死神だって色々らしい
「おいっ、ちょっと聞きたい事があるんだがいいか?」
俺はのほほんとビルの上で日向ぼっこを決め込んでいた死神に背後から近付き声を掛ける。ん~っ、なんかこっちの世界ではチートの利きが悪いんだよな。おかげでここまでジャンプするのに3回も掛かっちまったぜ。まっ、天界空間では全力が出せるみたいだから構わないけどね。
俺に後ろから声を掛けられて死神のやろうは驚いたようだ。そうだね、こいつら普通の人には感知出来ないらしいからな。
「貴様、わしが見えるのか?」
見えるから話しかけてんだよっ!面倒だから1回しばき倒してから質問するか?
「何だ?もしかしてお前、俺の事を知らないの?ぷっ、もしかして新人さんですか?」
俺はわざと死神のやろうを煽る。基本、死神がすんなり話してくれる訳はないからさ。たたき伏せて無理やり聞き出す方が手っ取り早いはずなんだ。
「貴様・・、もしや上条 佐野輔か?」
「ぴんぽーん!知っているなら話が早いな。なら答えな!こんなところで何をしていたっ!」
だが死神は俺の質問には答えず天界空間へ消える。
「何だよ、そっちで話そうっていうのか?まっ、その方がこっちもやりやすいか。どれ、追跡系チート!どこまでも付いていきます!」
俺はやつを追って異空間へ飛んだ。そこは暖かな日差しに照らされた天国でもなく、かと言って暗く禿山と亡者がいる地獄でもなかった。明るさこそあったが本当に何も無い世界である。そんながらんとした空間に死神だけがぽつんといた。
「逃げ切れると思っていたのか?それとも俺の為にわざわざ場を作ってくれたのか?どっちにしてもお前に選択肢はないんだよっ!とっとと吐きやがれっ!」
「ふんっ、前任者は不覚を取ったらしいがわしをあいつらと同等と思ったらお前死ぬぞ?この天界空間ならお前の保護規則も無効だ。もっともわしはお前の賭けに乗っておらんから関係ないが、わしに不遜な口の利き方をした事を悔やむんだな!」
いや、俺が聞きたい事はそうゆう事じゃないから。お前らが夜雲のお袋さんの病気に関与しているかどうかだから。でもやつは俺と話し合う気はないらしい。いきなり大鎌を長剣と槍に変えてきた。それも2組もだ。
「ほうっ、いいねぇ。その問答無用の対決姿勢。何か俺も異世界の時を思い出すぜ!おっしゃーっ!いっちょやるかっ!チェンジ・エキュイプ・フルアーマー!タイプWっ!」
俺の呪文により俺が着ていた学生服や下着が消え、代わりに異世界で使っていたフルプレートアーマーが装着されてゆく。
今度のフルプレートアーマーはタイプWだ。そう、ダブルである。つまり2つってこと。俺は今自機を2台持ったプレイヤーなのだよ。こいつはすごいぜっ!何たって自律式だからな。勝手に戦ってくれるのよ。さすがにチートは使えないが戦闘力は俺本体と互角だ。しかも何も指示しなくても俺の考えと動きに対応してくれる。すげ~だろう?さすがはチートだ。
俺は右腕に聖剣エックスリカバリーを発生させ一振りする。前回の死神はフルプレートアーマーの第一防御装甲を斬り裂いてきた。だから念の為、俺は左腕には聖盾ネオ・イージスを持つ。こいつもすごいんだぜ!でも面倒だから説明はなしだっ!
もう一対の自律機も俺の動きに合わせて聖剣エックスリカバリーと聖盾ネオ・イージスを発生させる。正しあっちのはパッチもんだ。能力的には普通です。
いきなり俺が2体になったので死神は俺への攻撃を躊躇している。くーっ、かっこ悪りー!だからやる前に大口を叩いちゃ駄目なんだよ。いや、俺も結構上からの言い草だったな。うんっ、以後気をつけよう。
死神のやろうが動かないのを見て自律機がやつに斬りかかった。その動きに合わせて俺も反対側から斬りかかる。所謂同時攻撃だ。チームを組んで戦うには必須の攻撃方法だけど、これって余程練習を重ねないと習得が難しい。だけど自律機と俺にはそんな必要はない。なんたってあいつは俺だからね。シンクロ率100%よ。シンジ君も真っ青だろう?
だけど今回の死神やろうは口先だけではなかった。俺と自律機の同時攻撃をあっさりかわしやがった。しかも本体である俺にのみ集中して攻撃をしてくる。あれれ?もしかしてばれているの?見た目変わらないはずなんだけど?
あっ、しまったっ!自律機のアーマーの色がシルバーじゃなくてゴールドにしたままだ。あれってゴールドの方が格上ぽく見えるから囮としてあの色にしちゃったんだよな。
成程、ちゃんと見分けているんだな。でもだからと言って俺たちペアの攻撃から逃れられるってもんじゃないんだぜっ!
死神の攻撃が俺に集中するならするでやり様は幾らでもある。俺は死神の長剣をネオ・イージスで受け止め固定する。そう、ネオ・イージスの能力のひとつ『マグネッター』だ。これでやつの長剣は使い物にならない。槍に至っては接近戦ではただの棒だ。
俺と死神はお互いに残った剣で相手をど突きまくる。正し、近過ぎてどちらの剣も体重を掛けた斬撃とならない。所謂手振りだけの叩き合いだ。うんっ、傍から見たら子供のチャンバラごっこだね。でも、忘れてはならない。俺たちはペアなんだよっ!
俺はチートパワーで無理やり死神を体ごと自律機の方へ追い込む。自律機の剣では死神を切断する事は叶わないがやつがその事まで知っているとは思えない。故にやつは自律機に対しても防御をする事になる。そこに隙が生まれた。
「覚悟が足りないぜっ、死神やろうっ!両方防ごうなんて甘いんだよっ!」
俺は聖盾ネオ・イージスを放り出してやつと間合いをとる。そして渾身の斬撃を送った。
死神はすんでのところでそれをかわす。だけど右側から生えている2本の腕は貰った。そこに自律機の逆袈裟が追い討ちを掛ける。案の定、死神を切断することは出来なかったがやつはバランスを崩した。そこへ俺の大上段からの斬撃が決まっ・・、りませんでした。
死神は新たな骨の腕を生やして、がら空きになった俺の腹目掛けて槍を突き出してきた。これがただの槍かと思ったら大間違い。俺は思いっきり後ろに吹っ飛ばされた。
「なっ、なんだぁ~!」
突然の事に俺の思考が追いつかない。あんな骨だけの軽そうなやつのどこにこんなチカラがあるんだ?作用反作用の物理法則を無視していないか?あっ、これは俺が言っちゃ駄目か。チートって規格外だからな。なら死神も本来チートみたいなもんだからいいのか・・。う~んっ、自分のチートは納得出来るけど相手のは完全にズルく思えるのは人間のエゴだろうか?
死神の予想外の反撃に俺と自律機はやつと距離をとる。確かにやつはこの前の死神とは違うようだ。さっきの一撃も第二防御装甲まで喰い込んでいる。これを受けたのが自律機だったら串刺しだったろう。
「いゃ~、びっくりだぜ?あんた実は出来る子だったんだなぁ。何?能ある死神は尻を隠すのか?もっともいつもマントに隠れて見えないけどな。」
俺はやつの出方を見る為、再度挑発する。相手がどんな能力を持っているのか判らない以上、先手を取るのは宜しくない。相手に手を晒させてから対応するのが兵法の常識なのだ。
そんなこんなでお互い距離を取ったまま睨み合いが続いた。そして最初に動いたのは死神の方だ。
やつは1対2では形勢が不利と見たのだろう、今度は得物を変え、何とサブマジンガンを出現させやがったっ!死神とサブマシンガンって・・、ビジュアル的に似合わねぇ~。まぁ、それだけやつも必死なんだろう。確かにサブマシンガンなら弾数で圧倒できるからな。
でも残念っ!チートの前には核爆弾だって効果はないんだよっ!何故って?そうゆうもんだからさっ!
やつが放った銃弾は全てフルプレートアーマーの第一防御装甲が弾き飛ばす。まぁ、実在する鎧なら貫通するんだろうけどチート製のフルプレートアーマーを甘くみちゃいかんよ。所詮サブマシンガンの弾丸なんて1個づつの運動エネルギーなんかたかが知れている。弾丸が脅威なのはそのスピードだ。避けれないから怖いんだよ。
でも貫通しない弾丸なんか戦闘においては意味がない。お前は戦車相手に弾を撃ち込んでいるようなものなのさっ!武器の選択を誤ったお前の負けだっ!
「あーっ、お前もしかしてチート持ちと戦うのって初めてなの?」
俺は余裕のあるところを見せる為わざと死神をおちょくる。
あれっ?でも自律機の方はなんか危ない見たいなんだけど?あらら、第一防御装甲を撃ち抜かれているよ。ん~っ、さすがは死神のサブマシンガンと言うべきか?パッチもんの装甲なら貫通するのか・・。
それでもなんちゃってネオ・イージスを盾にして何とか踏ん張る自律機。左右に移動して死神の弾幕から逃れようとしているが死神は執拗に追いかけた。4丁あるサブマシンガンの内3丁を自律機に向けている。
成程、取り敢えずダメージを負わせられる自律機を先にやってしまおうという手立てなんだな。でも、こっちがガラ空きだぜっ!
俺は聖盾ネオ・イージスを前に掲げやつに突っ込む。でもこの動きはやつに読まれていた。やつはマントの中に隠していた新たな腕を伸ばし俺に向かって撃ち込んで来る。
「だから貫通しない弾丸なんか幾ら撃ち込まれてもへでもないって言っただろうっ!」
俺はやつの行動を嗜める。でもそれは俺の勘違いだった。何と今度の弾丸は聖盾ネオ・イージスを貫通しやがったよっ!え~っ、何で!聖盾ネオ・イージスだよ?あらゆる物を防ぐと言われている聖なる盾だよ?何で穴だらけになるんだよっ!
「くくくっ、ぬかったな上条 佐野輔。戦場において完璧なものなどないのだ。新兵器といえど脅威は一瞬。いずれは対応兵器が現れる。この対チート装甲鉄鋼貫通弾を喰らって死ねっ!」
対チート装甲鉄鋼貫通弾っ!お前それは反則じゃないのかっ!よしっ、それならこっちだって対チート装甲鉄鋼貫通弾対応装甲に切り替えだっ!・・に出来たらいいな。うん、そんな簡単には出来ません。
俺と自律機はひたすら逃げ回る。でも弾丸って早いからね。中々逃げ切れません。ここって遮蔽物もないからな。ああっ、これってかなりヤバイ状況だ。自分のチート能力に溺れて考え無しに行動した報いを受けるのか・・。
「ははははっ、死ねっ!しねっ!しねぇ~!」
くそ~っ、死神の銃って弾切れはないのかよっ!ぐわ~っ、聖盾ネオ・イージスがぼろぼろだぁ~。あっ、自律機がとうとう膝を付いちゃったよ。すまん、自律機。安らかに眠れ。俺もすぐに逝くからな?




