9/ なんで携帯ショップで僕の人生をセーブするの!?
魔王を倒せばひとつだけ願いが叶えられる。
僕の願い?
そんなものは決まっている。
元の世界に戻ること!
人との関わりを避け、愛想笑いを浮かべ、トラブルに巻き込まれないことだけを考え、ただただ終業の鐘だけを待ち遠しく過ごす、あの愛しい高校生活に戻りたいのだ!
・・・
・・・刺激なんかいらない。
人からみたら嘲笑われるような学校生活でも、僕にとってはこれが最も呼吸のしやすい過ごし方なのだ。刺激なんかいらない。ここは...この世界は...刺激が多すぎるよ...
(まず、なにから手をつければ...)
チラッ..
・・・
「あ、あのお...」
「はい」
「えっと...」
自称・妹の辛口パニールがピッタリとくっついてきている...
「う、上坂さん?あのお...」
「わたしの名字は..」
パニールは僕を指でさしたあと、両手の人差し指でくいくいと引き寄せた。
・・・僕の名字を求めている気がする・・・
「ああ..甘口です」
「わたしは甘口パニール、です」
「うーん」
僕は唸っちゃった。どうしようこの子...
「どうしようこの子」
「え!?」
パニールは水晶玉を僕のお尻にあててなにやら占っている..いや、これは心の中を覗き込んでいる!?
「1日1分だけ、心の声を聴き取ることができるのです。ただし、お尻に水晶をちゃんと、しっかりあてないとだめですが」
「やめよう..それやめよ..いい関係築けないよ...」
「姉さんの進言、いただきます」
「..なんだか」
転生してこの村に飛ばされてから1週間、
このコイーワ村を昼間に歩くのは初めてかもしれない。
朝の8時に寝て、16時に起きる。そして20時から5時までステージで踊る。そんな生活を1週間送ってきた。
だから僕は昼間のコイーワ村がどんな姿なのか知らない。
10分も歩けばすべてを周れるような小さな村である。
それでも武器屋、防具屋、道具屋、宿屋、劇場、携帯ショップなどの施設はそろっている。
ん..?
携帯ショップ?
「....携帯ショップってなに?なにっていうのもおかしいけど、なんかこの世界観にあっていないような...」
「転生してきた者は、携帯ショップで記録しなくてはいけません」
「記録?」
「敵との交戦中、もし誰かが死んだとしても、交戦後に仲間が一人でも残っていれば死んだ者は最後に記録したところで復活をすることができます。ただし、所持金と装備はすべて剥奪されます」
「え..もし一回も記録をしていなかったら?」
「終わりです」
「!ぼ、ぼく、まだ一回も記録していないよ!」
「行きましょう」
僕たちは携帯ショップへ向かった。
・・・距離が近い。
女の子とこんなに寄り添って(位置は縦関係だけど)歩くのは初めてだ...
(周りからみたら、僕たちは恋人同士にみえるのかな..)
僕はついそんなことを考えて小さく微笑んだ。
「まあ、みてみて〜!仲よさそうな姉妹ね〜!」
(!!!女装中だった!!忘れてたよ!!)
つづく
【世界地図 vol.1】
《コイーワ村》・・・カツシカディープ国の東に位置する村。
カツシカディープ国屈指の歓楽劇場「夜の地蔵通り劇場」が全国的にも有名。
件の歓楽劇場をはじめ、酒場などが充実しており、村としては珍しく夜を主な活動時間とする。
10分も歩けばすべてを周れるような小さな村であるが、武器屋、防具屋、道具屋、宿屋、携帯ショップなど一通りの主要施設はそろっている。