常に全開っ!それが青春っ!
そんなこんなで俺たちは今、河原のキャンプ場にいる。成程、夜雲が薦める訳だ。これぞ自然と言った感じの場所だね。秋になったらあの楓なんか真っ赤なんじゃないのか?しかもキャンプ場だから水場とトイレも完備している。これなら女の子たちも安心だ。さすがにフロはなかったけど今は夏だからね。水浴びすればさっぱりさ。
夏休みとはいえ、今日は平日なので俺たち以外ではそれ程ここを利用している人はいない。ぱっと見、6グループってとこか。まっ、殆ど貸しきり状態だ。いや、まだ午前中だから後から来るのかも知れない。そうゆう事で俺たちは一等席と思われる場所にテントを張った。
「あーっ、だめだ駄目っ。テントを立てる前に下の石をちゃんと取り除くんだ。」
兄ちゃんがとっととテントを建てようとする俺に注意する。いや、俺たちはそんな御伽噺に出てくるお姫様じゃないんだから気にならないと思うんだが・・。セミプロは拘るねぇ。
テントは大人用がちゃんと2つ用意してある。女性用と男性用だ。ここいら辺は兄ちゃんはきっちりしている。残念ながらハプニングは起こりそうもない。
その後、俺たちは昼飯の準備に取り掛かる。火を起こしてバーベキューだ。これは前日に下ごしらえをしておいたから焼くだけである。だから忽ちやることがなくなった。昼にはまだ少し早い。そんな俺たちを見て玲奈さんが気を利かせてくれた。
「火は私たちが見ているからあなたたちは川で遊んできなさいよ。ここの川ってすごくきれいだから、きっと気持ちいいわよ。」
「えっ、でも・・。」
「あーっ、構わないから行っておいで。正し流れの速いところには行くなよ。」
「そうですか、それじゃお願いします。」
亜里沙たち女の子は一応遠慮したが兄ちゃんの言葉に押される形で踏ん切りがついたようだ。そそくさとテントの中へ水着に着替えに行った。
「佐野輔、覗くんじゃない。」
覗いてねぇーっ!いや、覗いてないよ。ちょっと後ろからシルエットを見ていただけだから・・。
兄ちゃんにからかわれつつ俺と夜雲も海パンに着替える。まぁ、俺たちは海パンだけだから忽ち着替えは終了だ。でも女の子たちは中々出てこない。くーっ、気を持たせやがるぜっ!
でもテントから出てきた千里を見て俺は落胆する。何でパーカーなんか羽織っているんですかーっ!それってお預けプレイですかっ!くすんっ、まぁいいや。太ももだけでもガン見してやる!
「ちょっと上流に流れの穏やかな場所があるんだ。そこもちゃんと遊泳可能範囲だから行ってみよう。」
夜雲の誘いに俺たちは歩き出す。そんな俺たちに玲奈さんが声を掛けてきた。
「2時間くらいで戻ってくるのよ。後、あんまり長く水に浸かっちゃ駄目だからねぇ。」
「は~い!」
千里たちは手を振って応えた。うんっ、おかげでパーカーがずり上がって漸く可愛らしい千里の水着が見れたよ。ほうっ、色はグレーですか。中々渋い色を選択するじゃないか。亜里沙のはどうでもいいけど白だった。
「ほら、あの大岩から昔飛び込んだんだ。そしてあっちの岩の上で甲羅干しすると冷えた体が暖まって気持ちよくてね。」
夜雲が嬉しそうに説明してくる。成程、確かに水遊びには最適な場所だな。こりゃ、小学生あたりなら堪らん場所だ。
「千里って泳げたっけ?」
「うーっ、ちょっとだけ・・。」
「あの大岩の前だけは深いけど、後は俺たちなら背が立つから心配しなくていいよ。」
夜雲の説明に千里は安心したようだ。でもそんな夜雲の態度に亜里沙が嫉妬する。でもさすがは夜雲だ。ちゃんとフォローを忘れない。
「亜里沙は俺が見ているから大丈夫さ。でもあんまり離れるなよ。」
「えっ、うんっ!わかったっ!」
「あー、千里も俺が見ているから安心しろ。」
「お前は本当に見ているだけだろう?というかお前の場合は、見惚れているって言うんだよ。」
「なにおーっ!」
夜雲の軽口に亜里沙が笑う。でも千里は顔が真っ赤だ。う~んっ、可愛いねぇ。
「まっ、佐野輔がぼけっと見惚れていても大丈夫さ。ほら、下流のあそこにロープが渡されているだろう?いざとなったらあそこに掴まるんだ。まぁ、流されても下の浅瀬に乗り上げるように流れが調整してあるからそんなに心配しなくても大丈夫だよ。」
ほう、確かに流れが不自然に曲げられているな。そうか、そんなところまで考慮してあるんだな。さすがはキャンプ地だ。抜かりがないぜ。
その後、俺と夜雲は大岩からの飛び込みにチャレンジする。段差自体はそれ程でもないんだがそれでも2メートルはあるだろうか。実際に大岩の上に立つと身長分が足されるので結構な高さに思え、ちょっとビビる。しかし、千里の手前、尻込みは出来ない。俺はちょっとズルをして足から飛び込んだ。
透明な水の中は日の光が満遍なく届いて明るい。俺が飛び込んだのに驚いたのだろう。川魚たちが右往左往していた。すまんね、君たちの場所だったのか。でも少しだけ俺たちにも使わせてくれ。
そんな俺のすぐ脇に夜雲が頭から飛び込んでくる。やつはそのまま川底を這うように上流に向かい川面に頭を出した。成程、飛び込んだ勢いで上流に向かえばそのまま大岩の上り口に着くのか。さすがは経験者だ。俺もやってみよ~。
そんな俺たちを千里たちは川岸から見ている。亜里沙は夜雲の雄姿をカメラに収めるのに大忙しだ。あっ、千里も撮っていいからね。えっ、別にいいの?
「千里も来いよ、水が冷たくて気持ちいいぞぉ!」
「う、うん・・。」
俺に誘われ、千里は漸くパーカーを脱いだ。おーっと、これは失敗だ。もっと近くで誘うんだった。待てっ!千里。今行くからなっ!
俺は凄まじい水しぶきを上げながら川を横断しようとする。しかし、如何に流れが緩やかとはいえそこは流れのある川である。残念ながら俺は千里の5メートルも下流に泳ぎついた。
「大丈夫?佐野輔くん。」
千里が心配したのか駆け寄って来てくれた。おおっ、おっぱいがっ!千里のおっぱいが目の前にあるよっ!いやいや、これくらいでうろたえてはいかんっ!俺は童貞じゃないからなっ!でもやっぱりおっぱいはいいなぁ。水着越しだけど・・。
「はははっ、何のこれしき!いくぞ、千里!俺が手を繋いでいるからお前もちょっと潜ってみろっ!すげー、きれいだぞっ!」
「うんっ!」
千里は伸ばした俺の手をちょこんと握る。俺はそれをぐっと握り返して千里を引っ張る。ぐわーっ、水は冷たいのに体が沸騰しそうだ。なんだこれはっ!俺って自称人生経験年齢44歳なんだけどこんなんでいいのかっ?ウブすぎるぅ。
その後、暫く水遊びをしていると、別の子供たちがやって来たので俺たちは場所を譲る。そして夜雲イチオシの岩の上で冷たくなった体を温めた。これがまた気持ちいいんだ。俺たちは4人で川の字に並んで岩の温もりを堪能する。
「いや~、ここにして正解だった。」
「そうだろう?でも車の件は忘れていたからな。頼朝さんに感謝だ。」
「まっ、兄ちゃんは別の思惑があったみたいだからな。」
「玲奈さんのこと?」
「いやはや、びっくりだ。兄ちゃん、今までそんな素振りなんか全然なかったからな。」
「ふ~ん、でも卒業してからもずっと付き合っていたって言っていたよ。」
「まぁ、日曜なんかは結構出歩いていたけど男友達とばかり思っていたからなぁ。まさか、玲奈さんとデートしていたとは・・。兄ちゃん、何で隠していたんだろう?」
「いや、お前が単に鈍感だったんじゃないのか?普通、気付くだろう?」
「う~んっ、気付かなかった・・。」
「まぁ、佐野輔だものね。しょうがないわ。」
「でも、改めて紹介したって事は何かあるんでしょうね。」
「えっ・・、うおぉぉっ!もしかして俺に姉さんができるのかっ!」
「玲奈さん、いい人だから良かったね。」
「くーっ、あのママっ子がまさかの電撃結婚とはっ!」
「えっ、お兄さんってそうだったの?」
「小さい時なんか、俺がお袋とじゃれていると後で苛められたくらいだからな。」
「あはははっ、それって弟のいる小さいお兄さんたちなら普通じゃないの?」
「いや、あの目は本気だった。俺は忘れないぜっ!」
「はいはい、仲のいい兄弟で良かったわね。」
亜里沙が混ぜっ介すと暫く俺たちは無言になった。
「結婚かぁ、いいなぁ。」
突然千里がぽつりと呟く。多分意識して呟いたのではないだろう。言ってから気付き、思わず顔を真っ赤にして下を向く。俺はどう返していいか分からずスルーしてしまった。でも内心では理解できた。そうだね、女の子にとっては一大事だからな。でも、今の俺ではまだ駄目だ。俺は死神持ちだからな。あいつらを何とかしないと千里を幸せには出来ない。
「そろそろ時間ね、戻りましょう。」
そんな微妙な空気の中、亜里沙が気を利かせて話題をすり替えてくれた。
「おうっ、そう言えば腹がぺこぺこだ。戻るか。」
夜雲も亜里沙の言葉で立ち上がる。そして俺たちは4人で兄ちゃんたちの元へ帰った。帰り道、俺は千里の手を握る。多分、体が温まったせいだろう。千里の手はとても熱かった。まっ、俺の手も同じだったんだろうけどね。
その後、俺たちはバーベキューを堪能し、男たちは腹がいっぱいになったので昼寝としゃれ込む。女の子たちはお喋りに夢中だ。そして一眠りして元気になった俺たちは、また川遊びに繰り出す。今度は兄ちゃんたちも一緒だ。俺はカメラマンとしてこの素晴らしい時を後世に残すべく千里を激写する。
うんっ、ちゃんとお袋たちに報告する為に玲奈さんも撮ったよ。でも、玲奈さんてノリが良過ぎだ。全部の写真にピースサインだぜっ!お袋たちどう思うだろう・・、というか水着写真でいいのか?
そんな感じで遊び呆けたので夕食はレトルトのカレーです。ご飯は昼に炊いて置いたのをクーラーボックスに入れておいたから本当に手間が掛かっていない。でもこれが何故か美味いんだっ!やっぱり感覚って環境に左右されるんだな。いや、腹の空き具合か?
夕食を済ますと俺たちはキャンプ場の端っこで夜空を見上げた。うんっ、いつもはそれ程、気にしていなかったけど星って沢山あるんだな。あれが天の川かぁ、本当に帯状になっているよ。しかし、星座ってやつは判らんな。どれがどれなんだ?えっ、あれとあれを結んでさそり座?う~んっ、見えない。昔の人って想像力が逞し過ぎやしないか?
「星がきれいですね。」
「うんっ、きれいだ。」
「ちょっと怖いくらいです。」
「うん、そうだね。」
俺はもっと気の利いた言葉を言いたいのだが出てこない。仕方なく、千里の肩を抱き寄せてふたりで星空を眺め続けた。まぁ、邪魔なやつらが4人ほどいるが、それぞれ勝手にやっているようなので気にしない。
今日は月もなく本当に夜空が大きく見える。いや、感じると言った方がいいのかな。あんまり見ていると吸い込まれるような感覚を覚えた。俺は堪らず千里の肩を強く握ってしまう。そんな俺に千里は頭を預けてくれる。多分千里には俺の心臓の音が聞こえているだろう。俺の腕は千里の体温を感じている。
そうか・・、世界がこんなに孤独だから人は寄り添うんだな。今と違って昔は明かりなど無かったはずだ。全ては闇に包まれている。そんな中、僅かに輝いているのは満天の星たちだ。だから人は星に願う。
幸せになりたい・・と。
まぁ、こんないいムードもいつまでもは続かない。無粋な兄ちゃんの言葉でお開きとなった。
「さて、星も見飽きたし寝るとするか。」
兄ちゃんっ!玲奈さんの横でその台詞かよっ!
まぁ、実際夏の星空も満喫した事だし、ウブな高校生カップルたちは後ろ髪を引かれつつもテントで寝ることにしよう。そして兄ちゃんは早起きと運転の疲れからさっさと寝てしまう。隣の女の子たちのテントからは時々キャーキャーと奇声が聞こえた。こらっ、あんまり騒ぐんじゃありません。他にも寝ている人が・・あんまりいないか。ならいいか・・。くっ、いいなぁ、何を話しているんだろう?俺も混ざりたいぜっ!




