これがチートな戦いだっ!
「くっ、小癪な!」
ラスボスは一旦大きく後ろに飛び俺との間合いを取ろうとする。しかし、俺はそれを許さない。剣と大鎌じゃ接近戦で片をつけるに限るのだ。だが、ここで自体が急変する。なんとやつの大鎌がぽきりと折れて丁度いい具合の剣に変身しやがったのだ。
「うわっ、変身ギミックかよ。そんな事ができるなら最初からやればいいのに。」
死神は自身のアイディンティティーである大鎌を長剣と槍に変え俺と対峙した。まぁ、これは形だけの苔落としではあるまい。戦いの最中に、わざわざ得物のポテンシャルを落とす訳がないからだ。
「くくくっ、小僧褒めてやる。わしにここまでの戦闘形態をさせたのはガルベスト以来だぞ。」
誰だ、それ?知らんがな。名前を言う時はちゃんとどのアニメからの出典かを正確に言わなきゃ駄目だろう。
「言うねぇ、そこまで言ってぽろっと負けたら恥の上塗りだぞ?吹き飛ばせっ!エックスリカバリー!」
俺はやつ目掛けてエックスリカバリーを両手で振り下ろす。二刀流に対しては力押しが一番だ。片腕だけで保持する二刀流では両腕による斬撃は相当の体力差がないと受けきれない。そして俺はチート持ちだからパワーに関しても超一級の実力者だぜっ!
案の定、やつのブレードは俺のエックスリカバリーを受けきれず槍を持つ手を添えて耐える事になった。でも何故かやつは槍も離していない。何と体からもう一対腕が生えやがったよ。全部で4本か・・、足の2本を足したら節足動物に分類されるな。何だ、死神って昆虫の仲間だったのか。
そっちがそう来るなら俺だって負けてはいられない。
「フルプレートアーマー、形状変形っ!タイプ、ゴーレムっ!」
俺の呪文によりフルプレートアーマーの形状が金属性から岩石状に変化し、ついでに1対の腕と1本の尻尾が生える。俺は新しく生やした両手に聖盾『ネオ・イージス』と短剣『鬼刺し』を持たせた。
「へへへっ、驚いたか骨やろう!形態変形が出来るのはお前だけじゃないのさっ!あっ、だからと言って張り合うなよ?ムカデ見たいに百本生やすのは禁止だからな。」
「誰が張り合うかっ!人間風情がチートなどと言う姑息な技を使いよってからにっ!」
ラスボスは尻尾の分、数で負けたのが悔しかったのだろう。しかもこれ以上の数を増やす事を俺にさらっと禁止された為、多分出来るのだろうけど増やせなくなった。残る手立ては巨人化くらいか?でもそれだって俺は対応出来るんだぜっ!ビバっ!チート!人間の想像は無限且つ最強だぜっ!
その時、俺とラスボスの戦いを見ていた死神が形勢不利と見たのかこそこそと動き出した。どうやらこの隙に逃げ出す算段のようだ。しかし、俺はそれを見逃さない。
「スレイブ・チェーンっ!」
これは相手を奴隷化するチートだ。まっ、精神的なものではなく肉体的に縛り付けるだけの拘束具だけどね。死神って骨しかないからサイズ的には子供用にしたけど強度的に心配なので3重に括りつける。
「ちょろちょろしてんじゃねぇ!大人しくしていろっ!」
スレイブ・チェーンで骨の体を拘束された死神は何とかして外そうともがいている。おっと、こいつはちゃんとリアリティーを厳守するタイプなんだな。ギャグ系なら髑髏や腕の骨をぽろっと外して逃げるところだ。
さて、情報源は手に入れたしちゃちゃっと終わらせる事にしよう。さすがにこいつ以上のやつは出てこないだろう。俺は相手のラスボスに敬意を表しておべんちゃらを述べる。
「まぁ、俺にここまでさせるとは死神といえどあんたくらいだろう。実際、さっきの一撃は危なかった。だからあんたには俺が持っている最大の攻撃を披露してやる。これを耐えたらあんた上級神にだってなれるぜっ!」
いや、これは張ったりだ。如何にチート持ちとは言え上級神とタメ張れる技は持っていないよ。というかそれこそ人間風情がそんな物を持ったら忽ち誅殺されてしまうぜ。でもラスボスは信じたみたいだ。何ともちょろいな。
「消し飛べっ!魔界最奥義!ナイト・オブ・ザッ・ダークっ!」
俺は全く出鱈目な技名を叫んで普通の浄化魔法を最大限で放出する。死神に浄化魔法が通用するのか判らなかったが、何故かラスボスは苦しみながら浄化されていった。うんっ、きっとフラセボ効果だね。信じちゃうと勝手に自滅するんだな。
そしてこの効果は残った死神にも効いたようだ。やつは近付く俺に来るなと言って後ずさりする。まぁ、チェーンで釘付けにしてあるから逃げられないんだけどね。
「さて、どうするかね。そうだな、特別にお前が決めていいよ。こうなった経緯を洗いざらい喋るか、さっきのやつみたいに塵と消えるか。なぁ、あんた家族はいるのかい?」
いる訳ないじゃんっ!こいつ死神だぞ?まぁ、強いて言えばこいつを造った上級神が親か?あっ、この考えだと他のやつらは兄弟になっちゃうか?それはまずいな、仇と思われるのは困るよ。
「わっ、わしらは死神だ。家族などと言う繋がりはないっ!」
「はい、左様ですか。で、前の選択の答えは?」
「ぐぬぬぬっ、くっ、殺せっ!」
何だ、こいつ結構ノリがいいな。ならお言葉通りにもっと遊んでやろう。拷問に関しては俺も異世界でちょっとしたもんだったんだぜ。
「いや、あんたら死なないじゃん。さっきのやつだって復活するんだろう?俺を舐めるなよ。1回死んでやり直しなんかさせる訳ないじゃん。」
俺の言葉に真意を悟られたと感じたのか死神は黙り込む。
「さて、まずはそのマントを剥いで骨だけの姿を晒して貰おうかねぇ。あっ、勿論写真は撮るよ?そして次に俺に仕掛けてきた死神にプレゼントしてやろう。そうだ、そいつに何枚か持たせてお前たちの間に広めて貰うのもいいかもな。」
俺は何ともゲスな提案を死神に聞かせる。いやはや、こんなところで現世のゲスやろうの行動が使えるとは世も末だね。でも何故かこの脅しは死神を震え上がらせた。
「待てっ!それだけは止めてくれっ!判った!喋るから撮るなっ!」
うん、素直で宜しい。でも俺の心は沈んだよ。これって本当にゲスな行為だ。自分がやられたら絶対に相手を許さないな。何で刑法はこの罪を死刑にしないんだろう?
その後、死神は俺に関する死神間のやり取りを喋りだす。俺はやつらが現世に張った俺への嫌がらせ網を聞いて眉をひそめる。ああっ、やっぱり夜雲の件は俺への嫌がらせだったのか・・。どうしよう、やっぱりこいつも塵に帰そうかな。
まぁ、こいつも全部喋った訳ではないだろうが今回はこれくらいにしておこう。情報は大事だけど今回の事でやつらは俺に茶々を入れる危険性を理解したはずだ。となるとやり方を変えてくるはずである。そこいらは今後の課題としてこいつを泳がせて得ることにする。
「いいか、これからお前にさっき言った技を仕掛ける。もしもお前が俺を裏切った場合、3日後に発動するからな。3日後にしたのは温情だ。それまでに身辺整理をしておけよ。」
これは張ったりである。でも死神たちってある意味ピュアらしいからころっと騙されて本当に昇天しちゃうかもな。
俺は形だけのなんちゃって呪文を唱和する。唱和後、死神は自分の骨に刻まれた刻印を見て震え上がった。いや、それってただの文様だから。俺が異世界で使っていたやつだから。効力なんか全然ないから。
さて、文様を刻まれてすっかり大人しくなった死神に俺はちょっと世間話をする事にした。まっ、相手を懐柔するにはコミュニケーションが大切だからね。
「あっ、そう言えばお前って名前あるのか?」
「我ら死神は一心同体だ。名など必要ないのだっ!」
「そうか、なら俺が付けてやるよ。何がいいかなぁ、ポチとかどうだ?」
「えっ、付けてくれるのか?ならリュークがいいっ!リュークにしてくれ!」
リュークって・・、お前ちょっと現世に染まり過ぎていないか?どこで漫画を読んだんだ?
「リュークはちょっとなぁ、色々面倒がありそうだから・・、似たところでリューズでいいだろう。これは一般形容詞だから誰も文句が言えないはずだ。うんっ、リューズで決定!」
「リューズ?・・うんっ、リューズか!気に入ったっ!わしはこれからリューズと名乗るぞっ!」
うんっ、俺から言っといて何だがこんなに喜ぶとは思わなかった。リューズって漢字で書くと竜頭だよ?意味は腕時計のバネ回しの部分の事だよ?あっ、今は全自動かもしくは電池式だからバネはないのか?いや、針を合わせるのに付いているよな?
こうして俺は情報と死神の二重スパイを手に入れた。今回は何とか凌いだけど、この戦いって俺の方が絶対不利だよな。チートと異世界での実戦経験がなかったらころっと殺られているところだよ。うんっ、ここはじじいに感謝しておこうっ!
もっとも、今回は取り敢えず倒したけどあいつら死神だから死なないんだよな。何とも厄介なやつらだぜ。




