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人生の岐路!それは受験

そして俺は3年生になった。3年と言えば受験である。いや、全員がそうとは言えないが、少なからず気にはするだろう。俺は前の時には馬鹿丸出しだったのでお情けでやっと入れて貰えた男子校に進んだ。でも今回はちゃんと勉強しているから大抵の高校は入れるはずだ。


俺は電話で夜雲にどこを狙っているか聞いてみる。するとやつは中レベルの普通科高校を受験すると言ってきた。やつの成績ならもっと上が狙えると思うのだが、その高校は弓道部が強いらしい。その弓道部に入りたいからそこにするそうだ。やりたい事があるからそれに適した高校を選ぶなんて、まったくかっこ良過ぎるぜっ!


でもこれで俺の進路も決まった。中学は学区があるから別々の学校だったけど高校は選べるからな。今の俺の成績なら夜雲が選んだ高校もヘマしなければ確実に受かる。そう、俺は夜雲と一緒の学校に行きたいのだ。うんっ、こうゆうと何だかBLっぽいな。でもそんな意味合いはないから。男には間に『X』を入れた関係以上の友情ってもんが存在するんだよ。まぁ、目の前できゃぁきゃぁ騒がない限りは影で夢想するのは構わないけどね。でも、目の前でやったら殴るよ?


「ねぇ、あなたはどこを受けるの?」

夏休みも終わりみんなが受験に向けてまい進し始める頃、亜里沙が俺に進路を聞いてきた。


「えっ、あーっと北西高校だけど・・。なんで?」

「ふ~んっ、あなたなら東南高校だって何とかなるんじゃないの?」

「いや、俺は堅実派だからね。確実なところを狙うのさ。」

「もしかして彼もそこなの?」

「彼?ああっ、夜雲か。うん、やつは部活絡みで選んだらしい。」

「そしてあなたは夜雲君絡みで選んだってわけね。」

「何だよ、何で絡むんだ?住吉の件は俺だけのせいじゃないぞ。」


そう、突然だけど俺と住吉は別れることになった。別に喧嘩をした訳じゃない。住吉が親の都合で別の町に引っ越すことになったからだ。これはずっと前に住吉家の中では決まっていたことらしい。親父さんは既に単身赴任で向こうで暮らしているそうだ。ただ住吉が卒業まではこっちに居たいといったのでお袋さんが残ってくれたらしい。あの告白の日、住吉が先生と話し合っていたのはこの件だった。


う~んっ、これもやはり死神のせいなんだろうか?というか俺ってこの頃はなんでも死神のせいにしているよな。いかん、人のせいばかりにしていると強くなれないぞ。


「そうね、それは判っているわ。でもやっぱりもう少し千里に寄り添ってほしかったなと思ったりするのよ。」

「お前、無茶言うなよ。親の仕事の都合なんだから仕方ないだろう。俺にどうせいっちゅうんだ。」

「千里と駆け落ちするとか?」

「どこの世界の恋愛ドラマだよ。周りに迷惑を掛け過ぎだ。大体そんなのは手紙くらいしか情報交換の手段がなかったシンプルな時代の行動じゃないか。今はスマホの時代だぜ?宇宙ステーションとだってリアルタイムに通信できるんだ。それに金は掛かるが新幹線に乗れば2時間で会いにいけるんだぜ?」

うんっ、実際には新幹線以外の交通手段もいるから4時間くらいかかるらしいけど・・。


「本当に千里ったらギリギリまで黙っているんですもの・・。いじらしさを通り越して少しムカついたわ。」

「お前らって本当に自分本位だな。自分が住吉の立場になって考えろよ。あいつが一番辛いはずなんだぞ?」

「千里の立場って・・、嫌よ、なんで私があなたなんかに惚れなきゃならないのよ。」

「いや、そうゆう意味じゃなくてさ・・。うんっ、もういいよ。確かに俺は住吉にさよならを言ったけど、住吉はちゃんと俺の真意を酌んでくれたからな。今回の事は俺がフリーになったんじゃない。住吉をフリーにしたんだ。あいつには向こうで新しい生活と出会いが待っているんだ。その時、俺の存在が邪魔しちゃ駄目だろう?」


「はぁ~、あなたって本当に大人というか冷めているわよねぇ。女としてはそんな事を無視してぐっと引き寄せて貰いたいのに・・。」

「お前、恋愛モノの見すぎだっちゅうの。大人ならまだしも俺たちは中学生なんだぞ?そんな事できるかっ!」

「はいはい、お子ちゃまですいませんでした。ただやっぱり離ればなれになっちゃうのはきついわよねぇ。」

「ふんっ、住吉はいい子だからな。きっとあっちで俺より数段上の男が待っているさ。」

「あなた、やっぱり女心を解していないわ・・。」


くそぉ~、俺だって出来ることなら住吉と離れたくはないんだ!でも、しょうがないだろうっ!離れざる得ないんなら優先すべきは住吉の今後だ。中学での恋愛なんて手の届く範囲でのごっこに近いからな。住吉は新しいフィールドに立つんだ。つまりやり直しなんだよ。そこには過去との繋がりを引きずっちゃ駄目なんだ。でもまぁ、住吉が変な男に引っかかったら、俺は全力で相手の男を潰すけどね。


でもなんで亜里沙はこんなに拘るんだ?転校なんて結構メジャーなことだろうに・・。いや、俺たちに関しては夜雲以来の出来事か?


俺は夜雲が転校せざる得なくなった事件を思い出す。あれは死神たちの仕業だった。住吉の親父さんの件は死神が関与していないようだが、やっぱり釈然としない。一旦、疑惑の目で見ちゃうと信用がガタ落ちするんだな。


「そう言えば、あの事件の時、俺に連絡くれたのはお前だったな。」

俺は少し気になった事を亜里沙に問いただす。夜雲とあいつらがまずい状況になっていると俺に知らせてくれたのは亜里沙だった。俺ですら気付かなかった事をなんでこいつは気付いたんだ?


「なっ、何よいきなりっ!そっ、そんな昔の事忘れたわっ!」

俺の質問に亜里沙は突然怒り出して出て行ってしまった。忘れたって・・、いや、全然忘れてないじゃん。俺はあの事件としか言ってないぞ?


成程、そうゆう事か・・。いやはや、早熟だったんだねぇ。まっ、確かに夜雲は女子にモテモテだったからな。しかし、あれから3年も経っているのに忘れられないものなのか・・。一途な女ってすごいね。


まぁ、さよならは言ったが俺と住吉の仲が疎遠になった訳ではない。住吉がこっちにいる間は今まで通りだ。受験勉強だってふたりでしたし、クリスマスだって祝った。正月の初詣だってふたりで行ったよ。まぁ、近所の神社だけどさ。しかし、近所の神社って元は豊穣の神さまらしいけど今は何でも受け付けるんだな。家内安全から受験の合格祈願までやらされるとは神さまも大変だ。


そして俺たちは無事中学を卒業した。卒業式の日、住吉がもじもじしていたので俺は自分から制服のボタンを渡す羽目になった。うんっ、最後まで遠慮する子だな。まぁ、ボタンを渡した時の住吉の笑顔はすごく可愛いかったから良しとしておこう。そして俺たちは中学生活で最後の記念写真を撮った。でも後ろに死神のリューズが薄っすらと写っていたのはいただけない。あいつ、この頃少し馴れ馴れしいな。後で絞めておこう。


残るイベントは高校受験だ。学力的には大丈夫なはずだが、いざ直面すると胃が痛くなる。なんせ俺って前の時は本当に馬鹿だったからな。逆にあれくらい何も考えていない方が気が楽なのかもしれない。俺は住吉が編んでくれた手袋を握り締め試験問題に挑む。するとあんなに緊張していた気持ちが落ち着いてくる。成程、やっぱり気持ちの問題なんだな。大丈夫だよ住吉。俺は前の時とは違うんだ。きっと合格して見せるさっ!


そして受験も終わり、ほっとした空気の中ついにその時が来た。それは住吉家の引越しだ。


俺は住吉が引っ越してしまう日に駅に見送りに行った。他にも何人か住吉の友達も来ている。住吉は終始笑顔だった。女の子たちもそんな住吉を見て我慢しているようだったが、結局感情を抑えきれずに泣き出す。それでも住吉は泣かない。いやはや本当に強い子だ。そんな彼女に俺は気の利いた言葉も送れない。


「向こうでもがんばれよ。」

「はい、上条くんもがんばってください。」

「何かあったら電話くれよ。まぁ、大した事は出来ないかもしれないけどさ。」

「はい、ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。私、がんばりますから!」

「そうだな、住吉なら絶対大丈夫だ。」

「あの・・、最後ですから・・、その・・。」

「なに?」

「いえっ!なっ、何でもないですっ!あっ、みんなで写真を撮りましょう!」


住吉は最後にみんなと写真を撮った。でも俺とのツーショットは拒んだ。別れ離れになる時の写真など撮りたくなかったのだろう。みんなもそんな住吉の気持ちが判ったのか強くは勧めてこなかった。そして新幹線の発車ベルが駅の構内に響く。住吉と俺は車内とプラットホームにわかれ最後の言葉を交わす。


「それじゃ、行きます。」

「ああっ、またな。」

「はい、また・・。」

手を振る住吉と俺を新幹線のドアが無常にも引き離した。走り出す新幹線を追って俺は走る。そんな俺の姿を見て住吉はこれでもかと言うほど手を振っている。でもそれもつかの間だ。プラットホームの端まで走った俺はそれ以上は追えない。


「千里っ!」

俺はこの時初めて住吉の名前を呼んだ。いや叫んだ。俺の叫びは千里に届いただろうか?何でもっと早く言わなかったのだろう。言えば千里は喜んだはずなのに・・。


千里の乗った新幹線が見えなくなった途端、俺の目から熱いものが零れ落ちる。別に死に別れた訳でもない。会おうと思えば何とか方法はある。お喋りだって電話で出来るのだ。


しかし・・、しかしである。俺たちは周りの変化に中々対応出来ないものなのだろう。ずっと続くと思っていた幸せな時間は突然終わる事もある。そんな目に会っている人は世界に沢山いるのだ。それと比べれば俺たちの別れなど小石のようなものだろう。


だが違うっ!千里はがんばったのだっ!彼女はこの瞬間が訪れるのを2年前から知っていた。覚悟していたのだ!その上で自分の気持ちを俺に伝え、このこと自体は胸に押し込んでいた。自ら動き、そして手に入れたタイムリミッドのある幸せ。その事を俺には知らせず俺との出来事をひとつひとつ胸に刻み込んでいた。


今、千里はお袋さんに肩を抱かれながら泣いているだろう。そんな事は見なくたって判る。唐変木な俺だって涙したんだ。この胸の奥から湧き上がる感情に心を揺さぶられないやつはいない。


俺と千里ではこの別れの重みが全然違う。彼女は本当に幸せだったのか?俺は彼女にちゃんと向き合っていたのか?俺は答えのない自問を繰り返す。千里に問い掛ければ彼女は笑って答えてくれるだろう。だがそれは彼女の優しさでしかない。その答えに俺の気持ちは納得しないはずだ。何故なら俺は彼女と一緒にその気持ちを分かち合わなかったから。気付ける機会は幾らでもあった。でも俺は気付けなかった。


全く情けないぜ。これで自称人生経験年齢41歳だって言うんだからな!だらだら生きてきた報いだよ。くそっ、もしかしてこれが死神のやり方なのか?やつらは関与していないと言っていたが、こうなる事が判っていたから敢えて手を出さなかっただけかもしれないっ!


だとしたらあいつら許さねぇ!俺の事はいいっ!だが千里に悲しい思いをさせた報いは取らせてやるっ!今度俺の前に現れた時が年貢の納め時だっ!覚悟しとけよっ!

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