6/ 他人の家では「ツボ」や「タンス」を勝手に調べるな!
「ざ、座長...?」
はあはあはあ...
僕の腹部にまたがっている座長、その息は荒い。
...僕は...
覚悟ができていない。
そりゃあ..確かに年上のお姉さまにドキドキはしていたけれど...
こういうことは心構えが必要だ。
多くの準備が.....
・・・
目を閉じちゃいけない!
なんで僕、目を閉じてるの!?
ああ..僕..受け入れようとしている・・・の・・?
・・・・
「返せ」
え?
「タンスから盗んだ絹のガウン、返せ」
「え..でも..」
「返せ!」
そこに淑女だった座長の姿はない。
座長は僕のカバンをひっくり返した。
絹のガウンがポロリとこぼれた。
「でも..《しらべる》という行為はこういう世界では当たり前なんじゃ..」
ツボやタンスがあれば《しらべる》という選択をする。それが他人の家だろうが、すぐそばに家主がいようが、どんどんしらべる。そうして薬草やら武器やらがあれば迷わず懐に入れる、それがこのスライムやらゴーレムがウロウロしている中世ヨーロッパ風の世界のルールのはず...
「どの世界でもいけないことはいけないんだ!」
「!!」
ゲームの世界だと思っていた。
でも彼女は人間。この世界で生活している。彼女たちにとってはここが現実。
僕は彼女たちの家にあるツボやタンスから当然のようにアイテムを獲ろうとしていた。
ゲームの世界だと思っていたから。
恥ずかしい...
僕はただの盗人だ...
絹のガウンを返し、そしてこの一週間借りて舞っていた《ジプシーファッション》を買い取りたいと申し出た。愛着もあったし、なにより調べたら守備力が高いということがわかったのだ。
「300トラだ」
「300!?」
僕が手にした給料は100トラだ...
着ていた学校の制服は例の村娘に強奪されてしまっている...
あ!
踊り子の衣装!
村娘から無理やり着せられた踊り子の衣装は!?
僕があの変なドーム型の屋敷から逃げ出して、声をかけてくれたのがこの座長である。
それから劇場専用の《ジプシーファッション》をレンタルしてくれて今日に至る...
じゃ、じゃあ、着ていた踊り子の衣装はどこに?
「ギーに返したよ。当然でしょ」
そりゃそうだ...
で、でもそうなると...
は、裸で外に飛び出せと!?
つづく
【アイテム vol.2】
《ジプシーファッション》・・・「夜の地蔵通り劇場」専用の踊り子の服。デザインはコイーワ村在住のファッションデザイナー、キング・中西圭一。
上半身はブラジャー、腰から股にかけて布を垂らすだけという露出度の高い服。
今のところ、一般に流通はしていない。ただし踊り子は300トラを払えば買い取ることができる。
《絹のガウン》・・・防具屋で400トラで販売している。
利点は重ね着ができること。重ね着をすれば守備力は加算される。
ただしサイズの関係で女性しか装着できない。
《デンジャラス・ブーメラン》・・・武器屋で350トラで販売している。
利点は襲ってきた敵、全員にダメージを与えられること。
男女・職業問わずに使用できる。
当初は「スライム殺しブーメラン」の名称だったが、スライム愛護協会のクレームに屈し、現在の名称になる。