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イシノミコ  作者: アリャハバキ
第一章《破壊式会社デストルクシオン》
4/5

新入社員マース

 復興もある程度終わり、静けさを取り戻した人工島にまた新しい朝がやってくる。中央に天辺に王族達が住まう巨大な塔が建っている城下街“セントロ”。その中の居住区にある小さな一軒家で淡い桃色の髪をした女性がやたらと楽しそうに身支度を整えていた。

「ウフフ。今日からお仕事が始まりますね~。」

「マース、お前何でそんなに楽しそうなんだ?」

 そんなマースに問う発光体ハジャル。彼は少し呆れていた。何故なら仕事というのは全く楽しいことでは無いことを彼は知っていたからだ。

「だって初めてなのですから、仕方が無いじゃありませんか。こんなにも爽やかな朝に起床でき、綺麗に身嗜みを整えて優雅な食事を楽しむ。こんなこと、今までの家の無い野宿暮らしからは想像もできませんでした!」

 ベラベラと喋り始めるマースに溜め息をつくハジャル。そんなハジャルは視線を布団にくるまったまま起きる気配の無い赤毛の女に向ける。

「なあ、マース。このままだと、“優雅な食事”とやらはできんようだが……?」

「あら~、困りましたね。そういえば、昨夜はお酒を大量にお買いになって全部飲み干しておりましからね。どうでしょう、このまま寝かせて差し上げるというのは――」

「良い訳が無いだろう! この女がいないと方向オンチのお前が会社に辿り着けぬわ。儂もこの人工島の地理は把握していなんだ、起こせ……起こせーっ!」

 怒れる発光体にマースは「仕方ありませんね」と言うと、鼾をかいて全く起きる気配の無い赤毛の女に近寄り体を揺する。何度も声を呼び掛ける。しかし全く起きない。

「マース、最早実力行使しか無いぞ。このままでは遅刻だ。」

 ハジャルの言葉にマースは無言で頷いた。マースは右手を構え静かに「ごめんなさい」と呟いた。そして――

パァンッ

 何かを叩く音と「あ痛あッ!?」という大声が響いた。



 騒音とガスを出す大量に走る鉄の塊のような機械、そして余裕なく忙しそうに歩く大勢の住人達で溢れる朝のセントロ城下街の広場。そんな中一際忙しく走るマースと赤毛の女ロカ、そしてハジャル。

「全く、助かったけど他に起こす方法なんて幾らでもあっただろう!?」

 そう言うロカの頬は少し赤く腫れており、やや涙目になっている。

「ご、ごめんなさい! 今度からは水をお掛けしたりくすぐったりが良いでしょうか!?」

「いや……ゴメン! アタシが悪かったよ! 今度からは早く起きるから! 誓うから!」

 マースの人を起こす方法が実力行使しか無いことを知り怖くなったロカは心から「早く起きよう」と心に決めた。

「くっちゃべってる暇は無いぞ。“バス”とか言うモノはあと五分で来るのだろう? 急ぐのだ!」

 マースに実力行使を促した張本人が二人を急かす。しかし、そんな急いでいる三人の事情など、知るよしもなく問題は起こる。

「キャーッ! ガーゴイル……ガーゴイルよー!」

 三人は突然の悲鳴にハッとする。そこには先日街で暴れたガーゴイル達よりもやや大きめで牛のような姿をしたガーゴイルが荒い鼻息を立てて今にも大暴れしそうなほどに興奮していた。そんな手強そうなガーゴイルを見たロカは深く溜め息をついた。

「嘘だろ……空気読めよ……。」

 そう言うとロカは背負っていたハンマーを持ち構える。

「遅刻……確定してしまいましたね。」

 マースもハジャルの力を使い石の巨人ゴーレム……の両手だけを出す。これは対単体用の簡易版らしい。以前は周囲にガーゴイルの破片があった為それらを取り込んで大きかったのだが、今回は少し小さめだ。あくまでも以前と比べたら……だが。

「責任取れよ、赤毛の。」

「だあっ、うるさいなあ!分かってるよ発光オバケ!」

「発光オバ……誰がオバケだ! 儂はそんな低俗かつ本当に存在するかも分からない曖昧な存在等では――」

「ハジャルさん? 集中してください!」

「グヌヌヌヌ……」

 そんなやり取りをしている三人に牛のガーゴイルは遠慮なく突っ込んで来た。

「来るぞ、避けろ!」

 勢いある突進から二人は避ける。牛のガーゴイルは騒音を立てて走る鉄の塊や木やベンチ等をものともせずに蹴散らしていき建物にぶつかり破壊すると動きを止めまた三人に対して振り向く。

 逃げ惑う人達を気遣いながら相対するマースとロカ。また突進して来ようとしてる牛のガーゴイル。そんな中、マースが言う。

「私がこのゴーレムの腕で、ガーゴイルの突進を止めます!」

「できるのかい?」

「できます!」

 先程の突進の勢いを見てやや心配するロカだが、自信に満ちた表情のマースを見てロカは記憶にある人物と姿をマースと重ねる。

(似ているな……あの人と。コイツなら……)

「なら任せた! アタシは止まったガーゴイルにトドメを刺して壊す! オッケー?」

 そう言うロカにマースは笑顔で「はい! オッケーでございます!」と答える。そうこうしている間に牛のガーゴイルはすぐそこまで迫って来ている。そんな牛のガーゴイルをマースはキッと睨み構える。

「はあああああああああああっ……!」

 巨大なゴーレムの両腕が突然する牛のガーゴイルの両角を掴む。それでも牛のガーゴイルの勢いはなかなか止まらずマースとハジャルは後退る。それでも負けじと力を込めるマース。

「くぅっ……止まって……頂き……――」

 するとゴーレムの掴んだ牛のガーゴイルの角にヒビがはいる。角を壊さないよう絶妙な力加減で掴み続ける。それでもなかなか止まらない牛のガーゴイルだが次第に動きが鈍くなり、そしてマースが叫び力を更に込める。

「――ますっ!!」

 ビタリ。と牛のガーゴイルの動きが完全に止まった。

「お疲れっ、後は私が破壊する!」

その瞬間にロカが牛のガーゴイルに突っ込んで行く。そして勢いを付けて跳び、ハンマーを思いっきり牛のガーゴイルの頭部に降り下ろした。

バコオオォォォオッ

 石の砕ける音が響く。すると牛のガーゴイルの割れた頭から紫の光る石が露になり、それを「占めた!」と言う表情で見るロカ。そしてまたハンマーを構え直し、その紫の石に向かってハンマーを横に振るう。

「終わりだ!」

 ロカのハンマーに打たれ斜め下に飛び地面に打ち付けられた紫の石は粉々に砕け散る。それと同時に牛のガーゴイルは形は崩れ塵となり、消えていった。



 ホッと一息つくマースにロカが「お疲れっ」と言い労う。それに対してマースは笑顔で答える。

「御苦労様です! ロカさん。」

「こらこら、先輩に対して“ご苦労様”は失礼だよ。お疲れ様が正しいんだよ。」

「あら!? そうなんですか!?」

 笑いながら指摘するロカはハッと驚くマースを見てハハッと笑う。そしてハジャルが溜め息混じりに言う。

「意外と細かい女だ。そもそも誰のせいでこんな面倒なタダ働きを――」

「いい加減しつこいぞ発光オバケ。」

「まだ言うか赤毛の――」

 またケンカを始めそうな二人をマースは笑顔で見守るが、あることを忘れていたことに気付く。

「ロカさん! 会社です!早く出勤しなくては……」

 マースの言葉にハッとするロカとハジャル。青ざめた表情のロカは焦る。

「そ、そうだな。あ、まずは会社に電話で連絡しないと……ああ、減給モンだなあ。あの副社長の雷が落ちることは確定だなあ……ハァ。」

「自業自得だ。」

「黙ってろ!」



 紆余曲折を得てようやく会社に出勤できた三人。事情を話し理解はして貰えたものの、遅刻の原因となったロカには予想通り副社長の雷が落ちたのだった。

「先輩としての余裕を見せろロカ。次に遅刻すれば、もう来なくてもいいからな。」

「はい、申し訳ありませんでした。」

 深々と頭を下げて副社長に謝るロカ。その様子を見てマースはロカを弁護しようと乗り出そうとするがそれを眼鏡を掛けた厳しい表情の女性に止められる。

「やめなさい。事情はどうあれ本当に彼女の自業自得だし、彼女もそれを理解しているわ。」

「貴女は?」

 マースの問いに眼鏡の女性はクイッと眼鏡を上げ、答える。

「ブロンセよ。アナタは名乗らなくて良いわ。社長から色々聞いているし、このあと自己紹介もあるから。それより――」

 一方的に話すブロンセに戸惑うマース。そんなマースを強く睨み付け話を続ける。

「先日の夜、ガーゴイルが大量に現れたわよね。」

「……はい。」

「アナタがゴーレムの力を使い、ガーゴイル共がアナタに引き寄せられたのを見たけど……あれは何かしら?」

「それは、私にも事情がよく分からないのです。ガーゴイル達は何故か私に惹き付けられて――」

 事情をなんとか説明しようとするマースだが、ブロンセは話を遮る。

「アナタがあの騒ぎを起こしたことは確かなのよね。マッチポンプという奴かしら?騒ぎを起こしてそれを自ら解決して英雄にでもなるつもりだったんじゃないかしら。」

「そんなこと――」

「事情はどうあれ、アナタの存在は危険よ。タダでさえガーゴイルが頻繁に現れるこの島にアナタみたいのがいたらハッキリ言って迷惑よ。」

 二人の様子を見ていたハジャルは痺れを切らし、マースを庇うように二人の間に割って入る。

「そこまでにしておけ、眼鏡の。何も知らぬ癖にベラベラと好き放題言いおって……」

 怒りを体現するかの如く、やや強い光を帯びたハジャル。そんな発光体を見たブロンセは眼鏡をクイッと上げると、暫くの沈黙の後ボソリと「私は認めない」と言った後立ち去っていった。

「オイコラ、無視をするか!」

 マースはブロンセに対して怒りの感情は無かった。寧ろ罪悪感のような物を抱いていた。

「私は、本当にこの島へ来ても良かったのでしょうか。隠れているガーゴイル達も引き寄せて一匹残らず倒すために……とは言え、危険を伴う代償もありますから……」

「マース。」

 ハジャルも掛ける言葉が見つからなかった、それが事実だったから。何を言っても気休めにしかならないと核心していたからだ。暫く沈黙が続くがその沈黙を破ったのは――

「お待たせ。ほら行くぞ新入り!」

 怒られ終わったロカだった。どうやらさっきのやり取りを少し聞いていたらしく、事情を知っているのでロカなりに気遣っているらしい。

「ロカさん。私――」

 マースが何かを話そうとするがロカは遠慮なくそれを遮る。

「良いから行くぞホラ。」

 ロカは強、だが優しくマースの手を掴み仕事場へと引っ張っていった。マースはロカの少し強引ながらも然り気無い気遣いに微笑み内心、礼を言った。ハジャルもどこか微笑んでる……ように見えなくもなかった。いや、発光体なのでよくは分からない。


 仕事場に入るとそこは沢山の机と複雑な文字やら何やらが映った画面が付いた機械、その前に難しそうな顔をしてにらめっこをした人や通信をする機械で必死に応対をする人等がいた。

「おはようございまーす。おーい、みんな一端手、止めてもらえますか? 新入社員の紹介だよ。」

「皆様、御早うございます。遅れて申し訳ありません。」

 ロカとマースがそう言うと、通信をして話してる人達を除いた皆が一斉にマースに注目する。

 マースは少し緊張するが、コホンと咳き込むと背筋をピンと立て、気品良く挨拶をした。

「この度、弊社に入社して頂きました、マースで御座います。これからこの力を使い弊社の為、この島の平和の為に尽くしていきたい所存です。最初の内は迷惑をお掛けすると思いますが、どうか宜しくお願い致します。」

 マースの挨拶のあと社員達の拍手と歓迎の声が上がった。これからマースのガーゴイルを破壊していく日々が始まるのだった。








 



 



 






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