絶望と希望
疲れましたぁ〜〜。
「え?ジ、ジーク……今なんて………?」
「だから……僕の魔力値が100だと言ったんだ!」
シルは、なにも悪くないのに僕は、シルに当たってしまった。
「そう………。ちょ、ちょっとジーク!どこ行くの!」
僕は、無言で神殿から出た。追いかけてくるシルを無視して。
家に帰る道すがら、僕の魔力値の事を知っているのか、村の住民たちの声が聞こえてきた。
「おい、知ってるか。フリードのところの息子のこと………」
「知ってるぜ。なんでも歴史上最低の魔力値らしいな………」
「ありゃ、人生終わったな………」
「でも、スキルは、すげんだろ?」
「バカ!スキルを発動させるのにも魔力がいるだろうが」
「魔力値100っていくらなんでも低過ぎないか」
「ああ、今までの最低値でも300だもんな……」
「そんな村の恥晒しを村から出す訳にはいかないよな」
これまで友好的だった人たちすら、魔力値が低いというだけで態度を変えてしまう。
現実を突きつけられ、僕は、泣きながら走った。
「くそぉぉ………なんで……なんで僕なんだよ!」
僕は、なにも悪くないのに!なんで!なんでなんだよ!
そして、僕は森の中で泣き疲れ、寝てしまった。
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「……ク………ジーク……お……きて………起きて」
誰かの声が聞こえ、目が覚めた僕。
起きてすぐ感じたのは、頭のところに柔らかい感触だった。ゆっくり目を開けると、にっこりと笑ったシルが上から覗き込んでいた。
えー!?なんで僕、シルに膝枕されてるの!?
「大丈夫?ジーク」
目を開けたまま固まっていた僕に心配そうな顔で見てきた。
「う、うん。大丈夫大丈夫」
「それならいいんだけど………心配したんだからね!急に走りだしたと思って追いかけて来たら、森のど真ん中で倒れているし!」
涙目になりながら、シルが訴えてくる。ああ、そうか。泣き疲れて、眠ってしまったのか………。
「あはは……ごめん。ちょっと疲れたみたい……」
愛想笑いしながら、誤魔化す僕。
「そっか……。さぁ、ジーク帰ろ。おじさんもおばさんも心配してたよ」
そう言って、シルが手を差し伸べてくる。僕は、それをにぎることは、出来なかった。
「シルは、気にならないのか………?」
「……なにが……?」
「僕の魔力が100だという事。こんな恥晒しに無理してかまう必要なんて……ないのに……」
そこまで僕が言った瞬間、バシーンと澄んだ音が森に響いた。僕がシルに頬を叩かれた音だ。
「ジークのバカ!無理なんてしてない!ジークは、私が嫌でジークと一緒にいたと思ってるの?嫌だったら、一緒に冒険者になるなんて言わないよ!」
「仕方ないだろ!こんな魔力値じゃ、この先なにもできない!シルに迷惑をかけるだけだ………。魔力値は、人の価値なんだ……!」
「……そんなことない……そんなことないよ……!魔力値で人の価値が決まるわけないよ!私は、そんなことでジークを見捨てたりしないよ!」
「シル…………」
互いに涙を流しながら、気持ちをぶつけ合った僕とシルは、最後にお互いの顔を見て、にこっと笑った。
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その後シルと一緒に僕の家に向かった。
ドアを開けると、玄関に事情を知っているであろう父さんと母さんが立っていた。
「父さん………母さん………」
僕が二人に話そうとした瞬間、母さんが走って来て、抱きしめられた。
「いいのよ…ジーク…。なにも言わないで……辛かったでしょう……」
「今日は、もう休んで明日ゆっくり話そう。シルヴィも泊まっていくといい」
「い、いいんですか!?それじゃあ、お言葉に甘えて」
なぜか頬を赤く染めながら、こちらを見てくるシルをそのままにして、僕は自分の部屋に戻った。森で寝たにもかかわらず、泥のように眠った。
もうひと頑張りします!