青春!青春!青春!
その日俺は夜雲の自主練が終わるのを教室で待っていた。千里の誕生日プレゼントを選ぶのにつき合わさせる為だ。ここいら辺の感覚はやつの方が俺の数倍センスがいい。やつが言うには俺の感性で選んだ方がプレゼントとしては喜ばれるはずだというが、やつは俺を甘く見すぎている。俺の感性って実質40歳過ぎなのよ。とてもじゃないが女子高生が喜びそうな物なんか選べません。
そしてどこから嗅ぎ付けて来たのか亜里沙も付いて来る事になった。いや、こいつは絶対千里へのプレゼントを選ぶためではなく、夜雲と一緒にショッピングをしたいだけだ。つまり俺は当て馬にされたんだな。
そして自主練をさぼった亜里沙は、早々に俺の教室にやって来て夜雲を待っていると言う訳だ。今日の亜里沙は気合が入っている。髪は何度もブラッシングしたのだろう。この微かに香る甘い香りはコロン?とか言うやつか?さすがに化粧はしていないみたいだが、今日の亜里沙は一段と輝いている。
だけど見た目こそ美人だが中身は所詮高校生だ。好きなやつとのデートもどきを前にして落ち着かない様子である。そこで気を紛らわす為なのかしょうもない事を俺に聞いてきた。
「ねぇ、夜雲君ってどんな女の子が好きなのかなぁ。」
亜里沙よ、お前それを俺に聞くのか?俺は夜雲の執事じゃねぇんだよっ!と言うかお前、この頃俺に頼りっ放しじゃね?
「そりゃやつも男だからな。ぼいんぼいんで素直で従順で少しお馬鹿な女の子に決まっているだろう?」
俺は意地悪心から亜里沙とは正反対な女の子を例に挙げる。いや決して亜里沙が貧乳と言っている訳ではない。ちゃんと歳相応の膨らみはあるのだ。でも、今の俺たちの年齢における男子の巨乳信奉は凄まじい。やつらには大きけりゃ大きいほどありがたいのだ。まぁ、実際にリアルで目にしたら腰を抜かして逃げるだろうけどね。
「そう・・、やっぱりそうよねぇ。」
あらら、亜里沙ったら信じやがったよ。全くこいつには夜雲関係では冗談が通じないな。
「信じんなよ、そんな訳あるかっ!」
「・・だってさぁ。」
「まぁ、好みは人それぞれだからな。けど、だからと言ってやつに関してはそれだけじゃ駄目だよ。なんせ、あいつのお袋は超美人だからな。うんっ、目が肥え過ぎているんだ。だから見た目だけじゃあいつは靡かないよ。ある意味不幸なやつだ。」
そう、小学生の時はそれ程感じなかったが、この前夜雲の家に遊びに行った時に会ったやつのお袋さんにはビックリさせられた。ただ綺麗なだけじゃなくて何と言うか気品のようなものまで感じたよ。さすがは夜雲のお袋さんだ。あんな親に育てられたんだから夜雲があんな性格になるのも頷ける。
「それってどうゆう意味よ。」
亜里沙には俺の言った意味が判らなかったらしい。まっ、やつのお袋さんに会いさえすれば一発なんだけどな。くくくくっ、面白そうだから亜里沙にも合わせてやろうかな。こいつ、絶対へこむぞ?
「女にとっちゃ美貌は一番の武器なんだろうけどさ、やつには効かないってこと。やつの気を引きたきゃ内面を磨かなくちゃ駄目なのさ。それだってハードルは無茶苦茶高いはずだ。うんっ、女性に関しては、あいつはやっぱり不幸なやつだな。」
そうだよなぁ、あんなお袋さんを基準にされたら並大抵の子は敵わんよ。そうゆう意味では亜里沙も大変だ。まっ、がんばりたまえ。同小のよしみで応援はしてやる。
「むーっ、何か突っかかる言い方ね!」
「やつがあれだけモテてるのに彼女がいない原因はお袋さんなのさ。」
「えっ、彼ってマザコンなの?」
おいおい、その考えはちょっと短絡過ぎるぞ。本当のマザコンってのはウチの兄ちゃんみたいなやつの事を言うんだよ。兄ちゃん、あんなんで嫁さん貰えるのかね。というか、結婚しても嫁さんに呆れられて捨てられるんじゃないか?
「んなわけあるかっうの!まっ、やつには千里みたいな電撃行動をがむしゃらに仕掛けた方が効くかもな。根負けさせれば女の子の勝ちだ。ただ付き合いが続くかは別の話だけど。」
そう、やつから聞いた話では、何人かと付き合いはしたそうだが長続きはしなかったらしい。全部女の子側から離れて行ったとか。まぁ、夜雲も女の子に対して結構大変な要求をするらしいから、夜雲の顔だけに釣られて告白して来るような女の子には負担が大き過ぎたのだろう。因みに要求って言ってもエロ系じゃないから。まぁ、行動規範みたいなものかな?
「そう・・、そうか・・。そうね、一歩踏み出さなきゃ駄目よね。」
参ったね、亜里沙クラスでも恋ってやつはままならないもんなんだな。そう考えると千里はすごいね。やっぱり最後は行動なんだな。
「おうっ、あいつはリーダー系だから誤解され易いけど、実は押しに弱いんだ。頼まれると嫌と言えないんだよ。だから付き合うことに関しては結構簡単なんだ。後は本当にやつを判って付いて行けるかどうかさ。」
う~んっ、何で俺こんな恋愛講釈をしているんだ?夜雲よ、早く来てくれよ。間が持たないぜっ!
その時、漸く救世主がやって来た。勿論、夜雲だ。
「おうっ、すまんな。ちょっと先輩たちと雑談が長引いちまった。あっ、亜里沙。お前今日の自主練さぼったろう。」
「やぁーよ、これから街に繰り出すのに汗臭い格好では行けないもの。男子と違って女子は仕度が大変なのよ。」
うん、この頃は亜里沙も夜雲と普通に喋れるようになったよな。もう、あの借りて来た猫状態は拝めないのか。
「しょうがないやつだなぁ、まあいいや。それより行こうぜ。早くしないと売り切れちまうかも知れないからな。」
「売り切れって・・、お前が言っていた最適なプレゼントってそんなに人気があるやつなのか?」
「ああ、あそこのパンは女の子に大人気なんだ。実際、俺も食べたけど本当に美味かったよ。」
お前はアホかーっ!どこの世界に遠くにいる彼女への誕生日祝いにパンを送るやつがいるっていうんだっ!大体、パンってやつは出来立てだから美味いんだよっ!千里の誕生日は来週だぞっ!それまで持つかっ!
駄目だ、こいつに期待した俺が馬鹿だった。こいつ絶対、お袋さんに買って行きたくて選んだに違いない。俺の事は二の次だよ。くっ、男の友情ってやつは時に厳しいぜっ!
「ちょっと、夜雲!千里が食べるんだから今日買ったら駄目でしょうっ!全く、しょうがないわねぇ。いいわ、私が知っているお店に行きましょう!」
うん、こいつも一見俺の味方のように振舞っているが、実は夜雲とデートしたいだけだから。いい感じの店に連れ込んで夜雲とあれこれショッピングしたいだけだから。千里へのプレゼントは二の次だからっ!
「えっ、いや別に今日送らなくたって予約しておけばいいんじゃないの?」
夜雲がさらにボケを重ねてくる。
「馬鹿言わないで。とにかく食べ物は駄目よ。消えモノなんて縁起でもないわ。ここは普通にジュエリーにしておくものなのっ!」
はい、真っ当なご意見ありがとうございます。まぁ、さすがにアクセサリー屋はひとりでは入れないからな。ここは亜里沙にご教授頂くとしよう。
そして俺は今、何ともキラキラした空間にいる。俺たち以外の客は全員女性だよ。そうか・・、こうゆう店でないとアクセサリーって買えないんだ・・。
「おっ、これなんかどうだ?すごいぞ、まるで社交界のパーティーに付けていくみたいなゴージャスさだ。」
夜雲は物怖じせずに色々と物色して薦めてくる。だが夜雲よ、それって値段もゴージャスなんだけど?俺の予算を聞いてなかったのか?
「駄目よそんなのは。それって結婚式とか用よ。千里は高校生なんだからもっとシンプルなものじゃなくちゃ駄目。」
「そうなのか?となると・・、こっちの指輪も駄目なんだな。」
「当然でしょう、いつ付けるのよ?アクセなら精々ネックレスくらいでないと。でもそれだとちょっと重過ぎるから、ポーチとかの小物が無難ね。」
うん、如何にもな感じで説明しているけど亜里沙よ、見るコーナーが違うんじゃないか?このコーナーって大人用だろう?高校生たちはあっちのコーナーにしかいないぞ?
結局俺は壁に掛けるタイプの鏡を買った。亜里沙は女の子に鏡を送るなんてと言っていたが別に他意はない。純粋に綺麗な鏡だと思ったんだ。しかもこれにはガラス面に浮き彫りでメッセージを入れられるんだ。まぁ、別料金が掛かるんだけど・・。どんなメッセージを書いて貰ったかは内緒である。亜里沙たちもそこは敢えてスルーしてくれたよ。
その後、俺が支払いを済ませている間に亜里沙は別のコーナーで品物を物色していた。
「お前、それって男もんじゃねえの?」
俺が声を掛けると亜里沙は驚いたのかしどろもどろに返答する。
「なっ、べっ別に彼へのプレゼントとかじゃないからっ!そっ、そう、父の日用よっ!」
父の日って・・、亜里沙よ、もう少しマシな嘘をついてくれ。父の日は先月だぜ?
まぁいいや、確かに夜雲の誕生日は再来週だからな。果たしてこいつは渡せるのだろうか?うんっ、渡せるといいねぇ。




