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文句ばかりが口をつく

俺の名前は『上条 佐野輔』。ご先祖さまはこの地方の豪族だったらしいが今は落ちぶれてしがない農家の次男坊だ。まぁ、元が豪族だから農地だけはある。有り過ぎて半分耕作放棄地になっているくらいだ。夏場はそこの草刈りだけで一日が終わってしまう。一日で終わればまだいいがそんな日々が一週間は続くのだ。別に手と鎌でシコシコ刈るわけじゃない。エンジン付きの草刈機でグリグリなぎ倒してもそれだけ掛かるのだ。広さだけなら東京ドーム何個分と言い表せるだろうけど俺は東京ドームの大きさを知らないから言えない。


そんなに手間が掛かるならそのままにしておけと思うだろうがそうもいかない。なんせ雑草が種をつける前に刈らないと来年が凄いことになるのだ。しかも種は隣の畑にも飛ぶ。ウチのせいで隣の畑が雑草だらけになったらご近所付き合いにヒビが入る。田舎は人付き合いがあるからそこら辺は慎重にしなくてはならない。農業に縁のない人たちだって、自分の部屋に虫が湧いたら嫌だろう?その原因が隣の家だったら文句を言うはずだ。


だから今日も俺はひとり草を刈る。高速回転する丸いノコギリのような刃でビシバシなぎ倒す。

「おらおらおらっ!お前ら下等生物がいくら束になっても俺には勝てないんだよっ!俺は最強なんだ!俺Tueeeなんだよっ!俺のチート能力『エンジン付き草刈機』の前ではお前らは無力なんだ!くくくっ、悔しいかっ!俺が憎いか!憎め、憎めっ!雑草に産まれた己が運命を呪うがいいっ!だがこの世は焼肉定食だ!強い者が弱い者を糧に君臨するんだよっ!悔しかったら人間に転生してみなっ!おらおらおおらっ!」


俺はひとり異世界転生俺Tueee芝居を雑草相手にぶちかます。こんな事でもしていないと単調すぎて気持ちが沈んでしまうのだ。これがまだ家畜の餌にでもなるならやる気もでる。しかし、近所で牛を飼育していた田吾作じいさんは3年前におっちんで息子は牛を売り払った。つまり今刈っている草は刈っても枯れるに任せて放置されるのだ。お金にもならないし人のためにもならない。ただ単にご近所に迷惑をかけないためだけに刈り取っているのだ。


まぁ、量はあるから探せば欲しいという人もいるかも知れないがわざわざ探すのも面倒だ。雑草の中には動物に食べさせられない種類もあるから選別するのも厄介だしな。


そんな訳で何ともやりきれない思いで俺は今雑草を刈っている。因みにこの労働に報酬は出ない。だって家の手伝いだから。アルバイトですらないのよ。俺は今年で24歳になる。家業である農業は兄ちゃんが切り盛りしているから俺は高校卒業後、別の町で一人暮らしをさせて貰えた。勉強は嫌いだったから大学には行かなかった。そもそも多分俺が入れるレベルの大学はこの国には存在しないだろう。だからといってぷー太郎ではない。ちゃんと会社勤めをしたんだ。半年で辞めたけど・・。


決して俺はメンタル豆腐なガラス細工のもやしっ子ではない。世間の不条理だって歯を食いしばって耐えれる男だ。でも世間は広い。上には上がいるもんだ。俺が入社した会社は凄かった。人を人として扱わなかった。説明もろくにしないで俺に機械を操作させ、失敗したら怒鳴り散らしてきた。損害の補償と称して給料のピンハネなんか毎月の事だ。文句があるなら辞めろと言うので辞めたら家に文句を言ってきた。でも親父がその筋に相談したら菓子折り持って謝りに来たよ。俺からピンハネした金も退職金だなんてぬかして置いて行った。


まぁ、これは極端な例だろう。俺は親父に慰められて気持ちを切り替える。でも、次の会社も似たようなものだった。俺は会社運がないのだろうか?それともこれが世間の常識なのか?


結局5年で6件の会社を渡り歩き去年からは実家の手伝いをしている。さすがに親父も5年で6件も会社を変わるのは俺に問題があるのではと思ったようだ。でも親父と口論しても始まらない。あれは当人でなくては判らない問題である。この事に関しては親父より兄ちゃんの方が理解してくれた。兄ちゃんは卒業してから農業一筋なので会社勤めの経験はないのだけど、酒の席で友だちから愚痴をよく聞くらしいのでニアンスは判るのだろう。


でも兄ちゃんは厳しいこともちゃんと言ってくれた。

「2年だけは遊んでいろ。でもその間に色々試せよ。そしてまた立ち向かえ。自分が納得できる仕事は必ずあるはずだ。見つかるまで何件でも渡り歩けばいい。でも諦めたらそこで終わりだ。女にもモテないぞ。」


兄ちゃん、せっかく良い事言ってるのに最後で台無しだ。でも俺は兄ちゃんの言葉に甘える。勿論俺は穀潰しではないのでこうやって家業も手伝う。ちゃんとハロワにも定期的に行って目ぼしい会社を物色したりもする。でも一見良さげな求人を見付けても俺の第六感が囁くのよ。これは危ない。絶対嘘だ。良い事ばかり言うやつは信用するな!


うんっ、多分俺の過敏反応だと思う。でも火傷を経験した子供は火を怖がるものだ。ここはやはりアルバイトから始めよう。でも俺って運がないからな。バイトも勤まらなかったら本当にヤバイよ。これはあれか?異世界転生へ神が俺を誘っているのか?俺を穀潰しのニートに仕立て上げてトラックに飛び込ませようと画策しているのか?それって神さまとしてどうなのよ?


でも悩んでも仕方がない。運がないやつは俺だけじゃないはずだ。そんな逆境にもめげずにがんばっているやつらもきっといる。だから俺だって負けないぜ!見てろよ、世間の大人たち!いつか一旗挙げてぎゃふんと言わせてやるからな!


あっ、これって駄目なやつの常套句だ。やばい、既に染まっているのか俺?

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