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エリクシアオブライフ ~不死の災いと悪魔の写本~  作者: ゆきわ
第二章『巨悪鳴動』編

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24 ジズの邪念



「ここが、ナルトーガ」


 エリクシアが言った。

 あれから山麓の森を抜けて、道なき荒野を渡り、ようやくこのナルトーガの街に到着した。

 道中魔物とは何度も遭遇したが、その度にシャルラッハとアヴリルの連携によって撃滅した。

 危なげない旅だった。それもそのはず、エルドアールヴのクロ、英雄候補のシャルラッハとアヴリルといった強大な戦力を有するこのメンバーでは、比較的王都に近い、ナルトーガの貧弱な魔物など敵ではない。

 ケガも無く、あるのは歩き旅の疲労だけ。

 そのままナルトーガの中に入り、まずはここに来た目的を果たす。


「それで、あなたの知り合いはどこに?」


 シャルラッハがエリクシアに聞く。


「えっと、ガラハドさんは自警団にいると言ってました」


「ならまずは自警団の拠点を目指しますか」


 アヴリルが耳を塞ぎながら言った。

 人狼ウェアウルフである彼女の耳は非常に良い。

 人の往来が激しいナルトーガの大通りでは、人の声が聞こえすぎて辛いようだ。


「いや、その必要はなさそうだ」


 クロが道の先を見る。

 そこには人の集団をかき分けてやって来る、ふたりの女性ドワーフの姿があった。


「エリクシア!」


「わぁ、ひさしぶり!」


 ふたりのドワーフは、エリクシアの姿を見るなり嬉しそうな顔で駆け寄ってきた。

 ヒュームより平均身長の低い小人ドワーフ

 どちらも120cmシームほどだろうか。

 エリクシアやシャルラッハも小柄だが、それ以上に彼女らは小さい。


「テッタ、アンナ……よかった。本当に、生きてくれてたんですね」


 エリクシアがふたりの姿を見て涙ぐむ。

 デルトリア伯が壊滅させたドワーフの里。

 そこにいたドワーフの生き残りが彼女たち、テッタとアンナだった。

 彼女たちはいわばエリクシアの幼馴染みだ。

 グレアロス砦の地下牢で、彼女たちの存命をエリクシアに伝えていたのはガラハドだ。

 クロにとっては二千年以上前の話になるが、その時のエリクシアの安堵した顔は忘れられない。


「ガラハドさんからエリクシアが旅立ったって連絡が届いてね! ナルトーガの守衛に、あんたが来たらすぐ伝えるように言ってたの! 鳥で、こう、バァーと!」


 少し子供っぽい喋り方をするのがテッタの方らしい。

 そして、


「あれからもう3年も経つのね。エリクシア……あなたこそ、生きていてくれて嬉しいわ」


 大人っぽい喋り方の方がアンナだ。

 見た感じと雰囲気は、身長は低いがどちらもエリクシアよりは年齢が高く、お姉さんといった印象だ。


「……ふたりは、わたしのことを知っているんですよね……?」


 エリクシアが顔に影を落とした。

 自分が悪魔だったせいで、デルトリア伯に里を狙われた。

 エリクシアのせいでドワーフの里が滅んだと言われてもおかしくない状況だった。


「ガラハドさんから言われたんでしょ? あんたが気にすることなんて何も無い。悪いのはあの伯爵で、あんたじゃない」


「ええ。その通りよ」


 テッタが言って、アンナが頷いた。


「ふたりとも……」


 3年前の事件。

 そのことをずっと気にしていたエリクシアは、どうしてもこのふたりと合わなければならないと道中に言っていた。

 王都の途中で食料の確保で立ち寄る必要のあるナルトーガだ。

 彼女の言うことを断る理由なんて無かった。


「とりあえず、ここではなんだ。紹介も兼ねて、積もる話もあるじゃろうし、もっと落ち着ける場所に案内してもらえると嬉しいのじゃが?」


 エーデルが言った。

 さすが王といったところか、こういう所はなかなか手慣れている。


「失礼しました、エーデルヴァイン王」


「それじゃ、あたしらの拠点に案内するよ~!」




 ◇ ◇ ◇




 ナルトーガの自警団の拠点は、中々に立派なものだった。

 グレアロス砦のものに比べると大きさでは敵わないが、それでもひとつの街の自警団の建物としては大きい。

 クロたちが通されたのは客室だ。

 大きい机と椅子が真ん中に並んでいて、壁端には柔らかなソファがある。


「ふへぇ……これこれ、こういうのを待っておったのじゃあ~」


 エーデルがソファに寝転んで、だらしない顔をしている。

 クロは自分の上着を、めくれあがったエーデルのスカートの上に置いた。


「エーデル……国王ならもうちょっと周りを気にしてくれ」


「やかましいのぅ……ここにはお主しか男はおらぬのじゃから、よいではないか」


「威厳ってものがあるだろう?」


「こんな格好をしていても、わらわには威厳があってスゴいじゃろ?」


「ハァ……」


 ため息をつきながら、クロが椅子に座る。

 机を挟んで、テッタとアンナ、エリクシアとシャルラッハとアヴリルが楽しそうに会話をしていた。


「えええええ!? あんたがエルドアールヴなの!?」


「へぇ……?」


 座った途端、テッタとアンナがクロを見ながら言った。


「うっそだぁ! こんな弱そうなやつがエルドアールヴなわけないじゃん!」


 面と向かって失礼なことを言うテッタ。

 うんうん、と頷くアンナ。

 ドワーフの女性の好みは種族特有のもので、筋肉質の男性を好む人が多い。ヒゲの生えた男らしい男。それが大抵のドワーフ女性の好みなのである。


 その点で言えば、クロはまったくそんなことは無い。

 不死になってから体の変化がなくなった。

 成長も老化も一切無い。

 この体は15才当時のままだ。

 子供から少年になって、そして大人になる手前のままで成長が止まってしまっている。

 一応、故郷の村やグレアロス騎士団での訓練でそれなりに鍛えてはいたが、盛り上がるほどの筋肉なんてものは無い。

 闘気・魔力エーテルというものが存在する以上、筋肉と強さは完全にイコールとはならない。

 戦士としては筋肉とは、補助の役割という意味合いが強い。

 しかし、そんなものはドワーフには関係無い。


「その大きな斧も、どうせ軽い素材で出来てるんでしょ? エルドアールヴのコスプレとしては出来が良いけど、やっぱりもっと筋肉を鍛えないとね!」


「うんうん。やっぱり男は強くなくちゃね」


「…………」


 クロは何も言わなかった。

 エルドアールヴとして生きてきた二千年。

 仮面を被りはじめてから、素顔を見せたことはほんの数えるほどしかない。

 その度に同じような反応をされている。

 見た目が弱そうなのは自分でも自覚している。

 なので特に気にすることでもないし、常と同じ、困ったような無言の笑顔で答えた。

 しかし、テッタとアンナに異を唱える人物がいた。


「そんなことはないです! クロはとっても強いんですよ!」


 エリクシアだった。

 ふんす、と鼻息を荒くして対抗する構えだ。

 その隣でシャルラッハが「くすくす」と笑っている。


「えぇ~? ホントぉ?」


「本当です!」


「え~、そうは見えないけどな~」


「本当ですってば!」


 テッタとエリクシアが言い争いを始める。


「……」


 クロはエリクシアの様子を見て少し驚いていた。

 話の内容は置いておいて、彼女がここまで子供のように言い合いをするのを初めて見たからだ。

 幼い頃に一緒にいたドワーフの里の仲間。

 3年も長い間会えないままで、しかしようやく今日再会した。

 その安心感からなのか、あるいは幼い頃の調子が復活しているのか、いつもよりも無邪気なエリクシアがそこにいた。

 その姿を見られたことに、クロはどこか温かな気持ちになった。

 そんな会話が続いていき、しばらくして。


「アヴリル? ずっと黙っていますけど、どうしたのかしら?」


「…………」


 シャルラッハが何気なくアヴリルに言葉を流した。

 しかし、アヴリルは無言だった。


「アヴリル?」


 何か異常を悟ったシャルラッハ。

 そのシャルラッハの様子に、エリクシア達もまたアヴリルを見た。


「…………」


 アヴリルの額には、冷や汗が流れていた。

 その表情は真剣そのものだ。


「……あの、テッタさん、アンナさん……」


 そうして口を開くアヴリル。


「ん? なに?」


「どうかした?」


「……ここでは、魔物か何かを飼ってるんでしょうか?」


 そう言った。


「え? いや……そんなことは無いケド」


「うんうん」


「…………」


 アヴリルがまた黙る。

 その金眼をキョロキョロとさせ、鼻をひくつかせている。

 何かを探っているような様子だ。


「アヴリル、ハッキリ言いなさい。どうしたの?」


 シャルラッハが眉根を寄せて、聞いた。

 彼女もまた、アヴリルのただならぬ様子を見て警戒を強めていた。


「……分からないんです。これが何の匂いなのか……魔物なのか、人間なのか……ここに来てからずっと、その嫌な匂いが漂っているんです」


「分からない……匂い? それって……」


 何か分からないけれど、嫌な匂い。

 その言葉を聞いて、クロが立ち上がった。


「テッタさん、アンナさん。最近、妙な事件か何か……起こりませんでしたか?」


「……え?」


 テッタが驚き、アンナを見る。

 アンナはゆっくりと頷く。


「え、ええ……昨日、あったわ」


 暗い顔でアンナが言った。


「それは、どんな事件ですか?」


 クロの力強い重圧に、アンナが気圧される。


「え、えと……子供が、男児が……盗賊を皆殺しにしてしまったの」


「……子供が? 確かか?」


 ソファで寝そべっていたエーデルが起き上がる。


「うん……」


 地面を見ながら、辛そうな顔をしたテッタ。

 これはよほどのことがあったに違いなく。


「その子供はどこに? ここにいるんですよね?」


 クロが聞く。


「……い、いるけど」


 答えたテッタに、更にクロが言った。


「案内してくれませんか、その子供のところに」


 有無を言わせぬ迫力だった。

 テッタとアンナはその重圧の強さに負けて、小さく頷いた。




 ◇ ◇ ◇




 案内される間、昨日起こったその事件の内容を聞いた。

 盗賊に襲われたキャラバン。

 キャラバンの商人たちは盗賊に殺されてしまったらしい。

 そして、その唯一の生き残りの子供が、盗賊達を皆殺しにしたという話。


 ただそれだけの話だったならまだ良かった。

 才能のある強い子供がいたということになる。

 強い子供もいるにはいる。

 天才というのは確かに存在していて、幼児の頃から大人よりも強い子供もいる。

 シャルラッハがまさにそういう存在だった。

 彼女は幼い頃から強かった。


 しかし、その子供は違った。

 普通の、6才の男の子だ。

 エーテルも使えない。

 戦闘能力も無い、普通の男児。

 その男児が13人もの盗賊を殺した。

 あり得ないことだ。


「…………」


 エーデルヴァインとエルフィンロードの名を使い、自警団の拠点の奥に通してもらった。

 自警団にはエルフィンロードのエルフ商会があり、その活動資金を提供していたため、すんなりと話は通った。

 そして、普通では面会すら出来ない事件の当事者と会うことが出来た。

 自警団の拠点は広く、色々な設備がある。

 その中には医務室や、ケガなどをした時のための入院施設があった。


「なるほど……アヴリルが匂うって言うだけはありますわね」


 テッタとアンナに案内されて、施設の部屋のひとつに入り、話に出ていた男児を見た瞬間、シャルラッハが言った。


「これは……ひどい」


 白いシーツにくるまり、ベッドの上で小さく丸まっている男の子。

 何かから隠れるように、その身を小刻みに震わせている。


「ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……ごめんなさい」


 ガタガタと歯を鳴らしながら、ひたすら謝っている。

 誰に謝っているわけではない。

 おそらくは、自分がやってしまったことに対する謝罪だろう。


「手……」


 エリクシアが男児の手に気づいた。

 両手を前で縛られている。

 拳は布を被せられていて、どこか異常だった。


「手を自由にしたら、自分の顔とか首を掻きむしっちゃうのよ……このコ」


「うん。これ以上ケガをしたら危ないから、仕方なくよ……」


 テッタとアンナが言った。

 彼女らが辛そうにしていたのはこのことだ。

 しかし、それよりも。


「……まずいのぅ、邪悪なエーテルがまとわりついておるぞ」


 エーデルが言った。


「ええ……ここまでひどいのは、見たことがないですわ」


 シャルラッハも頷く。


「え?」


 エリクシアは彼女らが何を言っているのか分かっていない様子だ。


「目をこらしてよく見てみるといい。エーテルを探るような感じで、このコの周囲を」


 クロがエリクシアに言った。

 エーテルを扱える者なら、慎重に凝視すれば見ることが出来る。

 男児の体にまとわりつく、邪念のようなエーテルを。


「ひッ……」


 エリクシアが一歩下がった。

 それほどまでに、この邪念はおぞましい。

 これは魔物が放つ魔法や呪いに近い。

 強く邪悪なエーテルは、離れていても人を呪う。

 心身に異常をきたし、やがてその命を奪うほどに。

 巷では悪霊の仕業などと言われているようなコレは、本当は邪悪な使い手が放った魔法か戦技の効果だ。


「このコを現場で見つけたのはあたしだった。その時から、こうなんだ。あたしら自警団の人間じゃ、誰にもどうにも出来なくてね……」


 テッタが言う。

 出会った時とは違う、神妙な雰囲気だった。

 おそらくは、エリクシアと再会した時には出来るだけ明るく振る舞っていたのだろう。せめてエリクシアとの再会は元気なままでいたい。そんな切実な想いが彼女に見えた。


「とりあえず、このコが自分で自分を傷つけないようにするのが精一杯だったの。ちょうどエーデルヴァイン王が来てくれて良かった。大魔法使いの王さまなら、何とか出来ないでしょうか?」


 アンナがエーデルに言った。

 懇願するような声だった。


「……邪念が強すぎる。これは、わらわにはムリじゃ……」


 エーデルが首を振る。

 あまりにも酷い、と。


「…………」


 コツコツコツ、と靴音を立ててクロが前に出る。


「クロ……?」


「俺がやる」


 男児の前に来て、クロがその頭に手をやった。

 信じられないぐらいに優しい手つきだった。


「…………ッ」


 一瞬、気合いを入れる。

 クロの周囲に力強いエーテルがみなぎっていく。

 部屋中にクロのエーテルが充満していく。


「え……っ、何コレ……すご……」


「うそ……」


 テッタとアンナが目を見張る。

 クロのそのエーテルに、ただただ驚くばかりだった。


「……力強いのに、なんて優しいエーテル……」


 エリクシアがそのエーテルに浸る。

 まるで大きな何かに優しく包まれるような感覚だった。

 どこか安心する、自分を守ってくれる、無条件で慈しまれているかのような、激しくも優しいエーテルだった。

 この場にいる他の者も、エリクシアと同じように感じていた。


「……嫌な匂いが、消えました……」


 アヴリルが言った。


「…………」


 シャルラッハはじっとクロを見つめる。

 彼が何をするのか、その眼でしっかりと観察するように。


「ごめんなさい……ごめんなさい……殺して、しまって……ごめんなさい」


 男児が泣きながら謝っている。

 その頭を、クロが優しく撫でてやる。


「もう、大丈夫」


 そして、男児の周囲にまとわりつく邪念をその手で掴み、握りつぶした。

 まるで悪い夢だったかのように霧散していく邪念のエーテル。


「うう……うううぅううう……ッ」


 涙で濡れる男児が、誰もいない宙空を見るめるだけだったその目が。

 クロの姿をしっかりと見た。


「疲れただろう。ゆっくり、眠るといい」


 縛られたその手のヒモを素手で千切って、小さな男児の体を抱きしめる。

 優しく。

 それでいて、力強く。

 安心させるように。


「…………」


 長く、長く息をついて、男児がクロの腕の中で、ゆっくりと目を瞑り。

 そうして、彼はようやく安堵の眠りについた。

 すぅすぅ、と安心したように眠る彼の顔は、歳相応の表情になっていた。


「すごい……」


「うんうん」


 テッタとアンナが目を丸くして言った。


「もう、治ったんですか……?」


 エリクシアが聞いた。


「いや」


 クロが小さく短く言った。

 男児をベッドに横たえて、シーツを優しくかけてあげる。


「まとわりついていた邪念は消し潰した。でも、心に負った傷は別だ」


 険しい顔でクロが言う。

 それに、エーデルが付け加えて言った。


「ケガにつける薬はあるが、心の傷に効く薬はないのじゃ」


 クロが頷く。


「心の傷は時間が解決するっていうけど、このコの……これは多分、一生無理だろう。ずっと罪悪感に囚われる」


「そんな……」


「私達に出来ることはもう、無いのですか?」


 今度はアヴリルが言った。

 エーデルはそれを踏まえて、テッタとアンナに聞く。


「この子供の両親や親族は?」


「調べたところ、このコは父親と2人でナルトーガに来て住んでいたみたいです。その前のことは……父親も殺されていますし、もう……」


「キャラバンで旅をするぐらいじゃ。おそらく親族もおらぬじゃろうな」


「エーデル」


 クロがエーデルの名を呼ぶ。

 それだけで、何を言わんとしているのか理解するエーデル。


「うむ。このコはエルフィンロードで保護するぞ」


「エルフの里に、ですか?」


「どこにも身を寄せられない天涯孤独の個人を受け入れる。我らはずっとそうしておる。昔からずっとな。グラデア王国との盟約もあるし、何の問題も無い」


「エルフィンロードにはこのコみたいな子供がたくさんいる。きっとみんな受け入れてくれる。同じような境遇の者同士でいると安心するんだ。辛いことや悩みも打ち明けられる。一緒にいることで、支え合うことが出来る。傷の舐め合いと言ったら聞こえは悪いけど、もしこのコが良くなるとするなら、それしか方法は無い」


 クロが言って、更に続ける。


「俺等と一緒に行くのは危険過ぎる。何せ、『彼』に狙われている節があるからね。だからナルトーガにいるエルフ商会に別ルートで連れて行ってもらう」


 彼とは、英雄アルトゥールのことだ。

『剣豪』レオナルド・オルグレンの際に確定した。

 間違いなく、彼は自分達を狙っている。

 そして、何よりも。

 もうひとり。

 おそらくは、コレをやった張本人。

 そいつが最も危険だと、クロは知っている。


「申し訳ないんですが、このコを見つけた現場に案内してもらえないですか。ちょっと気になるので……」


 テッタとアンナに言った。

 彼女らの答えは勿論、


「う、うん!」


「よろしくお願いします!」


 肯定しか無かった。

 先ほどまでの態度とは雲泥の差だった。




 ◇ ◇ ◇




 テッタとアンナに案内されるまま、外に向かう一行。

 最後尾について歩くクロは静かに、怒りに燃えていた。


「…………」


 小さな子供ひとり、満足に助けられない自分に、腹が立つ。

 ギュッと拳を握りしめる。

 この手の平から、またひとり、こぼれ落ちてしまった。


「…………」


 悔しくて悔しくて堪らない。

 これの何が英雄か。

 自分の何がエルドアールヴか。

 あのコはこれから先、ずっとずっと人殺しの罪に苦しむだろう。

 何も出来ない自分が恨めしい。

 この世はどうしようもないことが多すぎる。

 あまりにも残酷で、理不尽だ。


「エルドアールヴよ」


「ん……?」


 エーデルが小さな声で、


よ? 潰れるぞ」


「…………分かってる」


 クロは短く、そう言った。

 そして、その歩くスピードを速めた。


「……阿呆が。

 分かっておらぬから、先祖代々お主に、言い続けておるのじゃろうが……」


 残される形になったエーデルの言葉は、

 クロには届いていなかった。




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[一言] レジェンズ~甦る竜王伝説~を思い出す種族観。
[良い点] 素晴らしい
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