ある日のこと
タタタ。
8時25分。一歩一歩が静かな始業直前の廊下に響く。
ギリギリセーフだ。
息を整えながら戸を開ける。
もちろん、挨拶なんてしない。俺はこの教室のモニュメント、話すことは許されていない。もとい、話す相手がいないから話せないだけだけど。
あれ、誰もいない。
遅刻寸前で入ったはずの教室には誰もいない。
腕時計を見て、時間を確かめる。
8時27分。いつもならホームルームが始まっている時間だ。
もしかして・・・クラスLAINで予定の変更を知らされたのか?
だとしたら、どこに行けばいいか分からない。俺はクラスLAINに入っていないのだ。
時間を確認するために掛け時計をみる。
7時27分。
間違いなく、時計の針は7時27分を指している。
「ハァ〜」
ついため息が出る。
時間間違えたか。
どうやら俺の腕時計は壊れていて正確な時間を指していなかったらしい。
きたくもない学校に1時間も早く来てしまった。
いつも一番遅くに登校している俺が一番乗りか。まぁたまにはいいかもしれないが。
そう思って、遅い2度寝でもしようと机に向かったらそこにはひどい罵詈雑言がびっしりと書かれていた。
「え」
俺がどんなにぼっちだからって、いじめられることはなかった。
いつかこんなこともあるんじゃないかと心構えはしていたが、実際にやられると、やっぱりキツイ。
机に書かれた罵詈雑言を見ると本当に俺の悪口か、と思うものがいくつかあった。
『ビッチ』
『男たらし』
などなど。
ひどいな。
一つ一つを見えなくなるまで消していく。
全部を消し終えてから眠りに着く。
いつもの時間に来ていたら消せなかったと考えたら、ある意味運がいいのかもしれない。
いや、運がいいだけであって、いいことではないな。
それから30分後くらいに、一つの女子グループが入って来た。
横目でグループのことを見る。
あんな顔の人クラスにいたっけ。
まあ、クラスの人の顔を覚えていないから、ただの勘違いだろうけど。
もう一度グループに目をやる。
すると入って来た女子たちも俺を見ながら話していた。
おおかた、珍しく早くからいることがおかしかったとかそんなことだろう。
そう考えてもう一度眠ろうかと思ったところで女子の一人が声をかけて来た。
「君、ここ2年生教室だよ?間違えたんじゃない」
え。
言われて教室を見るとそこには『2年5組!』と書かれたポスターが貼ってあった。
「すみません!」
そう言って俺は大急ぎで教室を出た。
教室を出るとすごく綺麗な先輩が驚いて立っていた。
その後の教室ではこんな会話がされていた。
「せっかく書いたのにあの子に消されたね」
「そうだね」
「あいつにも今日は書けないか」
「しょうがないんじゃない」
「それもそうか」
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