ダークエルフ的ハルピュイアの捌き方
学校も終わって放課後の校内。部活に所属してない連中ははさっさと帰ってしまうので人数は疎らだ。
時計の秒針だけが鳴り響く中、俺は目の前の本に集中する。
やはり一人で静かに過ごせるこの時間は素晴らしい。
クラスで友人と話すのも嫌いじゃないが、たまには自分だけの時間っての必要だ。特に普段はうるさいのが2人もいるからな。
「あ、ユウこんな所にいたんだ。ほら、さっさと帰るわよ?」
扉の方からぶっきらぼうに呼びかけられる。姉妹の片割れの姉だ。その声は透き通っていてとても綺麗だ。……しかし本を読むには邪魔なので無視する。
「お姉ちゃん待ってよ~。あ、ユウ君こんなところにいたんだ。早く帰ろう~」
今度は少し間延びしたおっとりした声が聞こえる。こちらは妹の方だな。彼女の声も姉に負けず劣らず綺麗な声だ。でも読書には無用なので聞かなかった事にした。
「ちょっと少年聞いてるの!」
「……図書室では静かにした方がいいぞ?」
「あんたが返事しないから……!」
キャンキャンと姉が犬の様にうるさく吠え立てる。本当に彼女はハルピュイアなんだろうか。
「ユウ君うるさくしてごめんね?でもお姉ちゃんも悪気があったわけじゃないから……」
妹の方は声を少し潜めて申し訳なさそうに謝ってくる。双子の姉妹でどうしてこうも性格が違うのか。姉は妹の爪の垢でも煎じて飲めば良いのに。
……いやそう言えばハルピュイアの手は羽になっているから爪がないんだったか。
「いや……俺こそすまない。良いところだったからつい熱中してしまってな」
本を閉じて申し訳なさそうに謝っておく。実際には欠片も悪いと思ってないんだが、まぁ処世術って奴だ。
「……妹には素直に謝るのね」
「もちろん君にも悪いと思ってるよ……そうだな謝罪の意味も込めて2人にクレープでも奢ろう」
「……!ま、あぁそれなら許してあげない事もないけど」
300円のクレープで許されるのか安いな。2つ合わせても600円程度。バイトを始める前であれば痛い出費だったが今はどうと言うことはない。
「わーユウ君ありがとう~」
素直にお礼を言えるとは、妹は姉とは違って良い子だな。
「そうと決まればさっさと出ようか。そう言えば2人はなんで俺を探してたんだ?」
「べ、別になんだっていいでしょ」
「お姉ちゃんが少年君と一緒に帰りたいからって」
「ちょ、ちょっと妹ちゃん!貴方だって少年と一緒に帰りたいって!」
……なにを慌てるのかまったくわからん。一緒に帰りたいなら帰りたいと素直に言えば良いだけだろうに。俺はそれをいちいち拒否するほど狭量でもないつもりなんだが。
まぁ、そんなことよりさっさと帰って本の続きを読むか。家だと少々うるさいからここで読み切りたかったんだが仕方あるまい。
「ほらさっさと帰るぞ?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「あ、2人共待ってよー」
ま、たまにはこうやって騒がしく帰るの悪くないか。
END