敷物の真ん中に置くと、綻んだ笑顔と共にパカっと蓋を開けてくれた。途端にぶわりと真っ白な湯気が立ち昇る。中には蒸気でしっとり艶やかになった竹の皮で包んだ中華ちまきが沢山並んでいて、おこわのいい香りが堪らない。


「ん〜美味しそう!」

「ぼく、ちまき、すきなのー」


 ——くうぅ……


 思わず鳴ったラピスの可愛らしいお腹の虫の音にも頷いてしまうようないい匂い。

 ロズが手早くお皿に分けてくれる。ラピスはにこにこと熱々の中華ちまきをぱくぱくと口に運んでいく。

 私も熱々の中華ちまきを頬張ると、醤油味のもち米はもちもちで、中には豚の角煮や干しエビ、やわらかい椎茸、食感のいい筍など具沢山に入っていて、香りも味もすごく美味しい。


「ロズの中華ちまき、今まで食べた中で一番美味しい……」


 ペロリとひとつ食べ終わり、思わずため息を零してしまう。胃袋を掴まれるとはこう言うことだと思う。毎日、毎食、ロズのご飯を食べる幸せに浸っていると、ロズの細い指がするりと伸びて来て、唇の横に触れる。

 

「カレン様、付いてますよ」

「あ……」


 ありがとうを言い終わる前に、ロズがペロリとおこわの一粒を食べるのを見て、たちまち顔が赤く染め上がる。

 恥ずかしくて俯いたのに、中華ちまきと見つめ合うと思わずもう一つ手を伸ばしてしまい、ロズのくすりと笑う声が漏れた。


「ふふっ、カレン様は可愛らしいですね。沢山作ったので、沢山食べて下さいね」


 甘く耳元で囁かれ、私は手に持った中華ちまきを落としそうになる。どうしたら良いかわからなくなるとロズの手が伸びて来て、するすると竹の皮のひもを解いてもう一度手のひらに戻してくれる。


「……あ、ありがとう。いただきます」

「はい、どうぞ召し上がれ」


 色気を含んだ笑みに見つめられながら、口に運ぶちまきもやっぱり抜群に美味しくて、困ってしまう。

 胃袋は美味しいものに素直なのだと開き直ることに決めた。


「カレン様、ちまきを子どもの日に食べるのには理由があるのですよ」

「そうなの?」

「はい、昔むかしに中国・楚の国に詩人で、優れた政治家の屈原(くつげん)という英雄が、河で亡くなりました。それを嘆いた村人たちが、水底に沈んだ英雄屈原(くつげん)の身体を魚たちが食べないように、ハスの葉でくるんだチマキを河に投げ入れたそうです。以来、英雄屈原(くつげん)が亡くなった旧暦5月5日の端午節に、英雄の死をしのんでチマキを食べる習慣が広まったといわれています」


 中華ちまきにそんな話があることに驚いて手元の中華ちまきをじっと見つめてしまう。

 くすりと笑う声に視線を向けると、ロズの綺麗な赤い瞳と見合う。


「実は、端午節には中にアヒルの塩玉子が丸ごと入った大きなちまきを食べるのですが……もうすぐ蒸し上がるので、そちらも食べてみますか?」

「ええっ? それ美味しそう! でも、もう二個食べたからお腹いっぱいかも……」


 お腹に手を当てて考えてしまう。ラピスはもう六個目のちまきを口に運んでいて、小さいのによく食べるなと感心してしまう。

 ロズの作るご飯は絶対美味しいのに、ものすごく食べたいのに、もうお腹はいっぱいだなと悩んでいると、頭の上にぽんと優しく手を置かれる。

 顔を上げると黒い瞳と目が合うと、優しくにこりと笑う。


「花恋様、俺の味見させてあげようか?」

「あっ、ノワル! 手当て終わったの? ベルデさんは大丈夫だった?」

「カレン殿、ノワル殿から薬を分けてもらったのだが、よく効くものばかりで驚いた。本当にありがとう」

「ベルデさん、よかった! 一緒にごはんも食べませんか?」

「いやいや、もうこれ以上は流石に……」


 断るベルデさんから、ぐううう、と大きなお腹の虫が鳴いた。

 たちまち真っ赤な顔になったベルデさんに、にっこり笑いかける。


「ロズのご飯は、とっても美味しいんです! それに、腹が減っては戦はできぬって言うので……だめでしょうか?」

「いや、その、むしろ、迷惑ばかり掛けてすまない……。ここ数年は、村のまわりの瘴気が一段と濃くなって作物がまともに育たなくてな、あまり飯も食べていないのだ」

「ええっ? 食べないと元気出ないのに……。遠慮しないで、いっぱい食べて下さいね」


 そういい終わると同時に、ロズが熱々の蒸し立て蒸籠(せいろ)を持って敷物の真ん中に置き、蓋をあける。

 ぶわりと立ち昇る白い湯気の中に、先ほどの中華ちまきの倍くらい大きな中華ちまきが並んでいた。ロズが再び手早く取り分けると、ベルデさんは喉をごくりと鳴らす。


「ほ、本当に良いのか?」

「はい、どうぞ召し上がって下さい。沢山あるし、私はもうお腹いっぱいなので……」

「カレン殿、ありがとう!」


 ベルデさんがニカッと笑うので、釣られて笑ってしまう。

 何だか大きな犬みたいに人懐っこい人だなと思い、熱々の大きな中華ちまきもベルデさんが持つと小さく見えるなと何とは無しにじっと眺めてしまう。


 そこからのベルデさんの食欲は凄かったみたいなのだけど、私はとびきりにこやかに笑うノワルの膝の上に抵抗する間もなく乗せられて、味見という名のあーんを何度もさせられることになって、それどころではなくなるのは数分後のこと——。

 

本日も読んで頂き、ありがとうございます♪

うーん、やっぱり11時の予約投稿の方が最後に見直し出来るので、しっくりくるかな。

お昼に読んでもらえたら嬉しいなー。

そして、そして、またブックマークが増えてて嬉しいです♡

幸せをありがとうございます。


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恋愛作品を色々書いています୧꒰*´꒳`*꒱૭✧
よかったらのぞいてみてください♪
ヘッダ
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