生ける石と破壊者達
どこを見渡しても大陸が見えない海の真ん中、そこには巨大で堅牢な岩と強大な力を持つ魔術師による魔法で造られた人工島があった。
まだ人が寝静まらない夜、白く高い建物が建ち並ぶ街で事件は起こる。
「み、皆逃げろ! ガーゴイルだあ! ガーゴイルが出たぞぉ!」
大勢の人間達が悲鳴を上げながら逃げていく、その人間達の背にいるモノは大きな石像……のように見える化け物だった。
その石像のような化け物、“ガーゴイル”は間接と体内以外は石でできているという何とも不可解な存在。剣や銃弾でも太刀打ちできずに人々は襲われるがままだった……――
「おい! 誰かあの会社を……! デストルクシオンを呼べっ!」
――一つのとある会社が創設されるまでは。
騒ぎの中、高い建物の屋上に四人の女性が立っていた。その中の赤毛の女性が小さい機械を使って何者かと通話をしている。
『今回は、奴ら……ガーゴイルが活発デース、残業代は出しますので頼みましたヨー?』
機械から、ややノリの軽い壮年男性の声に赤毛の女性はしかめっ面をしながら応える。
「はい、残業代はタンマリと貰いますんでよろしく頼まれまーす。」
『エッ……それはちょっ――』
ブツッ
赤毛の女性は容赦なく機械の通話を切った。その様子を見ていた白髪の女性が声を掛けた。
「ロカ先パーイ、社長に厳し過ぎっスよー!そりゃあ何度も残業させられてる恨み辛みは分かるっスけどー……」
赤毛の女性、ロカはそんな元気が有り余った白髪の後輩をギロリと睨み付けた。
「ヒッ、ヒエッ!やだなー、怒らないでくださいよ~! ティエラはどこまでも先パイに着いて行くっスよー!」
「じゃあ仕事終えたら酒オゴリな。どこまでも着いて来てくれ。」
意地悪な笑みを浮かべたロカにティエラは「ウヘエッ」と声を上げた。そんなやり取りをしている中、青い髪の女性が二人の間に割って入る。
「ちょっとロカ、アナタ残業させて貰える程に頼られていると言うのに何よその態度!そんなに仕事したくないならアタクシに仕事ぜーんぶ譲って頂けないかしら!?」
この青い髪の女性はどうやらロカのことが何から何まで気に食わないらしくライバル視をしているが、それは一方的なものであってロカはいつものことと受け流している。
「ロカ、ティエラ、イエロ。いい加減仕事を始めるわよ?」
三人のやり取りを見て溜め息をついた黒髪の女性が赤い縁の眼鏡をクイッと上げながら言った。物静かながら威圧感のある言葉に三人は少し怯えながら「はい」と応える。
「ブロンセさん、恐いっス…」
小さく呟いたティエラだが、そのブロンセには聞こえていたらしく睨まれて「ヒエッ」と声を上げた。そんなティエラを押し退けてロカがブロンセに聞いた。
「ブロンセさん、ガーゴイルは何体いるんです?」
「……いつもは数えきれる程なのよね。だけど――」
「数えきれない程、なんですか。」
戸惑いを隠せないロカに対して、ブロンセは静かに頷いた。ロカは顔が青ざめた。そんなロカにイエロがやたら嬉しそうに声を掛ける。
「あぁらぁ、もしかして怖じ気付いちゃったかしらあ?なんならアナタは休んでよろしくてよ?全部アタクシが代わりに――」
イエロの鬱陶しい煽りをロカのニヤリとした笑みが止めた。
「ハン! 上等だよ。残業代どころかボーナスも追加させてやるさ、あの真っ黒会社が……!」
煽りを止められたイエロは、素早く立ち直ったロカの様子を見て悔しがるどころか笑みを浮かべた。
「それじゃ、破壊式会社デストルクシオン。仕事開始だ…!」
四人の女性は各々、武器を構える。ロカは長く強固なハンマーを、ティエラは両手に鋭利なツルハシを、イエロはドリルが付いた大きな機械を、ブロンセは先端が刃のようになったスコッブを。
「先パイ、社訓をお願いしますっス…!」
ティエラに言われたロカはコクリと頷き、スゥッと息を吸い込み、叫ぶ。
「我が社は第一に!」
「敵を叩き!」
「我が社は第二に!」
「敵を砕き!」
「我が社は第三、第四に!」
「敵を壊し!」
「我が社は第五にっ!!」
「敵を崩すっ!!」
「破壊式会社デストルクシオン、今宵も宜しくお願いしますっ!!!」
「お願いしますっ!!!」
社訓の唱和を終えた四人の女性はガーゴイルが暴れる街中に全速力で駆けていく。
破壊式会社デストルクシオンとは人工島に突如現れた異形の存在“ガーゴイル”を専用の武器を使い破壊していく企業。その社員達はガーゴイルに成す術が無かった人工島の人間達にとっての救世主のような存在だった。
ガコォッッ
石を砕いた鈍い音が街中に響き渡った。巨大なハンマーを軽々と扱うロカが次々とガーゴイルを壊していく。
「どうしたんだい、石コロども! 数だけか? 全く手応え無くって眠くなってきたよ!」
次々と大量のガーゴイルを倒していくロカ、それに負けじとイエロも次々とガーゴイルをドリルで貫いていった。
「ロカなんかに負けなくってよ!醜い石像達よ、どんどん掛かって来なさい!纏めて風穴を空けて差し上げましてよ…?」
そんな二人の様子を見て呆然としていたティエラの頭にゴツンと拳骨が降りた。
「あ痛っ、ブロンセさん……!? す、すいませんボケッとしてました……――」
「サボってると一緒に斬るわよ……?」
いつも以上に恐ろしい表情をしたブロンセの周囲には細切れにされた大量のガーゴイルが散らばっており、それを見たティエラは怯えて涙目になりながらガーゴイルの群れに向かっていった。
「破壊式会社デストルクシオン、期待の新星ティエラちゃんでーっス! 今宵も元気に穿っていっちゃうっスよー!!」
素早い動きと二本のツルハシによる連続攻撃で次々とガーゴイルを破壊していきそのまま何処かへ行ってしまった。
デストルクシオン社員達によって人々の悲鳴がガーゴイルの悲鳴に変わった街中の隅で一人、見窄らしい格好をした女性が一人歩いていた。
「今日は石達がいつも以上に騒いでいますね……。」
そう呟いた女性の傍らには謎の発光体が浮遊していた。その発光体は女性の呟きに反応し人の言葉を口にした。
「この島に入ったことがもうバレたのではないのか?まったく……お主は何でそう後先考えないのだ。もう成人だろうに中身は子供のまんまでグチグチグチグチグチグチグチグチグチグチグチグチグチグチグチグチグチグチ――」
女性は耳を人差し指で塞いでいた。が、その発光体はまだ愚痴をグチグチ言い続けていた。そんな中、女性が異変を察知した。
「ハジャルさん。」
「――むう? ……まさか、奴らに任せてはおけない自体になりそうなのか?」
ハジャル、という名の発光体がそう聞くと女性は静かに頷き、言った。
「行きましょうハジャルさん、手遅れになる前にも……!」
真剣な顔付きになった女性に発光体は息という概念があるかは兎も角、深く溜め息をついた。
「仕方の無い役立たず共め……。行くぞ、マースよ。」
「ええ!」
一人の謎の女性と謎の発光体はガーゴイルの群れとデストルクシオン社員達が戦う街中に向かって行った。