草刈り場の決闘
俺はじいさんの申し出を一括する。そろそろ午後の作業を開始しないといけないからな。遊びは終わりだ。今回はじいさんの負けだよ。もっとラノベを研究して出直してきな。
「そこを何とか!ほれっ、チートだって付けるぞ!今回はこちらの落ち度もあるからな、お主が好きなやつを選ばせてやる。ほれ、これなんかどうじゃ?いや、こっちの方がいいかのぉ。」
何故かじいさんは必死だ。そこまで俺と遊びたいのか?でも俺は仕事があるんだよ。
「じいさん、俺は忙しいんだよ。見てみろよ、今日中にここを片付けなくちゃならないんだ。あんただって農家なら判るだろう?明日また遊んでやるから今日は帰りな。」
ここいらをほっつき歩いているじじいが定年退職したサラリーマンである確率は低い。俺は草刈りの準備をしながらじいさんを諭す。
「くっ、仕方ない・・。明日までに決めておくのじゃぞ!わしは諦めんからな!せっかく手に入れた楽チンポジションをこんなミスで手放してなるものかっ!」
そう言うとじいさんは消えてしまった。いや、直接見た訳ではないが振り返ると既にいなかったのだ。
「何だ?どこに行った?走ったのか?あの服装で?」
俺はじいさんが突然消えた事に少しびっくりしたが、どこかに隠れたのだろうと思い気にしない事にした。
「さぁーて、やるかね。よしっ、あそこの背の高いやつらは四天王という設定にしてやる。俺のチート能力であるエンジン付き草刈機の威力を思い知らさせてやるぜ!」
そう言って俺は新たな戦いに身を投じた。しかし、さすがは四天王だ。俺の草刈機に纏わり付き回転を止めようとする。
「くそっ、誰だこんなところにテグスを捨てやがったやつは!全く近頃の釣りをやるやつはマナーがなってないぜ!」
全く、ガラクタの不法投棄は今に始まったことじゃないけど、いざ自分が片付けなきゃならないとなると頭にくる。
「ちっ、このゴミを捨てたやつの腹ん中に転移させられないかな。そうすりゃ、二度とやらなくなるだろうに。」
うん、確かにやらなくなるだろう。だって、多分死んじまうからね。めでたくじいさんの出番だ。
そんな予定外の処理に手間取り、結局俺は予定の半分も草刈りが終わらなかった。むーっ、この鬱憤はどこにぶつければいいんだろう?親父たち信じてくれるかなぁ。
さて、翌日も俺は同じ場所で草刈りだ。昨日の晩、予定通り作業が進まなかったと告げると親父も兄ちゃんも分かってくれた。ふたりとも経験があるらしい。それどころかすぐにエンジンを止めてテグスを取り除いた事を褒められた。そのまま使い続けると軸に負荷が掛かり過ぎてエンジンがオーバーヒートする事があるそうだ。全く厄介なシロモノである。
しかし、道路際のゴミを捨てやすい場所は昨日あらかた片付けた。今日は奥だから大丈夫だろう。いや、もしかしたらもっと凄いのがあるかもしれない。・・死体とか。凄いよな、殺人犯って。死体を埋める穴を掘っている時ってどんなことを考えているんだろう。自分が悪いことをしたという思いはないのかね。
さて、死体は出てこなかったがある意味それより厄介なやつが俺を襲って来た。しかも2匹も!
「ぎゃーっ!」
それを見た俺は思わず叫んだ。いや大抵のやつは叫ぶだろう、だってマムシだぜ?噛まれたら死んじゃうくらいの猛毒を持っている蛇だよ。しかも怒っているのか俺に飛び掛ってくるんだもん!
俺は咄嗟に草刈機で蛇を払う。はい、周りに人がいたら俺が殺人犯になっちゃうくらい危ない行為です。でも死んだのは人ではなく蛇でした。凄いね、草刈機のブレードって。蛇を真っ二つにしちゃったよ。さすがは今日降ろし立ての新品だ。切れ味抜群である。
しかし、そんな俺の足首に違和感が走る。見るともう1匹の蛇が俺の足に噛み付いていた・・。思わず俺と蛇の視線が合う。蛇は勝ち誇ったように瞳をきらりと光らすが俺はふっと鼻で笑ってやった。
「中々いい連携だった。1匹を囮に俺の気を前方に反らしその隙に後ろから攻撃か・・。だが俺はチート持ちなんでね。それくらいじゃ倒せないよ。」
そう言って俺は足に噛み付いて離れない蛇の胴体をもう一方の足で思いっきり踏みつける。蛇は一瞬俺の足に巻きついて反撃を試みるが背骨を砕かれては幾程の力も出せないだろう。忽ち力尽き地面に横たわった。
あーっ、ここで残虐だとか動物愛護とかいうやつは代わってやるからここに来い!結局人間なんて自分ファーストなんだ。あんなにかわいいを連発しているパンダだって、もしも自分を襲ってきたら一発で殺そうとするのが人間さ。えっ、噛まれた足は大丈夫かって?ノープロブレム。だって長靴の上からだから。俺の長靴、草刈用の鉄板入りよ?銃弾だって弾き返すさ!・・それはないか。
しかし、本物のマムシなんて初めて見たな。いるとは言われていたがびっくりだ。俺は穴を掘りマムシを埋める。放置しておいて猫やカラスの餌になるのも可哀想だしね。いや、野性に生きる者としてはその方が自然か?まぁいい、殺害の証拠を隠滅するのは人間の本能だ。
しかし、その行いが天に見られていたのだろうか、その後天罰が俺を襲う。なんと草刈機の回転ブレードが外れて俺を襲ったのだ!
「うわーっ!」
高速回転するブレードを間一髪交わす俺!しかし何故かブレードはユーターンして俺目掛けて飛んでくる。
「なっ、なんだぁ~!」
俺は慌てた。だってブレードってブーメランじゃないのよ?アニメでもあるまいし何で戻ってくるんだよっ!
俺は駆け出してブレードの追跡から逃れようとする。しかしブレードの攻撃は止まらない。俺はすんでのところで木の陰に隠れた。
「何なんだあれは!」
俺は木の後ろに隠れたことにより少し安心しブレードの飛行ルートを予測できるようになった。ブレードは木の周りをぐるぐると回っている。いやはや、これはもう物理法則を無視しているね。もしかして蛇の怨霊が乗り移ったのか?
そしてブレードは意を決したのか一旦高く舞い上がり、木の後ろに隠れる俺目掛けて真っ直ぐ突進してきた。
「くそっ、高度差で加速をつけたか!」
う~ん、なんでこの時俺はこんな説明みたいな台詞を言ったんだろう?これがラノベなら思いっきり『ぷぷっ、説明ゼリフだせぇ~。』と読者に言われるところだ。
しかし、今はそれどころではない。直径30センチのブレードが俺目掛けて飛んでくるのだ。俺の隠れている木は太さが10センチ程度の若木だ。
「耐えられるか?」
判らない、しかし俺は若木の生命力に掛けた。草刈機の説明書にも直径1センチ以上のものは切らないようにと書いてあった。ならば余裕で耐えられるはずだっ!
そして説明書は正しかった。ブレードは3センチほど若木に食い込んだがそこで動きを止めた。
「ひゃ~っ、おっかねぇ!なんだったんだ一体。もしかしてこれも地球温暖化のせいか?」
うん、なんでも地球温暖化のせいにするのは良くないよな。反省しよう。
「お主はどこまで悪運が強いんじゃ・・。こうなっては最終手段を使うしかないのか。」
突然、俺の後ろで声がした。振り返るとじじいが立っている。なんかすごく悔しそうな顔をしているが、もしかしてじじいがなんかしたのか?
「よう、じいさんか。もしかしてずっといたのか?あぶねぇなぁ。まだマムシがいるかもしれないからこっちに来な。」
「うるさいっ!わしが毒蛇如きに噛まれるかっ!」
「いや、万が一噛まれると俺が色々言われるからさぁ。いいからこっちに来い!」
俺が語尾を強めて言うとじいさんはしぶしぶ草刈りの終わった場所に出てきた。
「お主さえ死ねば全て丸く収まるものを・・。」
何やらじいさんが物騒なことを言い出す。
「何だよ、まだ昨日の設定を引きずっているのか?あんまりひとつのプロットに拘ると話が止まっちまうぞ。昼になったら俺も一緒に考えてやるから車のところで待っていな。」
「はっ!そうか、そうゆうことかっ!」
俺の言葉に何故かじじいはひとり合点した様子だ。
「貴様っ!今まで良い事がひとつもなかったであろう!幸運を溜め込んでいるのだな!それで今回のわしの術を全て弾き返せたのかっ!くっ、神であるわしの術を悉くいなすとはどれほどの幸運を溜め込んでおるのじゃ!お主を普通の人間と見誤ったわしが愚かだった・・。」
じしいはなんか言いたい放題である。良い事がなかっただと?まぁ、確かにそうかも知れないが人と比較したことはないんでね、判らんよ。でもひとつもないは言い過ぎじゃね?
そしてじじいは俺に説明を始める。内容は、・・もうラノベだ。じじい、だからもうちょっと捻れって言っただろう。