死神との決着
そしてとうとうその時は来た。新しい会社にも慣れ順調に2年目を迎えた時、死神は数にものを言わせて会社の守り神様を攻撃してきたのだ。さすがの神様も数には勝てない。結局一旦退くことになったそうだ。そうなると死神はやり放題である。忽ち仕事がアクシデントだらけになった。俺はリューズを呼び出し相手の手の内を知ろうとしたが、何故かやつは現れない。
「あんにゃろう、まさか寝返ったか?」
いや、元々リューズは向こう側だからこの言い方は変か?そんな折り、俺のスマホにリューズからメールが届く。そう、やつとはメールで連絡を取り合っていたのだ。死神と言えど人間界の進歩には追随せねば取り残されるのだよ。
リューズからの内容はこうだ。
-我々の仲間が一大攻勢を掛ける兆しあり。戦力評価の打ち合わせをしたいので天空界に至急来られたし。・・チートはちーとね!な~んちゃって。-
うん、ちょっとふざけているよね。でもその言葉の裏に隠されている真意は真面目だ。リューズは今まで俺を呼び出したことはない。そして最後のなんちゃってである。これは冗談で言っているのではない。嘘だと言っているのだ。つまり、これは俺を誘い出すためのメールだから無視しろと警告してきたのだ。
つまるところ、リューズも向こうで微妙な立場に置かれているのだろう。もしかしたら俺との繋がりがバレてメールを強要されたのかも知れない。しかし、このまま放っておいても事態は収まらない。死神たちがやる気なら相手になるまでだ。どうせ何時かはぶつかるのである。こちらはひとりだから準備など要らない。孤立無援ではあるが、そこは人間様の底力でねじ伏せてみせるさ。
俺は千里へ今日のデートはちょっと駄目になったとメールを入れる。そして気合一発!天空界へと飛んだ。
そこは暖かな日差しに照らされた天国でもなく、かと言って暗く禿山と亡者がいる地獄でもなかった。明るさこそあったが本当に何も無い世界である。そんながらんとした空間に死神だけがぽつんといた。いや、これだけの数がいるとぽつんと言う言い方はおかしいな。そこはほぼ見渡す限り死神だらけだ。
そんな中、一体の死神が鎖に繋がれて転がっていた。リューズである。成程、やはり、俺とリューズとの関係が他の死神たちにバレたんだな。しかし、言い訳なんざ幾らでも出来ただろうに寝返らなかったのか・・、お前も男だねぇ。刻印なんざただの飾りだって、もうお前だって知っているだろうに。
「何だ、仲間割れの最中か?お前ら本当に行動が中二だな。いや、粛清と称して仲間を処罰するのは共産主義か?どちらにしても底が浅すぎだ。お前たちの相手は俺だろう?ぷっ、もしかして俺が怖すぎて手を出せないから弱い者イジメをしていたのか?ぷぷぷっ、かっこわりー!」
俺は死神たちの気をリューズから反らす為、やつらをからかう。しかし、やつらは乗ってこなかった。
「ほざけ、人間。出来損ないの神から授かったチートを持っているからと言って付け上がるのも大概にしろ。そんなものはいくらでも対策が出来るのだ。試してみよ!この空間ではチートは発動できない。チートの使えぬ人間など我々にはゴミ同然だ。己が慢心を悔やんで地獄へ落ちるが良い。」
何言ってんのこいつ?俺はそのチートを使ってここに来たんだけど?ブラフも程ほどにしないと恥をかくぞ?しかし、やつの言葉は張ったりではなかった。聖剣エックスリカバリーもフルプレートアーマーも出現しない。その他のチートも発動しなかった。
「くくくっ、判ったか。もはや貴様は俺Tueeではない。吹けば吹き飛ぶ小ざかしい人間でしかないのだっ!」
「成程・・、よく判ったよ。秘密兵器ってやつは使ったら最後、秘密兵器じゃなくなるんだな。では新たなルールだ。勝負は1対1のタイマンだ。但しそっちは3人まで用意していい。まさか、吹けば吹き飛ぶ小ざかしい人間相手に、みんなで掛かるほどお前たちも落ちぶれてはいないだろう?」
俺の言葉に死神はムっとしたようだ。しかし、やつらにも常識はあるのだろう。俺の出した条件を飲んだ。
「ふんっ、最後のあがきか?いいだろう、もっとも一撃で沈めてやるがな。いや、それでは我々の気がすまん。やはり時間を掛けてじわじわといたぶってやるわっ!」
「ふっ、詰めが甘いな。数に奢って大事な事を忘れているぜっ!戦いってのは気合なんだよっ!雑魚は何匹集まったって雑魚なんだっ!今度はチートなんざ使わねぇ。人間としての俺の全てをぶつけてお前たちを倒すっ!俺に叩きのめされて自分のアホさ加減を後悔するんだなっ!来いっ!」
うんっ、使わないんじゃなくて使えないんだけどね。言葉ってやつは言いようだ。俺はファイティングポーズを取って身構える。いや、格闘技なんか習った事はないんだけどね。でも張ったりは大事だよ?
「人間風情がっ!行けっ!」
俺と話をしていたリーダー格らしき死神の号令に、ひとりの死神が俺の前に進み出た。
「ちょっと待ったっ!お前らみんな同じじゃねぇか。誰が誰だかわかんねぇよ。俺とやるやつは、ちょっと印をつけろっ!」
「印だと?」
「そうだ、万が一不利になったからと言って群衆に飛び込まれたら俺、わかんねぇじゃないか。それに仲間と交代するのもルール違反だからな!そうだな、骨に色を付けろよ。俺の世界では5色に色分けするのがメジャーだぞ?あっ、でも3人しかいないか・・。何だったら5人に増やすか?」
「ほざけっ!おいっ、お前は黒だっ!お前は赤っ!わしは金色だっ!」
リーダー格の死神の命により俺と対戦する死神たちがそれぞれ指定された色に変わる。ほうっ、ペンキを塗る訳じゃないのか、お前ら本当に便利だな。
「う~んっ、金色はちょっと既存のアニメと被るなぁ。まっ、いいか!きなっ、真っ黒やろうっ!」
俺の挑発に黒死神がダッシュで飛び掛ってきた。しかし、やつの大鎌は俺の急所を狙っていない。まずは足を切断して動きを止めようとしているらしい。成程、時間を掛けてじわじわね。
しかし、狙ってくるのが判っていれば避けるのは容易い。俺はひらりと大鎌をかわして黒死神の顔に蹴りを喰らわす。さすがにチートによるインチキ馬鹿力ではないので砕けることはなかったが、それでもやつは体勢を崩した。そこに俺の右ストレートが炸裂する。黒死神は頭蓋骨を削られながら後にふっ飛んだ。
「なっ、馬鹿な!やつはただの人間のはずだぞっ!」
「ボクサーだったのか?いや、そんな記録はないっ!」
周りで見ている死神たちが口々に驚きの声を挙げる。ふふふっ、驚いたかね、死神ちゃん。そう、俺だってちゃんと準備はしてきたのだよ。リューズからのメールにはチートはちーとねとあった。これはチートが使えないというリューズからのメッセージである。でも、それは天空界内だけの事で現世までは影響しないのだ。
俺は現世にて、これでもかと言うほど肉体強化チートを自分に掛けた。暗器もしこたま仕込んできたのだ。このメリケンサックだってそのひとつである。チートである聖剣エックスリカバリーの攻撃ですら凌ぐ大釜相手にメリケンサックでは不利と思うかも知れないが、それも対策済みだ。俺はやつらにタイマンで勝負しろと言った。タイマンとは1対1という事だが、同等の勝負と言う意味合いもある。つまり、やつらは知らず知らずに俺と同等の能力で勝負する事を了承してしまったのだ。
大鎌の斬れ味は凄まじいものがあるが、それを振るう死神の動きは俺と同等。ならば受けさえしなければ傷を負うこともない。ビームなんて出したらその時点で死神の負けである。かかかっ、見たか人間様の狡猾さをっ!誰が相手の土俵で戦うかってんだっ!結局、頭のいいやつが最後は勝つんだよっ!
「貴様っ、計ったなっ!」
「謀略はお前たちだけの専売特許じゃないんだよっ!」
俺はそう言うなり黒死神に止めの一撃を喰らわす。・・喰らわしたんだけど、ちょっと弱かったみたいだ。黒死神は何とか持ち応えやがった。
「けっ、結構根性あるじゃねぇかっ!いいだろう、その根性に免じて次の初手は譲ってやるっ!きなっ!」
俺はわざと相手を煽る。このまま連打で押しても良かったが、俺は後ふたり相手にしなくちゃならないからな。あまり手の内は晒したくないのだ。
「こしゃくなっ!如何に能力が同じでもこの大鎌には抗えまいっ!叩き斬ってくれるわっ!」
黒死神は大きく大鎌を振り上げると俺に向かって振り込んできた。でもこれはフェイントだ。やつの踏み込みが半歩遠い。多分俺にかわされる事を承知で大鎌を囮にしてきたのだろう。となるとやつの本命は大鎌を避ける為に体を捻った俺への右ストレートか?
案の定、やつは振り下ろした大鎌を放り出して俺に拳をぶつけてくる。
「あまいっ!」
俺はやつの右腕を掴み、やつの勢いを使って背負い投げをぶちかます。そのまま腕を固めて関節を砕いた。
「がっ!何のこれしきっ!」
そうだった・・、死神って痛覚がないみたいだからあんまり地味な技って効かないんだった。俺は左腕を支点に立ち上がろうとする黒死神の腕に足払いを掛け、バランスを崩して再度地面に転がった黒死神の頭蓋骨を踏み砕く。俺の靴は重工事用の鋼鉄入りだからな。こうゆう時はほぼ凶器だぜっ!
俺に頭蓋骨を砕かれた黒死神はそれでも立ち上がろうともがいているが、勝負は誰の目にも明らかである。
「まずはひとり抜き・・、でいいよな?」
肩で息をしながら俺は黄金バッド・・、もとい、金色の死神に問う。
「くっ、ひとり倒したくらいでいい気になるなっ!行けっ!」
キンキラ死神の号令に赤死神が前に出る。やつは初めから得物を大鎌から剣に変えていた。しかも二刀流だよ。宮本武蔵は天空界でも人気なのか?
ならばと俺は佐々木小次郎を気取って長剣を出したいところだが、生憎持って来ていない。仕方がないので俺は作業着の下からモンキーレンチとハンマーを取り出した。たかが工具と侮るなかれ。これはダマスカス鋼で出来た特注品だ。死神風情が持っている大量生産品とは違うぜっ!
はい、嘘です。普通の工具です。でもJIS規格品ですから品質は確かです。でも規格としては死神印の剣の方が上でした。ハンマーは厚みがあったので何とか凌げたけど、モンキーレンチは紙みたいに切断されてしまった。あれ~?何かズルくね?どこが対等なんだ?
「くくくっ、そんなもので防げると思ったのか。次はその胴っ腹を切り裂いてくれるわっ!」
赤死神は俺の得物がしょぼい事を知ると一旦口上を述べる為に退いた。馬鹿めっ、その余裕が命取りなんだよ。
そこで俺は本当の切り札を出す。それは何と鉄の棒である。だけどこれは本当にすごいのよ。何とチタン製である。しかもダイヤモンドコーティングまで施されているのよ。カタログデータには20トンのプレスにも耐えられるって書いてあったぜっ!
赤死神は俺の得物の実力が判ったのだろう。先程と違って軽口も言わない。ただ慎重に俺との間合いを探っている。そして俺がフェイントで横に動いた隙を狙って斬りかかって来た。
「でやーっ!」
俺はやつの左だけに集中する。二刀流に対して両方に気を配っては、どっちつかずで結局押し切られる。ならば片腕はくれてやるつもりで打ち込まねば駄目だ。但し、左は全身全霊でぶった斬るっ!
そしてやつは失敗した。二刀を同時ではなく右を囮として使ったのだ。哀れ俺に無視された右の剣は俺のわき腹を浅く斬るに留まった。そして本命の左はチタン棒に弾かれてあっさりと宙を舞う。俺は上段から赤死神の頭蓋骨目掛けてチタン棒を振り下ろす。
「ぎゃっ!」
頭蓋骨をぐちゃぐちゃにされた赤死神は、まともな悲鳴も上げられずに地面に伏した。
「はぁ、はぁっ。こっ、これでふたり・・。」
俺はチタン棒を支えに膝を付き呼吸を整える。
「ふっ、大分息が上がっておるな。所詮人間よ、輝けるのは一瞬だけだな。」
肩で息をする俺にきんきら死神が憎まれ口を叩きながら進み出た。
「はぁ、はぁっ。ちょっと休憩しないか・・。トイレタイムでもいいんだが・・。」
「ほざけっ!どこの世界に戦いの最中に休憩をするやつがいるかっ!」
うんっ、まぁそうだよな。どれ、しょうがない。やるとするか・・。
俺はチタン棒を支えに立ち上がりラスボス戦に突入した。




