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師匠、魔王にジョブチェンジ

また、幾年かの年月が経った。


相も変わらずファンさんとレイさんは家に遊びに来る。


人とは生きる流れが違う私達は、なんだかやっぱり暇を持て余していた。


「旅に出るか」


師匠が、なんだか言い出した。


旅か。

師匠が一番大変な気がする。

自分探しの旅かな。よく言うよね。自分探しの旅には出るな。見つからないから。

でも、探しに行った先で村人大量殺害事件勃発するのが目に見えている。


季節は秋。

自分探しの旅に出たくなる気持ちもよく分かるけどね。

私はやめておいたら、と言いたい。


「ああ、いいんじゃないですか?たまには旅に出たくなる時もありますよね。僕も昔は行きましたよ」

「僕と一緒にね!あれは楽しかったな〜。あ、もちろん、人里には行ってないよ?いろんな大自然を見て回ったんだ〜」


なにそれ初耳。

でも、やめてください。師匠がもっと行きたくなってしまうから。

師匠の人間を前にしたときの情緒不安定さは、二人もよくわかってる筈だよね!


私は、縋るような目で二人を見るけど、それをどう勘違いしたのか、さらに詳しく話し出した。


「あれはね、そうだな〜おーっきな湖に、虹色の魚が悠々と泳いでいたよね〜」

「そうですね。非常に美しかった。雲の上から雲海を眺めたこともありましたね」

「孤島でサバイバルを楽しんだこともあったよね〜」

「すとーーーっぷ」


いけないいけない。

そんなに旅はいいものだったかい。それは良かったね。

でも、師匠の目を見てみてよ。あれは、よし、弟子、行くぞ!とでも言いそうな……。


「よし、弟子、行くぞ!」


い、言ったああああああ!


やっぱりね!言うと思ったけどさ。でも、ファンさんとレイさんが言ったものも気になるなー。

それに、世界を見て回りたいって思いも、無い訳では無いしなー。私は世間を知らなすぎる、じゃなくて、忘れまくってるからな。


ファンさんとレイさんが一緒に来るとは思えない。

まあ、私達との別れなんて、長い間生きてきた二人にとっては、本当に些細な事なんだろうけど。


「でも、旅って……なにをするための旅なの?」

「ふはははは。自分探しの旅にでも行くのだろうと思ったか?俺はな、魔王になるぞ!」

「は?」


魔王といえば、あれだよね。

黒い大きな城で玉座に座って魔族と美女を侍らせて、人間を奴隷にしたりとかして、悪逆非道の限りを尽くすっていう。え?マジで?


なんで?なんでそんなことになっちゃったの?


「どうしたの!?頭打った?」

「憎き人間どもを蹂躙してやるぜ」


駄目だこいつ。話聞いてない。

ファンさんとレイさんも師匠を煽る。


「いいですねぇ。人をこらしめてやるわけですね。そしてラリズ様が魔王に。これはいい世界になりそうだあはは」

「ラリズ様が王になれば、この国は安泰だね〜。だから、行く村とか街とかを滅ぼして歩く、と。最高だね!」

「えっ、本気?他人事だと思ってるでしょ!二人とも!」

「僕らはお留守番していますね」

「二人の旅にお邪魔するのは気がひけるからね!」

「あああああああ」


本気だ!

三人共本気で言ってる!

人間を皆殺し又は奴隷ににしようとしてる!


ガッデム!

一体師匠の頭の中で何があったというんだ!

しかも唐突に旅に出たいなんて、モヤシな師匠からは考えられないし……。


「一体何があったのぉ…….」

「いや、そろそろ人類が繁栄してきて腹立つ季節になるじゃないか」

「人類殲滅作戦ですね。分かります。どうか頑張ってください。ラリズ様なら立派な魔王になれますよ」

「俺を煽てても娘はやらんぞ」

「僕らに被害が出ないように、エルフの防御壁の中に閉じこもってないとね〜!」

「あ、はい。行くことは確定ですか」


なんだか話が変な方向に来てしまった。


私は窓の外を見て、遥か遠くに雨雲を見つけた。そのどす黒さに、これは嵐になると確信した。

あんなに離れているのに、既に草木が風で左右に揺れている。


「じゃ、行くか」

「本当に行くのー?」


私は嫌な顔をするけど、師匠には届いていない。


「いいか?お前の為でもあるんだぞ?お前は世界の常識を知れて、広い視野を持つことができるんだ。これほどいいことはないだろ?」

「でも、だからって魔王にジョブチェンジ……」

「弟子よ。まためんどうなことし始めたこいつと思っているだろう」


なぜバレた。


ま、楽しければなんでもいいや。


師匠は転移術をドアに施し、私を蹴り出した。ファンさんとレイさんは、笑顔で私達を見送ってくれた。あわわわ。

えっ、ちょっ、マジで?

本気で魔王になるための旅に出るの?

あっ、行ってきます。







最初に降り立ったのは、街人の殆どが青い髪の町。

青い髪以外の人間は、全て他の場所からやってきたという。けっこう大きめの町で、道行く人が皆、裕福そうな格好をしていた。


しかし一歩奥に入ると、そこは貧民街スラムだった。

こんなことって、やっぱりあるんだね。

貧民街スラムに住んでいるのは、青ではなく、薄い水色の髪の色をした人が殆どだった。


「あっ、あのっ!」


私達が貧民街スラムの、奥に入ろうとしていると、買い物帰りなのか、カゴの中に食料を入れた青い長い髪の女性が、話しかけてきた。

彼女はかなり上等な、青と白の適度にフリルのついた服を身にまとい、靴や帽子も青と白のお揃いの物だった。


私は自分の格好を思う。

赤い長い髪に、いつもの青い服。黒い靴。どちらもエルフ製であり、着心地がとてつもなく良いが、その性質は、他者に分かるようなものではない。しかし体にフィットするタイプで、私のパーフェクトな(ここ重要)ボディーラインが強調されている。この服を着た時の師匠の顔を世界中の人間に配って歩きたい。


そして、隣の師匠を見る。

いつも軽口を述べているが、その顔は非常に美しく、白い髪と、金の瞳、陶器のような白い肌、細い身体によって、まるで天使のように見える。着ている服の黒さと眉間によっているシワで全てが台無しになっても、若い女性に放って置かれることは無いだろうと予想される。ちなみに師匠の服もエルフ製だ。あまり上等そうには見えない。エルフには悪いけどね。


「えっと、えーっと、その、そこ、その……貧民街スラム、水色の髪の人たち、危ないですよ!」


すごいどもりっぷり。初めて会ったときのレイさんみたいた。


「ああ゛ん?」


ししょーーーーーーーう!!!!オラオラしないで!

師匠は、完璧にイラつきを表に出している。

青い髪の女性は、怯えているようだ。いけない。私がきちんとフォローしなくては。


「すいません、この人、今さっき仕事をクビになってしまって」

「は?」


我ながら怪しい言い訳を言ってしまった。

明らかに新参者の私達が仕事ってなんだよ。師匠も何言ってんだこいつという目で私を見てくる。


「ああ、ああ。そうなんですね。ほかの街からの商隊の護衛というところでしょうか?ああっ、す、すみません詳しいことを聞くつもりはないんでででですけれど、えっと、その、貧民街(スラム)に入っていきそうに見えたので、危ないのでよした方がいいと忠告しようと思いましてですね」


かなり身振り手振りで話してくれている。

しかし、目線は師匠を向いていて、完全に目がハートになっている。


貧民街(スラム)の、水色の髪の人達が危ないって、どういうことだろう?

疑問に思って聞いてみると、詳しく話してくれた。


「あの人達は、元々青い髪の人達だったんです。それが、重罪を犯したり、破産したりして、今みたいな水色になってしまったのです。だから、あの人達はろくな人達ではありません。近づかない方が身のためですよ」


どもりを省略したら、こんな感じのことを言っていた。

元は水色じゃなくて、なんかやらかしたから青色から水色になったってこと?

なんか変だな。そんなこと、本には書いてなかったし。魔術が掛けられてるのかな?


「探しましたよ!」

「どこに行ったのかと」

「誘拐かと思いました」

「また買い物に行ってたんですか!?」

「いい加減にしてください!」

なんやかんやと言われて、青い髪の女性は黒い服の男達に連れ去られてしまった。なんだったんだ、あれ。


「なあ。青い髪の人間が、なんらかの行動を起こしただけで自然に水色の髪になると思うか」

「多分、ならないと思うよ。絶対、魔術が使われてる」

「何がしたいんだ……一体……」


だよね。

見てみてよ、あの、水色の人達の死んだような目。

師匠は俄然やる気を出したようだ。

いや、あなたが魔王になるって言ったんだからね。魔王=悪じゃないかな?なにその、俺は貧民街(スラム)を救うぜ!みたいな。正義のヒーローに俺はなるっ!みたいな。


「よし。水色の髪の奴らを救って、俺らの配下にしよう」

「ええええええええっ」


俺ら?俺じゃなくてそれ私も入ってるよねぇっ!?

一先ず私達は、貧民街(スラム)に入っていくことにした。

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