アホの気持ちは計り知れない
しかし、死神が自律機に止めを刺すため弾幕を集中した隙を俺は見逃さない。死神用の強烈な一発をお見舞いしたぜっ!
「降り荒れろっ!強酸性雨っ!ペーハー1!」
これははっきり言って俺のフルプレートアーマーにもきつい。何たってペーハー1だぜ?この侵食性に耐えられるのは金くらいじゃないのか?
「ぐおぉぉっ!」
案の定死神のやろうは悶え苦しんでいる。がははははっ、ほれほれ、骨がみるみるうちに溶け出しているぞっ!あーっ、マントなんか役に立たないって。うわっ、やばいっ!俺の方も浸食が進んできたよっ!こらっ、早く降参しろよっ!こんな時にがんばるなっ!
「いいのか?あんまり強情を張ると本当に溶けちまうぜ?」
俺は自分の状態を棚に上げて死神に余裕をぶちかます。いや、実は余裕なんか全然ないんだけどさ。自律機なんか既に溶けてとろとろだよ。さすがパッチもん。安全基準が満たされていなかったんだね。
「ぐっ、わ、判った。降参する・・。」
死神の言葉に俺はすぐ様反応する。
「流しされっ!弱アルカリ性雨っ!ペーハー9!」
本当は中性の水で洗い流したかったんだけど、周りに溜まった酸性雨を中和しておかないと危ないからな。物事なんでもやり過ぎは駄目です。後始末が大変だよ。
そして漸くピリピリした感覚がなくなった時点で俺は死神を拘束する。
「スレイブ・チェーンっ!」
これは相手を奴隷化するチートだ。まっ、精神的なものではなく肉体的に縛り付けるだけの拘束具だけどね。死神って骨しかないからサイズ的には子供用にしたけど強度的に心配なので首と胴体と手足それぞれに3重に括りつけた。
死神のやろうはそれを見て内心ニヤっと笑っただろう。見た目は厳重にしたけど、実は強度はわざと落としたのだ。正し胴体の1本は最強にしてある。やつが反意を持って動いても初動は抑えられるはずだ。そんな事をしやがったら今度こそ首を刎ねてやる。こいつら死なないから話を聞くだけなら口だけあればいいんだよ。全く死神ってやつは変な生き物だね。いや、こいつら生き物なの?ん~っ、判らん。
いや~っ、しかし今回は危なかったわ。うんっ、ライオンはウサギを狩る時も全力の精神を忘れていたぜっ!でもチート持ちって多かれ少なかれそんなところがあるよね。全く初心を常に忘れるべからずだな。
「さて、決着も付いた事だし喋って貰おうか。お前あそこで何をしていた?」
「くっ、お前には関わりない事だ。」
「いや、そうじゃなくてさ。何をしていたかって聞いているんだよっ!」
俺はチート能力で死神のやろうに痛覚をプレゼントする。そして足の小指を思いっきり踏んづけた。
「ぎゃーっ!」
死神は多分初めて痛さと言うものを体験したのだろう。足の小指を擦りながらごろごろと転げまわる。
「な?痛いって感覚は凄まじいだろう。だからお前もとっとと喋れよ。拷問って段々レベルが上がるからな。我慢するだけ損だぞ。」
「くっ、ゲスがっ!」
死神が俺にどく付く。いや、お前たちには言われたくないんだけど?
「はいはい、ゲスで結構。でも俺は俺の周りの人たちを守る為なら何でもするよ?人間の思いってやつを舐めるなよ。」
そう言って俺は再度死神の足の小指を思いっきり踏んづけた。
「ぎゃーっ!わっ、判ったっ!喋るからやめろっ!」
何だ、喋るのかよ。根性ねぇなぁ。ラノベの脇役なんて火あぶりにされても喋んなかったぞ?ある意味主人公よりかっこいいやつらだぜ?
「わしがターゲットにしていたのはお前じゃない。お前の友達の毛利 夜雲の母親だ。」
何となく予想はしていたが、直接死神の口から聞いた俺の心は思わず暗黒面に落ちる。今度は小指を踏んづけるだけでなく踏み砕いてしまった。
「ぎゃーっ!がっ、がぁーっ!何だっ!ちゃんと喋ったのだぞっ!」
「うるせーっ!さっさと続きを話せっ!」
「くっ、やつの母親がターゲットなのはお前の事とは関係ない。別のやつからの依頼だ・・。」
「別のやつ?誰なんだ、そのアホは?」
「愚図田 愚図雄というやつだ。やつはあの女の店の常連客だったんだが、金に物を言わせてあの女に迫ったのだ。だが、あっさり袖にされたらしくてな。逆恨みでわしにあの女を呪い殺してくれと頼んで来たのさ。」
俺は死神の説明に呆れた。確かにそんなロクデナシは掃いて捨てるほどいるが、死神頼みで憂さを晴らそうとは全く持って愚の骨頂である。神さまとの契約はすごい対価を必要とする。そいつ、その事を知っていたのか?全く持って馬鹿なやつだ。
「お前ら死神は直接手は出せないと聞いているぞ?」
「ああ、だからわしはあいつに知識を与えた。現代医学では治療できない病気になる毒を作る知識だ。これならあいつに警察の手が伸びる事はないからな。やつはそれをあの女に飲ませたんだ。」
成程、これがストーカー心理というやつか。本当に自分の事しか考えていないな。警察に捕まらないようにだと?全く胸糞悪いぜっ!
俺は死神を踏み付けたくなる衝動をぐっと抑える。これは死神にとっては契約、つまり仕事としてやった事だ。その事で俺から暴行を受けるのは理不尽であろう。しかし、獲物にされた身からすればそんな事はどうでもいいことである。こいつらとはやっぱり分かり合えないな。
「で、毒なら解毒が出来るんだよな?」
「いや、解毒剤はない。」
俺は死神の腰の部分の骨を砕く。
「ぐぎゃ~っ!ないっ!本当だっ!本当にないんだっ!だが症状のすり替えは出来るっ!だから助ける事は出来るんだっ!」
死神は下半身を潰された痛みに耐えながら俺に懇願する。
「何だよ、なら初めからそう言えよ。思わず砕いちまったじゃねぇか。」
「ぐっ、は、話は最後まで聞けっ!」
「おうっ、すまんかったな。で、すり替えってどうやるんだ?」
「がはっ、ううっ、腰が痛いんだが・・。」
「いいから早く言え。治療法さえ話せば開放してやるからさ。ぐずぐずしていると何時までもその状態だぞ。」
「くっ、やつが処方した毒と同じ物を作って、それに『毒返しの呪文』を掛けて飲ませればよい。そうすれば女の体を蝕んでいる毒は全て別の人間に移る。」
成程、確かに治療薬じゃないな。ただのすり替えだ。
「で、その別の人間ってやつは指定出来るんだろうな。」
「ああ、勿論だ。」
「ならすぐにやれ。」
「いや、薬の材料が・・。」
俺はチートで愚図田 愚図雄が処方したという毒の入った小瓶を現世から取り寄せる。いや、こんなチートはないんだが、怒りに震えている今の俺に出来ない事はない。死神もそんな俺を見て観念したのだろう。すぐさま呪文を唱えて薬を作った。勿論、すり替え先の人間は愚図田 愚図雄だ。
「飲ませ方は?」
「1滴を10倍以上に薄めて毎日1回だ。今の状態だと20日くらいで全快するはずだ。」
「成程、残ったのは捨てても大丈夫なんだろうな。」
「そのビンの量なら多分30日分くらいだろう。一応無くなるまで飲ませろ。別に直ってからは害はない。というか全て愚図田にツケは回る。」
そうゆう事なら全部飲んで貰おう。愚図田よ、恨むなら俺を恨めよ。正し返り討ちにするけどな。
「で他には?」
「何がだ?」
「何か隠している事はないかって事さ。面倒だから全部吐け。」
死神は暫く考え込む。何だ?何かあるのか?
「いや、お前の近親者に対しては何もないな。」
「成程、と言う事はここいら辺で以後お前を見かける事はないということだな?」
「ふんっ、あくまでお前の知り合いに限っての事だ。お前と関係ないやつに対してまでは譲る気はない。」
おやおや、なんとも仕事熱心なやつだな。そこは嘘でも頷いておけよ。
「まぁいい、今後はあんまりアホなやつからの依頼は受けるなよ。俺みたいなやつは結構いるもんだからな。」
俺は最後に張ったりを噛まして死神を開放した。まっ、開放と言っても普通の浄化魔法を最大限で放出しただけだど、これでやつは再構成されるはずだ。全く死なないやつを相手にするのは骨が折れるよ。あれ?骨だけの死神に対して骨が折れるってなんか俺、うまい事いっちゃったか?
その後、夜雲のお袋さんの容態は良くなった。死神が言った通り3週間程で全快した。勿論夜雲は大喜びさ。俺は薬の投与という手柄を亜里沙に譲ったから、忽ち夜雲と亜里沙は良い仲になった。勿論、亜里沙はもう俺に頭が上がらないだろう。
しかし、世の中には色々なやつがいる。しかも駄目なやつは大抵自分の事しか考えていない。無条件の自由の担保がそんなやつを生み出すのかねぇ。どんな社会システムになっても中々うまくは行かないもんなんだな。




