自動掃除人形
ヴァルガは午前中も遊びたいらしいです。
今日も今日とてメイドの仕事。
私は別に掃除とかは嫌いじゃないし、料理をするのが好きだ。
でも、いかんせん、私の自由な時間が、1日24時間ー5時間(掃除の時間)-8時間(寝る時間)-2時間(ご飯の時間)-1時間(お風呂の時間》=8時間しか無くなってしまっていることに気が付いた。でも、料理は好きだし、作っている時間よりも食べている時間のほうが長い。
だから私は、なんとかして自動掃除機械的なものを作ろうと思っている。
「自動掃除機械……」
今まで師匠は考えたことがあっただろうか。
それで、作ろうとして作れなかったのなら、その弟子である私が作ろうとどれだけ頑張ったところで出来っこないだろう。しかしあのガサツな師匠のことだ。私が初めて掃除をした時も、驚くほど埃が溜まっていた。もともと、家の中の綺麗さには頓着しないのかもしれない。
「師匠」
「なんだ」
「師匠は、自動的に掃除をしてくれる人形を、作ろうとしたことがある?」
「人形……」
師匠は少し悩んでから、私の部屋を振り返り、何故かにやりと笑った。
師匠がいうには、作ってみたところどころか、以前はこの家で稼働していたという。しかし、ちょっと気が荒ぶってその人形を壊してしまった。
何故修理して使わなかったのかと聞くと、非常に構造が面倒で、一度作ったら2度と作りたくないくらい手間と暇がかかったらしい。つまり、修理するにもかなりの手間と暇がかかる。
師匠がにやりと笑ったのは、その人形を私が修理する気になったようだったからだ。
そして、その人形は私の部屋(前倉庫)にあったから、おそらく私の部屋の地下に何体か並んでいるだろう。と。
そこまで面倒なのを私が治すのは遠慮させて頂きたかったから、何とか師匠にお願いしたかったけど、突っ撥ねられてしまった。無念。
そういうわけで、私は私の部屋の絨毯をめくって、地下への扉を開けた。
地下へ行くための梯子を降りていく。
浮遊の魔術?使える……のかな?でも落ちたら怖いので梯子行く。
「わぁ……」
広めの空間に、人形と言っていいのかすら分からないような不気味な何かがあった。薄暗い地下で、それはまるでゴースト。しかし勇敢な私は3体くらいを掴むと、さっさと地上へ戻った。
「お、持ってきたか」
師匠は優雅にお茶を飲みながら本を読んでいる。
そのお茶のわきに人形を置いた。
「おい、お茶が零れるだろ」
「そーんなことはどうだっていいわよ!この、気味の、悪い、見た目は、なんなの」
本当に不気味な見た目をしている人形なのだ。
1つは、全体的に赤い色をしている。顔は三角で体が丸い。目はリアルな人間のようなもので、時折瞬きをするのがさらに気持ち悪い。しかし足の部分を見ると、なるほど、ここがぱっきり壊れている。
2つ目は黒くて、ネズミのような外見にも関わらず、目が人間。しかも笑っていない。それなのにまたリアルな人間の鼻と唇があって、その口元には笑顔が……おそらくモップのような役割をするんだろうが、そのモップに真っ二つになったネズミがひっついているような感じだ。
3つ目は小さい箒のような、白いものだ。これには黒い空洞が2つと、細長い空洞一つで顔を表しているように見えた。しかし、この何が最も不気味かというと、手足が付いているのだ。モップに。くそ。なんだこの手足。リアルすぎる。異様に白いし、爪が綺麗だが、何か赤いものが付着している。これはどこが壊れているのかが分からない。
「俺の目の前に置かないでくれ。気持ち悪いから」
「師匠が作ったのよね?こんなの、治したって気持ち悪くて使えないじゃないの」
「まあ、そう言うなって。ほら、よく見てみれば可愛らしいぞ」
「可愛……らしい……?」
意味が分からない。
しかしこれを治さないといけない私は、極力心を無にしてみようと思う。
3つを机に綺麗に並べて、まず先にどれを治そうかしら。
「その、箒のやつ、一番簡単だぞ。というより、あとの2つは俺でもさっぱりだ。設計図はあるんだが、途中で不備が見つかってな。長い試行錯誤の後そうなったってわけだ」
「じゃあ、この顔は?」
「最初に作ったやつに、遊び心で顔を付けたが、少し気味悪くなってしまったんだ。それで、後に苦労して作っても動かない。あまりやりたくなかったが、もしやと思って顔を付けてみたら、驚くことに動き出した」
「何よそれ……」
自動掃除人形には顔が必須ということか。
私は師匠の言う通り箒の人形を治すことにする。
これは、どこが壊れているんだろう。取り敢えず手に付着している赤い何かは拭き取っておいた。
棒の中は空間があるようだ。その中を覗いてみる。
赤い……ドロドロ?
「えっぐ……何、これ……」
「内蔵?」
「内蔵……何の内蔵かは聞かないわよ。これが壊れてるの?」
「ああ、回しすぎて位置がずれたんだな。さて、その中身は少々臭いがきついから、俺は自室へ行くぜ」
「ちょっと待って!」
中身の臭いが少々きついって、……まあ、臓物なら臭いがきついのも仕方が無い事なんだろうけども。
私は箒の柄を縦に2つに切った。中からは良く分からん臭めの物体が……。
結果的に言うと、修理は完了した。他の2つも修理したかったんだけれど、あれ一つで師匠が降参してきた。勘弁してくれと。でも、あの箒だけでもかなり綺麗になるし、お前は掃除は今後しなくてもいいということだ。あとの2つについては地上からご退場願った。
なぜあの場面から一気に端折ったかって?
ちょっとばかしえぐろいことが、あの後6時間くらい起こったからだよ。詳細は聞かないでね。
それで、何時間もあの箒を眺めていたら、ちょっとキュートに見えるようになった。黒い空洞が今はつぶらな瞳に見える自分が怖い。
そんなキュートな箒ちゃんに名前を付けてあげることにした。
「コーラ!」
「きゅ?」
コーラちゃんだ。
なんと、苦心の末きゅ?と可愛く鳴くことになった。
「弟子……。やめてくれよぉぉぉー」
師匠は何故か頭を抱えていたけれど、可愛いコーラちゃんは、これから家の中を掃除してくれるのだから、邪険にするなんてとんでもないと思う。
「じゃあ、これから、よろしくね」
「きゅー」
心なしか目を細めたように見えた。
ちなみにコーラの鳴き声はおっさんの声です。