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ちょっとだけ戻った記憶

私は、誰?


ヴァルガ。赤い髪を腰まで伸ばした、黒い瞳の、17歳の……。

でも、記憶が、無い。10歳より前の記憶が。思い出したい。自分が何者なのかが知りたい。少しだけ、怖いけど。


「あぐっ!」


頭が、痛い。なんで私はこんなことに、なってるんだっけ?頭、怪我したのかな。

この痛み具合だと、出血も酷いだろうか。今は多分夢の中だけど、起きた時が怖いな。


でも、そのおかげだかはよく分からないけれど、ちょっとだけ過去のことが分かった。

私は、私のファミリーネームはヘイディスト。私は、ヴァルガ・ヘイディスト。


5歳のときに、この記憶能力を買われて学校みたいなところで必死に勉強していた。何かの、そう、何か……は、あんまり思い出せないけれど、研究とかもしていて、本当に、必死に、勉強していた。

でも、魔術は使ってはいけないと言われていた。


フェアウッチの厄災が、あまりにも恐ろしくて。


大人達は皆、魔術を恐れた。

魔術には無限の可能性がある。人類が滅びる可能性も。

それを私も理解していたから、大人達に従った。


そして、そう、ヴァイオレットの……。


「ヴァルガ、起きたか」

「師匠……?」


何か大事なことを思い出しそうになったときに、目が覚めた。隣には、師匠がいた。


部屋の外を見ると、薄暗い。まだ、日の出ていないくらいだと思う。


「師匠、私、思い出したよ、いろいろ……」


師匠に話したいことが、ファンさんにも、レイさんにも話したいことがあるの。


「今は、いい。もうちょっと、寝とけ」

「え、う、うん……」


師匠も、私が怖いのだろうか。

私も、この話をしたとき、師匠が私になんていうのか、怖い。

でも、


「朝になったら、話、聞いてくれる?」

「ああ。朝になったらな」

「分かった」


私は、せめてにっこり笑う。まるで何も問題がないように。

師匠は私の部屋のドアをパタリと閉めて、出ていった。



朝。



師匠が連絡してくれたみたいで、ファンさんとレイさんが来てくれた。2人とも、私のことを心配してくれていたみたいて、安心したようにため息をつかれた。


「倒れて、3日も寝てるなんて、僕がどれだけ心配したかわかってるの?」

「ヴァルガちゃん、本当に良かったです。もう、目が覚めないかと、ラリズ様が術に失敗したのかと思いました」

「おい。俺が失敗するはずないだろ」


あ、師匠がファンさんに頭グリグリされている。

あれ痛いんだよね。暫くやられてないから忘れてた。


さて、ここからは私の身の上話だ。といっても、思い出したことは、そう多くない。


「皆さんに、話したいことがあります!」

「過去のこと、思い出したんだと」

「ヴァルガちゃんの、過去かー」

「僕らは、居ても大丈夫なのでしょうか」

「はい。ファンさんとレイさんにも、聞いていただきたいです」


私は、一つずつ話し出した。


私は、孤児だったと思う。

その孤児院は王都の中の、教育もそこそこされている孤児院で、私の記憶能力は特に目立っていた。

そこで、フェアウッチの厄災の後、復興してきた第2の王都の中で、その時最も学力の高い、有名な研究者が在籍している学園への入学が、特例として無償で認められた。


そこで私は、必死に勉強した。

どんな知識も、逃さなように。学園での3年間は、本当に勉強していた記憶しかない。

というか、それが私が学園へ無償で学べる条件でもあったから、仕方なくって感じではあったんだけど、自分でも理解できないくらいに勉強していた。

多分何か目標があったのだと思うけど、今こうしてきれいさっぱり忘れてしまっているというなら、それだけのものだったのだと思う。


「と、思い出したのはこれだけです。面白みもないです」

「いや、それで、なんでお前は記憶を消されてあんな吹雪の中で捨てられたんだ?」

「えっ初耳なんだけど!?」

「ヴァルガちゃんって、捨てられていたのですか?」


おっと、そういえばファンさんとレイさんには言っていなかった。乗り出して聞いてくる2人に、私は笑顔で頷く。


「そんなぁ……」

「僕が拾えていれば……」

「何か言いました?」

「「いいえ何も」」

「で、どうなんだ?なんか悪いことをしたのか?」


何か2人が言った気がしたけど、気のせいかな?


「私は、特に何が悪いことをした記憶はありません。でも、悪いことをしていないという記憶もありません」


なんだかすごいキリッと真面目な顔で言ってしまった。


「気になるぅー!何があったのかすっごい気になる!」

「せめてその記憶を消した奴の特徴とか」

「その辺りは、本当に記憶が曖昧で……」

「かなり厳重に、記憶を戻せなくさせてるみたいなんだ」

「そうみたいだねぇー」

「エルフですら無理だとなると、術者が死んでも解けないようなものですね」


大体の魔術は、術者が死ねば効力が切れるが、私にかかった魔術はその限りではない。

もしかしたら、不老の魔術のように、本人でも解けないような魔術かもしれない。


「まあ、なにがあってもお前はお前だ。また、何かの拍子に思い出したら、その都度言ってくれ」

「はいっ!」

「そそそうだよ!ヴァルガちゃんっ!僕らは、何時でもヴァルガちゃんの味方だからね!」


ファンさんも、レイさんの言葉に頷いてくれている。


本当に、私はいいお友達を持って、幸せだな。

見方がいるって、なんて素晴らしいんだろう。ありがとう。


「師匠、なにがあっても私はこの家に居座りますよ」

「言い方……」

「僕も、ヴァルガちゃんがラリズ様に愛想を尽かして出ていかない限りは、暫く居座ります」

「僕もだよ!ヴァルガちゃんは、一緒にいて飽きないからね!」


師匠は呆れたようにため息をついていた。その口元は笑っていたけど。

私は師匠が本当は喜んでいることを知ってるからね!

その夢は、本当に記憶かな?

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