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不幸になる

次の日、私達は領主の家へ行くべく街を歩いていた。天気は良好、気温も低くなく、高くもない。

絶好の殴り込み日和だなと、ラリズは冗談めかして言っていた。おそらくあれは今日が最高に楽しいのだと思う。野蛮な奴。


現にかなりの上機嫌で鼻歌まで歌いながら歩いているが正直隣にいて恥ずかしい。この天使と見間違えるほど綺麗な顔と歩いている優越感に勝るほど。


今、アバウトに宿のおばさんに聞いただけの領主の家へ(割と適当に)向かっている。私達はこのまま歩いて良いのだろうか。

この考え無しは一体どこまで考えているのだろうと右を見やるが。


うん。何も考えていない顔で前だけ見て歩いている。非常に残念なことに。


「でもラリズ。まずは水色の髪の人たちをなんとかしないといけないんじゃない?」

「なんとかって、どうすんだよ」

「だって領主一家と問題起こしたら彼らと連絡を取ることもままならなくなるよ」

「そりゃあそうだな」


ラリズは足を止めた。私も足を止める。まったくもって彼は(数少ないが)私の知っている人の中で真の考え無しだ。しかし、さっきの言葉もさっき気がついただけで、今の今まで私は彼と同類だったんだ。密かに嘆く。


その時。


「そこにいるのは、ラリズ・フェアウィッチとヴァルガ・ヘイディストだな」


大勢の軍隊を連れたヴァイオレットの髪の男がこちらへ向かって息を切らしながら走ってきた。突然のことに、周囲の人々はひそひそと話し出した。それがまたたく間に広がり、あっという間に大騒ぎになる。

なんてことだ。この考え無しが。

私は会いたくもない人物に会ってしまった。しかも不意にだ。そして今騒ぎを起こすのはまずい。


まさに最悪のタイミング。


私はラリズに、帰ろう、ここは一旦引き上げるべきだと言おうとした。私達は2人だし、あちらさんは大勢の部隊を率いてきてる。いくら私たちが魔法の使い手だとしても…いや、大丈夫だろうけども。

しかしながら、時すでに遅し。


「あれ。どちらさま?確かに僕はラリズ・フェアウィッチですけどぉ」


なんだか怒っている。今日という楽しいことをしようとした日を邪魔されそうな雰囲気をこのバカも感じ取ったのかもしれない。

相手も、ラリズの舐め腐った態度に鬼の形相に変わる。


「そうだな。私は、そこのヴァルガの育て親のようなものだ。ラリズ君。彼女を私に返してくれないか」


ええええええええええええええええええ!?


待って、いきなり過ぎる!


せめて三日前には予告が欲しい出来事!

育て親?返して?なんなんだ?は?へ?


意味がわからない!誰か誰か今の状況を説明してくれまいかだめだ落ち着くんだ私今はラリズの魔王になろう計画の最中なんだヴァルガの過去やいかに…!?とかやっている暇はないそういうのは後でいい後で!

でもやっぱり気になる私の過去についてもうどうでもいっかとか思った時期も私にはありましたけれどもやっぱりそこを知らないと安心して生きられないというか自分のルーツは知っておきたいというか!

私が知りたくて知らないことが全部目の前にあるんだと考えたらもうああああああこんな時はどうしたらいいんだ!


しかし、ラリズはヴァイオレットの髪の男の言葉が気に触ったらしく、眉をしかめて、眉間のしわを深めた。


「育ての親?育ての親っていいましたぁ?」


なかなか喧嘩腰である。

語尾を伸ばしているのが絶妙にうざい。軽く中指を立てながらのこの物言い。私はえっ、ちょっと…って言いたいが戸惑いすぎて声も出ないため心の中で現状を実況するしかできない。


「それ、僕だと思うけどなぁ。7歳のヴァルガを拾ってから、僕が今までずっと世話してきたのになー」


確かにそうだ。私には七歳以前の記憶が無いから、なおさらに。


「ラリズ君の意見はもっともだと思う。7歳からのヴァルガの面倒を見てきたのは君かもしれない。しかしその子の7歳までの面倒を見ていて、泣く泣く手放したのは私だ」


この人が私の育て親というのは本当のようだ。7歳“ から”を妙に強調したいお年頃のようだが、それは(何故か)ラリズを苛立たせている。そしてギャラリーは集まってくる。このままでは本当に良くないのではないだろうか。


「あんたさ」


ラリズの声が一気にトーンダウンした。先程までの大の2人の大人の幼稚な言い合いに若干引き気味だったヴァイオレットの髪の男の部下も、この声には少々驚いたらしい。


「1回捨てたんだろ。あんな寒い場所に放り出して。それとも俺に魔術で勝てると思ってんのかよ」


部下をわんさか連れているのを見るに、おそらくあの人は高位の魔女なのだろう。しかし、ラリズ・フェアウィッチには逆立ちしたって適わない。

何故ならラリズはただのラリズでは無い。この星で最も力のある魔女に与えられる「フェアウィッチ」という役職名を名乗ることが出来るただ1人の人物なのだ。


もっとも、今は他にフェアウィッチが居るのだろう。ラリズは表舞台から完全に姿を消し、今や人類の敵となっているのだから。


「世界中の人間が束になったところでお前には適わない。そうだな…私の提案はお前にとっても利があるものだ」

「なんだと?」

「ラリズ」

「どうした、ヴァルガ。あの変なやつ今すぐ俺がぶっ潰してやるからな」


名前を呼ぶと、なんだか目が笑っていない状態でそんなことを言われた。いやいや怖いから。

向こうも少し動揺しているのが見て分かる。


「いいよ。あの変なのは放っておいてはやく退散しよう。周りにどんどん人が集まってきてる」

「へ…変なの。変なのとはなんだ。昔は私のことをおとーさんおとーさんと…可愛い声で…言って…」


ご乱心のようだ。


彼の部下も上司の醜態を見てざわめきが広がっているが、今後にわだかまりが残らないかが心配(笑)だ。


隣にいた部下が見かねたのか何やらこそこそと彼に耳打ちをする。そして彼ははっとしたような顔で部下にその手があったか、と言った。しかしその後我にかえったように、だが、それは少しばかり…と言ったが、部下は満面の笑みで大丈夫ですよ!と親指を立てた。


彼は私の方を向いた。


「ヴァルガ、私の名前はおとうさんという」

「死ね!」


今の死ね!は私の声ではない。ラリズの声だ。ラリズは右手を彼へ向けた。何かするつもりだ。

確かに今のはだが、それは少しばかり…という内容だったし、部下はこの場にいる全員に土下座で謝るべきだと思う。ちょっと気持ち悪かっ…いや、かなり気持ち悪かった。


が、手を出すほどではないと思う。一回話し合おうか。魔術じゃなくてさ。


ラリズさん今魔王目指してるからね?言ってないけど。知らないだろうけどさ。1回人口4分の1まで減らしちゃってるからね?忘れちゃったかな?


部下は再び彼に耳打ちした。いや、お前はもう引っ込んでろ。


「分かった分かった。冗談はこの位にしようじゃないか」


なんかいきなり冗談だったことになったぞ。あの言ってやった感溢れる顔を無かったことにしようとしてる人がいる。


「私の名はアルガルド。君たちの目撃情報を聞いてこの街にやってきた。死ぬほど急いでだ。私は訳あってヴァルガを1度手放したが、それを後悔しなかった日はない。肝心の理由というのを話せないのが残念で仕方ない。私にはある魔術がかかっているんだ」


なんか仕切り直ししようとしてるぞこいつ。なにが私の名はアルガルド。だよ。


「お前のいう訳というものがどんなものであれ、俺はヴァルガをお前にはやらんぞ。帰れ帰れ」


しっしと追い払うように手を振る。

それを見てアルガルドは顔を歪める。


「君のためでもあるんだ。一つだけ言っておこう。これは私に言える最大の助言だ。君はヴァルガと共にいることで不幸になる」


は。何それ。私がラリズが一緒にいるとラリズが不幸になる?というか、私がラリズを不幸にする?

考えるより先に、口が動いた。


「詳しく教えて」

「それは出来ない。そういう魔術がかかっているからな」


即答だ。


どこまで信じていいのかもわからない。この人が何らかの理由で私を取り戻したいがための嘘をついている?私の瞬間記憶能力や、原始の魔女としての資質を得たいがためだろうか。理由を話せないというのも怪しい。


ラリズも、話を聞いていられないというように首を振った。


「お前、胡散臭い奴だな」

「なっ、なんだその言い草は。私は純粋にだな」

「私、あなたを見ているとなんだか不快」

「ふかっ……」


私は心の声が漏れてしまった。

そう。彼を見ているとなんだか本当に胸がざわざわするのだ。言いようもない不快感。言い換えるならまじで最悪。


「今日のところは宿に戻ろうという話だったな」

「正確には違うけど」

「あんなやつ放っておいてさっさとずらかるぞ」

「うん」


私はほとんど真顔で頷いた。


「言っておくけどな」


ラリズが立ち止まって振り返る。


「今お前を殺さないのは、ヴァルガの過去を知ってるかもしれない奴だからだ。今はタイミングが悪いとヴァルガが言ってるからな。またの機会にするけどな」


おっと、意外と考えていらっしゃった。


そうそう。あなたが魔王になってからで構わないからさ。爆弾は着火しないまま持ってたらそれは脅威でも何でもない。ああいう火の粉を払っていけば、いつかは湿気る時が来るだろうし。

まあ、私の過去が爆弾かどうかなんて分かんないけどさ。7歳の子供の壮絶な過去ってなんだよ?って感じ。


私達は手頃な店のドアに転移術をかけ、くぐる。

「待て!」

後ろから声が聞こえたが、なんだか気持ち悪かったので素早くドアを閉めた。


そこはもう、宿の中だった。

「さすがフェアウィッチ。原始の魔女だ。転移術なんて本当に使えるんだ…」

「僕は初めて見ました…」

「くそ…ヴァルガ…。どうしたら私の元へ戻ってきてくれるんだ…」

「隊長…」

「言いずらいのですが」

「なんだ」

「騒ぎが大きくなりすぎです。この街の軍も動き出しています」

「また報告書か…」

「仕方ないですね…」

「自分達も、ヴァルガちゃんには戻ってきて欲しいと思っております」

「昔に1度だけ遊んだことが」

「無かっただろ!記憶を捏造するな!」

「今日のところは宿をとる。報告書の100枚や200枚書いてくれるわ」

「その息です!隊長!」

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