ラリズ
俺は幼い頃から成績優秀だった。
国立魔術学園への入学が決まった。地方の小規模の学校へ通っていた俺が王都の学園に入学できるなんて、両親や親戚からたくさん褒められたし、たくさん勉強出来るから、本当に嬉しかった。
「ラリズ」
「はい」
今日は入学式だが、俺は事前の魔力検査?で1番だったから、一応主席で入学という形になるらしい。
しかし、順位は変動するものだから、これに奢らずに精進するようにとよく言い聞かせられた。
入学証明書を貰ったとき、初めてこの学園に入学出来たんだと実感した。振り返って、礼をする。目の前には新しい制服を着て、式典時に着用を義務付けられているローブを身にまとった新入生達。
この人達と一緒に、これから勉学に励むんだと考えると、何故か胸が熱くなる。遠い故郷に置いてきた仲間や家族のことが思い浮かんだ。
教室はかなり広く、俺はAクラスだった。友達は出来るだろうか。少し不安だった俺は、きっと怖い顔をしていたに違いない。そんな中、俺に話しかけてきた少女。
名前は、ミリスというらしい。貴族は家名があるが、この学園では家名を名乗ることは禁じられている。何故なら王都では庶民に対する差別が深刻な問題となっているからだ。それを少しでも軽くするため、子供のうちから家名に拘らずに生活させようというのだ。
しかし、現実はそうは行かない。自分で名乗らなくても、勝手にあいつはどこどこの出身だ、と噂(その殆どが真実である)が流れる。そして、その結果貴族の連中が取り巻きを作り、派閥を作る。
教師はそん貴族を恐れて何も言えない。家名を名乗ることを禁止されているというのはどうやら庶民をなだめるための形骸化されたルールのようだった。
「ラリズ君って凄いよね!1番だったんでしょ?」
「ああ。うん。魔力はな。勉強の方はあんまりなんだ」
「へー、そうなんだ。私は逆だよ。魔力はあんまり無いんだけど、その代わり勉強は本当に頑張ってるの!」
「そうか。俺も見習わないとな。良ければ勉強を教えてくれないか?」
「じゃあ勉強教えてあげるから、魔術を教えてよ!」
こうして、ミリスと俺は、お互いに足りない部分を補強し合う仲になった。
成績が良い庶民には、貴族が絡んでくるのがこの学園での普通だ。しかし、俺にはそんなことは無かった。単純に俺が怖いのかとも思ったが、それは違うらしい。
俺の近くにはミリスが居るからだ。
彼女は恐らく貴族だ。しかもかなり偉い。1度家名を聞いたことがあるが、はぐらかされてしまった。偉い貴族は、自らの家名を言いふらすものだが、彼女は違うらしい。誰にでも優しくて、ひたすらに明るい。
学園は3年間だ。
1年目はただの友人で、2年めは無くてはならない人になり、3年めには恋人になった。
俺も随分友人がたくさん出来たし、世界も広がった。汚い部分もたくさん見てきた。そんな中、ミリスはただひとつ、汚れの無い存在に見えた。
成績の方は、俺はなんとか……というか、余裕でひたすらに主席を貫いていた。ミリスはいつも後ろから数えた方が早いくらいだった。彼女には魔術の才能がほぼ無かった。しかし勉学の才能は人1倍あり、ほとんどそれだけでこの学園に入ったといっても過言ではないようだった。この魔術学園では、それは致命的ではあるが。
「なんで私はこんなに魔術が下手くそなのー」
「仕方ない。もともとの才能が大幅に欠落してるんだろ」
「むぐぐ……。言い返せないわー。悔しいわー」
「そういう家系なんじゃないのか?」
「はっ!確かに、私のお父さんもお母さんも魔術は一切使えない!けど勉強だけは出来る!」
「一切使えないのか…」
なかなか悩みどころではあったが、無事に学園を卒業し、主席だった俺は魔女協会へと就職。
毎年この魔術学園の主席と次席は、魔女協会への就職が許される。もちろん、毎年2人だけでは圧倒的に人数が足りないため、他の優秀な生徒も選ばれることがある。
そこではいろいろな汚いものが見れるらしい。いや、見なくても良いなら見たくないが、王都にツテも無いし、折角高給取りの協会に就職出来るのだからと喜んで受けた。
勉強だけは誰にも負けなかったミリスも、無事書記というか事務のような職として魔女協会へ就職。
とても誇らしくて、さらに恋人と同じ職場に通えることが嬉しくて、悪は許さんと、俺は腐りきった協会を綺麗にしてやると友人に言って回った。
しかし、そのことがきっかけで、ミリスは死んでしまった。