バフとデバフと状態異常で天下とる
気ままに投稿します
身体の芯まで響く轟音に思わず一歩後退り数瞬前の決意が揺らぐ。
雷だろうが風船の破裂だろうが、動物は本能的に大きい音には体が硬直してしまう。
訓練を積み死線を越えてきても、反射を意図して抑えるのはほぼ不可能だ。
加えて、今目の前にそびえる巨山は視覚からも精神的に圧迫感を与え、無意識に及び腰になる
いや、巨山ならどれだけよかったのだろうか
山が身動ぎするたびに地面は振動で砕け散り、大気は咆哮で弾け飛ぶ
ああ、今すぐ逃げたい
魔法は使えても僕が使えるものがこの生きる天災に通じるのだろうか
いや、たとえ通じることがなくとも僕はもう逃げられない
逃げてはならない
足下に目をやれば3、4人のボロボロに打ち捨てられた人間が転がっている
死体?とんでもない。しかし、このままではいずれそうなる。
恐怖で吐き戻しそうになるが、すでに胃の中は空だ。
喉が胃酸でヒリつくが今は堪えろ
支援魔術師の俺では攻撃も防御もできない
俺にできる唯一の手段
ここに来るまでも、そしてこれからもやることは変わらない
剣で?馬鹿を言うな才能ゼロ!
魔法で?補助しか使えないのに冗談じゃない!
召喚獣で?いるならとっくに!
気休め程度に手袋をはめ直し、眼前で蠢く山の壁を見据え息を吐く
新鮮な空気で肺を満たし、身体の隅々に行き渡らせる
なにせ自分はただの魔術師ではない。
さあ、では始めよう。
筋力強化、攻撃強化、速度倍化、身体能力上昇、感知速度上昇、攻撃回数付加、防御貫通、抵抗無効、衝撃力倍化、自己治癒力最大、能力限界突破、属性付加火、属性付加金、属性付加土、属性三重強、そして【スレイヤー】能力最大付加
自身の強化を繰り返し、全身を光が包み込み、漲る力は既に人の限界を超えている
意を決して最大に強化された拳を山肌に叩きつける。
瞬間・・・
山が吹き飛び、衝撃で砕け散った岩が流星群のように周囲に降り注ぐ。
いや、正確には岩ではなく巨大な鱗
山と見間違うばかりの巨大なドラゴンである
その巨体が蟻のように小さな人間の拳一発で横倒しになった
手応えあり!
そう、俺の切り札はいつだって単純明快。
強化してぶん殴る
ロマンの欠片もない戦い方だが、これしかできないので仕方ない
これがこの世界で目覚めた俺の魔術師としての生き様である
しかし、やはりと言うべきか
「それでもやっぱり勇者になりたかったっつーの!」
この際目の前の巨竜に不平不満をぶつけさせてもらおう
殴るのが好きな訳では決してないが
それが役目なら仕方ない。
これは俺が転生してからのお話
勇者に憧れたのに勇者になれなかった可哀想な一人の少年の苦労話である
あしからず
物語が進むと状態異常って空気だよね