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貧民街にて

私達は、貧民街(スラム)の奥へと入っていった。

奥へ行くにつれて、不思議な活気というものを感じた。師匠の表情は明るく、この場所には少々不釣り合いだ。


「師匠、あの、このままでは襲われる危険性が」

「大丈夫だ。俺が守ってやる」


うっ。ちょっとときめいた。これが師匠でなければなにかが始まる予感がしたというのに。

───じゃなくて。

私が心配しているのは襲われる私達じゃなくて、襲ってくる者達だ。


「そういう問題ではないんだけど!」

「いいからいいから。何がそんなに不安なんだ?お前だって自衛くらい出来るだろ」

「騒ぎを起したら目立つ」

「それの何が悪いんだ?」


奥へ入るにつれて、さらに薄暗くなってきた。物陰に、チラチラこちらを見てくる人がいる。


私は、師匠の隣を何も考えずに歩くことにした。

ポジティブな人って、何も考えない人なんだって。だから私もそれを目指そうと思う。


しばらく歩くと、師匠は……あっ、魔王様はそれっぽく立ち止まり、ここだ、とか言い出した。確かに、ここは広めのスペースになっている。なにかをするにはぴったりだ。


「ぐっへっへっへ」


私が後ろを振り向くことを戸惑ったのは仕方が無いと思う。

なにか聞こえる。

かわいいヒロインとヒーローが宿敵から逃げようとしている時に、やーっと見つけたぜとか言いながら2人の進路に立ちふさがる真の悪役の下っ端の方の結局は倒されるけど2人にそこそこのダメージを与えるのが役目の悲しい系小物感溢れる人が発しそうな言葉を発しながら近づいてくる何か。


「お前ら、こんな場所に何の用だ?身なりを見るに、間違えて入ってきちまった一般人てとこだよなぁ?」

「ああ、そうだ。よく分かったな」

「まあそんなことはどうでもいいんだ。……有り金全部置いてさっさときえ」


一瞬だった。


さっさときえろ、と言いたかったのだろうが、おそらく魔王様が吹っ飛べ、とでも念じたのだろう。

男は台詞を最後まで言うこと無く、周囲のみすぼらしい家の壁へと飛んでいった。


もちろん、男は一人だった訳では無い。一人で二人を相手にするほど彼も阿呆だったわけでは無さそうだ。

男と一緒に私たちの元へ近づいてきた人達は、私達がヤバい人だと分かると、即撤退していった。おい、仲間を置いて行くな仲間を。


魔王様は彼の元へ何事も無かったかのように男の元へ歩いていった。私もそれに付いていく。


「おい」


男は水色の髪をしていた。瞳の色は青だったが、先程会った女性の言う、危険な人達の中の一人のようだ。

かなり綺麗な顔をしている。非常に凶悪だが。


魔王様に吹っ飛ばされて目を回しているのに、それを起こそうとしたのか、水をぶっかけられる。なんとも哀れだ。


「っぶ」

「起きろ」

「なっ、てめぇー!!!」


今度は殴りかかってきた。

それも、魔王様は軽くいなして地面とこんにちはさせていた。いきなり殴りかかってくるのが悪いよね。


「いいから話を聞け」

「殺すならさっさと殺れよ!」

「いや殺らないから」

「拷問するなんて悪趣味だ!しかもお前魔術使ってるだろ!何なんだよ!呪文は!?お前なんか、お前らなんか衛兵に捕まって水色の髪にさられてしまえ!」

「お前は既になってるけどな」


駄目だ。全く話を聞こうとしない。

他の人にすればと言っても、せっかく捕まえたんだと言って離そうとしない。


「むぐっ!!」

「ちょっと黙ってろ」


魔王様は口閉じの魔術をかけたようだ。

男は口をパクパクさせている。


「いいか、俺はお前を殺そうとはしていない。頼みがあるんだ。教えてくれ。何故お前の頭の色は水色なんだ?誰にそうされた?」

「っは……魔術……だよな?」

「いいから答えろ」


男は魔王様に凄まれると、仕方無しに話し出した。


男は、もともと裕福な家庭の出では無かった。

いろいろあって盗みを働いて捕まって、気付いたら髪の色が薄くなっていたらしい。

気付いたらってなに。


「じゃあ、俺が助けてやるから俺らの配下に降れ。他の奴にもそう言って回ってくれ」

「なんなんだよ。配下って……」

「今魔王様ごっこしてるから」

「ごっこじゃねぇ!本気だ!」

「はぁ?意味わかんねぇ。でも、ここの奴らは3食飯付きなら喜んでついていくと思うぜ」

「なら、いい。よし。頑張ってくれよ配下一号」


何故か話が纏まってしまった。


こちらから追って連絡すると伝え、最後に魔王様は男の頭の上に手をポンと置き、髪の色を青に変えた。

もともとこの色だったんだろ、と。


「いや、俺はもともとこんな色じゃない。この色は代々この町を仕切ってる家系の色だ。たまたま会ったのか?一般人はもっとくすんだ青だせ?」

「あー……こうか?」

「全然違う」


えっと、じゃあつまりさっき会った女性が、この町を代々仕切っている家系だってこと?

魔王様はどうにも色の感覚がおかしいみたいで、結局水色に戻していた。また変えてやる、らしい。


彼は、タルグという名前らしい。家名は、髪が水色になったときに取り上げられたのだそうだ。


タルグと別れ、町へ行き、宿をとってひとまず休む。

時間は夕暮れ時だった。


「あの女……何者なんだろうな」

「それはそうと、人嫌いの魔王様が、よく人を助けようと思ったね」

「魔王様はやめろ。というか、いい加減俺を師匠と呼ぶのもやめないか」

「え?どうして?師匠は師匠……はっ!」


まままままままさか、お父さんなんて


「父と呼べと言ってる訳じゃないぞ」

「じゃあなんて呼べば」

「普通に、ラリズでいいだろ」

「ら、りず」


いいの?ラリズって呼んでいいの?

なんだか恥ずかしい。出会って何年経ったか忘れたけど、呼び方って結構大事だと思う。


そうだよね。見た目同じ年齢なんだもんね。師匠って言っても特に教えてもらう何かがあるわけじゃないし。魔王様なんて人前じゃ呼べないし。恥ずかしいし。


ん、いやいや、そんな話じゃなくて。


「じゃあ今度からラリズって呼ぶね。で、何で人を助けようと思ったの」

「お前サラッと……もっとなんかねぇのか。いや、まあ、いい。あいつらは人に捨てられたんだ。人じゃねぇ。お前も同じだ。あんなクソみたいな種族だとは認めねぇ」

「なるほどね」


そうか。私も師匠……えっと、ラリズの中では人じゃ無かったんだ。どんな考え方だよ。

確かに、割り切った考え方をしていかないと生きていけないよね。私が。


「じゃあ、明日はどうするの?」

「決まってんだろ」


殴り込みだ。


それは、今日見たラリズの笑顔の中で、最も輝いていました。

いや、まあ、そうかなとは思っていたけどね。


「あの女の頭の色した一族がここら仕切ってんだろ。なら、絶対なんか知ってるはずだ。そいつらボコれば俺らへの株は鰻登りだ。喜んで付いてきてくれるだろうし、その一族が居なくなればこの町は混乱するだろ。ははは愉快だな愉快」


趣味悪っ。




しかし、そんな行き当たりばったりの計画が、そう上手く行くはずが無いのでした。

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