やり直しの総決算!
亜里沙の夜雲へのラブラブ具合は、はっきり言って見ていてウザい。あれから1年以上経っているのに未だにテンションがマックスのままだよ。しかし、それに付き合う夜雲もすごいね。よくもまぁ、嫌にならないもんだ。
夜雲君、君のお袋さんの病気の原因を取り除いたのは俺だからねっ!確かに亜里沙は献身的に看病したけどあの解毒剤を亜里沙に渡したのは俺だからっ!
そう、あの後俺は死神から受け取った解毒剤を亜里沙に渡した。俺から夜雲に渡しても良かったんだけど、ちょっと演出をしたのよ。溺れる者は藁をもすがる。夜雲は試せるものなら何でも試す気だったのだ。一度など首都圏の総合病院へ連れて行こうとしたくらいらしい。もっともお袋さんに諭されて諦めたみたいだが。
そこへ亜里沙が親戚のばあさんから貰ってきたと言って薬を届ける。後は毎日毛利家通いだ。しかも日に日にお袋さんは体調が良くなる。これで感謝しないやつは人間じゃないだろう。実際、夜雲は泣いて亜里沙にお礼を言ったらしい。
俺は亜里沙に絶対俺からだとは言うなと口止めしていたので亜里沙は心苦しかったようだが、物事知らなくていい事も沢山あるんだ。夜雲のお袋さんは薬で治る。だけど心労を溜め込んだ夜雲を慰めるには亜里沙が隣にいるのが一番なのさ。
それにしても、死神ってやつらはろくな事をしないぜ。俺が知らないだけで結構世間ではあいつらって暗躍しているんだろうか?もっともその原因は人間側に隙にあるんだろうけど・・。
あれから1年。俺たちは無事3年に進級した。そして高校も3年になると一番の感心ごとは進路だ。俺は夏休み前の進路希望書に『就職』と書いて提出した。
「なんだ、お前は進学しないのか?何かやりたいことでもあるの?」
「んっ、まぁね。」
夜雲が俺の進路用紙を見て話しかけてくる。まぁ、今の俺の成績なら中レベルの大学なら確実に合格できると思う。これからスパートを掛ければ一流大学だって夢じゃないかも知れない。だけどこれは全て前回の記憶と経験があってこそのがんばりだった。
でも前世の記憶を持って別ルート?やめてくれ、そんなズルをして何になるんだ?確かに高校は夜雲と一緒にいたくて前回とは別のルートを選んだけど、ここからは本当のやり直しだ。社会には死神以上のゲスやろうが沢山いる。愚図田なんてその中のひとりに過ぎない。
俺は死神と・・もとい、社会の冷たい荒波とガチンコで勝負して今度こそ勝つんだ!今度の俺は前とは違うぜっ!何たって自称人生経験年齢44歳だからなっ!・・うん、44歳で再挑戦してまたニートになったらどうしよう・・。ああっ、考えるだけで暗くなるよ・・。
でも明るいニュースだってあるさ。何と千里がこっちの大学を受験するそうだ。千里は俺が大学に行かないと聞いてがっかりしていたらしいが、俺の就職希望先が県内と知ってこちらの大学を志望したらしい。いや~、俺ってモテモテじゃんっ!でも俺って死神持ちだからなぁ。
千里が希望した大学は県内でも指折りの国立大学だ。夜雲も亜里沙もその大学への進学を希望していた。俺だってがんばれば受かるかも知れないけど、俺の信念は固いのよ。このままおもしろおかしく生きていく訳には行かない。前回のケリはきっちり付けさせて貰う。
いや、別にあのブラック企業に就職するつもりはないのよ?でも今って不景気だからさ、どこも同じ様な気がするんだ。もしかするともっとハイグレードな労使問題が待ち受けているかも知れないしな。うんっ、強制残業のやり過ぎで自殺しちゃうようながんばりは止めよう。人生生きていればこそのモノだねだからな。
さて、そんなこんなで高校生活最後の夏休みだ。今回は何と千里が亜里沙の家に遊びに来たよ。いや、目的は俺に合う為なんだけどね。でもさすがに俺の家には泊められない。そこで亜里沙が気を利かせてくれたらしい。うんっ、さすがは亜里沙だ。ちゃんと恩義を感じているな。よしよしっ!
「2年ぶりですね、佐野輔くん。」
「おうっ、久しぶりだ。紹介するよ、こいつが夜雲だ。」
俺は千里に夜雲を紹介する。当然その逆はなしだ。何たって夜雲は色男だからな。俺は危ない事はしないのさ。
「あっ、わっ、私は・・、その、佐野輔くんの・・。住吉 千里ですぅ。」
千里はどうしてもある言葉が言えないらしい。がはははっ、どうだ夜雲っ!俺の彼女は奥ゆかしいだろうっ!でも夜雲はこうゆうのに慣れている。全くモテ男はそつがないね。
「話には聞いているよ。と言うか佐野輔はちょっと気を抜くと君の話ばかりさ。しかも全部彼女自慢ばかりでね。」
「かっ、彼女だなんて・・。」
うんっ、そこは照れなくていいから。中学の時は年齢的にアレだったんで別れる事にしたけど、今や俺も18歳だからなっ!来年はいっちょ前に稼げるようになるはずだ。そう、自立するのさ。そしたら親の都合なんて関係ない。自分の気持ちに素直になれるんだっ!
「おうっ、なんだこのやろうっ!人の彼女に色目を使うとはふてぇやろうだっ!成敗してやるっ!」
俺はふざけて夜雲を上段から斬り裂く仕草をする。
「何お前が照れているんだよ、久しぶりに彼女に会って舞い上がっているのか?」
「きゃっ、か、彼女だなんて・・。」
うんっ、千里はもう顔が真っ赤だ。やっぱり言葉ってすごいんだな。俺も内心ドキドキだぜ。
「ねぇ、久しぶりで舞い上がっているとこ悪いんだけど、ちょっとここは暑いわ。早く家に行きましょうよ。」
俺たちのやり取りを脇で聞いていた亜里沙がとうとう口を出してくる。くくくっ、亜里沙も内心モヤモヤしているのだろう。夜雲が別の女の子と仲良くしているとこいつは癇癪を起こすからな。まぁ、今回は千里だからそんな事はないんだろうけど、それでも心中穏やかではいられないらしい。本当にこいつは夜雲にぞっこんだな。
「そうだな、その前に何かお土産を買って行こう。」
「あーっ、そんなのいいって。別に知らない仲じゃないんだから。」
俺は夜雲の言葉にいつもと違う仰々しさを感じる。何だ?俺たちってそんな仲じゃないだろう?
「お前にじゃないよ。おばさんたちへさ。」
「あっ、お、お土産なら私が買ってきましたっ!」
そう言って千里は紙袋を差し出す。成程、夜雲はこれを千里に言わせたくてわざと言ったんだな。千里がお土産を出しやすくしたんだ。ふんっ、全くこれだからモテ男は苦手だっ!お、俺だって気付いていたんだからなっ!
その後、俺の家に着くと畑から帰ってきた兄ちゃんたちと玄関先でかち合う。そしてまたまた紹介タイムが始まってしまった。
「あっ、わっ、私は・・、その、佐野輔くんの・・。お久しぶりです、住吉 千里ですぅ。」
うんっ、さすがに俺の両親相手に彼女ですとは言いずらいよな。俺だって千里の親には言えないよ。
「まぁ、千里ちゃん?いつこっちに帰ったの?あっ、夏休みだけなの?」
そう、お袋は千里を知っている。兄ちゃんも会った事があるはずだ。でも親父は初めてかな。
「ああ、亜里沙の家に暫く泊まるんだ。でも来年はこっちの大学に進むから戻ってくるよ。」
「まぁ、そうなの!それは良かったわねぇ。ウチの佐野輔も大学くらい行きなさいって言っているんだけど頑として聞かなくてねぇ。千里ちゃんからも言って頂戴。」
「はっ、はいっ!」
お袋との会話に千里はテンぱりだす。うん、そりゃ緊張するよな。何たって千里だし。
「お袋、早く昼飯を出さないと兄ちゃんが拗ねるぞ。」
「えっ、ああ、そうね。あなたたちご飯は?」
「軽く済ませてきた。どうせ後でまた街に繰り出すからその時食べて来るよ。」
「そう、ならまたね、千里ちゃん。ゆっくりしていってね。」
そう言ってお袋は台所に消えていく。千里も漸く落ち着きを取り戻した。
「千里、あなた少し意識し過ぎなんじゃないの?」
亜里沙が千里に声を掛ける。おいおい、お前がそれを言うのか?お前なんか夜雲のお袋さんに初めて会った時なんか硬直していたじゃないか。
「う~っ、だってぇ~。あーっ、緊張した。あっ、お土産っ!」
「あーっ、いいって。後で俺が渡しておくよ。それよりさっさと話をまとめよう。」
そう、今回俺たちは高校生活最後の夏休みと言うことで日帰りの旅行を計画していた。そこに千里が飛び入りしたわけだ。今日はその計画をまとめるべく集まったのだが、何故か行き先で俺と夜雲の意見が合わない。俺は断然海を押したんだが、夜雲は川でのバーベキューを譲らないのだ。
何でも子供の頃に親と行った場所の思い出が素晴らしかったらしい。だが、俺にも譲れない思いがある。それは水着だっ!せっかく千里が来ているんだからこのチャンスを逃す訳には行かないっ!
俺の体は既にピュアだった中学時代とは違うのだっ!ああっ、千里の水着姿を見てみたいっ!くーっ、デジカメの記録媒体を買い足しておかねばっ!いや、いっその事カメラを高性能なやつにするか?いやいや、ここはビデオ動画という手もあるんじゃないか?ぐわ~っ、金が足らんぞっ!
そんなこんなで夜雲と俺はお互い譲れない戦いを繰り広げる。一旦は俺の気迫に押されて海に決まりかけたが、亜里沙の一言でキャンプになりました。その一言とは?
「あっ、この川って泳げるらしいわ。千里、水着持って来た?」
うん、千里の水着姿が拝めるなら場所はどこでもいいや。




