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「ねえ、師匠」

「なんだ、弟子」

「師匠は私に師匠って呼ばせてるし、私は師匠のことを師匠って呼んでいるけれど、実際殆ど何かを教わった記憶が無いわ」

「……」


教わったのは人形の治し方。貸してもらったのは本。あとは、なにかあったっけ?

服も買って貰ったし、部屋も作ってもらったし、本当に良くしてもらっているんだけど、何分最近は暇を持て余している。

だからこうしてくだらない話をしたりしているのだが、今の言葉は師匠の心に刺さったみたいで、そのまま考え込んでしまった。


「そうだな……。お前は魔法に関しては何ら教えることなどないし、危険な生物とかに関してはあの本がすべてを教えてくれただろう。俺が教えられるのは……」

「教えられるのは?」

「エルフとか、ドワーフとかについてだな」



エルフとかドワーフ。


本に書いてあったよそれ。


遥か昔に人間と決別した生き物で、今はどこに住んでいるのかすらわからない。本には山奥に住んでいるとか、谷の間に住んでいるとか、高い山の上に住んでいるとか、いろいろなことが書いてあったけれど、それでもそれらはただの憶測に過ぎない。


そのほとんど幻の生物について、あの本以上に師匠が私に教えることができるのか。

甚だ謎である。


「おい。今こいつ何言ってんだ?って顔しただろ。頭グリグリしてやろうか」

「やめて。それより、ドワーフ?はいいから、エルフについて詳しく教えてちょうだい」

「お前なあ……。ドワーフの皆さんも結構いいやつなんだぞ。加えて心が広いし、器もでかいし、豪快な性格だ。何より酒をどんどん勧めてくる。」

「まるで本当に会ったことがあるような言い方ね。」

「その通りだ。しばらく前に会いに行った」

「嘘よ。そんなわけないわ。そもそも、どうやって彼らの居場所を知ったの?」

「地図を見たんだ。俺は、勉強は好きではなかったが、老後は冒険家にでもなって世界を回ろうと思ってたからな。そのためには地理を勉強する必要があったからな。暇を見てそこらへんを探検してたりしたんだ。」

「冒険家……」


つまり、地理を学び、地図を見て、なぜここの土地が人に使われないまま、手も付けられずにぽっかり穴が開いたかのようになっているんだ、とか考えたらしい。長期休みに行ってみると、その空間一体に防御壁のようなものが張ってあるのが発見された。


そうして、なんとかその壁の向こうに入ったら、そこはもう別世界だったと。


その防御壁は、悪意のあるものを通さないようになっていて、何故か手厚くもてなされて、一週間くらいそこにいたらしい。


「人間のことを嫌っていたりするんじゃないかと思っていたが、別にそんなことはなかった。大昔のわだかまりなんて、奴らにしてみたらなんてことなかったんだ。だから、他を阻害するための防御壁じゃなくて、他を受け入れることができる防御壁を張ったんだ。」

「へぇー」


そういうものなのか。


私も行ってみたいな。


「師匠、私も行ってみたいわ!」

「おうおう、俺も、もう一回くらい行ってみてもいいと思ってたんだ。でも、エルフの住んでいるところに行くのは、春になってからがいいな。」

「なんでよ?」

「あそこにいると、うっかりしばらく長い時間居たいと思っちまうからな。冬だと、天候が荒れているから、帰ってきたら風で家が吹き飛ばされてたなんてことにもなりかねねぇ。」

「そうー……そう、ね。」


なんだか釈然としないけれど、春が来るのが待ち遠しいわ。


あ、コーラちゃんだ。

コーラちゃんは本当に良く働いてくれている。可愛くリボンを巻いてあげたら、嬉しかったのか飛び跳ねていた。人形なのにね。


「じゃあ、なにか暇をつぶせること無いかしら。暇なの」

「暇……だろうな。俺は毎日本を読んでいるだけで結構だが、お前はまだまだお子ちゃまだもんな」

「挑発……!?まあ、いいわよ。そうねぇ……外で遊びましょう!」

「却下だ。遊ぶんなら一人で遊んでろ」


師匠は私に黒いコートを着せて、今日は吹雪いていない外に放り出した。


乱暴だなぁ……。


「何しようかしら」


外で出来る遊び。しかも雪があるから、雪で何かを作ろう。


雪を地道に重ねて、重ねて、重ねて……。雪製の窓、椅子、机、棚、二階も作って、屋根もしっかりと……。


~3時間後~


「できたー!」


出来上がったのは城だ。かまくらとかそんなちんけなものでなはい。城だ。我ながらすごい集中力で作り上げたと思うし、この頑丈さは、本物の城にも劣らないと思う。冗談だけど。

あとはこの城の住人を作るだけだ。


はじめは小さな塊で、だんだんだんだん大きくしていく。それを三つ作って、雪だるまを作る。そこらへんから枝を毟ってきて、顔を作ったり、手を作ったりする。


誰かに見てもらいたい。誰かと思ったが、師匠しかいない。彼はこの傑作を見て、言葉をなくすに違いない。


「ししょーーーーーーーう」

「なんだ」

「外に、すごいものを作ったの!さあ、見てみてもいいわよ!」

「断る……」


何故。


せっかく、頑張ったのに。

別に師匠に見せるためじゃないけどさ。

しょんぼりしていると、師匠が、「仕方ないな……」と、重い腰を上げてくれた。


家の扉を開ける。

「どう?」

「……」

「……」

「お前……」

「すごい?」

「魔術、使わなかったのか?」

「え?使ってないわよ」

「なぜ」

「なぜ」

「……」

「つ、使わないほうが暇がつぶせるじゃない!」


師匠は、私が3時間も外にいて、魔術を使って雪で芸術的なアートを作っていると思っていたわけだ。でも私は手作業だ。師師匠の期待するような豪華なものは作れていない。

私は、なぜ自分が、魔術を使わなかったのかを酷く反省して、手に雪を握る。


「失念していたわ……。」

「お前、馬鹿だろ」

「っつ……くらえ!」


私は師匠に雪を投げつけた。


こうして、1時間に及ぶ、長い長い雪合戦が始まったのだ。





「はぁ、はぁ、はぁ……」

「な、かなか、……やるじゃないの」

「お前も、な。弟子にしては、よくやったと思うぜ」

「ふふっ。でも、これで終わりよ」

「それはこっちの台詞だ。覚悟しろっ!」

「……っが」


敗者は私だったけどね。

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